前回のあらすじ:八神家に黒子が現れた!! 我が家にメイドは居ない。 しかし見た目を問わないのなら、似たような仕事をしてくれるモノたちが居る。 ソレが黒子。 身体つきから女性であること。 そして何故か猫耳が付いていること。 何より、最低二人はいること。 それが確認されている、数少ない情報だった。 たまに、やけに背の高い男性と思われる黒子も出現するのだが……仕事が殆ど出来ずに邪魔ばかりするので、二人の黒子に追い出されている。 ……多分中身はグレアム氏なのだろう。だから気にしない。「……おかしい。なんで塩化ナトリウムの分際で、わたしの思い通りにならないんや!?」 現在双子の姉上様――つまり【八神はやて】は、アニメや漫画の影響で料理に挑んでいる最中だった。 その第一歩。 味付けに至る最初の段階の【さ・し・す・せ・そ】。 その【し】に当たる塩で、彼女は奮戦していた。 彼女に与えられた課題は、【塩のみでお澄ましを作ること】。 どう考えても料理初心者の、それも子どもがやるような課題ではない。 どう考えても、彼女が考え付いた練習ではない。 であればそれを考案し、彼女に課題として与えた者が居るはずだ。 その者は今も、はやての後ろから彼女を見守っている。 決して喋らず。 そして指示する際には文字でのみ。 その黒衣の下は未だに正体不明。 つまり……。 その、なんだ……? はやての料理のお師匠様というのは……。「なぁなぁ、黒子さん?ほんまにこんなんで、お澄ましが出来るん……?」 コクコク。 ただ頷くことしかしない。 そして【No】だったら、首を横に振るか、手刀のようなモノを横に振るのみ。 【ミス・黒子】。 その内の一人が、姉上様の料理の先生なのである。 明らかに厳しすぎるその課題は、はやての将来性を見越してか。 それとも己の持つ技術の全てを、叩き込みたいという思いからか。 どちらにせよ、八神はやてはこの後、黒子の技を全て受け継ぐこととなる。 それは料理だけではなく、洗濯・掃除などの【主婦】スキルの全てを。 だから自分は、今日もテレビを観賞するのみ。 電源を入れると、そこには【勇者翁ギルガイガー】の姿が。 その姿がどこか、嘗て断ったデバイスの発注者を思わせるモノがあったが……。 たぶん気のせい。 そう思い、ふと後ろを振り返る。 するとソコには、何故か頭を抱える黒子の姿が二体、確認されてしまった。 小学生というのは、存外退屈なモノである。 しかし一つ。 たった一つ通常と異なるエッセンスを入れるだけで、それは退屈しない……もっと言えば、危険を孕んだモノへと姿を変える。「八神はやてさん」「ハイ!」 八神はやては現在、八神家で絶賛主婦の修行中である。 しかし今。この学校というフィールドで、確かに【八神はやて】と呼ばれた存在は出欠確認がされた。 結果は出席。 有り得ない。 だが現実に【八神はやて】は返事をした。 そしてその声は、自身の内側から来たモノ。「八神さんは、いつも元気ね~」「いやぁ、そんなことないですよぉ~♪」 まただ。 その声は自分の口から発せられる。 自身の声帯を使い、その舌を振るわせ。 だからその声は、どう考えても自分が――【八神あらし】が出したモノに相違ない。 よって【八神あらし】こそが、【八神はやて】である。 ……少なくとも、この【学校】というフィールドの中では。「はやてちゃ~ん!この前病院で見かけたけど、車椅子なんて使ってたよねぇ?大丈夫なの?」「え?いややなぁ……見てたんかぁ~?だいじょうぶ、だいじょうぶ♪ちっと調子が悪かっただけやし……?」 病院に居たのは、正真正銘の【八神はやて】だ。 そしてココに居るのは【八神はやて】――のフリをした【八神あらし】である。 きっかけは小さなこと。姉の脚が動かなくなり、休学を余儀なくされた時。「いややぁ!ぜったい、学校に行く!!」 普段は決して我が侭を言わない姉。 しかしこの時は。 珍しく。 非常に珍しく、その内から来る我が侭を口にした。 それも大泣きするという、壮大なオマケ付きで。 姉は頑固である。 こうと決めたら、梃子でも動かない。 従って、今回はそれが悪い方に作用した。 そしてそれに対処できるのは自分のみ。方法だって限られていた。「……わかったよ。姉さんの脚が治るまで、私が代わりを引き受けるよ……」 人間なんて非力だ。 絶対的な強者(衣食住を持つ者)には勝てない。 だからこの日、【八神あらし】は学校から消えた。こうして登場したのが、姉の皮を被った弟であったとさ。 算数や理科には興味がない。 というか、既に知っている。 しかし歴史や地理はそうもいかない。 だから軽い気持ちで授業を受けていたが、意外にも意外。 結構楽しめている自分がいることに気が付いた。 考えてみれば、この身は生まれながらにして最高の知能と知識を持った者。 だから新鮮な情報というモノには目がなく、探究心と知識欲が入り混じった感情が顔をのぞかせた。 そこには【要らん】の一言で切り捨てられるモノもあれば、非常に有益な情報も混じった世界。 ただ楽しかった。だから彼は、この世界を意外にも気に入っていた。 そんなある日。 六月四日。つまり自身と姉の誕生日。 ささやかながら……という表現はとても似合わない誕生会。 黒子二人と姉が、非常に気張って作った料理の数々。 それに舌鼓を打ちつつ、その片づけをしてる最中に起こった出来事。 その時姉は、自室に戻って就寝の準備中。 すると突然不気味に光り出した【闇の書】。 鎖を解かれ、戒めから解放されるソレ。 床に古代ベルカの魔法陣が形成され、ソコから出てきたのは怪しげな四人組。 女子が三人。男性が一人。 しかも揃いも揃って、黒いぴちっとしたアンダーウェアのみでのご登場。 姉は気絶しなかった。そして自分が姉の部屋に到着するなり、彼女はこう言った。「……あらし。また不審者や。悪いんやけど、また警察の人を呼んでくれんか……?」 その言葉に対して自分が出来ることは、以前と変わらず。 一、一、零。 そうプッシュすると、白黒の正義の召喚獣がやって来た。 二日後。 またまた猫姉妹の力を使って、警察からの脱出をした。 ただし今度の対象は、グレアム氏ではなく、四人の新たな変質者だったと記しておく。 あとがき >誤字訂正 俊さん。毎度ご指摘いただき、本当にありがとうございます!