<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.8085の一覧
[0] リリカル・とらいあんぐる転生日記  【完結しました】[satuki](2009/11/06 10:47)
[1] リリカル・とらいあんぐる転生日記 00[satuki](2009/06/19 17:02)
[2] リリカル・とらいあんぐる転生日記 01[satuki](2009/06/19 17:02)
[3] リリカル・とらいあんぐる転生日記 02[satuki](2009/06/19 17:02)
[4] リリカル・とらいあんぐる転生日記 03[satuki](2009/06/19 17:02)
[5] リリカル・とらいあんぐる転生日記 04[satuki](2009/06/19 17:02)
[6] リリカル・とらいあんぐる転生日記 05[satuki](2009/06/19 17:02)
[7] リリカル・とらいあんぐる転生日記 06[satuki](2009/06/19 17:03)
[8] リリカル・とらいあんぐる転生日記 07[satuki](2009/06/19 17:03)
[9] リリカル・とらいあんぐる転生日記 08[satuki](2009/06/19 17:03)
[10] リリカル・とらいあんぐる転生日記 09[satuki](2009/06/19 17:01)
[11] リリカル・とらいあんぐる転生日記 10[satuki](2009/06/19 17:01)
[12] リリカル・とらいあんぐる転生日記 11[satuki](2009/06/19 17:01)
[13] リリカル・とらいあんぐる転生日記 12[satuki](2009/06/19 17:01)
[14] リリカル・とらいあんぐる転生日記 13[satuki](2009/06/19 17:01)
[15] リリカル・とらいあんぐる転生日記 14[satuki](2009/06/19 17:00)
[16] 元ネタ帳(00~14)[satuki](2009/04/30 21:34)
[17] リリカル・とらいあんぐる転生日記 15【前編】[satuki](2009/06/19 00:04)
[18] リリカル・とらいあんぐる転生日記 16【後編】[satuki](2009/06/19 00:04)
[19] リリカル・とらいあんぐる転生日記 17[satuki](2009/06/19 00:04)
[20] リリカル・とらいあんぐる転生日記 18[satuki](2009/06/19 00:03)
[21] リリカル・とらいあんぐる転生日記 19[satuki](2009/06/19 00:03)
[22] リリカル・とらいあんぐる転生日記 20[satuki](2009/06/19 00:03)
[23] リリカル・とらいあんぐる転生日記 21[satuki](2009/06/19 00:02)
[24] リリカル・とらいあんぐる転生日記 22[satuki](2009/06/19 00:02)
[25] リリカル・とらいあんぐる転生日記 23[satuki](2009/06/19 00:02)
[26] リリカル・とらいあんぐる転生日記 24[satuki](2009/06/19 00:01)
[27] リリカル・とらいあんぐる転生日記 25[satuki](2009/06/19 00:01)
[28] リリカル・とらいあんぐる転生日記 26[satuki](2009/06/19 00:01)
[29] リリカル・とらいあんぐる転生日記 27[satuki](2009/06/19 00:01)
[30] リリカル・とらいあんぐる転生日記 28[satuki](2009/06/19 00:00)
[31] リリカル・とらいあんぐる転生日記 29[satuki](2009/06/19 00:00)
[32] リリカル・とらいあんぐる転生日記 30[satuki](2009/06/19 00:00)
[33] リリカル・とらいあんぐる転生日記 31[satuki](2009/06/19 00:00)
[34] リリカル・とらいあんぐる転生日記 32【注:糖分過多】[satuki](2009/06/18 23:59)
[35] リリカル・とらいあんぐる転生日記 33[satuki](2009/06/18 23:59)
[36] リリカル・とらいあんぐる転生日記 34[satuki](2009/06/18 23:59)
[37] リリカル・とらいあんぐる転生日記 35[satuki](2009/06/18 23:59)
[38] リリカル・とらいあんぐる転生日記 36[satuki](2009/06/18 23:59)
[39] リリカル・とらいあんぐる転生日記 37[satuki](2009/06/18 23:58)
[40] リリカル・とらいあんぐる転生日記 38【少年編】[satuki](2009/06/18 23:58)
[41] リリカル・とらいあんぐる転生日記 39【歯車戦士編】[satuki](2009/06/18 23:58)
[42] リリカル・とらいあんぐる転生日記 40【大将と愉快な仲間たち①】(分割しました)[satuki](2009/06/18 23:58)
[43] リリカル・とらいあんぐる転生日記 41【大将と愉快な仲間たち②】(分割しました)[satuki](2009/06/18 23:58)
[44] リリカル・とらいあんぐる転生日記 42【歪んだ物語・その修正方法】[satuki](2009/06/18 23:57)
[45] 【オヤジ】狩り[satuki](2009/06/05 17:07)
[46] 【オヤジ】狩り-01  【続いた。続いてしまった】[satuki](2009/05/18 23:29)
[47] 【オヤジ】狩り-02  【また続いてしまった】[satuki](2009/05/26 20:02)
[48] 【オヤジ】狩り-03  【またまた、続いてしまった……】[satuki](2009/06/02 01:26)
[49] 【オヤジ】狩り-04  【狩るべきオヤジは、まだまだ存在するのだ!!】[satuki](2009/06/07 19:31)
[50] 【オヤジ】狩り-05  【アンリミティッド・オヤジワークス……ソレは地獄絵図でしかないな……?】[satuki](2009/06/29 21:16)
[51] 【オヤジ】狩り-06  【覇王少女のファンには、彼女が女神に見えるらしい……視力検査したら?】[satuki](2009/06/09 18:10)
[52] 【オヤジ】狩り-07  【イロモノはイロモノを呼ぶ…………奇跡の開幕!?】[satuki](2009/06/11 20:03)
[53] 【オヤジ】狩り-08  【奇跡は続く!?遅れてきた漢……!!】[satuki](2009/06/18 23:39)
[54] 【オヤジ】狩り-09  【漢女と乙女……オトメ同士の決闘!】[satuki](2009/06/19 17:00)
[55] 【オヤジ】狩り-10  【死亡フラグをブチ折ったモノ……!】[satuki](2009/06/20 00:19)
[56] 妖精00 【良く考えたら、コレが全ての始まりなのかもしれないなぁ……?】[satuki](2009/06/05 16:52)
[57] 妖精01 【妖精爆弾……じゃなかった。爆誕!!】[satuki](2009/06/05 16:52)
[58] 妖精02 【やって来たのは運命にかぶれたロリジャイと、その家族】[satuki](2009/06/05 16:53)
[59] 妖精03 【蝶人になった日】[satuki](2009/06/07 19:32)
[60] 妖精04 【淫獣殲滅作戦――全ては清い【なのちゃん】のために】[satuki](2009/06/10 00:10)
[61] 妖精05 【遠足。それは至上最強の闘い!?】[satuki](2009/06/20 00:20)
[62] 妖精06 【掟破り!?……覇王の蘇る日!】[satuki](2009/06/27 20:12)
[63] 真・転生日記【オヤジ】風味 ――『妖精は覇王の夢を見る!』 01[satuki](2009/06/29 21:17)
[64] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 02  【復活したイレギュラー】[satuki](2009/06/29 21:25)
[65] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 03  【お約束は突然に】[satuki](2009/07/03 18:58)
[66] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 04  【突撃、となりの小学校!?】[satuki](2009/07/12 18:30)
[67] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 05  【誕生!?養護教諭プレシあ!?】[satuki](2009/07/14 20:13)
[68] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 06  【予定とは、乱される為にあるのだ!】[satuki](2009/07/16 21:43)
[69] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 07  【イレギュラー戦隊、参る!!】[satuki](2009/07/24 16:48)
[70] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 08  【仮面対仮面(オマケ付き)】[satuki](2009/07/27 16:53)
[71] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 09  【隣の市は危険がいっぱい!?】[satuki](2009/07/31 21:08)
[72] デザイア!?[satuki](2009/08/02 16:08)
[73] リリカル・とらいあんぐる転生日記 43【本筋は、忘れた頃にやって来る】[satuki](2009/08/04 23:55)
[74] デザイア!? 02[satuki](2009/09/04 19:03)
[75] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 10  【近付いてくる真相!?】[satuki](2009/09/04 19:04)
[76] デザイア!? 03 【女(装)王、誕生】[satuki](2009/09/07 02:14)
[77] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 11  【混沌の始まり】[satuki](2009/09/13 12:20)
[78] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 12  【長い伏線(その一)】[satuki](2009/09/18 00:37)
[79] リリカル・とらいあんぐる転生日記 44【長い伏線(そのニ)】[satuki](2009/09/19 19:34)
[80] リリカル・とらいあんぐる転生日記 45【アインヘリアル?何それ、美味しいの?】[satuki](2009/09/25 21:50)
[81] リリカル・とらいあんぐる転生日記 46【少しだけ本気を出した。後悔はしている】[satuki](2009/09/27 21:52)
[82] リリカル・とらいあんぐる転生日記 47【もう少し本気を出してみた。さらに後悔している】[satuki](2009/10/02 21:46)
[83] リリカル・とらいあんぐる転生日記 48【ついに登場、最高評議会!?】[satuki](2009/10/09 11:11)
[84] リリカル・とらいあんぐる転生日記 49【三人目は…・・・グハッ!?】[satuki](2009/10/11 22:41)
[85] リリカル・とらいあんぐる転生日記 50【歯車戦士、愛の決闘】[satuki](2009/10/16 18:38)
[86] リリカル・とらいあんぐる転生日記 51【人生は闘いだ!!】[satuki](2009/10/17 21:59)
[87] リリカル・とらいあんぐる転生日記 52【魔神の生まれちゃった日】[satuki](2009/10/22 22:08)
[88] リリカル・とらいあんぐる転生日記 53【アニキ+ナイスミドル=???】[satuki](2009/10/27 16:33)
[89] リリカル・とらいあんぐる転生日記 54【変形する揺り籠!?至上最悪の悪魔の登場!!】[satuki](2009/11/06 10:46)
[90] リリカル・とらいあんぐる転生日記 55【ラスト・ラストをキミに……】[satuki](2009/11/06 10:47)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 47【もう少し本気を出してみた。さらに後悔している】
Name: satuki◆b147bc52 ID:24ad9a45 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/10/02 21:46



 前回のあらすじ:誘導尋問→蝶シマッタ!!



『ギン姉ぇぇぇぇ!!』
『……』

 今ミッドの地上は、まるで大怪獣の進撃中であるかの如く、強烈な地響きと破壊が行われていた。
 共に【最終融合】を果たした、ギンガとスバルの――壮烈な姉妹喧嘩。
 と言えばまだ響きは良いのだが、実質はただの潰し合いである。

 新型の右腕が、唸りを上げて突き出される。
 それは回転というファクターを加えながら、旧型に向かって一直線に突き進む。
 一、二、三……着弾。

 旧式はそれを真正面から受け止め、そして脚に力を入れる。
 当たり前だが、ほぼ同スペック同士の闘いだ。
 少しもダメージを受けないなんて、絶対に有り得ない。

 事実ギンガの機体は、少しずつ後退している。
 それはスバルの攻撃が徹っている証。
 ジリジリと下がっていく、ギャオギャイガー。

 それを好機と見たのか。
 スバルはもう片方――左手の方も射出した。
 回転しながら突っ込んでくるそれは、粉塵と強力な風圧を伴ってやってくる。

 HIT!
 まさにその瞬間だった。
 右腕ロケットパンチの側面を僅かに掠らせ、ギンガはまず右腕を後ろに受け流す。

 次いで彼女の行ったことは、既に眼前にいる【左腕】を右脚のドリルで、上方に蹴り上げること。
 これでスバルは丸裸だ。
 まだ脚があるとは言え、戦力の五十パーセント以上はダウンしたと見て、間違いないだろう。

 己の目論見が外れたスバルは、慌てて後方へ下がる。同時に飛翔し、なるべく最短距離で両腕を回収しようとする。
 しかしその斜線上に立ち塞がるのは、彼女の姉であり――そして現在の対戦相手であるギンガ。
 どうする?飛び回って活路を見出すか。それとも膝のドリルのみで応戦し、その向こう側に突き抜けるか。

『…………考えるまでもないよね!!』

 既に飛翔していたその身体を、両の腕がある方向に【一直線】に向ける。
 当然その巨体は、間にある遮蔽物に構わず突っ込んでいく。
 その【遮蔽物】の名前は、ギャオギャイガー。つまり対戦相手である。

『……!?』

 その予想外過ぎる行動。
 凡そ常識やセオリーを無視した考えなしの行動は、戦闘機人ギンガの思考を鈍らせた。
 有り得ない。何故そんな無茶を?どうして一時撤退をして、態勢を立て直すなどをしないのか!?

 機人状態となっているギンガの思考は、極めて合理的な考えをするようにされている。
 だからこんな無駄な動作を取る相手の対処法など、考え付くはずがない。
 一瞬後には思考は切り替わり、向かってきた馬鹿を殲滅する考えにシフトするだろう。

 しかしそれはあくまで【一瞬後】の話だ。
 この高速戦闘での一瞬は、まさに命取り。
 【突っ込んでくる】と思った相手が、一瞬後には既に自分を吹っ飛ばし、更には後ろに居るような状態。それが現実である。

『てゃぁぁぁぁぁぁ!!』
『…………っ!』

 一瞬。
 結果は語るまでも無し。
 吹っ飛んだのは自分。吹っ飛ばしたのは相手――つまりスバル。

 クリアな思考の中に混じるノイズ。
 それは自分の想定範囲を超えた、【非常識】が目の前に居るから。
 機人ギンガは、それを透明な思考から追い出し、建て直しをしようとする。

『良ぉし!!両腕、ゲットぉぉぉぉ!!』

 戦場に響く、能天気(そうに聞こえる)声(ヴォイス)。
 苛つく。苛立つ。
 小さなノイズは次第に大きくなり、数も増していく。

『今後はぁ……コイツだぁぁぁぁ!!』

 スバルの右腕の周りに光が集まり、それがリング状になる。
 右腕の回転ロケットパンチを更に強化して撃ち出す。
 その意図がありありと感じ取れた。

『…………』

 対するギンガは。
 相手の意図を正確に読み取り、そして自身も同じ攻撃方法を用意する。
 金色のリングを翼から射出し、それを右腕の周りに纏わせる。



 ――ギュィィィィン!!



 重なるのは双方の音。
 重ならないのは、双方の意思。
 片や姉を止めよう――倒そうと思っているが、もう一方は敵を破壊しよう――殲滅するのだ、と思っているのが違い。



 ――ギィィィィン!!



 回転数は充分。
 覚悟も十分。
 あと足りないとするのなら、それはタイミングだ。

 同時に撃つか。
 それとも一瞬ずらすか。
 はたまた、相手の攻撃を回避した後に、相手の射出後の隙を狙うか。

 選択肢は幾つもある。
 そしてその選択肢の分だけ、その後の展開は存在する。
 どうする?相手はどうするつもりだ?ギンガの思考は、相手の出方を気にしていた。

『ギン姉ぇぇ!!行くよぉぉぉぉ!!』
『……!?』

 まただ。
 またもやクリアなはずの思考に、異物であるノイズが走る。
 痛い。何故か頭に、痛みを感じる。機人である自分は、そんなことを感じない。例え感じても、思考まで到達しないはず。

 他の戦闘機人とは違い、自分はただの戦闘人形。
 確かにナンバーズもそうとも言えるが、そこには距離がある。
 他とは違った存在。だから自分は、機械とイコールである。だから余分なものはないはず。ギンガへ施された洗脳は、彼女を人形にするもの。だからその思考パターンは正しい。

『ブロォォクン、ファントォォォォム!!』
『……!!』

 射出された。相手の拳は、既に発射されてしまった。
 こうなっては、後の先を取るしかない。
 轟と迫り来る豪腕を、人体で最も硬いと言われる箇所の一つ――左の【肘】で受け、さらに右手は引き手とする。

 攻防一体の構え。
 そして次の瞬間には、右手は射出する為前に行き、代償運動として左手は後ろに下がる。
 相手の攻撃を後方に流すと同時に、コチラの一撃を叩き込む。

 高等な武術の業は、攻撃と防御が一体となったものである。
 故にこれは格下の相手――目の前に常識外れには出来ないこと。
 ノイズはない。大丈夫だ。これでもう、その不協和音が聞こえることはない。

『ブロゥクン、ファントム……!』

 身体の前後が、一瞬にして入れ替わる。
 攻守逆転。さらに相手の窮地と来る。
 完璧だ。これ以上完璧な攻撃もないだろう。

『……!?うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 悲鳴がどんどん遠ざかる。
 それ即ち、相手に自分の攻撃がHITしたことになる。
 それも予想通りの効力で。ギンガの思考は、己の計算が正しかったことを確信した。



 ――ガァァァァァァァ!



 削られるのはアスファルトと、廃棄されたビルの数々。
 後方へ、後方へと流されるスバルは、ダメージと共に強制的に後退させられていた。
 決して薄くない装甲を、その廃墟たちは薄皮を剥ぐように削いでいく。

『…………てぇやぁぁぁぁ!!』

 それまで正対していた状態を、自ら倒れることで崩し、相手のブロゥクンファントムをかわす。
 対象を見失ったそれは、持ち主の下へ戻っていく。それはこちらも同じ。
 帰ってきた右腕を装着し、スバルは思考を落ち着かせる。

『(どうしよう……?【天国と地獄】は、負担が大きいから何度も使えないし……)』

 ギャオファイギャー・ギャオギャイガーの双方の最大技。
 それは右手に攻撃のパワーを。そして左手に防御のパワーを宿した状態での、両手を合わせての突貫。
 磁場は歪み、圧縮されたプラスとマイナスの力は、強力無比な破壊力を生み出す。

 これもまた攻防一体のカタチの一つ。
 しかし強力な技は同時に自身の身体も傷付ける、諸刃の刃でもあった。
 故に乱発は出来ない。出来る訳がない。

『(……そうだよね?ならギン姉を助けるには、もう一つの方を使うしか、ないよね……?)』

 【もう一つ】。
 そうスバルが考えたのは、【天国と地獄】に代わって開発された新兵器。
 巨大なハンマー型のサポートメカを内蔵した、新たな勇者ロボ。

 正式名称:ゴスロリマーグ。
 ギャオギャイガー・ギャオファイギャーの新たな切り札となるべく創られた、【ゴスロリオンハンマー】と強化右腕に変形する、新しい仲間である。
 ヴィータの思考パターンを組み込んだそれは、この場で切る為のカード。

『……』

 グゥウォン!グゥウォン!!
 そんな駆動音と地響きが混じったような音が、どんどん近付いてくる。
 時間は無い。カードを切るタイミングは、ココしか存在しないのだから。

『……ゴスロリマァァァァグ!!』
『相手はギンガだぞ!!お前に出来るのか!?』
『急いで!!』

 上空のダイノージェットから返ってきたのは、件のゴスロリマーグからの心配。
 しかしその心配は無用だ。
 出来ないでは済まされない。だから【出来る】。やってみせる!!

「どうします……?承認、するんですか……?」

 本来の長官(レジアス)の不在時は、その場に残る最高責任者がその任を代行する。
 よってはやてが現在、その任に就いているのだが……副官であるグリフィスの声は困惑気味。
 しかしそんな心配性な補佐官を、部隊長は一蹴した。

「…………あたしはスバルの判断を信じる。信じとる!!」

 そう断言すると、彼女は懐から一枚のカード型ホルダーを取り出す。
 シュィン!という機械音をさせて、その中から一つの鍵が姿を現す。
 これこそが【勝利の鍵】と、ゲンを担いで命名されたもの。よってこれを以って開錠されるのは、当然紅い巨大鎚である。

「ゴスロリオンハンマー、発動…………承ぉぉぉぉぉぉぉぉ認!!」

 無駄に気迫が籠もった開錠。
 はやては何故か劇画調になり、そして一瞬後に元に戻る。
 やはり彼女には、普段のタヌキモードが良く似合う。

『よっしゃぁぁぁぁ!!』

 以前レジアスに指導を受けたままの、気合の入った叫び声。
 年頃の女子にあるまじきその叫びは、今この場では突っ込みを入れるものは居なかった。
 誰も彼もが、彼女を――スバルを【漢】認定してしまったせいか。真実は闇の中である。

『ハンマァァァァ、コネクトォォォォ!!ゴスロリオォォン、ハンマァァァァ!!』

 マーグの変形した強化右腕がスバルの右腕に重なり、それと共に超重量の規格外ハンマーがその掌に吸い寄せられる。
 勇者の身体は黄金色に染まり、その強大なパワーが全身に回ったことを物語る。
 飛翔。そして光で構成された【杭】を左手に持ち、それをギンガに――ギャオギャイガーに突き立てようとする。

『……!』

 既に相手は必殺の構えを取っている。
 そんな状況下での選択肢など、二つに一つしかない。
 撤退か。それとも最大の力を使っての迎撃か。ギンガは逡巡する。

『ハンマァァァァ、天国ぅぅ!!』

 杭が迫ってくる。
 もう時間は無い。
 猶予もない。

 逃げる――――違う。
 避ける――――違う!
 迎撃…………するしかないだろう!

『……、…………、…………、……!!』

 ギャオギャイガーの体色が翡翠のように変化し、同時にそれは【天国と地獄】の準備段階に入ったことを示す。
 相対するのは、ハンマー版【天国と地獄】。
 その相容れぬ存在同士は、ハンマー自身と両の腕をチップとしてぶつかり合う。

『くぅぅぅぅぅぅぅぅ…………!!』
『…………!!』

 ほぼ互角。
 拮抗する力と力。
 一進一退。まさにそう言える状態だった。

『ングググググ…………!!』
『……、……、……!』



 ――ピシッ!!



 その瞬間は、あっと言う間に訪れた。
 最初は小さな亀裂。しかしその亀裂はこの力と力のぶつかり合いでは致命的であり、すぐさま連鎖的に傷が広がっていく。
 その患部はギャオギャイガーの両腕から。

 自身の力に耐え切れなくなったせいか。
 それとも相手からの攻撃のせいか。
 または両方かもしれない。

 しかし理由はともかく、現実にその身は崩壊へと向かっている。
 勝った――!!
 スバル・ナカジマは確信した。

 そして油断した。
 遠足は帰るまでが遠足である。
 そんなこと、小学校に通ったことがある人間なら、誰でも知っている常識である。

 その心は、最後まで気を抜くな。
 家の直前で交通事故が起こる可能性を、否定は出来ない。
 故に、家に帰るまで気を抜くべからず。

 気を抜けば連鎖的に、力も抜ける。
 ……となれば、今まで押していた力は何処へ行くのか?
 答えは自分自身に跳ね返る――と言ったところだ。

『■■■■――――!!』

 その隙は逃さない。
 ギンガ・ナカジマというモンスター少女は、好機をモノにし、そして攻め入った。
 破滅の音が聞こえる。



 ――ピシッ!ピシィッ!!



『そ、そんな!?』

 先程までとは一転して、今度は攻め入られる方に転換したスバル。
 もう余剰の力など残っていない。ただ踏ん張るだけしか出来ない。
 ただこの場で踏ん張ることが、一体何を意味しているかを、彼女は忘れていた。

『グァァァァァ!?チックショウ!!身体が持たねぇぇぇぇ!!』

 剛性に富んだ素材を使い。
 これまでの勇者ロボ以上に頑丈に創ったはずの、ゴスロリマーグ。
 しかし現実には、その超硬度設計の身体は今……。確かに、それでいてハッキリとひび割れていく。

 まるで無に帰されるように。
 虚無に帰れ!――とでも言われているかのように。

『!?ゴスロリマーグ!?』

 今は右腕となっているマーグの崩壊を、スバルは驚きと共に情報として受け取る。
 砕けていく相棒。それは己の未熟さ故の喪失。
 例えるのなら、スバルの【甘さ】がリボルバーナックルやマッハキャリバーを――もっと言えば、ティアナを【壊した】ようなものだ。

『グォォォォ……!!』
『ゴスロリ!!しっかりしてぇぇぇぇ!!』
『……オォォイ!変なトコロで区切るなぁぁ!!』

 ティアナを【ティア】と呼ぶように。
 自然と出ていたその言葉。それはゴスロリマーグの略称。というか、彼女的には愛称のつもりなのだろう。
 しかしそう呼ばれた方は、絶対的な窮地だというのに力一杯の突っ込みを。やはりそうは呼ばれたくないらしい。

『オイ、スバル!!前に言ったが、お前の防御はまあまあだ!』
『……ハイ!』

 ヴィータ語で【まあまあ】は、かなりの高評価である。
 しかしそれをヴィータは、決して褒めたりしない。
 だってツン娘なんだもん!!

『だからソイツと、攻撃に回すパワーをありったけ籠めて…………ギンガの眼を覚まさせてやれ!!』
『ハイ!……ハイッ!!』

 崩壊する身体。
 紅いパーツはどんどんひび割れ、零れ落ちて往く。
 崩壊は止められない。しかし最後の最後まで、抵抗することは忘れない。

『そんじゃ――――あとは頼んだぞ!!』
『!?』

 バッシュゥゥ!!
 その音の正体は何だったのだろうか?
 スバルには分からなかった。相対するギンガにも不明だった。

 しかし次の瞬間には理解出来ていた。
 強制的に理解させられていた。
 その音の正体は、ギャオファイギャーの右腕がパージされた音。

 パージされたということは当然、今まで前に向かっていた新式勇者は、その衝撃で後ろに吹っ飛ばされる。
 残ったのは、紅いロボットが一体。
 既に金色のコーティングは剥げ、今までの力とは比べ物にならない程、その出力は低下している。

『おりゃぁぁぁぁぁぁ…………!!』
『■■■■……!!』

 だけど引かない。
 引くことはしない。絶対にしない!
 自分は彼女の上司だ。そして任務を成功させる為なら――【勝つ】為なら、自分が血路を開く!

 【彼女】は――【ゴスロリマーグ】は、スバル・ナカジマの上司ではない。
 しかし【彼女】の元となった人物は、紛れもなくスバルの上司だ。
 故にそこには些細な差しか存在しない。まだまだ頼りないひよっこを教え、導くのは――先達の務めだと。

『■■■……』

 一方のギンガはというと、少しばかり焦りを感じたが、それもすぐに収まった。
 何故なら相手の攻撃という名の特攻は、ただの自爆である。
 故に恐れることは何もない。

 ただ自分の攻撃を完成させ、そしてそのまま押し徹せば良い。
 最高出力の【天国と地獄】は、目の前の相手など一蹴することだろう。
 事実もう相手は、粉砕寸前。勝敗は見えている。だから次は、新式勇者だ。

『……へっ!傷の一つでも、付けさせてもらうぜぇぇ!』

 崩壊寸前の身体から、緑色の光が漏れ始めた。
 それはCストーンの力を解放していく証拠。
 【彼女】は本気だ。本気で【自爆】を以って、相手にダメージを与えるつもりだった。



 ――キィィィィン!!



 その音は解放音。
 安全弁という楔を外し、【根性】を解き放つ。
 その最終工程が今……終了したのだ。

『喰らいやがれぇぇぇぇ!!』
『■■……!?■■■■■■…………!!』

 解放の瞬間。
 ギンガは両の腕に更に力を加える。
 オーバーブーストされた両腕は、紅き巨人の胴体を正面から分割していく。

 ズブ!ズブゥ!!
 そんな嫌な音を周囲に響かせながら、その瞬間は訪れる。
 バァァァァン!!という音。それは崩壊の音色。



 ――カッ!!



 翡翠の光が十字に走り、そして眩い閃光となる。
 暗転。
 そして眼が慣れてきた頃には……あったのは紅い鉄屑だった。

『…………ギィィィィン姉ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』

 吼えた。
 爆ぜた。
 紅い相棒を失ったスバルは、そこから漏れる感情を、そのまま解き放った。

『天国ぅぅ……そしてぇぇぇぇ、地獄ぅぅぅぅ!!』

 右腕と左腕から、それぞれ異なった色の光が解放される。
 収縮。圧縮。そして濃縮。
 最大限まで威力を凝縮されたそれは、両掌を合わせることで爆発する。

『……、…………、…………、……!!』

 その呟きは聞こえない。
 だがその台詞は、先程ギンガが唱えたものと同じもの。
 故にこの後来るものは、ギンガには簡単に推察出来た。

『ウォォォォォォォォォォォォ!!』

 【天国と地獄】同士のぶつかり合い。
 翡翠色のコーティングが為された二つの機体は、惹かれ合うように吸い寄せられる。
 まるで太陽は二つ要らない。だからお前は、邪魔だとばかりに。

『…………ス、バ、ル……』
『!?ギン姉…………』

 正気に戻ったのか!?
 淡い期待をしたスバルだが、その答えは不明だった。
 代わりに返ってきたのは別のもの。

『……カツ。ワタシガ、カツ……!』
『!!……………………忘れちゃったの、ギン姉ぇ……?』

 姉からの勝利宣言。
 しかしその勝利宣言は、スバルを悲しい気持ちにさせた。
 姉が忘れてしまったからだ。勝者の条件を。その心の支えとするものを。

『勝利するのは…………勝利するのはぁぁ…………!!』

 嘗て自分が姉から教えられたS・Aの講義。
 その中でも重要だった、戦闘者の気の持ちよう。
 忘れてしまったのか。…………だったら良い。今度は――――自分が教える番だ!!スバルの輝きが、一層眩いものとなった。

『【根性】あるモノだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
『!!!!!!』
『ぁぁぁぁぁぁぁぁ…………!!』

 ギャオギャイガーの胸――ライオンヘッドのある位置に、スバルの拳が到達した。
 ゴリッ!!鈍い音と同時にやって来る、ギャイガー崩壊の瞬間。
 コアとなる区画から、ギンガを周りのパーツごと抉り出し、そして引き抜く。

 全身にひびが入り、そして緑色の光が漏れ出す。
 それは先程のゴスロリオンマーグと同じ。
 だからギャオギャイガーの末路は、既に見えていた。

 光の解放と、それに伴う暗転。
 スバルは光が収まると、閉じていた両手を開く。
 その中に居たのは、服装はややボロボロになっているものの、普段と変わらぬ姉の姿が。

『ギン姉……。良かった…………本当に良かった……!!』



 ――プシュゥゥゥゥ!



 操手の安堵と同時に、各部から強制的に煙が排出され、立膝の状態になるギャオファイギャー。
 限界だったのだ。
 パーツの耐久値を越え、エネルギーの過負荷でパイプがイカれ、それでも最後まで闘い抜いた勇者。

 スバルは姉を取り戻すのに全力を尽くしてくれた【物言わぬ友】に、最大限の感謝をした。























「ルーテシアァァァァ!!」
「……邪魔。ガリュー、お願い……」
「……」

 地上に破壊神が降臨し、そして闘い合っていた頃。
 同じく地上の別の場所では、少年少女が闘い合っていた。
 紅髪の若き槍騎士と、紫髪で蝶々の仮面を付けた、幼き召喚師。

 少年はターゲットを確認すると、すぐさま飛んでいった。
 己の所有する槍をブースターとして。
 少しでもはやく、紫の少女に会う為に。
 
 そしてそんな小さな騎士を後方から追っていたのは、桃色の召喚師。
 想いを寄せる少年が、自分ではない別の存在を追い求めている。
 その事実に、キャロ・ル・ルシエは複雑な気持ちだった。

 別にエリオはたぶん、そういった恋愛要素でルーテシアを見ている訳ではない、と思う。
 しかしそれでも気になる男性が、別の異性に突貫していく姿には、思うところがあるのだ。
 今回は恐らく、正当魔法少女のスタイルでは勝てないだろう。

 だから戻す。
 普段の――本来のスタイルに戻し、そして闘う。
 これまで使ったことのない切り札――デバイスの【サードモード】を以ってして。

「……っ!ガリュー、退いてくれ!!ボクはルーテシアに用があるんだ!!」
「……」
「ダメ。貴方はガリューの相手でもしてなさい。もしもガリューに勝てたなら、相手をしてあげるから……」

 まるで羽虫を見るかのように。
 ルーテシアの瞳は、光を灯さない状態で少年を見据えた。
 まるで自分の意思がないかのように。ギンガ・ナカジマと同じように。

「私の相手は、貴女でしょう……?同じ召喚師でありながら、ぬくぬくと暖かい環境で育った、貴女……!!」
「……!?」

 ルーテシアの言葉は、鋭い矢となってキャロの心に突き刺さった。
 そんなことはない。自分だって一族に放逐され、管理局の施設をたらい回しにされたのだ。
 確かにフェイトに保護されてからは暖かい環境だったが……あの過去は忘れられない。

「違うよ!違うよぉ!!」
「……何が違うと言うの?貴女なんかの過去は、どうでも良い。貴女は今、優しい保護者と大切な家族を手に入れた。…………私には無いものを!!」
「!!」

 貴女と同じだよ。
 キャロはそう言いたかった。
 しかしその言葉は伝わらなかった。何故なら分かってしまったから。

 今の自分は幸せで、今のルーテシアは不幸なのだと。
 【優しい家族】。もしもこれがキーワードだとするのなら、今の彼女にはそれすらも居ないということになる。
 そこに血の繋がりは関係ない。暖かい家族。愛情。それに餓えた――過去の自分が居る。キャロの胸中で、この後にすべきことが決まった。

「……貴女たちみたいな甘ったれを見ると、虫唾が走る。だから倒す。目の前から消す為に……!」
「…………良いよ。貴女の好きにすれば良いと思うよ……?」

 重なる。
 フェイトに保護される前――まだ力を持て余していた時期の自分と、彼女が重なる。
 あぁ。だからエリオは、真っ先に彼女に反応したのか。

 同じような境遇を、心の何処かで感じ取ったから。
 キャロの中では、これは避けて通れないイベントだと理解した。
 そう。彼女と――【ルーテシア・アルピーノ】と言葉を交わし、そして【友だち】になるには、避けられない闘いなのだと。

「ただし、私が勝ったら…………お話を聞かせて貰うんだからね!!」
「……勝手にすれば良い。出来たら、だけどね……」

 白き竜に乗った桃色の召喚師。
 そして紫色のベルカ式の魔法陣の上に立つ、紫の少女。
 その間を、一陣の風が通り過ぎる。その後をピンクとパープルの光がぶつかり合い……そして爆ぜた。

「キャロ!?ルーテシア!?」

 ガリューと相対しながらも、その爆音で二人が気になったエリオ。
 白煙が立ち昇り、女子二人の周囲が白い空間となる。
 こうなってしまっては、エリオからはキャロの無事を確かめる方法はない。

 念話を使えば可能なのだろうが、敵は念話を傍受出来る相手なのだ。
 使用は避けなければならない。
 だったら今のエリオに出来ることは、目の前の相手をさっさと倒し、そして少女たちの待つフィールドへ行くことだろう。

「行くよ、ガリュー!!」
「……」

 虫の化身である沈黙者は、何も言わず構えを取る。
 その濃いピンク色のマフラーが風にたなびく
 その刹那。ガリューの鋼のような爪と、エリオのストラーダが音を立ててぶつかり合う。

 こちらもまた、闘いのゴングが鳴ったようであった。























「いやはや全く…………皆、シリアスすぎると思わないかい?」
「……取りあえず一番真剣にならなければいけないのは、あなただと思うのですが……」
「そうかな?」
「えぇ。絶対にそうだと思いますよ……?」

 地上本部の地下道。
 今そこを歩く面々の中では、そんなほのぼの会話があった。
 発信者は覇王。受け手は金髪騎士。

 双方共にセーラー服(風な戦闘服)を着てはいるが、片や若作り。もう一方は怪獣がコスプレをしているようなもの。
 誰が見ても思うだろう。
 何なんだ、この組み合わせは……!!

「そうかぁ……。具体的には、どのあたりだい?」
「そうですねぇ……。まずは【その服】を脱ぐことから、始めるべきでは?」
「何と!騎士カリムどんは、羞恥プレイがお好みとな!?今のボクはこれを脱ぐと、素晴らしいマッスルバディしか残らないのだが……」

 衝撃の事実。
 出会ってからもう、結構な付き合いだが、彼女の新たな一面が垣間見れた。
 ……決して見たいとは思わなかったが。覇王の胸中は、驚きで満ちていた。

「……違います。というか、何で今のあなたは【女性】なんですか!話を聞く限りではもう、【月村静香】の姿を取り戻したのでしょう!?」
「いや、確かにそうなんだけどさぁ……」

 この時系列に来た時、既に【月村静香】は死亡していた。
 故にその姿に――嘗ての自分の姿にはなれる。
 しかしなれる【だけ】である。

 本質的に【女性】の身体であるこの肉体は、【男性】というファクターを取り込むことで、【月村静香】と同じ容姿を保っていたのだ。
 そしてそのパーツは、今はお散歩中である。
 なので今は、カリムの知る【月村静香】にはなれない。

「……という訳でさ、無理なんだよ。ゴメンして下さい」

 素直に理由を言ったから、これで終わり。
 ……にしたかった。
 しかしそれで終われないのが、オトメというもの。

「でしたら!せめて別の服を着るか、その服を着るのなら別の姿になって下さい!」
「……何で?」
「先程からレジアス大将が、出血多量なのが見えないんですか……!?」

 カリムの示す先を見る。
 するとそこには出血多量なレジアスの姿が。
 その出血箇所が切り傷などではなく、鼻から出ているのは如何したものか。

「…………これは熱射病です。どうぞお気になさらず……」
「……って言ってるけど?」
「どう見ても違うでしょう!?」

 レジアスは何やら、【何か】と闘っている最中らしい。
 残念なことに覇王には見えない。
 だがエールくらいは送るべきだろう。

「がんばれ、レジアス!!何と闘っているかは分からないけど、ファイトだぁぁぁぁ!!」

 魔法でポンポンを出し、右手を上げたり、開脚ジャンプをしたり。
 これでレジアスも冷静になるだろう。
 ……見たくもないものを見たせいで、血の気が引くという意味で。

「ぐふぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「……!?不味いぞ。レジアス大将のバイタルが、急激に低下していく……!」

 先程とは比較にならない程の多量の血液。
 それが今、地上の守護者の中から失われていく。
 それを報告するのは、人間デバイス――じゃなかった。ユニゾンデバイスのリインフォース(初代)。

「御覧なさい!!どう見ても、あなたの格好のせいでしょうが!?」
「……騎士カリムよ。これは性質の悪い熱射病だ。だから気にするな……」
「何でそこまで我慢するですか!?」

 おかしい。
 ヒステリックに叫ぶカリムと、瀕死状態のレジアス。
 あまりに現実離れした光景に、覇王は何も考えられなかった。

「……不味いわね。これじゃあ、もって後数分よ……」
「レジアス大将……我が永遠のライバルよ。何か言い残すことはあるかい……?」

 プレシア先生の診断結果。
 その非情な結果を前に、嘗てライバルとして火花を散らした相手。
 クライド・ハラオウンが、大将の遺言を聞く。

「今度生まれ変わったら、大空を翔ける空戦魔導師になりたい……」

 それはレジアスの願い。
 恐らく空戦魔導師となって、それでも地上を護り続けたいのだろう。
 慢性的な空戦魔導師の不足への懸念。彼は最後の最期まで立派な大将だった。

「そうすれば、今度こそは…………教官の着替えを空から……」
「……分かる。分かるぞ!嘗てはボクも、そうだったから……!!」

 ノー。
 レジアスとクライドの、意味不明な会話。
 しかし理解出来た者も居るようで。リンディ・ハラオウンはタキシードを来た変態に、百tハンマーなるモノを喰らわせていた。

「……何だかよう分からんけど、それでこのカオスな事態が収まるのなら……」

 バキボキと、覇王形態から妖精形態への逆変身。
 まるでホラー映画のような光景の後に訪れる、妖精さまの降臨。
 順当に時を重ねた三人娘とは違い、時を越えてこの時代に来た妖精は、小学生のままだった。つまり何が起こるかと言うと……。

「あぁ……!!その姿、久しぶりだわぁぁぁぁ!!さぁ、ツインテールにしましょう!?お着替えしましょう!?一緒にお風呂に入りましょう!?」
「だぁぁぁぁ!!今度はプレシアか!?もう、イヤだぁぁぁぁ!!」

 暴走特急(特級)・テスタロッサ号。
 そのバインドを必死こいて外した後に、即効で覇王に戻る。
 そして間髪入れずにレジアスを、転送魔法でスカリエッティのアジトの近くに送る。

「……もうヤダ。はやく【野暮用】を終わらせて、帰ってきてくれよぉ……」

 現在別行動中の半身を思い、覇王は一人溜息を吐く。
 そんな様子を見て騎士カリムは、渇いた笑みを浮かべることしか出来なかった。













 あとがき

 >誤字訂正


 俊さん。毎度ご指摘いただき、本当にありがとうございます!!






前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.035830974578857