前回のあらすじ:海鳴の隣の市には、変態が跋扈しているらしい。例として【係長】・【親方】。そして【裸王】。 海鳴市は大きい。 その広大な面積の中には様々な施設・家屋が乱立しており、八神の家もその例に漏れない。 若干内装がさざなみ寮に似ている所も見受けられるが……気のせい。多分気のせいだ。 その家屋に近付く、小さな人影が一つ。 こげ茶色の髪に、紅と黄の髪留め。 さらに聖祥の【女子用】制服に身を包み、ピョコピョコ歩いている。 呼び鈴は押さない。 懐から取り出しだ首紐付きの鍵を使い、自ら扉を開錠する。 そう。ココは自身の住む家なのだから。「ただいま~~!誰もおらんのか~~?」 シーン。 そんな擬音が聞こえてきそうな静寂。 車椅子が何処にも無いことを見るに、皆で病院か買い物と言ったトコロか。「(……ふぅ。これでわたしも…………いや。【私】も一息つけるというモノだな……?)」 フェアリィ・槙原の推測は、全てに於いて的中しているとは言い難い。 しかし、その全てが外れているとも言えなかった。 【この】八神はやては、戸籍上での八神はやてではない。 八神はやての双子の弟、【八神あらし】である。 小さな頃から女の双子に間違われる事多数。 ならばいっそのこと、はやての病気が治るまでは代理にと影武者を買って出たのだが……。「(……参ったねぇ。まさか八神はやての病気の回復は、【闇の書事件】以後だったとは……)」 ドクタースカリエッティは、凡そ人の身には収まり切らない程の知識を有している。 だが残念なことに、自身の知らぬ知識が何時の間にか脳に収まっているというコトはない。 つまり自分で興味を持って、自らが仕入れた知識しか知らないのだ。 プロジェクトF関係や、戦闘機人。 もう少し範囲を広げても、それに付随するようなことだけ。 コレがSts当時の彼の脳内であり、八神はやてなど【多少珍しい】程度の、小娘部隊長くらいしか思っていなかった。 故にそんな興味対象外のタヌキのことなど、知る由もない。 だから彼女に関しては、簡単な概略くらいしか知らなかったのである。 ……のだが。「(……家族、か……。未来では闘い合う関係だというのに、何故私は甘いことを……)」 八神はやては、八神あらしにとって。 【姉】。 だとしか、言いようが無かった。「あんな、あらし……?お父ちゃんとお母ちゃん…………もう帰って来れなくてなぁ……」 今でも思い出す。 双子の両親が死んだ日のことを。 最初にその報せを受けたのは、姉であるはやてだった。「……?そうなの……?」「…………うん。ちょう、遠いところへ行ってもうたんや……」 その時点であらしは理解した。 己の今生の父と母が、他界したというコトを。 そして姉はそのことを、遠まわしに自分に伝えようとしていることも。「そやから……。これからは…………これからは……!!」 目尻に涙が浮かんでいる。 しかしこの時点であらし少年に出来ることは、残念なことに何も無かった。 ただこの後の姉の発言に耳を傾けるだけ。本当にそれしか出来ない程に無力だったのだ。「これからはねぇちゃんのコトを、【お母ちゃん】だと思ってくれてえぇんよ……!!」「…………は?」 この後、八神はやては変わった。積極的に弟の世話をするようになり、掃除・洗濯は言うに及ばず。 料理の腕も積極的に磨き、何時の間にか【主婦】にクラスチェンジしていた。 ……まぁその影には、【黒子】の存在が在ったことは間違いないが。 あらしとしても、それで不自由が有った訳ではなかったので、放置していた。 しかしその後に……放置するべきではなかったと悔いることとなる。 はやての部屋には、ロストロギア【闇の書】が在る。 だがその存在は、姉や親とあまり関わろうとしていなかったあらしにとって、認識外のモノだった。 それを理解したのは、姉が――はやての脚が動かなくなった時。 今までのように、全てのことを一人で出来なくなった姉。その世話を始めた時のことである。「……!?ね、ねぇさん…………この本って、何……?」「……ん?それか?それはわたしが生まれてから、ずっとこの部屋に置いてあるモンやよ……?」 禍々しい気配。 鎖で雁字搦めにされたソレは、紛れもなくロストロギアであった。 そして同時に理解した。これのせいで、姉の脚が動かなくなった、ということも。 ジェイル・スカリエッティは天才科学者である。 挑むものが難物であればあるほど、その頭の回転は増していくのだ。 しかし悲しいことに。 例えどれ程の天才であろうとも。 また如何に様々な知識を持っていたとしても。 それでもどうにも出来ないことも、この世の中には存在するのだ。「(……情けない話だ。やれ【天才】だの【無限の欲望】などと呼ばれはしたが、こんな小さな命すら助けられないとは……!)」 彼は未来を知っている。 だからはやてが助かることは、確実だということも知っている。 だが。しかし。それは己の力で行われたモノでないとも、同時に知ってしまうこととなった。 それからの彼は 姉の代わりに学校に行き。 そして適度に普通を装い。 極々普通な態度で姉に接してきた。 余計なことはしない。 姉は自分では治せないし、未来では己と闘い合う存在なのだ。 深入りは禁物。時が来れば自分は消え、そして【無限の欲望】に【戻れ】ば良い。 ただそう考えていた。 そんな考えで日々を過ごす内に。 【あの】ストレンジャーが、己のフィールドに侵入してきたのだ。「う~ん。GTHへの路は遠いなぁ……?」 ソレはどう見ても異質な存在だった。 丸太のような腕と脚。 ドラム缶のような胴体に張り付いたのは、覇王の如き厳つい顔。 一目で分かった。 アレはどういう存在なのか。 そして【アレ】が居るのなら、自分は今後どうすべきか。 だからその後は、その考えに従って行動した。 守護騎士たちを蒐集に使い、そして自らが開発した道具で変身させる。 そうすることによって、今回の守護騎士たちは【違う】ことをアピールし、自身を黒幕とした。 それは本来、フェイトの蒐集が行われるハズの日だった。 管理外世界を移動中のヴィータに、待ち伏せをかますなのは。 しかし、ソコに居たのはヴィータ……ではなく【御神あらし】だった。 なのはのディバインバスターは強力だ。 それもカートリッジシステムを搭載したレイジングハートからなら、その強力さは更に拍車を掛ける。 しかしそれと比例するように、その隙も大きくなるというもの。 彼女自身の障壁は強固なモノだが、常時展開している訳ではない。 その証拠に、仮面の戦士(たぶん中身はアリア)の長距離バインドは防げずにいた。 つまり何を言いたいかと言うと。 結論:なのはは御神あらしの一撃で昏倒し、無力化された。 この一言に尽きる。 もちろんなのはの蒐集はしない。 しかしだからと言って、このまま放置も有り得ない。 せめて管理局がこちらの様子を掴むまで。 それぐらいは側に居てやろう。 そう思ったのが間違いの元だった。「……ふぅ。私も存外、甘くなったモノだなぁ……?」 それに答える者は居ない。 今この場には、気絶中のなのはと自身。 この二人しか居ないのだから、それは当然のことだった。「……いんや?あの【お人好し】一家に居れば、誰でもそうなると思うよぉ……?」「……!?キ、キミは……!?」 答える者が居ないハズ。 なのにその答えが聞こえてきた時は……必ず良くないことが起きる。 それはお約束。あんまり有り難くない方の、マイナス面でのお約束だった。「いやぁ、探したよぉ……?管理局のマークが緩んでて、それでいて【御神あらし】の状態のキミと接触出来る場面をさぁ……?」 巨体。 大木。 そんな感じでしか言い表せない、異質な存在。「北斗、静香……」「ノンノン!今のボクは、【ただの通りすがりの】セーラー服美少女戦士さ♪」 ただの通りすがりで、こんな化け物が居てたまるか。 そんな常識的な突っ込みは、この場では何のチカラも持たない。 だから彼は、ソレを頑張って無視した。もしこの場に居たのが本当にただの小学生なら、そんなコトは出来ないと思いながら。 時間は有限である。 そしてこの場面ほど、それを言い表した箇所もないだろう。 黒ベースの騎士甲冑。ソレに対峙するのは白ベースのセーラー服。 片や美少女と見まごうばかりの少年。 そしてもう一方は、世紀末覇王にソックリさんの女性。 様々な意味での対極な存在。「……ココに。この場面で登場したということは……答え合わせに来たというコトで、間違いないかな……?」「そ。モチロン、百パーセント合ってるとは思わないから、適宜修正してくれると有り難いんだけどね……?」「……聞こうか。キミの辿り着いた、考えってヤツを……?」 先に口を開いたのは少年。 そしてそれに応えたのは、妖精であり覇王であるモノ。 少年は先を促す。そして真偽を修正する。「結論から言おう。キミはジェイル・スカリエッティの転生体で、御神あらしは八神あらし。そして学校に居る【八神はやて】はキミの変装。……ココまでは問題ない?」「…………あぁ。では聞こう。その上で何が分からないと……?」 それはどう聞いても百点満点の答えだった。 流石は小学校の教師を務めているだけはあるらしい。 要点を押さえ、最小限の言葉でまとめている。「うん。じゃあ聞こう。キミは……【ジェイル・スカリエッティ】とは何者なんだい……?」「……【無限の欲望】、【狂気の天才科学者】。呼び方は幾らでもあると思うけど、そんな感じだよ……?」「聞き方が悪かったか。何故キミは、いつも【悪役】を引き受けているんだい……?」 【月村静香】の時系列で会ったスカリエッティも。 そしてこの時間軸で会っている【御神あらし】も。 彼らは何故か、【悪役】を引き受ける傾向にある。 御神あらしは闇の書事件の主犯として。 守護騎士たちはそれに従ったのみ。 当然姉は知る由もない。「そんでもって、【悪】を一手に引き受けた後に消える。そんなトコじゃないかな……?」「……驚いたね。そこまで予想出来ているとは……」 当然その際には、はやてたちの記憶を消していくつもりなのだろう。 何とも念の入った悪役ぶり。 しかしそれだけに謎だ。何が彼を、そこまでさせるかを。「…………少し、昔話をしようか?あるところに、神様が居ました。その神様は、人間や動物・そして天地を作ったのだけど、中々自分の思い通りにはなりません……」 人の進化にしろ、他の動物にしろ。 その動きを全てコントロールするのは、例え神様であっても無理である。 数が膨大過ぎる。その為の労力が足りなさ過ぎる。など等。理由は山ほども存在する。「神様は全知全能ではない。しかし神様は全知全能になりたかった。いや……それが当然だと思っていた」 まるで裸の王様だ。 過ぎたチカラを望む。 その先に待っているのは、大概破滅的な考えか、本当の意味での破滅である。「そこで神様は考えた。人間たちのリーダーと、ソレを支える仕組みを作り。ソレらを自分が裏から操れば良いと……」 それは箱庭だ。 自然状態ではなく、明らかに手の加えた人工物。 つまりこの世界は、ヒトの作りしモノだったということ。「……そんで?そのリーダーが脳みそたちってことまでは分かったけど…………肝心の神様は何者なんだい?」「さぁ。残念なことに、私には【ソレ】に関する記憶がない……。いや、【今の】ジェイル・スカリエッティなら知っているかもねぇ……?」「その口ぶりだと、キミは――キミ【たち】は、ただの転生者ではないのか……?」「オヤ、鋭いねぇ?その通り。私は――【ジェイル・スカリエッティ】は転生者でありながら、【魂の分割】を行える者でもあるんだよ」「…………魂の分割、だって……?」 有り得ない。 有り得ないなんてことは、有り得ない。 誰が言ったかは忘れたが、その台詞を考えた者は偉大である。「そうさ。そもそも、おかしいと思ったことはないかい?何故私は、【今】この時間軸に居るんだろうねぇ……?」 八神あらしの役割は【悪役】。 しかしこの事件、【闇の書】事件には既に黒幕が居る。 【ギル・グレアム】。彼こそがこの事件の真犯人。または黒幕と言える人物なのであるが……。「……そうか。グレアムは勇者爺になってしまうから、そのバランス取りか……!?」 グレアム提督は本史と違い、この世界では管理局に居続けることになる。 それどころか、熱い【勇者魂】を思い出し、レジアスとバトルを繰り広げたりもしていた。 となると、グレアムが本来引き受けるはずだった、【負の感情】を引き受ける役が空席となってしまう。 足りないのなら、補えば良い。 それは物では簡単なことだが、人では簡単にいかない。 だから己を分割し、その席を埋めた。そういうコトなのだろう。「イエス。そして魂を分割すると、【かつての自分】に変化させることも出来れば、転生することも出来るんだよ」「……ちょっと待て。それじゃあ、キミたちの記憶の繋がりに説明が付かないじゃないか……」 今研究所に引き篭もっているスカリエッティが居るのなら、八神あらしが【戻る】と言った意味が分からない。 分割されたモノが戻る……。 もし戻るという言葉を信じるのなら……。「……再統合が出来るのか……?」 考え付いたのは、恐ろしい考え。 凡そ普通の思考回路では到達し得ない、異常な考え。 それを、何故すんなりと考えられたのか。それは【ある考え】を肯定するモノだった。「……残念、時間切れだ」「……え?」 空を見上げると、そこにはアースラがやって来ていた。 タイムリミット。 つまりはそういうコト。「さらばだ、セーラーV。次会うときは……良くも悪くも【終わり】を告げる時だろうねぇ……?」 瞬時に飛び去る後姿。 普段の自分なら、今からでも追いかけられる。 しかし現在の自分は、そんな気すら起きなかった。 おまけ:覇王先生の課外授業【テスト】 【第三問】―― 家庭科 次の文章の【①】、【②】、【③】に文字を入れて、文章を完成させなさい。 ・ふつう【①】をさばく際には、【②】で三枚に下ろすのが普通です。しかし中には【③】のような金っ気が移りやすい【①】もおり、その場合は【④】をします。 アリサ・バニングスの答え ①【魚】 ②【包丁】 ③【鰯】 ④【手開き】 教師のコメント 流石はバニングスさん、優秀です。 鰯を手開きするのは、知らない人も多いので、知っておくと便利ですね。 月村すずかの答え ①【兄の衣服】 ②【伸ばした爪】 ③【甲冑】 ④【メイドによる実力行使】 教師のコメント これはもしかして、家庭内暴力の一種なのでしょうか。 それとも、そういう【プレイ】の一種だとでも言うつもりですか。 どちらにせよ、お兄さんがかわいそうです。止めてあげて下さい。 高町なのはの答え ①【フェレット】 ②【ディバインバスター】 ③【ユーノ君】 ④【スターライトブレイカー】 教師のコメント 高町さんは、フェレットに何か恨みでもあるのでしょうか。 ユーノ君というのは、以前夏休みの日記に書いてあったフェレットのことですよね。 【お友だち】とまで言っているのなら、三枚に下ろすのはダメですよ。 フェイト・テスタロッサの答え ①【フェレット】 ②【ザンバーフォーム】 ③【ユーノ】 ④【ジェットザンバー】 ユーノ君というフェレットは、何かマズいことでも仕出かしたのでしょうか。 いつもは優しいテスタロッサさんが、テスト中に怖い顔をして回答していたのが非常に気がかりです。