前回のあらすじ:東方は紅く【萌え】ている。 破壊神の決戦が行われた、廃高速道路付近。 そこに近い高架下では、もう一つの闘いがあった。 姉妹対決とは異なった意味での、望まれない闘い。「……やっぱ強ぇなぁ、クイントはよぉ……?」「……」 答えは返ってこない。 鉄仮面は沈黙を保ったまま。 血を分けた者同士ではないが、ある意味それよりも濃い関係。 生涯を共にし、死が二人を分かつまでという契約を交わした――夫婦という関係。 元々他人同士が手を取って新たな関係を構築しただけに、その絆は【ある意味】兄弟姉妹よりも固いかもしれない。 しかしその強固な絆は今、二人の間にある壁によって阻まれてしまっている。「(……どうする?普通にやってちゃ敵わないのは、今までのやり取りで理解出来たが……)」 元々自力に差があるのだ。 魔法が使えず。ウイングロードを使用出来ない。 故に力の差は歴然。 ……分かっている。 そんなこと、勝負の前から分かりきっていた。 だから現実として認識しただけ。 ただそれだけだ。 それだけ――のハズ。 だが……。「(コレでも結構鍛えたハズなんだけどよぉ……。やっぱ現実ってヤツはキッツイなぁ……?)」 本人は【結構】と表現しているが、現実はそんなものではなかった。 部隊長としての業務時間以外は、その殆どを鍛錬に当ててきた。 クイントが奪われてからの月日は長い。 だから総じて鍛錬量は恐ろしい程であるし、その密度も凄まじいもの。 しかし人間である以上――彼が成長期をとうに過ぎた人間である以上、残念なことに【老化】という現象は誰にでも近付いてくる。 そこには(殆ど)例外はない。 緑色の提督や、某喫茶店のパティシエなんて、例外中の例外である。 あれは比較基準にしてはならない。 何せアレらは、【人外】生命体なのであるから。 閑話終了。 だが目の前のクイントはどうであろうか? どう見ても昔と変わらぬ――全く衰えを見せない身体つきである。 想像の域を出ないが、多分スカリエッティがそういった処理を施したのだろう。 だから彼女は在りし日のクイント・ナカジマのままである。 よって衰えのあるゲンヤとの差は開く一方。 彼女は変わらない。本当に変わらない。変わったのは――変わってしまったのは夫の方。「(だからってよぉ……だからってよぉぉぉぉ!)」 そこで諦めることは簡単だ。 自分の限界はココまでとし、あとは誰かに任せる。 それが普通。それが賢い選択。 でも。 だからといって。 全ての人類が賢い訳ではない。 この【ゲンヤ・ナカジマ】という人物もその例に漏れず。 決して賢いと言われる生き方をせず。というよりも、彼には出来なかったのだ。 賢くなくて良い。この手で、愛する妻を救う事を諦めるのが賢いことなら、自分は喜んで馬鹿になる。「(オレはぁ……最強の大馬鹿野郎だ!!)」 右腕は空を切り。左足は軽くいなされ。 左腕のエルボーは相手のタービンに阻まれ。 そして渾身の力を籠めた右脚は、正面からの打ち合いの末、コチラが力負けした。 普通に考えたら、もうコチラに打てる手はない。 だがまだギブアップする訳にはいかない。 少し離れた所では、下の娘が上の娘を必死に取り戻そうと頑張っている。 だったらまだ自分は、降参する訳にはいかないのだ。 子どもはいつか、親を超えていくものだ。 それは分かっている。それは避けられない運命だとも理解出来ている。 でもそれは今じゃない。 まだ自分は、娘に負けてやれない。 娘が自分を追い抜こうと迫ってくるのなら、自分は大きな壁となって、正面からそれを粉砕する。 それは人生の先達として。 まだまだ若い世代には、負けられない。 負けてやれないんだと、己に言い聞かせて。「出ろ、【ライオサークル】!!【ガトリングヴォア】!!」 データコマンドーのダイヤルを回し、データ武装から白き獅子と翠の猪を呼び出す。 それに呼応するように二体の電子の獣は現界し、ゲンヤの左右で待機状態に入る。 本当はもう二体召喚出来るのだが、クイントの武装は二体のみだと思われる。 数で勝負が決まるとは思わない。 だがそうならないとも限らない。 だからゲンヤは、自分の意思で二体までしか召喚しなかった。 それは相手と対等な条件で闘う為。 妻と同じ条件――同一のフィールドで闘わなければ意味がないから。 それは矜持の問題を越えたトコロに有るモノだった。「……」 一方クイントの方はと言うと、ゲンヤの動きに合わせるように【ユニコーンドリィル】と【ヴァイヴァーウィップ】を召喚する。 そしてそれらをゲンヤの二体の仲間に襲い掛からせると、自分はゲンヤとの距離を詰め始める。「「……」」 距離にすれば大体十メートル。 普通に考えれば中距離に該当しそうな距離だが、ローラーを履いた二人には一瞬の距離。 だから接近戦。これは二人にとっては、接近戦以外の何物でもないのだ。 ギィン!ドドドド……! そんな戦闘音が聞こえる中、二人の動きは驚くほどなかった。 まるでオブジェの如く。地面に根っこが生えてしまったかのように、その場を動くことはなかった。「(……動けねぇ)」 【ラストアタック】は、未だに一発しか撃つことが出来ない。 だから相手もコチラも、迂闊にそれを出すことは出来ないのだ。 だからこその相手との動きの読み合い。 その場を動かなくても、僅かに動く肩や視線などで相手にフェイントを入れ、どうにかして相手を先に動かそうとする。 フェイントVSフェイント。 まるで冷戦下の某巨大国家たちのように、そこでは水面下の戦いが勃発していた。「(考えろ。考えるんだ……!優先すべきことは何だ?自分の矜持か?目標を完遂することか?それとも……?)」 自分が夢見たのは、かつての一家の光景。 別に金持ちになりたい訳でも、特別な存在になりたい訳でもない。 ただ家族が当たり前に生活している風景を、もう一度見たいだけ。 あぁ、それだけだ。 それだけなんだ。 そしてそれを見られると言うなら、家長は――自分は全力を賭してそれを実現しなければならない。「(条件を対等にした闘いなんて、クイントが帰ってくれば何時だって出来る――)」 男という生物は不器用なくせに、やたらとプライドが高かったりする。 だから出来もしないことに延々と時間を使い、そして無駄(実際にはそうではないかもしれないが)とも言える努力を続けていく。 別に本人の人生だ。他人がとやかく言う必要はないし、言う権利もない。「(……ったく!どうしてオレは、もっとはやくに気が付かなかったんだ……!!)」 気付けば一瞬。 しかし気付かなければ一生。 人生に於ける価値観の変化など、そんなものだ。 別に目的の為なら、何をやっても良いと言う訳ではない。 しかし目的が手段になってはいけないのと同等に、手段が目的と化してもいけないのだ。 ゲンヤは長きに渡る闘いのせいで、後者よりの考え方にシフトしてしまった。 それは本人も気が付かないうちに。 意地と根性が絡み合った結果、何時の間にかそうなってしまったのだ。「(……フッ)」 頭の中が、流麗な河川へと変わる。 今まで地盤沈下をも起こしていた大地に――渇ききっていた地面に水分が注入され、元の肥沃な土地へと戻っていく。 不思議な感覚だ。身体の至る所から湯気のようなモノが噴出し、火照りを抑えることが出来ない。 ――プシュゥゥゥゥ! 蒸気のように立ち上る【何か】。 ゲンヤ本人には分からなかったが、それは相対していたクイントには理解出来た。 まず変化は口元からだった。 如何に鍛えていても、歳には勝てない。 だからゲンヤ・ナカジマの顔やその他の部分の表面――肌には、既に消えることのない皺があった。 それは決定事項。覆すことの出来ない、【現実】の証。「……!」 しかしどうだろう。 クイント仮面の無言ながらの驚愕は、どう見てもそれらの現実が引っくり返されているのを、目の当たりにしているとしか思えない。 勿論見間違いなどではない。ゲンヤの肌の皺は、【現実】になくなっているのだ。 変化は続く。 次の変化は、体型の変化。 経年による若干の猫背は改善され、中年男性として避けては通れない腹回りの肉も、スッキリと落ちていく。「オレは――何としてもお前を取り戻す……」 同じだ。 その昔、圧倒的な力の差が有りながらも、目の前の人物と交際したくて――クイントが欲しくて挑んだ、あの時と同じ。 強くはなった。だが力の差は縮まっていない。 コチラが成長すれば、向こうも成長する。 そしてあちらさんには上限がないと来た。 詐欺だろう。新手の次元犯罪の一種かもしれない。 だが一つだけ変わったことがある。 それはあの時とは、己の背景が違うということ。 自分には娘が居る。そしてそれらの存在の為にも、母親は絶対取り戻さなければならない。 重圧ではない。 それは力だ。 自分だけでは無理だが、娘の分の力が自分に力を貸してくれる。 十に挑むのに自分は四。 だが娘の存在は、四でしかない自分を手助けし、十にも百にもしてくれる。 ……余談だが、妻の助けなら千は固いだろう。「【ドラゴンフレイア】、【ブルフォーン】!!お前たちは、クイントの動きを一定範囲内に留めさせろ!!」 それ即ち【牽制】。 二体にはクイントを倒させる訳ではなく、その活動範囲を狭めるように指示するゲンヤ。 データ武装ではクイントを倒すことは出来ない。それは向こうも同じ武装を持つ者なのだから、有る意味当然のこと。 「……【ユニコーンドリィル】」 この状況下で二体しかない武装の内、一体を戻したクイント。 そうなれば数の上では五対ニだ。 その差は開く一方。 だが代わりに強力無比な攻撃手段――それこそ一撃必殺砲のようなモノを手に入れた鉄仮面。 量を捨てて、質を取ったクイント。 しかしその質は、取るだけの価値があるもの。 そして質を選んだクイントに対抗するには、ゲンヤもまた同じ手段を取らざるを得なかった。 この【質】は、簡単に【量】など引っくり返してしまう程の代物。 故に対抗手段は、同じ【質】を用意する他有り得ない。「(さぁて……一体どいつを使うべきだろうなぁ……?)」 新規加入の武装も居る。 相手は御新規さんを使う模様。 だから自分も……というのは早計過ぎる。 別に新規加入の武装に不満が有る訳ではない。 勿論火力不足ということもない。 ならば何故使おうとしないのか? 違う。 事は新旧を問わず、如何に自分の目的に合ったヤツを選ぶのか。この一点に尽きる。 白き獅子は丸鋸。翠の猪は胸部武装。そして橙の水牛はその角が強力な突撃槍に為りかねない。 ならば。 紅い西洋竜はどうだ? 彼の者はラストアタック時に脚に装着され、その体躯は丸くなる。 想定する。 ラストアタックを放った――その後のことを。 ……行ける。というか、手持ちの駒で適任なのは、コイツ以外には存在しない。「ドラゴンフレイア、戻れぇぇ!!」 竜を呼び戻し、左脚部に武装として顕現させ直す。 黒いタービンに紅い武装が加わり、それは嘗ての結婚式を――カリムの前で誓った【セットアップ】を思い起こさせる。 【紅】のタービンと【黒】のタービンが重なった【あの時】。それは今、あの時とは立場を入れ替えて行われている。「ドラゴンフレイア……」「……ユニコーンドリィル……」 両腕・両脚のタービンが、ラストアタックに備えて回転し始める。 まるで最大限発電量を上げようとしてる発電機のように。 その回転数はどんどん上がっていき、巻き込まれる風や熱量も半端でなくなっていた。《……》 そして渦中の二人を囲むように、残りの四体のデータ武装が顕現している。 まるで二人の決着を見守るように。 それで居て、二人の決着を誰にも邪魔させないように。「「……」」 四体に囲まれた【闘技場】は、ウイングロードを展開出来る程の高さも無ければ、幅も無かった。 故に逃走は許されず。クイントは自分の意思でそれを行ったように見える。 つまり彼女は、ゲンヤを正面から叩き潰すつもりだ。 ――ギュィィィィィィィィン!! タービンは回転し続ける。 己の主が良いと言うまで。 主は良いと言わない。だからその時は、まだ先なのだと理解しながら。「ラストォォォォ……!」「……アタック!!」 大量のエネルギーを秘めた熱線。 同じく膨大なエネルギーが籠もった渦。 それらはぶつかり合いながらも、尚止まることない。 ―――!! ――――――――!! 元々上限スペックは、ほぼ同等に設定されたモノ同士。 故に勝敗を分けるのはデータ武装の強さではない。 その主たる闘士の力量。つまり二人の力の強さが、そのまま現れるのだ。「ッグ!ッグ……ッグ……ッグ……!!」「……、……、……!……!!」 一進一退。 だがその一進一退は、徐々に。だが確実にゲンヤよりの場所に移ってきた。 つまりゲンヤの方が押されているのだ。 S・Aの力量がそのままの形で吐き出されるのなら、どう考えてもゲンヤが不利なのは予想出来た。 しかしそれでも挑んだのだ。 ゲンヤには何か考えがあるのだろう。「……の、ヤロウがぁぁぁぁ!!」「……!!」 徐々に。だがハッキリとゲンヤの攻撃は押されていく。 もう彼の眼前に迫っているクイントのラスト・アタック。 後ろには逃げられない。それは横も上も同じ。「(なら……下に行くしか、ないだろうに!!)」 旋風が迫り、それをあわやという瞬間に回避。 いや。回避と言うよりは、全身の力を抜いて、脱力したと言った方が良いかもしれない。 そうすることによって、自分の意思でしゃがむよりも速く、彼は――ゲンヤ・ナカジマは【下】に行った。「……!?」 予想外の行動。 それはそうだ。 こんな動き、シューティング・アーツには存在しない。 強いてこの動きの元を辿るのなら、古武術――【柔術】に近い。 S・Aで敵わないなら、それ以外も取り入れる。 ましてやナカジマ家は、昔地球に――日本に居た一族だ。柔術との親和性は高い。「コレでぇぇ……!」 クイントの反応は付いてこない。 予想外の動きに、ラスト・アタック後の硬直を狙われたからだ。 動け。動け。そう脳は指令を送るが、残念なことにそれが実行されることはなかった。「その【けったいな】仮面は――――コレで、終わりだぁぁぁぁぁぁ!!」 銀色の仮面に、紅いデータ武装が叩きつけられる。 そう。ゲンヤがドラゴンフレイアを選んだのは、まさにこの瞬間の為だった。 鋸では必要以上に傷付けてしまうし、胸からダイブすることは出来ない。 さらに二又の槍と化した水牛では、仮面ごとクイントを破壊してしまう危険があった。 その点ドラゴンフレイアなら、仮面全体に一気に体重を掛けられ、同時に必要以上に力が籠もることはない。 目論見通り。まさにゲンヤの考え通りに事は進み、そして今――それが終わった。 ――ピシッ!ピシィィッ!!「クイントォォォォ!!」 ――バリィィィィン!!「……なた……あなたぁぁぁぁ!!」「クイントォ、クイントォォォォ!!」 仮面が割れる。 そしてその中から出てきたのは、当然の如く無傷のクイント。 覚醒。そして愛する人との抱擁。これ以外に、再会を祝う方法はないだろう。「「……!?」」 彼らの戦闘によってこの区画は地盤沈下を起こしていた。 そして今、最後の一撃によって真上にある廃高速は倒壊。 よって彼らは、上下左右が塞がれた状態となってしまった。 だが関係ない。 この二人の――【今の】この二人の行く手を阻むことなど、誰にも出来るハズが無い。「行くぞ、クイント……?」「えぇ。結婚式の再現ね?」 二人はそう言い合うと、それぞれのデータ・コマンドーを取り出し、そして同時に叫ぶ。「「【KIVAドライブ】、インストール!!」」 ゲンヤのコマンドーからはライオサークルが。 そしてクイントの方からはユニコーンドリィルが飛び出し、空中でその姿が重なり合う。 二体のデータ武装が合わさり、そこに刃の翼を持った、新たな一角獣が誕生する。 【KIVA】。 それが新たなデータ武装であり、同時に二人が力を合わせた時のみ現れるモノでもある。 本来はクイントが装着し、そして放つラストアタック。 しかし今回は別だ。二つある装着口を一つずつ分け、そして空いた掌を重なり合わせる。 変形が完了したデータ武装は、まるで巨大な剣だ。 全てのエネルギーが解放され、二人と一体の武装は黄金色に光り輝く。 「「【KIVAブレイカー】…………」」 まるでケーキの入刀のように。 かつて行った、結婚式でのそれにように。 二人の再会は、二人の門出を再現する光景から――――今、スタートする。「「ラスト、アタァァァァック!!」」 黄金色の剣閃が見えた後。 そこには二体の巨大ロボットが待っていた。 父が母を取り戻してくると信じた娘たち。 その娘たちが、二人の帰還を祝福しに来たのだ。 それを夫婦が理解した時。二人の頬を、一滴の水分が塗らしていた。 涙。それも【嬉し涙】である。 ゲンヤ・ナカジマは今日。 人生で一・二を争う場面を、漸く乗り越えられたのだった。 舞台は再び最高評議会――あぁ、もう言い難い! この際【脳みそ部屋】にしよう。 その方が分かりやすいしね?「……という訳で、再び脳みそ部屋からですたい」「誰に言ってるんですか、執務官長?」「気にしない。気にしない♪」 若干暴走というか、現実逃避モードに入っているボク。 流石の覇王少女と言えども、唯一かそれに類する【癒し系】が、肉体言語で会話する女性だったことには……驚きを隠せない。 逆に驚かずに済む人類に、心当たりなどない。「ま、取りあえず話を戻そうか?」 色々とあって忘れがちだが、この部屋に来たのには目的があった。 次元世界の暗部である、最高評議会を滅すること。 しかし蓋を開けてみれば、その面子は滅すべき相手では無さそうな感じ。「確認するよ?もしクイーンが倒れたら、キミたちはどうするんだい?」「恥ずかしながら、まだ決めていないんだよ?教皇をやっているマスターは良いが、私とアムロは職無しでね?暫くモラトリアムを楽しんでから、就職活動でもするんじゃないかな?」「その通り。実は声優になってみようかとも思ってるんだけど……」 キャスバルとアムロが声優に……。 何という未来の見えっぷり! 新しいタイプの人類じゃなくても、未来が見えるぞ!?「つまり、最高評議会なる組織は解散すると。そういうコトで良いのかな……?」「あぁ。そう取ってもらって構わない」 これでハッキリした。 元々ボクは理解していたが、それでも皆を納得させるには足りなかった。 ジャックとエースが嘘を付いていないなら、これで終了。もし嘘を付いていたとしても……まぁ、何とかなるか?「じゃあココには、もう用はないね?倒すべき相手が居ない以上、早急に次の目的地に移動するべきだ」 次の目的地――それは最終目的地のこと。 歴史を裏から操る【クイーン】の排除。 故にクイーンの居るべき場所こそが、これから行くべき場所となる。「待ちたまえ。今の君たちには、クイーンを倒すことは出来ない」「……どういうことだい?」「私たちの手の中にあるからね?クイーンを倒すのに必要な、最後のカードはね……?」 黒の剣士は止める。そしてその手札を晒す。 女王を倒すのに必要な手札を。 最後の切り札とも言える、そのカードを。 ヴィィィィン。 剣士が床を――床に有るスイッチを踏むと、彼らの背後の壁が取り払われた。 真っ暗な空間。そして新たなカードの披露となれば、次の展開は簡単に予想出来る。 ――カッ! 眩しい位のライトアップ。 どうにもこのキャスバルという男、何度姿を変えようとも、この演出が気に入っているらしい。 まぁそれは、どこぞの歌姫も同じかもしれないが。「これは……」 蒼い体躯。 紅い頭部。 そして黄色の角に、灰色の四肢。「似ているだろう?他のダイノーロボに。やはり同じコンセプトの下に作ったから、似ているのはある意味当然何だがね?」「……良い仕事だよ。素晴らしいの一言だねぇ……♪」「名前は【グランダイノー】。君の作ったゴウダイノーやマグナダイノーと同じく、恐竜形態・人型に変形し、更には単独で戦闘機形態になれる優れものだよ」 グッジョブ過ぎるぞ、この似非紳士め!! しかし名前に【南雲】が入ってることから鑑みるに……コイツは大したモンスターだ!!「このマシンには、私とアムロが持てる知識を全て注ぎ込んだ。そしてそのナビシステムには、バイオコンピュータを搭載している」 キター! どう聞いても、【私の愛馬は凶暴です】フラグが立ったー!? 一体何処のどいつだ、不幸にも――じゃなかった。幸運にもこのマシンのパイロットになる人間は!?「しかし、乗りこなせるはずだよ?レジアス・ゲイズと同等の力を持つ者なら――【クライド・ハラオウン】、君にならね……?」「……僕、ですか……?」 素晴らし過ぎる。 マシンスペックやコンセプトと言い、パイロットの人選にすらボクと似た匂いを感じる。 流石は企みごとが得意な御方。その恐るべき手腕が発揮され過ぎである。「何と!貴様らはそんなプレゼントを用意していたのか!?ぬぅぅ!ならば儂も、カリムに最終奥義を伝授しようぞ!!」「いやぁぁぁぁ!?またあの悪夢が!?もう私は、ただの細腕騎士で一生を過ごしたかったのに……!!」 砕かれた幻想は、さらに分割されるようです。具体的には十七分割くらいに。 本気を出した東方腐敗が、どれだけカリムを【人外魔境】にしてしまうのか……。 考えただけで涙が止まらない。「ねぇアムロさんや?」「……何だい、覇王少女?」「結局クイーンって、揺り籠に居るってことでFA?」 ココに居ないのなら、もう選択肢はそれ位しかない。 でもそうすると、ヴィヴィオやなのはが危ないのか?「その通り。しかし君の心配は杞憂だろうね?クイーンは全ての事が終了してから、その姿を現すつもりだ」「……相変わらず【イイ】性格してるみたいだねぇ、クイーンは……?」「全くだ。希望の後に絶望を持ってきたがる性格。実に悪役向きだよ、本当……」 つまり大ボスは最後になって、やっと登場する。 その法則を地で行く奴なのだ。 クイーンという存在は。「さて、では簡単にこのマシンについて説明しようか?」「お、お願いします!」 グランダイノー組と。「往くぞ、この馬鹿弟子がぁぁ!!」「ま、待ってください!?師匠ぉぉ!?」 流派東方腐敗コンビ。 ボクを含むその他勢は、その様子を何とも言えない表情で見守るのみ。 ……どれ。今のうちに、ゴウダイノーとマグナダイノー用の新プログラムを組んでおくとするか……? あとがき >誤字訂正 俊さん。毎度ご指摘頂き、本当にありがとうございます! >クラブ・オン・エース 前回のお話を書く前は、satukiも【クラブ・オン・エース】だと思っていたのですが、調べたところ…… 【クラブ・エース】=シャッフル同盟(元ネタ、Gガンダム) 【クラブ・オン・エース】=シャッフル騎士団(新SDガンダム外伝) のようです。なのでSS本文の記述は、そのままで行かせて頂きますです。