前回のあらすじ:誘導尋問→蝶シマッタ!!『ギン姉ぇぇぇぇ!!』『……』 今ミッドの地上は、まるで大怪獣の進撃中であるかの如く、強烈な地響きと破壊が行われていた。 共に【最終融合】を果たした、ギンガとスバルの――壮烈な姉妹喧嘩。 と言えばまだ響きは良いのだが、実質はただの潰し合いである。 新型の右腕が、唸りを上げて突き出される。 それは回転というファクターを加えながら、旧型に向かって一直線に突き進む。 一、二、三……着弾。 旧式はそれを真正面から受け止め、そして脚に力を入れる。 当たり前だが、ほぼ同スペック同士の闘いだ。 少しもダメージを受けないなんて、絶対に有り得ない。 事実ギンガの機体は、少しずつ後退している。 それはスバルの攻撃が徹っている証。 ジリジリと下がっていく、ギャオギャイガー。 それを好機と見たのか。 スバルはもう片方――左手の方も射出した。 回転しながら突っ込んでくるそれは、粉塵と強力な風圧を伴ってやってくる。 HIT! まさにその瞬間だった。 右腕ロケットパンチの側面を僅かに掠らせ、ギンガはまず右腕を後ろに受け流す。 次いで彼女の行ったことは、既に眼前にいる【左腕】を右脚のドリルで、上方に蹴り上げること。 これでスバルは丸裸だ。 まだ脚があるとは言え、戦力の五十パーセント以上はダウンしたと見て、間違いないだろう。 己の目論見が外れたスバルは、慌てて後方へ下がる。同時に飛翔し、なるべく最短距離で両腕を回収しようとする。 しかしその斜線上に立ち塞がるのは、彼女の姉であり――そして現在の対戦相手であるギンガ。 どうする?飛び回って活路を見出すか。それとも膝のドリルのみで応戦し、その向こう側に突き抜けるか。『…………考えるまでもないよね!!』 既に飛翔していたその身体を、両の腕がある方向に【一直線】に向ける。 当然その巨体は、間にある遮蔽物に構わず突っ込んでいく。 その【遮蔽物】の名前は、ギャオギャイガー。つまり対戦相手である。『……!?』 その予想外過ぎる行動。 凡そ常識やセオリーを無視した考えなしの行動は、戦闘機人ギンガの思考を鈍らせた。 有り得ない。何故そんな無茶を?どうして一時撤退をして、態勢を立て直すなどをしないのか!? 機人状態となっているギンガの思考は、極めて合理的な考えをするようにされている。 だからこんな無駄な動作を取る相手の対処法など、考え付くはずがない。 一瞬後には思考は切り替わり、向かってきた馬鹿を殲滅する考えにシフトするだろう。 しかしそれはあくまで【一瞬後】の話だ。 この高速戦闘での一瞬は、まさに命取り。 【突っ込んでくる】と思った相手が、一瞬後には既に自分を吹っ飛ばし、更には後ろに居るような状態。それが現実である。『てゃぁぁぁぁぁぁ!!』『…………っ!』 一瞬。 結果は語るまでも無し。 吹っ飛んだのは自分。吹っ飛ばしたのは相手――つまりスバル。 クリアな思考の中に混じるノイズ。 それは自分の想定範囲を超えた、【非常識】が目の前に居るから。 機人ギンガは、それを透明な思考から追い出し、建て直しをしようとする。『良ぉし!!両腕、ゲットぉぉぉぉ!!』 戦場に響く、能天気(そうに聞こえる)声(ヴォイス)。 苛つく。苛立つ。 小さなノイズは次第に大きくなり、数も増していく。『今後はぁ……コイツだぁぁぁぁ!!』 スバルの右腕の周りに光が集まり、それがリング状になる。 右腕の回転ロケットパンチを更に強化して撃ち出す。 その意図がありありと感じ取れた。『…………』 対するギンガは。 相手の意図を正確に読み取り、そして自身も同じ攻撃方法を用意する。 金色のリングを翼から射出し、それを右腕の周りに纏わせる。 ――ギュィィィィン!! 重なるのは双方の音。 重ならないのは、双方の意思。 片や姉を止めよう――倒そうと思っているが、もう一方は敵を破壊しよう――殲滅するのだ、と思っているのが違い。 ――ギィィィィン!! 回転数は充分。 覚悟も十分。 あと足りないとするのなら、それはタイミングだ。 同時に撃つか。 それとも一瞬ずらすか。 はたまた、相手の攻撃を回避した後に、相手の射出後の隙を狙うか。 選択肢は幾つもある。 そしてその選択肢の分だけ、その後の展開は存在する。 どうする?相手はどうするつもりだ?ギンガの思考は、相手の出方を気にしていた。『ギン姉ぇぇ!!行くよぉぉぉぉ!!』『……!?』 まただ。 またもやクリアなはずの思考に、異物であるノイズが走る。 痛い。何故か頭に、痛みを感じる。機人である自分は、そんなことを感じない。例え感じても、思考まで到達しないはず。 他の戦闘機人とは違い、自分はただの戦闘人形。 確かにナンバーズもそうとも言えるが、そこには距離がある。 他とは違った存在。だから自分は、機械とイコールである。だから余分なものはないはず。ギンガへ施された洗脳は、彼女を人形にするもの。だからその思考パターンは正しい。『ブロォォクン、ファントォォォォム!!』『……!!』 射出された。相手の拳は、既に発射されてしまった。 こうなっては、後の先を取るしかない。 轟と迫り来る豪腕を、人体で最も硬いと言われる箇所の一つ――左の【肘】で受け、さらに右手は引き手とする。 攻防一体の構え。 そして次の瞬間には、右手は射出する為前に行き、代償運動として左手は後ろに下がる。 相手の攻撃を後方に流すと同時に、コチラの一撃を叩き込む。 高等な武術の業は、攻撃と防御が一体となったものである。 故にこれは格下の相手――目の前に常識外れには出来ないこと。 ノイズはない。大丈夫だ。これでもう、その不協和音が聞こえることはない。『ブロゥクン、ファントム……!』 身体の前後が、一瞬にして入れ替わる。 攻守逆転。さらに相手の窮地と来る。 完璧だ。これ以上完璧な攻撃もないだろう。『……!?うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』 悲鳴がどんどん遠ざかる。 それ即ち、相手に自分の攻撃がHITしたことになる。 それも予想通りの効力で。ギンガの思考は、己の計算が正しかったことを確信した。 ――ガァァァァァァァ! 削られるのはアスファルトと、廃棄されたビルの数々。 後方へ、後方へと流されるスバルは、ダメージと共に強制的に後退させられていた。 決して薄くない装甲を、その廃墟たちは薄皮を剥ぐように削いでいく。『…………てぇやぁぁぁぁ!!』 それまで正対していた状態を、自ら倒れることで崩し、相手のブロゥクンファントムをかわす。 対象を見失ったそれは、持ち主の下へ戻っていく。それはこちらも同じ。 帰ってきた右腕を装着し、スバルは思考を落ち着かせる。『(どうしよう……?【天国と地獄】は、負担が大きいから何度も使えないし……)』 ギャオファイギャー・ギャオギャイガーの双方の最大技。 それは右手に攻撃のパワーを。そして左手に防御のパワーを宿した状態での、両手を合わせての突貫。 磁場は歪み、圧縮されたプラスとマイナスの力は、強力無比な破壊力を生み出す。 これもまた攻防一体のカタチの一つ。 しかし強力な技は同時に自身の身体も傷付ける、諸刃の刃でもあった。 故に乱発は出来ない。出来る訳がない。『(……そうだよね?ならギン姉を助けるには、もう一つの方を使うしか、ないよね……?)』 【もう一つ】。 そうスバルが考えたのは、【天国と地獄】に代わって開発された新兵器。 巨大なハンマー型のサポートメカを内蔵した、新たな勇者ロボ。 正式名称:ゴスロリマーグ。 ギャオギャイガー・ギャオファイギャーの新たな切り札となるべく創られた、【ゴスロリオンハンマー】と強化右腕に変形する、新しい仲間である。 ヴィータの思考パターンを組み込んだそれは、この場で切る為のカード。『……』 グゥウォン!グゥウォン!! そんな駆動音と地響きが混じったような音が、どんどん近付いてくる。 時間は無い。カードを切るタイミングは、ココしか存在しないのだから。『……ゴスロリマァァァァグ!!』『相手はギンガだぞ!!お前に出来るのか!?』『急いで!!』 上空のダイノージェットから返ってきたのは、件のゴスロリマーグからの心配。 しかしその心配は無用だ。 出来ないでは済まされない。だから【出来る】。やってみせる!!「どうします……?承認、するんですか……?」 本来の長官(レジアス)の不在時は、その場に残る最高責任者がその任を代行する。 よってはやてが現在、その任に就いているのだが……副官であるグリフィスの声は困惑気味。 しかしそんな心配性な補佐官を、部隊長は一蹴した。「…………あたしはスバルの判断を信じる。信じとる!!」 そう断言すると、彼女は懐から一枚のカード型ホルダーを取り出す。 シュィン!という機械音をさせて、その中から一つの鍵が姿を現す。 これこそが【勝利の鍵】と、ゲンを担いで命名されたもの。よってこれを以って開錠されるのは、当然紅い巨大鎚である。「ゴスロリオンハンマー、発動…………承ぉぉぉぉぉぉぉぉ認!!」 無駄に気迫が籠もった開錠。 はやては何故か劇画調になり、そして一瞬後に元に戻る。 やはり彼女には、普段のタヌキモードが良く似合う。『よっしゃぁぁぁぁ!!』 以前レジアスに指導を受けたままの、気合の入った叫び声。 年頃の女子にあるまじきその叫びは、今この場では突っ込みを入れるものは居なかった。 誰も彼もが、彼女を――スバルを【漢】認定してしまったせいか。真実は闇の中である。『ハンマァァァァ、コネクトォォォォ!!ゴスロリオォォン、ハンマァァァァ!!』 マーグの変形した強化右腕がスバルの右腕に重なり、それと共に超重量の規格外ハンマーがその掌に吸い寄せられる。 勇者の身体は黄金色に染まり、その強大なパワーが全身に回ったことを物語る。 飛翔。そして光で構成された【杭】を左手に持ち、それをギンガに――ギャオギャイガーに突き立てようとする。『……!』 既に相手は必殺の構えを取っている。 そんな状況下での選択肢など、二つに一つしかない。 撤退か。それとも最大の力を使っての迎撃か。ギンガは逡巡する。『ハンマァァァァ、天国ぅぅ!!』 杭が迫ってくる。 もう時間は無い。 猶予もない。 逃げる――――違う。 避ける――――違う! 迎撃…………するしかないだろう!『……、…………、…………、……!!』 ギャオギャイガーの体色が翡翠のように変化し、同時にそれは【天国と地獄】の準備段階に入ったことを示す。 相対するのは、ハンマー版【天国と地獄】。 その相容れぬ存在同士は、ハンマー自身と両の腕をチップとしてぶつかり合う。『くぅぅぅぅぅぅぅぅ…………!!』『…………!!』 ほぼ互角。 拮抗する力と力。 一進一退。まさにそう言える状態だった。『ングググググ…………!!』『……、……、……!』 ――ピシッ!! その瞬間は、あっと言う間に訪れた。 最初は小さな亀裂。しかしその亀裂はこの力と力のぶつかり合いでは致命的であり、すぐさま連鎖的に傷が広がっていく。 その患部はギャオギャイガーの両腕から。 自身の力に耐え切れなくなったせいか。 それとも相手からの攻撃のせいか。 または両方かもしれない。 しかし理由はともかく、現実にその身は崩壊へと向かっている。 勝った――!! スバル・ナカジマは確信した。 そして油断した。 遠足は帰るまでが遠足である。 そんなこと、小学校に通ったことがある人間なら、誰でも知っている常識である。 その心は、最後まで気を抜くな。 家の直前で交通事故が起こる可能性を、否定は出来ない。 故に、家に帰るまで気を抜くべからず。 気を抜けば連鎖的に、力も抜ける。 ……となれば、今まで押していた力は何処へ行くのか? 答えは自分自身に跳ね返る――と言ったところだ。『■■■■――――!!』 その隙は逃さない。 ギンガ・ナカジマというモンスター少女は、好機をモノにし、そして攻め入った。 破滅の音が聞こえる。 ――ピシッ!ピシィッ!!『そ、そんな!?』 先程までとは一転して、今度は攻め入られる方に転換したスバル。 もう余剰の力など残っていない。ただ踏ん張るだけしか出来ない。 ただこの場で踏ん張ることが、一体何を意味しているかを、彼女は忘れていた。『グァァァァァ!?チックショウ!!身体が持たねぇぇぇぇ!!』 剛性に富んだ素材を使い。 これまでの勇者ロボ以上に頑丈に創ったはずの、ゴスロリマーグ。 しかし現実には、その超硬度設計の身体は今……。確かに、それでいてハッキリとひび割れていく。 まるで無に帰されるように。 虚無に帰れ!――とでも言われているかのように。『!?ゴスロリマーグ!?』 今は右腕となっているマーグの崩壊を、スバルは驚きと共に情報として受け取る。 砕けていく相棒。それは己の未熟さ故の喪失。 例えるのなら、スバルの【甘さ】がリボルバーナックルやマッハキャリバーを――もっと言えば、ティアナを【壊した】ようなものだ。『グォォォォ……!!』『ゴスロリ!!しっかりしてぇぇぇぇ!!』『……オォォイ!変なトコロで区切るなぁぁ!!』 ティアナを【ティア】と呼ぶように。 自然と出ていたその言葉。それはゴスロリマーグの略称。というか、彼女的には愛称のつもりなのだろう。 しかしそう呼ばれた方は、絶対的な窮地だというのに力一杯の突っ込みを。やはりそうは呼ばれたくないらしい。『オイ、スバル!!前に言ったが、お前の防御はまあまあだ!』『……ハイ!』 ヴィータ語で【まあまあ】は、かなりの高評価である。 しかしそれをヴィータは、決して褒めたりしない。 だってツン娘なんだもん!!『だからソイツと、攻撃に回すパワーをありったけ籠めて…………ギンガの眼を覚まさせてやれ!!』『ハイ!……ハイッ!!』 崩壊する身体。 紅いパーツはどんどんひび割れ、零れ落ちて往く。 崩壊は止められない。しかし最後の最後まで、抵抗することは忘れない。『そんじゃ――――あとは頼んだぞ!!』『!?』 バッシュゥゥ!! その音の正体は何だったのだろうか? スバルには分からなかった。相対するギンガにも不明だった。 しかし次の瞬間には理解出来ていた。 強制的に理解させられていた。 その音の正体は、ギャオファイギャーの右腕がパージされた音。 パージされたということは当然、今まで前に向かっていた新式勇者は、その衝撃で後ろに吹っ飛ばされる。 残ったのは、紅いロボットが一体。 既に金色のコーティングは剥げ、今までの力とは比べ物にならない程、その出力は低下している。『おりゃぁぁぁぁぁぁ…………!!』『■■■■……!!』 だけど引かない。 引くことはしない。絶対にしない! 自分は彼女の上司だ。そして任務を成功させる為なら――【勝つ】為なら、自分が血路を開く! 【彼女】は――【ゴスロリマーグ】は、スバル・ナカジマの上司ではない。 しかし【彼女】の元となった人物は、紛れもなくスバルの上司だ。 故にそこには些細な差しか存在しない。まだまだ頼りないひよっこを教え、導くのは――先達の務めだと。『■■■……』 一方のギンガはというと、少しばかり焦りを感じたが、それもすぐに収まった。 何故なら相手の攻撃という名の特攻は、ただの自爆である。 故に恐れることは何もない。 ただ自分の攻撃を完成させ、そしてそのまま押し徹せば良い。 最高出力の【天国と地獄】は、目の前の相手など一蹴することだろう。 事実もう相手は、粉砕寸前。勝敗は見えている。だから次は、新式勇者だ。『……へっ!傷の一つでも、付けさせてもらうぜぇぇ!』 崩壊寸前の身体から、緑色の光が漏れ始めた。 それはCストーンの力を解放していく証拠。 【彼女】は本気だ。本気で【自爆】を以って、相手にダメージを与えるつもりだった。 ――キィィィィン!! その音は解放音。 安全弁という楔を外し、【根性】を解き放つ。 その最終工程が今……終了したのだ。『喰らいやがれぇぇぇぇ!!』『■■……!?■■■■■■…………!!』 解放の瞬間。 ギンガは両の腕に更に力を加える。 オーバーブーストされた両腕は、紅き巨人の胴体を正面から分割していく。 ズブ!ズブゥ!! そんな嫌な音を周囲に響かせながら、その瞬間は訪れる。 バァァァァン!!という音。それは崩壊の音色。 ――カッ!! 翡翠の光が十字に走り、そして眩い閃光となる。 暗転。 そして眼が慣れてきた頃には……あったのは紅い鉄屑だった。『…………ギィィィィン姉ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』 吼えた。 爆ぜた。 紅い相棒を失ったスバルは、そこから漏れる感情を、そのまま解き放った。『天国ぅぅ……そしてぇぇぇぇ、地獄ぅぅぅぅ!!』 右腕と左腕から、それぞれ異なった色の光が解放される。 収縮。圧縮。そして濃縮。 最大限まで威力を凝縮されたそれは、両掌を合わせることで爆発する。『……、…………、…………、……!!』 その呟きは聞こえない。 だがその台詞は、先程ギンガが唱えたものと同じもの。 故にこの後来るものは、ギンガには簡単に推察出来た。『ウォォォォォォォォォォォォ!!』 【天国と地獄】同士のぶつかり合い。 翡翠色のコーティングが為された二つの機体は、惹かれ合うように吸い寄せられる。 まるで太陽は二つ要らない。だからお前は、邪魔だとばかりに。『…………ス、バ、ル……』『!?ギン姉…………』 正気に戻ったのか!? 淡い期待をしたスバルだが、その答えは不明だった。 代わりに返ってきたのは別のもの。『……カツ。ワタシガ、カツ……!』『!!……………………忘れちゃったの、ギン姉ぇ……?』 姉からの勝利宣言。 しかしその勝利宣言は、スバルを悲しい気持ちにさせた。 姉が忘れてしまったからだ。勝者の条件を。その心の支えとするものを。『勝利するのは…………勝利するのはぁぁ…………!!』 嘗て自分が姉から教えられたS・Aの講義。 その中でも重要だった、戦闘者の気の持ちよう。 忘れてしまったのか。…………だったら良い。今度は――――自分が教える番だ!!スバルの輝きが、一層眩いものとなった。『【根性】あるモノだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』『!!!!!!』『ぁぁぁぁぁぁぁぁ…………!!』 ギャオギャイガーの胸――ライオンヘッドのある位置に、スバルの拳が到達した。 ゴリッ!!鈍い音と同時にやって来る、ギャイガー崩壊の瞬間。 コアとなる区画から、ギンガを周りのパーツごと抉り出し、そして引き抜く。 全身にひびが入り、そして緑色の光が漏れ出す。 それは先程のゴスロリオンマーグと同じ。 だからギャオギャイガーの末路は、既に見えていた。 光の解放と、それに伴う暗転。 スバルは光が収まると、閉じていた両手を開く。 その中に居たのは、服装はややボロボロになっているものの、普段と変わらぬ姉の姿が。『ギン姉……。良かった…………本当に良かった……!!』 ――プシュゥゥゥゥ! 操手の安堵と同時に、各部から強制的に煙が排出され、立膝の状態になるギャオファイギャー。 限界だったのだ。 パーツの耐久値を越え、エネルギーの過負荷でパイプがイカれ、それでも最後まで闘い抜いた勇者。 スバルは姉を取り戻すのに全力を尽くしてくれた【物言わぬ友】に、最大限の感謝をした。「ルーテシアァァァァ!!」「……邪魔。ガリュー、お願い……」「……」 地上に破壊神が降臨し、そして闘い合っていた頃。 同じく地上の別の場所では、少年少女が闘い合っていた。 紅髪の若き槍騎士と、紫髪で蝶々の仮面を付けた、幼き召喚師。 少年はターゲットを確認すると、すぐさま飛んでいった。 己の所有する槍をブースターとして。 少しでもはやく、紫の少女に会う為に。 そしてそんな小さな騎士を後方から追っていたのは、桃色の召喚師。 想いを寄せる少年が、自分ではない別の存在を追い求めている。 その事実に、キャロ・ル・ルシエは複雑な気持ちだった。 別にエリオはたぶん、そういった恋愛要素でルーテシアを見ている訳ではない、と思う。 しかしそれでも気になる男性が、別の異性に突貫していく姿には、思うところがあるのだ。 今回は恐らく、正当魔法少女のスタイルでは勝てないだろう。 だから戻す。 普段の――本来のスタイルに戻し、そして闘う。 これまで使ったことのない切り札――デバイスの【サードモード】を以ってして。「……っ!ガリュー、退いてくれ!!ボクはルーテシアに用があるんだ!!」「……」「ダメ。貴方はガリューの相手でもしてなさい。もしもガリューに勝てたなら、相手をしてあげるから……」 まるで羽虫を見るかのように。 ルーテシアの瞳は、光を灯さない状態で少年を見据えた。 まるで自分の意思がないかのように。ギンガ・ナカジマと同じように。「私の相手は、貴女でしょう……?同じ召喚師でありながら、ぬくぬくと暖かい環境で育った、貴女……!!」「……!?」 ルーテシアの言葉は、鋭い矢となってキャロの心に突き刺さった。 そんなことはない。自分だって一族に放逐され、管理局の施設をたらい回しにされたのだ。 確かにフェイトに保護されてからは暖かい環境だったが……あの過去は忘れられない。「違うよ!違うよぉ!!」「……何が違うと言うの?貴女なんかの過去は、どうでも良い。貴女は今、優しい保護者と大切な家族を手に入れた。…………私には無いものを!!」「!!」 貴女と同じだよ。 キャロはそう言いたかった。 しかしその言葉は伝わらなかった。何故なら分かってしまったから。 今の自分は幸せで、今のルーテシアは不幸なのだと。 【優しい家族】。もしもこれがキーワードだとするのなら、今の彼女にはそれすらも居ないということになる。 そこに血の繋がりは関係ない。暖かい家族。愛情。それに餓えた――過去の自分が居る。キャロの胸中で、この後にすべきことが決まった。「……貴女たちみたいな甘ったれを見ると、虫唾が走る。だから倒す。目の前から消す為に……!」「…………良いよ。貴女の好きにすれば良いと思うよ……?」 重なる。 フェイトに保護される前――まだ力を持て余していた時期の自分と、彼女が重なる。 あぁ。だからエリオは、真っ先に彼女に反応したのか。 同じような境遇を、心の何処かで感じ取ったから。 キャロの中では、これは避けて通れないイベントだと理解した。 そう。彼女と――【ルーテシア・アルピーノ】と言葉を交わし、そして【友だち】になるには、避けられない闘いなのだと。「ただし、私が勝ったら…………お話を聞かせて貰うんだからね!!」「……勝手にすれば良い。出来たら、だけどね……」 白き竜に乗った桃色の召喚師。 そして紫色のベルカ式の魔法陣の上に立つ、紫の少女。 その間を、一陣の風が通り過ぎる。その後をピンクとパープルの光がぶつかり合い……そして爆ぜた。「キャロ!?ルーテシア!?」 ガリューと相対しながらも、その爆音で二人が気になったエリオ。 白煙が立ち昇り、女子二人の周囲が白い空間となる。 こうなってしまっては、エリオからはキャロの無事を確かめる方法はない。 念話を使えば可能なのだろうが、敵は念話を傍受出来る相手なのだ。 使用は避けなければならない。 だったら今のエリオに出来ることは、目の前の相手をさっさと倒し、そして少女たちの待つフィールドへ行くことだろう。「行くよ、ガリュー!!」「……」 虫の化身である沈黙者は、何も言わず構えを取る。 その濃いピンク色のマフラーが風にたなびく その刹那。ガリューの鋼のような爪と、エリオのストラーダが音を立ててぶつかり合う。 こちらもまた、闘いのゴングが鳴ったようであった。「いやはや全く…………皆、シリアスすぎると思わないかい?」「……取りあえず一番真剣にならなければいけないのは、あなただと思うのですが……」「そうかな?」「えぇ。絶対にそうだと思いますよ……?」 地上本部の地下道。 今そこを歩く面々の中では、そんなほのぼの会話があった。 発信者は覇王。受け手は金髪騎士。 双方共にセーラー服(風な戦闘服)を着てはいるが、片や若作り。もう一方は怪獣がコスプレをしているようなもの。 誰が見ても思うだろう。 何なんだ、この組み合わせは……!!「そうかぁ……。具体的には、どのあたりだい?」「そうですねぇ……。まずは【その服】を脱ぐことから、始めるべきでは?」「何と!騎士カリムどんは、羞恥プレイがお好みとな!?今のボクはこれを脱ぐと、素晴らしいマッスルバディしか残らないのだが……」 衝撃の事実。 出会ってからもう、結構な付き合いだが、彼女の新たな一面が垣間見れた。 ……決して見たいとは思わなかったが。覇王の胸中は、驚きで満ちていた。「……違います。というか、何で今のあなたは【女性】なんですか!話を聞く限りではもう、【月村静香】の姿を取り戻したのでしょう!?」「いや、確かにそうなんだけどさぁ……」 この時系列に来た時、既に【月村静香】は死亡していた。 故にその姿に――嘗ての自分の姿にはなれる。 しかしなれる【だけ】である。 本質的に【女性】の身体であるこの肉体は、【男性】というファクターを取り込むことで、【月村静香】と同じ容姿を保っていたのだ。 そしてそのパーツは、今はお散歩中である。 なので今は、カリムの知る【月村静香】にはなれない。「……という訳でさ、無理なんだよ。ゴメンして下さい」 素直に理由を言ったから、これで終わり。 ……にしたかった。 しかしそれで終われないのが、オトメというもの。「でしたら!せめて別の服を着るか、その服を着るのなら別の姿になって下さい!」「……何で?」「先程からレジアス大将が、出血多量なのが見えないんですか……!?」 カリムの示す先を見る。 するとそこには出血多量なレジアスの姿が。 その出血箇所が切り傷などではなく、鼻から出ているのは如何したものか。「…………これは熱射病です。どうぞお気になさらず……」「……って言ってるけど?」「どう見ても違うでしょう!?」 レジアスは何やら、【何か】と闘っている最中らしい。 残念なことに覇王には見えない。 だがエールくらいは送るべきだろう。「がんばれ、レジアス!!何と闘っているかは分からないけど、ファイトだぁぁぁぁ!!」 魔法でポンポンを出し、右手を上げたり、開脚ジャンプをしたり。 これでレジアスも冷静になるだろう。 ……見たくもないものを見たせいで、血の気が引くという意味で。「ぐふぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」「……!?不味いぞ。レジアス大将のバイタルが、急激に低下していく……!」 先程とは比較にならない程の多量の血液。 それが今、地上の守護者の中から失われていく。 それを報告するのは、人間デバイス――じゃなかった。ユニゾンデバイスのリインフォース(初代)。「御覧なさい!!どう見ても、あなたの格好のせいでしょうが!?」「……騎士カリムよ。これは性質の悪い熱射病だ。だから気にするな……」「何でそこまで我慢するですか!?」 おかしい。 ヒステリックに叫ぶカリムと、瀕死状態のレジアス。 あまりに現実離れした光景に、覇王は何も考えられなかった。「……不味いわね。これじゃあ、もって後数分よ……」「レジアス大将……我が永遠のライバルよ。何か言い残すことはあるかい……?」 プレシア先生の診断結果。 その非情な結果を前に、嘗てライバルとして火花を散らした相手。 クライド・ハラオウンが、大将の遺言を聞く。「今度生まれ変わったら、大空を翔ける空戦魔導師になりたい……」 それはレジアスの願い。 恐らく空戦魔導師となって、それでも地上を護り続けたいのだろう。 慢性的な空戦魔導師の不足への懸念。彼は最後の最期まで立派な大将だった。「そうすれば、今度こそは…………教官の着替えを空から……」「……分かる。分かるぞ!嘗てはボクも、そうだったから……!!」 ノー。 レジアスとクライドの、意味不明な会話。 しかし理解出来た者も居るようで。リンディ・ハラオウンはタキシードを来た変態に、百tハンマーなるモノを喰らわせていた。「……何だかよう分からんけど、それでこのカオスな事態が収まるのなら……」 バキボキと、覇王形態から妖精形態への逆変身。 まるでホラー映画のような光景の後に訪れる、妖精さまの降臨。 順当に時を重ねた三人娘とは違い、時を越えてこの時代に来た妖精は、小学生のままだった。つまり何が起こるかと言うと……。「あぁ……!!その姿、久しぶりだわぁぁぁぁ!!さぁ、ツインテールにしましょう!?お着替えしましょう!?一緒にお風呂に入りましょう!?」「だぁぁぁぁ!!今度はプレシアか!?もう、イヤだぁぁぁぁ!!」 暴走特急(特級)・テスタロッサ号。 そのバインドを必死こいて外した後に、即効で覇王に戻る。 そして間髪入れずにレジアスを、転送魔法でスカリエッティのアジトの近くに送る。「……もうヤダ。はやく【野暮用】を終わらせて、帰ってきてくれよぉ……」 現在別行動中の半身を思い、覇王は一人溜息を吐く。 そんな様子を見て騎士カリムは、渇いた笑みを浮かべることしか出来なかった。 あとがき >誤字訂正 俊さん。毎度ご指摘いただき、本当にありがとうございます!!