前回のあらすじ:全開のネタまみれ。 舞台は前回の引きの続きで、最高評議会ズ・ルームから送りいたします。 インタビュアーは当然の如く、覇王少女。 突撃取材の相手は、旧暦では【紅い箒星】と呼ばれた者と、同じく過去に【白いデビル】と呼ばれた者。「我々は旧暦において、様々な【奇跡】を起こした者――――と呼ばれている。実態はどうであれ、ね……?」「……その言い方だと、本当は違うってことかい……?」 これは軽いジャブだ。 相手が真相を語ってくれるとは限らない。 だから返答は期待しない。そう思っていると、白いあく――ゲフン、ゲフン!【アムロ・アルマーク】なる闘士から予想外の返しが来た。「その通り。僕たちは様々な時代・様々な姿で歴史に干渉した――いや、【させられた】という方が正しいかな?そしてそれらは全て、【あの存在】の掌だった……」 彼らは語る。 ある時は物語の主人公として。 またある時は、ラストを飾る悪役として。「そして訪れた新暦。そこでの我々の役割は、時空管理局という【正義の組織】の親玉。しかしその実態は……」「世界の悪と正義をコントールし、【あるモノ】にその全てが行くように仕向けること……」 白い外套を羽織った剣士の言葉を、内情を知っているボクが引き継ぐ。 これは自分にとっての常識。 そうだ。ボクの――月村静香であり覇王少女でもある、妖精な【ボク】の常識。「その通り。流石は【原初のヒト】。【あの存在】と同じところから来た者だね……?」「……そうか。【アイツ】がキミたちに話したのか……」 闘衣を纏った男の問い掛け。 それはボク自身の正体に関するもの。 以前冗談めかして言ったことは有るが、ボクの正体。それは……。「その通り。キミと同じ――【三次元人】である、【クイーン】という存在がね……?」「「「「「さ、三次元人!?」」」」」 三次元。 それは縦・横・高さを概念とした次元論だ。 当然二次元は高さがない、平面の世界。 現実の人間が物語を作れば、それは二次元の世界の話になる。 つまりは、そういうこと。 この世界は。この【次元世界】という概念は――――。「……そうさ。この世界はクイーンとボク【たち】、有志数名により創られた……【人工の世界】なんだ♪」「「「「「な、何だってぇぇぇぇぇぇ!?」」」」」 衝撃の事実。 それは広大な空間である最高評議会ズ・ルームに静かに、だがハッキリと響いていった。「流石は皆の衆。返し方がM○R風だとは……ワビサビを理解しているじゃないか♪」 別に隠すつもりは無かった。 というか、ちゃんと以前発言した。 しかし本気に受け取らなかったのは、皆の方だ。だからボクは悪くない。良し、理論武装終了!!「ちょっと待って下さい!!じゃあ、じゃあ我々は……!?」「あ~、心配は要らないよ?別にキミたちはゲームのキャラクターでも無ければ、架空の存在でもないから」 代表して質問してきたクライド少年の問いを、ボクは簡単に否定する。 確かにこの【世界】は人工だとは言った。 しかしその中に居る人間たちが人工だとは、言った覚えはない。「……どういう事?返答次第では、妖精に強制変身の上に、一週間為すがままの刑よ……?」 黒フェイト――若プレシアが睨みながら、そう告げる。 あぁ。確かにその刑は嫌だ。 本当はもっと勿体ぶって言おうと思ったけど、それは止めよう。ワザワザやられに行く程、ボクはMじゃないしねぇ?「分かった、分かった!それじゃあ、【超】簡単に説明するよ?世界を作ったと言われている【神】って言うのは、実は人間でした。オーケー?」「「「「「………………………………………………ハァッ!?」」」」」 たっぷりと長い沈黙の後。 訪れるのは、意味不明というニュアンスの驚愕。 まぁ当然と言えばそうだけと。「もう少し分かりやすく説明しようか?」「……頼む。流石に理解不能だ……」 【叡智】とも言われる知識を蓄えこんでいる、【魔導書】であるリインフォースでも。 流石にボクの話の突拍子の無さには、付いて来れなかったらしい。 ……あ。銀髪紅瞳の美少女が、若干上目遣いでお願いしてくる動作って……良ぃ!!「この世界は、遥か昔に【人間によって】創られたんだよ。分かり難いなら、良くある神話の【神】の部分を【人間】に置き換えれば良い」 それだけのことが出来る程、原初の人間はスペックが高かった。まさに【次元が違う】というレベルで。 だから同時に危惧もした。同じ力を持った人間が増え続けるのは危険だと。 よって次の世代には、力を十パーセント以下にしか伝えないようにした。 そうすれば世代を経る毎に強大な【力】は劣化し、それを補うように皆で協力して生活するようになる。 これが原初のヒトの思惑。 そして後世の人間は自分と原初のヒトとの絶対的な力を前に、自分たちを【人間】。原初の人間を【神】と区別したのだ。「ボク自身【神】だなんて名乗るつもりもないし、自分のことをそう思ったこともない。けど……」 やっぱり強大な力を持ってしまったヒトの中には、絶対に暴走する者も出てくる。 これはここまで強い力でなくても、一般社会でも見られる光景だ。「地球風に言うのなら、【オーディーン】とも言うべき存在の暴走と言うか……」 強靭な精神力がない企業のトップというのは、得てして暴走しやすい。 それだけ【権力】や【金】という物には魔力が込められていて、同時に憑かれやすい。 また最初は意欲に燃え、素晴らしい考えの持ち主でも、堕ちる時はあっと言う間。それが【魔力】を秘めたもの。「ようは社長の暴走は、他の取締役が団結して止める――ってことさ」「……そう言われると、もの凄く分かりやすいというか、大した問題に聞こえないというか……」「うん。しかし大した問題なんだよ、現実にはね?」 翠提督――リンディ嬢の発言に、前半は同意して後半は否定する。 これが会社の問題だったら、確かに社会に与える影響はその周囲くらいだ。 しかし仮にも【神】とか呼ばれたりもする者の暴走が、そう簡単に片付く訳が無い。「……アレ?カリムは……驚いたりしないんだねぇ?」「…………いえ。これでも十分驚いては居るのですが……」 どうにも歯切れが悪い。 もう少し驚くような演出を凝らすべきだっただろうか? いやでも、そんなことをすればプレシアがキレてたかも……。「あの、もしかしてシズカさんは……念じると右手の甲に、紋章か何かが浮かび上がったりは……しませんよね?」 出来れば違っていて欲しい。 そんなニュアンスが、ひしひしと伝わってくる。 だけど騎士カリム様に嘘は付けましぇん。……というか、付いたら後が面倒すぎる。「あー、もしかして…………こいつのコトかい?」 軽く右手を胸の前に持っていき、拳に力を籠める。 すると浮かび上がってくるのは、トランプのジョーカーのような絵に、【BLACK JOKER】の文字。 かつて四人の同士と共に魂に刻んだ、五つの紋章。 トランプのジャック・クイーン・キング。 そしてエースとジョーカーを核としてデザインされた、それらの紋章。 五人でこの世界を創り、そして護っていこうと誓って作った、【同盟】の証。「あぁ……。出来れば違っていて欲しかったのに……!!」 騎士カリムの憂鬱。 ……なんてレベルの話ではないらしい。 全身で苦悩を表現する年頃の娘さん。人生の先達としては、その【ムンクの叫び】っぽいのは止めた方が良いと思うが。「懐かしいなぁ……。この紋章を受け継いだのは、もう随分前のことのように感じる……」「全くだね。あの頃はまだ、我々も【この姿】ではなかったしねぇ……?」「……エ?」 緑色のブロンズ闘士と黒髪の剣士が、そう言った後にそれぞれの右手に紋章を顕現させる。 クラブとエースをモチーフにした【クラブ・エース】と、ダイヤとジャックが盛り込まれた【ジャック・イン・ダイヤ】。 その輝きは、紛れもなく本物。つまり目の前の二人は、遠い昔――ボクと同盟を結んだ二人ということに……!「マテマテマテェェェェ!?そんなハズはない!!だってキミたちは――【あの二人】じゃないじゃないか!?」 ボクと【同盟】を結んだ【エース】と【ジャック】は、この二人ではなかった。 転生する度に、【次の】自分に受け継がれる紋章。 だから外見は違っても、中身は――魂は同じ筈である。 しかし闘士と剣士の魂は、かつてのソレとは別物。 分割や再統一では説明の付かない、まるで別人の魂。 ……というより、完璧に【別人】の魂である。「ジョーカー、君とクイーンは【器】は違っても【本人】だ。しかし我々は違う」「キング・ジャック・エースはそれぞれ、【次の世代】に継承するスタイルにしたんだよ?」「【子ども】や【弟子】などの、形態は様々だが自分の【意思】を継ぐ者に――【継承者】にその紋章と【誓い】を託したのだよ?」「……そういうことだったのか」 漸く腑に落ちた。 目の前の彼らは、ボクの知るジャックやエースではない。 しかし【誓い】は、彼らの胸の中に生き続けている。「ヒトという存在は世代を経る毎にその力を増し、可能性を広げていく。子が親を超えるように……ってか?」「その通り。まさにそう考えた初代のキングは、ジャックとエースに提案し、それが今日にまで至る――ということだ」 成る程。 確かに代を経る毎に原初の力は薄れていくが、それ以外の力やファクターは強くなっていく。 オリジナルの強大さを残すか、進化の先にあるものに賭けるか。ボクとクイーンは前者で、それ以外の三者は後者を取った。ただそれだけのこと。「……あれ?じゃあ【当代】のエースとジャックは、何でクイーンに従ってるんだい?」 【誓い】には、暴走した同志を止める意味合いも含まれている。 しかし二人は止める側ではなく、暴走側に加担していた。 これは一体、どういうことなのだろうか?「……情けない話だがね。我々では暴走を止められなかったのだよ。だったら相手の下に付いた【フリ】をして、被害を小さく留めた方が良い」「そうして人類の中に、【クイーン】を倒せる可能性を秘めた原石が出現するのを待っていた、という訳さ」 肩をすくめるアムロ・アルマーク。 確かにそれが最善だったのかもしれない。 こうして【管理された】世界は完成し、現在まで続いてきたということか。「あの……執務官長はその間、どうしていたんですか……?」 む。クライド少年の、容赦ない突っ込みが。 確かにそういう疑問が湧くのは無理もない。 ……仕方ない。疾しいことが有る訳でもないので、ちゃんと説明するか。「ボクはね……。クイーンが暴走した時に隣の部屋で寝てて――そのぉ」 直ぐに起きたんだけど、起きた瞬間に二つに分けられてしまいましたとさ。 情けなさ過ぎる。 だから言いたくなかったんだよぉ……。「それは、その……」「あぁ、痛い!?その遠慮に満ちた瞳が痛い!!」 自分の弟子とも言える存在からの気遣いが痛い。 そしてそれと同じ視線は、他の方角からも感じる。 気まずい。何とかして、話題を逸らさないと……!「そう言えばキングは!?もしかして評議会最後の一人が、今代のキングなんじゃ!?」「……その通り。しかし【彼】は今――というか随分前から、行方不明なんだよ」「行方、不明……?」 苦し紛れの質問は、意外にも正鵠を射ていたようで。 しかし引き出された応えは意外の一言。 「あぁ。彼は聖王教会の教皇も兼ねていてね?ココを空けることは多いのだが……」 ピクッ! その音は、金髪の騎士の肩から聞こえたものだった。 明らかに動揺の色を示す、騎士カリム。「管理外第……あぁ、君たちには【地球】の方が分かりやすいかな?そこに現地調査に行ったきり、帰って来ないんだよ?」 また地球か。 どうにもあそこは、様々な要因を引き付ける場所らしい。 ジュエルシードしかり、闇の書なんかね?「教皇か……そう言えばカリム?キミなら教皇に会ったこと、有りそうだよね?」「!?きょ、教皇様、ですか……!?た、確かに有りますが……!」 騎士カリムが体育座りで両肩を抱いて、ガクブル状態になってます。 これ何てトラウマ? 明らかにその教皇、カリムに何かしたよね?「ちょっとカリム!?落ち着きなって!!どうしたの、何があったの!?」「教皇様……教皇様……教皇さま……きょうこうさま……!?」 トランス。 どう見ても錯乱様です。 いつもクールで、ほんわか姉さんのカリムをここまで追い込む教皇……一体何者だ?「――――知りたいですかな?」「「「「「「!!」」」」」」 響く。 殆ど遮蔽物のないこの空間に、渋いオヤジの声が響く。 気配はない。いや……酷く薄い。 そして視線は感じ……るのだが、これまた非常に分かり難い。 覇王少女のスペックを以ってしてもこれだ。 常人である皆には、全く分からない位だろう。「……ソコォォォォ!!」 酷く薄い気配を辿って、その先にある対象にシズカの剣を投げる。 すると、今まで何も無かったように見えた空間に、一人の初老の紳士が現れた。 白いタキシードに黒のシルクハットとマント。 ボクは知っている。 直接出会ったのは【ボク】ではない【あらし】だが、あの存在をボクは――知っている。「……ドクトル。キミがココに居るということは……」「その通りです。この姿は、諸国を巡る際のカモフラージュ。しかしその正体は……!!」 バッ!! そんな音でも聞こえてきそうな、ドクトルのマントを翻す音。 どうでも良いけど、爺の脱衣シーンなんて残念過ぎる。「私の――――儂の正体は!!」 マントが床に落ちる。 老紳士は既に、白いタキシードを纏ってはいなかった。 老人だというのに、非常に逞しい身体。 そしてその身体を包むのは、暗色のロングコート。 ただし、裸身に超ミニサイズのビキニを纏った上にだが。 そして素晴らしい口髭に、髪型はサリーち○んのパパのような悪魔ヘアー。 しかし後ろ髪は弁髪にしており、何やら拘りが見られる。 もう一度、今まで言った特徴を頭の中で思い浮かべて欲しい。 ……うん。ただの変態だ。「儂の名前は、【東方腐敗マスター大佐】!!先代のキング・オブ・ハートよ!!」 右手の紋章が痛い。 永いこと生きてきたけど、始めてこの紋章を抉り出したいと思った。 【アレ】と同類は嫌過ぎる。しかし――セーラー服な覇王少女も、多分同類に見られるだろう。それが何よりも嫌だった。「ゆくぞ、カリムゥゥゥゥ!!」「ヒィィィィ!!」 そうか。 カリムは【コレ】が嫌だったのか。 確かにこんな教皇は嫌だ。 ……でも待てよ?教皇は先代じゃなくて、今代の筈だったよねぇ? この数年の間に、代替わりしたのか?だとしたら誰が今のキングなんだ? …………止めよう。自分をも騙せない嘘は、却って虚しいだけだ。「流派ぁぁ!!東方腐敗はぁぁぁぁ!!」「……王者の枷よ!!」「全身痙攣!」「切羽詰まった!」「見よ東方は……!!」「紅く【萌え】ている!!」 激しく殴りあいながら、何やら挨拶らしきものを交わす教皇と騎士。 キミの知ってるカリム・グラシアは死んだ。彼女の生きた証、受け取って欲しい――とか言って、ラーメンスープのレシピをプリーズ。 じゃないと、現実が受け入れられない!「……シズカさん、その……」 あぁ。 しかし現実は何て無常なんだ。 申し訳なさそうなのと、恥ずかしさをブレンドしたかのような、騎士カリムの表情。「私が……私が今代の、【キング・オブ・ハート】なんです……!」 結論。 神は死んだ。 ……というか、ボクたちが神様代わりをしている時点で、最初から存在はしないのだが。 あとがき >誤字訂正 俊さん。毎度ご指摘頂き、本当にありがとうございます!!