前回のあらすじ:騎士という名のニートが現れた!! 何故か警察から釈放された四人の変質者。 そしてそれらを引き連れてきたのは、ファースト変質者(ギル・グレアム)。 確認しよう。 彼の後ろに居るのは、ピンクのボイン騎士。 準ボインの金髪ヤンママ風騎士。 オレンジっぽいツリ目のロリータ。 そして少女がやればまだ可愛げがあるが、大の大人――それも筋骨粒々な男には犬耳と尻尾。 ……カオスだ。変態の見本市みたいだ。 こんな連中、普通に考えたら門戸を開く国はないだろう。 故に我が家も同様。 誰があんな変態ズを、我が家に入れるものか。 しかし奴らは既に、玄関の前に居る。 そう、【また】八神家玄関なのだ。 どうしてココは、毎度戦場になってしまうのだろうか? 玄関というのは、外界と個人宅を分断する、ある種のゲートだ。 そしてそのゲートには、開閉を司る【ゲートキーパー】が必ず付いている。 その名は【鍵】。 ソレの動き一つで、家と外は繋がるのだ。「……姉さん。またあの変質者たちが来てるよ?それも、最初の変態爺があの人たちを引き連れてるんだけど……?」「ハァ……またかい?しゃ~ないなぁ……水でもぶっかけてやり?」「了解」 ザブ~ン! そんな音でも聞こえそうな、気持ちの良い感触。 季節は夏です。だからコレは、彼らへの労いなのだ。 ……ただし、その水が乾くと余計に暑く感じるという嫌がらせも兼ねているが。「……粗茶ですが」 舞台は何時の間にか、八神家のリビングに移っていた。 あの後、何分も彼らを外に出したままにしていたら、黒子からNGが出たのである。 【近所から変な目で見られてしまいます】――と書かれたホワイトボードが、現在の状況を教えてくれたから。 仕方なしに中に入れ、現在はリビングのソファーに座らせている。 しかし一体……変態爺は何を考えているのやら……? その当の変態代表は、持ってきたアタッシュケースを開き、その中身を自分と姉に見せてきた。「……また仕事、なのかい……?」「そう取ってもらっても構わない」 そう取るも何も、どう考えてもそうとしか考えられない。 明らかに買収。 アタッシュケースを引っくり返してやろうと思っていると、横からその中身を取り出した輩が居た。「いやぁ~、悪いですなぁ♪」「……姉さん」 スッカリ瞳に映っているのが【¥】になった姉。 そしてこうなってしまえば、己の意思などない事は明白。 京女のハズなのに、金を目の前にした姉は【難波の商人】に変身する。「まぁ、元々はあたしが持ってた本から出てきたんや。そんなら、あたしが責任取るのスジっちゅうもんやろ?」 正論だ。 あぁ、正論だとも。 しかしその目が【¥】でなく、そして手に持っているのが札束でなければ、その台詞は感動出来るモノだったのだが。「いやぁ、この歳で【酒池肉林】とは……今までの不幸がふっとぶようやなぁ~~♪」 まるで刻の権力者だ。 そしてそうなってくると、その末路は既に見えてくる。 【酒池肉林】を行う者の末路。それは……どう考えても【破滅】、なのである。 だがそんな姉の姿が、ただのやせ我慢であることに気付くのに、そう時間は掛からなかった。 日々悪化する身体。 その原因が【闇の書】にあることも明白。 姉自身は原因不明の奇病だと思っていたが、それでも自分の身体の異変は分かってしまうもの。 恐らく長くはないと分かってしまったのだろう。 だから今のうちに、楽しめることは楽しみ。そして残される弟――つまり私にも楽しい思い出を。 そう考えていたのだ。「騎士たちよ。蒐集を行うぞ」『……!?』 時は深夜。 はやてが寝たのを見計らい、リビングに集合したのは自身と騎士たち。 今ここに在る四対八つの瞳が、己を貫いている状況。「……ど、どういうことですか!?はやてちゃんは、そんなこと望んでませんでしたよ!?」「……声が大きいよ。それに君たちは気付いているハズだ。姉さんの病状の悪化……その原因は闇の書にあると……」『……』 沈黙は、下手な肯定よりも雄弁である。 そして彼女らの様子から察するに、本当は独断でやるつもりだったことも伺いしれた。 まったく……どうして私の周りには、お人よしが多いのやら……?「ともかく……明日から【蒐集】を行う。方法は……【郷に入っては郷に従え】ということで……」「……それは、一体どういう意味なのですか……?」 将は問う、その言葉の意味するところを。 だから返す。 その意味は、ある種の仕事であると。「何、単純なことさ?アルバイト情報誌やインターネットを利用するだけ……のことさ」 かくして歴史上初の【無血蒐集(リンカーコアを売って下さい作戦)】が行われたのである。 ……余談だが、この作戦のせいでグレアム氏の貯蓄は三分の一以下になり、彼が目に見えてやつれたのが分かった。 良し。ようやくこれで、一つ返したぞ? おまけ かくして守護騎士たちが八神家の一員となった。 そのことで、今まで以上に姉の世話をする必要性はなくなった。 皆が分担してはやての世話をするということは……自分に【自由な時間】が増えたことになる。 そんな訳で、今まで来れなかった隣の区との境にあるPCショップに来てみた。 確かに十年後のミッドのテクノロジーと全く違うモノたちだが、それでも興味は尽きない。 そもそもベクトルが違うモノたちなのだ。故に飽きることは、まだ先の話になりそうである。「……ん?」 何か視線を感じる。 しかし気配は感じない。 このチグハグな感覚の正体は一体……?「……まただ」 またしても同じ感覚。 そして二度目ともなれば、どう考えても気のせいではない。 右を見る。左を見る。上、下、後ろ……そして正面。「……いない」 だが捕捉出来ない。 まるで、姿無き監視者に見られているかのよう。 しかしこの感覚は、監視カメラなどではない。「(右見て、左見て……もう一度左を見る!)」 フェイントを混ぜる。 そうすれば、何らかのリアクションはあるハズだ。 そう思い、ソレを実行に移す。 ……居た。 白いタキシードに裏地が紅の派手なマント。 シルクハットも被っているが、どう見てもその姿は【怪盗1412号】や【タキシードマスク】ではない。「おや、気持ちの良い風につられて少し足を伸ばしてみれば……何とも素晴らしい【同志】がいるではありませんか……」 そこに居たのは、紳士という仮面を被った変態。 隣の市の一部では有名な変態紳士。 【ドクトル】と呼ばれたモノが、存在していた。 あとがき >誤字訂正 俊さん。毎度ご指摘頂き、本当にありがとうございます!!