前回のあらすじ:真の敵は歴史の道標……ではないよなぁ? 時空管理局地上本部。 闇夜にそびえ立つそれは、さながら現代のバベルの塔。 そして今その体躯には、向かい風というには強力過ぎる風が吹いていた。 その風の名前は、【ジェイル・スカリエッティ】。 管理局の暗部が生み出し、そして利用し続けてきた【悪役】。 彼の大規模テロ活動によって、公開意見陳述会を行っていた本部は襲撃され。 そして同時に、機動六課に保管されていたロストギア【レリック】も強奪された。 機動六課の魔導師が総出で陳述会――という名の【葬式】に出ていたのが、やはり大きかったのだろう。 如何に月村静香謹製の隊舎であろうとも。その殆どは彼の管理・メンテナンスを要するもの。 故に彼亡き後には、その全てを発揮することなど出来ず。 また地下の発明品の数々も、放置されたままとなっていた。 しかしそんな中でも、既に着工されていたものたちもおり。無事に難を逃れたそれらが今、最終チェックを受けている最中なのである。「…………これが私の、新しい相棒……?」 機動六課内の地下工房。 つい最近まで超機密空間であったそこに、蒼いワンコが居た。 と言っても、ザフィーラさんでありません。彼は蒼の守護獣。間違っても犬なんて……。『……百鬼夜行をぶった斬る……………………【地獄の番犬】、デカマイスター!!』 …………ってオォォイ!? 言ってるよ!?言っちゃってるよ、あの守護獣様!? どうしよう?このままじゃ、アルフとじゃなくてスバルとのカップリングに……。『この泥棒猫!!』『猫じゃありません!人間です!!』『…………(何故、こんな展開になったのだ……)』 何でだろう。 微妙にネジの外れた会話が簡単に描かれる。 しかし彼(彼女)の出番はSTSでは殆どない。よってこれは想像の域を出ない。 ……リテイク!!「…………これが私の、新しい相棒……?」 機動六課内の地下工房。 つい最近まで超機密空間であったそこには、姉を攫われ、己自身もダメージを負ったスバルの姿があった。 彼女の見上げる視線の先には、ハンガーにぶら下げられた銀色の戦闘機の姿。 Cストーン内蔵型――新型勇者ロボ【ファントムギャオー】。 地球に置いてきた【ギャオギャイガー】のコントロールユニット、【ニャレオン】に代わるロボットとして、このファントムギャオーは生を受けた。 獅子型から戦闘機型に変更し、更にはサポートメカも新調。 こうして新たに誕生した勇者ロボの名は……【ギャオファイギャー】。 そしてそのロボを更に強化・サポートする為に生み出されたのが、超巨大ハンマー搭載型勇者ロボ。 紅を基調としたカラーリングに、力強い角ばったフォルム。 にも関わらずフリルが随所にあしらわれたデザインは、どう見てもいかついゴスロリオカマ。 【ゴスロリマーグ】という不名誉な名前からも、人格移植元がすぐに割れるというもの。 機動六課スターズ分隊副隊長――【ヴィータ】。彼女こそが、このデカヴィータの元となった人物である。 ちなみにマーグが完成した直後の彼女のコメントは、「ふざけんな!!やり直せぇぇ!!やり直しを要求する――――――――!!」 だったとか。「ここが山場、って所か……」 陸士一○八部隊の部隊長室。 今その部屋には灯りが灯っておらず、しかし中には人影があった。 この部屋の主である彼は、己のデスクに座ったまま、身動き一つ取らずにいる。「クイントに続いてギンガまで……。オレは…………オレは一体、どうすれば良いんだ……?」 両肘を机に付き、両の手を顔の前で組みながら、白髪頭の部隊長は悩んでいた。 目の前には蒼いギアコマンドーが置かれており、そのディスプレイからは白いライオンがホログラフのように浮き出ている。 データでありながらも、心配する様が見て取れるライオン。しかしそれを癒しだと思える余裕が、今の主――【ゲンヤ・ナカジマ】には無かった。「如何にデータ武装の数が増えようとも……いや。それは向こうも同じだろうなぁ……」 ギアコマンドー内のデータから作られた、新たなデータ武装。 オレンジの闘牛である【ブルフォーン】と、緑の突撃猪【ガトリングヴォア】。 これに紅い西洋龍型の【ドラゴンフレイア】を加えた計四体が、ゲンヤの保有戦力である。 対してクイントのデータコマンドーには、元々入っていた【ヴァイヴァーウィップ】。 そして内蔵データに入ってた、蒼の一角獣である【ユニコーンドリィル】。 この内蔵データから武装を完成させることは、スカリエッティにとっては容易いことだろう。 何せ静香亡き後、本局の技術スタッフですら出来たことだ。 そのスタッフは特別優秀だったらしいが、【あの】スカリエッティがそれに劣るとは、到底思えない。 故にクイントもまた、新たなデータ武装を持っていると見て間違いないだろう。「数の上では四対ニ。しかし……」 元々のポテンシャルに違いが有り過ぎるのだ。 それに数が増せば、勝てるようになるとも限らない。 却って、数に振り回されるということにも為りかねないのだ。 使役するか、それとも装備に回すか。 いったい何体までなら同時装備が可能で、そして戦略を立てられるのだろうか。 ゲンヤの思考は目まぐるしく回る。 可能性と己の限界との板挟み。 妻を取り戻すという大前提で動く彼は、どうしても容赦のない動きをするクイントには届かない。 殺す気で来る相手を捕獲するには、その何倍も強くなければならない。 それが常識。 だが常識通りでは、何時まで経っても妻を救うことなど出来ない。 ゲンヤは考えた。己の手で、愛する妻を助ける方法を。 そして理解した。 自分は強さで勝ることは出来ない。 もしも自分が彼女を止められるのなら、それは強さではなく――――。「……ふぅ。やっぱオレには、【コレ】しかないか……?」 魔導師ではなく。そして騎士でもない彼が今まで信頼し、使い続けてきた己の武器。 強大な魔力でもなければ、強力な魔法でもない。 【知恵】。彼流に言うのなら、【小賢しい悪巧み】とでも言った方が良いかもしれない。 次いで頼りにしているのは、努力の結晶とも言える【己の身体】。 筋骨隆々という言葉が相応しい身体付きに、その中には持久力を支える別種の筋肉。 その信頼する二つの武器を駆使し、彼女を――愛する妻を救いだす。 【出来るのか?】――――ではない。 【やってやるんだ!己の全てを賭けてでも!!】 というのが、彼の胸中だった。 可能性は低い。それはもう、とびきり低い。 しかし、諦めたらそこで試合は……じゃなかった。【勝負】はそこで終了である。 一人では無理でも、二人なら。 二人でも無理ならそれ以上で。 データ武装は、スタンドアローンが可能である。 電子に籠められた想いは、人に劣るものではない。 だからこそ、マスター&データ武装同士の闘いは、その持ち得る武器と戦略が重要になってくるのだ。 ギリギリの、ギリギリまで自分を追い込んで。その先に待っている、妻の笑顔の為に。ゲンヤは瞑目し、そして目蓋の裏に家族が揃っていた頃の光景を思い描く。「…………ん?もう、朝だって言うのか……」 ブラインドの隙間から漏れてきた、外からの白い光。 暗き夜が終わりを告げ、日の光が徐々に上ってくる時間。 すっかり冷めてしまったブラックコーヒー。ゲンヤはそれをぐいっと飲むと、「……苦いな」 とだけ言った。「……あれからもう、何年も経ったような錯覚に陥ってしまいそうです……」 聖王教会、その深奥部。 大礼拝堂と呼ばれたその場所で、一人孤独に祈りを捧げ続ける女性が居た。 金色のロングヘアーに、紫の髪留め。 黒を基調とした修道服に似た制服。 それは聖王教会の中でも、限られた者にしか貸与されない代物。 これらのパーツが組み合わさる人物は、残念ながら彼女以外には存在しない。「…………シズカさん。どうして、貴方は…………」 【逃げなかったのか?】。 これが彼女が飲み込んだ言葉である。 あの時。ゴウダイノーが敵にダイノーラージバスターを撥ね返された時。 月村静香は、自分以外の面子――つまりロングアーチと提督ズを避難させた。 現場に残った彼。 何を以って残ったのか。 もしかしたら、本当に避難出来なかっただけかもしれない。 でも。そんなことより。 生きながらその身を焼かれた青年を想うと、涙が溢れて溢れて仕方がない。「シズカさん…………っ」 カリム・グラシアは騎士である。それも教会を代表するほどの。 そして同時に、時空管理局の将官でもあるのだ。 ジェイル・スカリエッティの起こした事件のせいで、管理局のみならず、教会にもその小さくはない影響が出る始末。 そんな中で彼女に求められるのは、婚約者を亡くした美女役ではなく、毅然とした【上に立つ者】。 そして緊急事態が続く中で、彼女に――彼女たちにプライベートは存在しない。 故に嘆き、悲しむことは出来ず。ある程度日が経ち、漸く訪れた一時。それが今この時なのである。「ぅ……っ」 はらはらと頬を伝うのは、溢れんばかりの涙。 その一筋一筋が、月村静香との思い出を蘇らせていく。 最初は本当に、同年代の友だち感覚だった。 だがカリムは生粋のお嬢様であり、その同年代の【男友だち】という存在が新鮮でならなかった。 面白い人間だった。 変わったヒトだった。 一緒に居て飽きない人物。 それが彼の評価であり、それ以上にはならない予定だった。 そんな考えが一変したのは、地球に遠征した時のこと。 ちょっとした逃亡劇。 ……と言うには、少しばかりおっかなかった事件。 月村静香の妹に追いかけられ、そして彼に命を救われたこと。 少女趣味だと笑うなかれ。 だが、今までそういったことに縁が無かった無菌状態に、まさかまさかの【どストライク】なシチュエーション。 これで惚れない人間がいるのなら、そいつは恋愛回路が錆付いているか、さもなくば百戦錬磨の猛者だろう。「……本当に、我ながら呆れてしまいますよね……?」 必死に取り繕って、茶化したように【婚約者】と言った自分。 胸中では心臓が早鐘を打つ中、表情筋を最大限活用して我慢した己。 本当に呆れてしまう。 お前は一体、何処の女学生だと。 『最近の初等部の子どもでさえ、もう少し進んでいるぞ?』と、馬鹿にされてしまうだろう。 でも幸せは長くは続かなかった。 想いを告げる前に件の人物は戦火に消え、そして残されたのは泣く事も許されない自分。 泣きたかった。声を上げて、もっとはやく泣きたかった。 でも出来なかった。そしてそれが、漸く泣けるようになった今では、今度は声が上げられなくなってしまった。「…………でも」 お陰で少し冷却出来たのもまた、事実である。 際限なく泣くことは、ただの力の浪費である。 今すべきことは、そんなことではない。 溢れんばかりの悲しみを、己の歩む力に変換する。 それが出来なくて、何が月村静香の【婚約者】か。 涙をハンカチで拭く。と同時に、そのハンカチを見てあることを思い出す。「……そういえば」 月村静香とカリム・グラシアの駆け落ち劇。 その最中に彼にあげたハンカチの代わりに、あとで渡されたもの。 ハート型のコンパクト。その蓋を押し上げると、中には大粒のダイヤが鎮座していた。「これって、もしかして……」 カリムの同僚、リンディ・ハラオウンが持っていたスティックと、似たような系統のデザイン。 明らかにオーバーテクノロジーなそのコンパクトは、恐らくは己の身を変化させる代物。 手の中のそれは何も言わず、ただ静かに光輝いている。「…………カリムさん」 聖堂の入り口から聞こえた、透き通るような女性の声。 カリムがそちらに向き直ると、そこには居るはずのない人の姿が。 翡翠色の長髪を結ったその女性は、紛れもなく【リンディ・ハラオウン】だった。「リ、リンディ提督……!?い、一体何時の間にいらしたんですか!?」「少し前よ。ただその…………声を掛けるのが忍びなくて……」 大慌ての騎士カリム。 そんな彼女に対して、申し訳なさそうに謝罪するリンディ。 静と動。対極的な図式だ。「こちらに御用があったのでしたら、仰って下されば良かったのに……。すぐにでもお迎えに行きましたものを……」「気にしないで。ちょっと、私用で……というか、貴女個人に用があったものだから……」「……?私に、ですか……?」 一体どんな用だろうか。 生憎思い当たる節が無い騎士は、緑の提督に尋ねた。 如何なる用向きかと。「えぇ。…………シズカさんのことよ」「!?」 ドクンと。 再び心臓の拍動が大きなる。 折角止まった涙が、再びダム崩壊の準備に差し掛かった。「彼…………もしかしたら、生きているかもしれないわ」「…………ぅそ……。…………それは……本当なんですか!?」 呆然。 そして再起動。 瞳に宿るのは精気と、情熱。「確証はないわ。ただの感よ。でも…………良く考えたらあの子が、あんな簡単に終わると思えないでしょう?」「……………………そういえば、そうですよね……?」 良い意味でも悪い意味でも。 月村静香という人物は、常識を破壊してきた人物だ。 特に時空管理局においては、その影響が色濃く残されている。 ミスター破天荒。 歩く新兵器。 腕を斬られても死なない、生けるゾンビ。「それにね?十年前だけど、死んだと思った人間が生きていた――――と思われる事象があったのよ」 リンディが語るのは、PT事件と闇の書事件に介入してきた【タキシードマスク】。 仮面越しではあったが、あの中身は恐らく自分の夫であろう。 いや。彼しか有り得ないという、確信に似た想いがあった。「だからシズカさんも、きっと生きているわ。今は多分、表に出て来れない理由があるのよ……」「……そう、ですよね?あのシズカさんが…………【あの】シズカさんが、あんなに簡単に死ぬ訳ないですよね!?」 もう大丈夫だ。 リンディはカリムを見て、そう思った。 立ち止っている後輩を支え導くのは、先達の務め。「(…………ホクト執務官長。私……立派に【良いオンナ】をやれてますか……?)」 リンディは昇ってきた日に照らされた、教会のステンドグラスを見ながら……その光に向かって問い掛けた。 そしてその向こう側に向かって微笑むと、カリムを伴って聖堂を後にした。 二人の手に握られたコンパクトとスティック。その二つが、彼女たちの決意の表れでもあった。 大将日記クライマックス「……ハァァッ!セェェェェイ!!」 地上本部のトレーニングルーム。 かつて一緒に汗を流した面子は居らず、今は自分の声だけが響く状態。 サンドバックにぶつけるのは、己の想いか。それとも不甲斐無い自分に対する気持ちを、ただ八つ当たりしているだけか。 ……どちらとも言えるし、どっちも違うとも言える。 猛る己を抑え。そして迸る力を発散するように拳に籠める。 まるで蒸気のように立ち上るものは、明らかに普通の人間が出すものではなかった。「…………ゼスト、クイント。それにギンガ……」 攫われた者たち。 そして旧友たちの状況を鑑みるに、今度はギンガも洗脳されて敵となるだろう。 想像に難くない。「……しかし。クイントとギンガは、オレの出る幕は無いだろうな……」 クイントにはゲンヤが。 そしてギンガにはスバルが。 それぞれに対決すべき相手が存在し、そのカード以外は論外とも言える位だ。「……ゼスト。オレは…………今回こそ、お前に勝たせて貰う……!!」 ゼストが仮面騎士になってから、彼と自分の決着が付いたことは無い。 その前にゼストが撤退し、それを自分が追いきれないからだ。 不安が募る。しかしそれ以上に胸が躍る。「……」 刻金を握り締め、今度は別の相手を思い浮かべる。 圧倒的な力と、それを支えてきた努力量が見え隠れする相手。 自分を軽く凌駕した、白スーツの男――ジェイル・スカリエッティ。奴にも借りを返さなければならない。 そして危惧する問題も一つ。 もしかすると、ゼストとスカリエッティ。 その両方か、どちらか一方。自分が相手を出来るのが誰なのかは、その時にならないと分からないのだ。「(……誰でも良い。どちらでも良い……)」 最終的に皆を救い、そして事件の被害を最小限に食い止める。 それが出来るのなら、自分は何だってやってみせよう。 ……そうだ。『何でもやってやる!』という覚悟。これこそが、前回スカリエッティと闘った時に、自分に足りなかったものだ……!!「…………まさか【コレ】に、再び袖を通す日が来ようとはな……」 タオルと共に置いておいたのは、嘗ての部隊の制服。 除隊以来、階級と年齢が上がるに連れて、どうしても羞恥心が先立って着なくなった【コレ】。 だが足りない覚悟を引き出すには、昔日の自分を思い出す以外に方法はない。「……朝日が、綺麗だ……」 ふと視線を上げると、そこには既に朝日の姿があった。 どんなに辛い状況でも、朝は必ず来る。 だから負けない。敵に――そして己自身に。「…………さて。今日の朝食は、何にするかな……?」 まずはオフィスで突っ伏している、オーリスを起こすことから。 自分の【今日】は、それから始まるのだ。 あとがき >誤字訂正 俊さん。毎度ご指摘いただき、本当にありがとうございます!