前回のあらすじ:リンディ、新たなる【デレ】の扉を開け――る手前まで来る。「クライドは何とかグランダイノーに乗れるようになったし、他の面々もそれぞれのステージをクリアしてきた……」 各地でほぼ同時に行われていた戦闘。 その殆どが片付いていき、残るカードも僅かとなった。 そしてそれは同時に、ラストステージが近付いてきたことも意味する。「……で。あいつは一体、何をしてやがりますかねぇ……?」 この時代に来てから、お散歩タイムに突入した半身。 そんな彼は、現在……何故かピンチだった。 リインⅡとのユニゾンをしようとしたらしいが、CⅡモードを起動したものだから、結果は――当然の如く失敗。 奴さんはボクと同一存在。 しかし分かたれている時は、微細な差が生じる。 その一つが【契約】。 CⅡモードのリインⅡとのユニゾンが出来るのは、あくまで【月村静香】なのだ。 だから【御神(八神)あらし】には出来ない。 しかしそれが出来ないと、現在進行形の窮地は脱せない。「ったく。格好つけて飛び出したのは良いけど、収束出来ないとは……。仕方ない、ボク【も】行くかぁ……?」 本来ボクは、部外者である。 しかしそうも言ってられない状況になってしまった。 それに騎士仮面――ゼストとは因縁浅からぬ仲である。 そもそも今彼が所有してるザンカンブレイドを創ったのも、若き日の彼を鍛えたのも【静香(シズカ)】なのだ。 ならばその責は、取らないといけない。 そしてあわよくば、彼を取り戻す。 それは友人として? それとも教官として? 答えは……どっちもだ!「(若)プレシア」「……もう突っ込まないわ。その代わり……」 何故かプレシアとボクの背後に、雷鳴が響き渡る。「…………仕方ない。一時間為すがままの刑で」「短いわね?せめて五時間が妥当な線よ?」 何時からここは値切りの会場になったのだ。 どう考えてもおかしな状況である。「……二時間」「四時間」「「三時間」」 二つの声が重なった。 ここに誓約はなった。 誓約という名の、【(悪魔)契約】でもあるが。「じゃあ、後は頼んだよ?クライドはそのまま、グランダイノーで。それ以外は転送魔法でゴウダイノーへ」「分かったわ。さぁて……どんな格好をさせようかしらぁ……!!」 迸るリビドー。 プレシアが夢想し、そして暴走秒読み段階に移行する。 ……うん。この闘いが終わったら、何処か遠くの世界に行こう。ボクの事なんか誰も知らない、遠い遠い世界に。「ゆくぞ、カリムゥゥゥゥ!!流派東方腐敗が最終奥義――!!」「責」「破」「「天狂けぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」」 スパークするマスター大佐と、見目麗しいまま暴走中の、騎士カリィィムサン。 もうあれは、ボクの知るカリムではない。 カリム自身がもう戻りたくないといった訳が、理解出来てしまったから。「どうしたぁぁぁぁ!!もっと腰を入れんかぁぁぁぁ!!」「う、うるさい!!今日こそ私は、貴方を越えるんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 何かカリムの声が、いつもより野太く聞こえる。 熱血成分がリミットブレイクな感じで。「ばぁくねつ!!責破天狂ぉぉぉぉ――ゴォッデス、フィンガァァァァァァァァ!!」「ぬぁにぃぃぃぃ!?」 元々の最終奥義に自分の業を入れて、アレンジする。 彼女は今、己の師を越えた。 そしてその勢いのまま、勝負を決めようとする。「ヒィィィィトォ、エェェェェェェンd…………!?」 もの凄い穏やかな顔で、カリムの業を喰らうマスター。「今こそお前は、本物のキング・オブ・ハートに……」「師匠ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」 ……ウン。確かにアレはない。 年頃の娘ならば、尚更である。 訂正しよう。遠い世界に行こう――――生物すら居ない、【虚数空間】という場所にでも。 リリカルなのは3【ミッドは萌えているか?】。 ……じゃあ、なかった。 ミッドの空は燃えている。 具体的には巨大刃を手にした騎士が、二刀の小太刀を持った少年を追い回すという具合に。 ここだけ聞くと若干犯罪チックだが、実際はそんなことはない。 そんなことでは済まない位、洒落にならない事態なのだ。「どうした……!何か策があるのだろう?ならばソレを見せてみろ!!」「見せ、たくたって、見せ、られない、んだよぉ~~!?」 巨大刃をかわし、逸らしつつ、あらしは今後についてどうしようか考え中である。 既に万策尽きた。 でも誰にも助けを求めれません。 唯一助けを求められる自身の半身には、自信満々で来ただけに、助けを求める訳にはいかなかった。 格好悪すぎる。 だから呼べない。助けなんか、呼べるはずもない。「こうなったら、【ジークフロート】を召喚して……!」 ジェイル・スカリエッティ専用ロボ。 オレンジの楕円形の体躯に、緑色の大型の角のようなアンカーを持つ、超トンでも挙動を可能にするチートマシン。 この時代ならスカリエッティが創ったソレが、もう存在している。 そしてスカリエッティと同じ存在であるあらしなら、それを呼ぶことが出来る――ハズ。 断言出来ないのは、先程リインⅡとユンゾン出来なかった為。 さりとて手段は他に見当たらない。だからあらしは、ジークフロートを呼び出そうとする。「来い、ゴルゴォォォォォォ「違うだろうに!!」――ギャポッ!?」 金色の恐竜を召喚しようとしたあらしに入る、容赦のない突っ込み。 それは物理攻撃を伴った、容赦の無さ過ぎるツッコミだった。 分かりやすく言うと、シズカの剣が頭に刺さっている感じ。「い、痛いじゃないか!!」 突如現れた半身――覇王少女に対して、そうツッコミ返すあらし。 しかし、知らなかったのかい? 覇王少女の半分は、マイペースで出来ているんだよ?「やかまし。ホレ、さっさとやるよ?あんまり時間、ないんだから……」「ちょ、おま……!」 待ったは聞かない。 それが覇王クオリティ。 強制的に再融合を果たした二者は、すぐに【月村静香】の姿に戻る。《ようやく戻ったか。遅いぞ静香?一体どれ位、私を待たせれば気が済むんだ……?》 元に戻った途端、【静香】に掛けられる【ドS】ヴォイス。 どうでも良いけど、外見ロリ少女からそんな声が出ると違和感バリバリだ。「黙れ、魔女が。……と言った方が良いのかな?」《良く言う。まぁ良い――ピザ百枚で手を打とう》 本当に嬉しそうな【S】顔。 Mの人ならこれだけで大満足で、昇天してしまうことだろう。 ……ちなみにボクはチガウヨ?「……それは一ヶ月でかい?」《まさか!……一週間で、だ……》 凄まじい程のピザ愛。 自分で性格設定しておいてなんだが、現実にこれは【ない】。 しかし後悔しても遅い。だから原初のヒトは諦める。「……良いだろう。結ぶぞ!その契約――!!」 若干カリスマ的な声を出しつつ、ポージング。 忘れているかもしれないが、【静香】の時は紫燕尾の服にマント姿だ。 つまり――全てはこの瞬間の為!!「「……ユニゾン・イン」」 紫だった髪は白く染まり、瞳の色も抜け落ちる。「「【術式――ハドロン】展開」」 両肩の上、今まで中空だった場所に、黒い光球が一つずつ出現する。 禍々しい光を放ちながら、そこからは紅い電撃にも似た光がバチバチと漏れている。 ……今更ながら、これはどう見ても正義の味方には見えない。良くてダークヒーロー。悪くて……普通に悪役だろう。「「発射!!」」 勿論両腕は地面に対して水平です。 これはある種のポーズ。 偉いヒトにはそれが、わからないのです! 禍々しい紅い光。 まるで悪魔の一撃のようなソレは、ウォータンのザンカンブレイドに当たり……そして侵食していく。「クックック……!やれるぞ……やれるじゃないか!!」 悪役顔で【笑み】を浮かべるボク。 そして己の得物の変化に気付いたウォータンは、直ぐに驚愕の声を上げた。「何!?」 マシンセ――じゃなかった。 ナノマシンは、普通自己再生を行うべく使われる素材である。 しかしその再生を破壊するモノがあった場合、どうなってしまうのだろうか。 考えるまでもない。 再生出来ない。 つまり一度折れた剣は、再生しないのである。「キミ(たち)の敗因はたった一つ。たった一つの単純な答えだよ…………キミ(たち)は、ボクのナノマシンを改良しなかった」 正確には【ボクの】ではなく【姉の】なのだが、敢えて語る必要は無いだろう。 ともかく何年も前のシステム、それも自分が作ったデバイスのことだ。 当然対策も出来ている。 ただナノマシン自身が既にオーバーテクノロジーなだけに、改良が加えられなかったのかもしれない。 でなければ……ワザとか。 ここでウォータンは退場し、ゼストが蘇る。スカリエッティのシナリオでも、そうなっているのかもしれない。「故に――これでチェックメイトだ」 僅かに紅い光を仮面に掠らせて、仮面も砕く。 解放。 これでゼストは、元の根性オヤジナンバーⅡに戻るだろう。《……おい、静香》「ん?なんだい?」《やっておいて何だが、コレは――――流石に圧倒的過ぎる。つまらんではないか……?》 歴戦の将でありシグナムが手も足も出なかった相手に、無傷で勝つ。 それも一手で。 どう考えても、これではバランスブレイカーである。「そうでもないよ。もしこれでナノマシンが壊されてなかったら、大層苦戦したことだろうしねぇ?それに……」《それに、何だ……?》 誤解のないように言っておくが、如何に自分が作ったものであっても、薬とは違うのだ。 最初から解毒剤を用意する訳ではない。 今になって――現在になって、漸く出来るようになった手段なのだ。「一応チート属性持ち扱いされてるからねぇ?あんまりにも使わな過ぎると、存在が消されそうな気が……」《…………そう、だな》 一応何件か苦情が来ており、端的に言うと【活躍しろ】・【働け】。 だから働きますた。 ただ……これはこれで、苦情が来そうな気もするが。「……ぅぅ、ココは……?」 もの凄いテンプレな台詞を吐いて、マッスルオヤジ【ゼスト・グランガイツ】の復活。「おぉ?目ぇ、覚めたみたいだねぇ……?」「シズカ、なのか……?」「……他に誰が居るっていうんだい?」「その物言い。やはり本人か……」 かなり不愉快な表現だが、どうやらゼストに【月村静香】本人であると認証された模様。 まぁゼストとしては、目が覚めたらいきなり訳の分からん事態に巻き込まれていたのだ。 誰が味方で、誰が敵かを見極めるのが先決だろう。「でさー、ゼスト?今の状況、理解……出来てる?」「……恐らくは。若干捕捉が必要であるがな」「んじゃあ、さっさと確認しましょうかね?」 ウォータンだった時の情報は、殆ど間違いはなかった。 ただ一点、自分たちが正義だと洗脳していたこと以外は。 だから訂正は非常に簡単であり、すぐに済んでしまう程だった。「……それで?スカリエッティは何処に居るんだ?」「?そりゃあ、奴さんのアジトだろうけど……」 言ってからハッとした。 騎士ゼストは、やられたらやり返す御方である。 事実、昔のレジアスとの模擬戦は、今回やられたら、次は倍返しを心掛けていた。「もしかして……借りを返しに行くなんてことは……」「違う」「だよねー!?いくら今までのことが有るからと言っても「単純に礼を言いに行くだけだ」って、ちょっと――――!?」 それってどう考えても、【御礼参り】だよね!? もしくは、高町式【お話ししようか?】シリーズですよねぇ!?「あまり時間はない。だから話は後だ……!」「オイ、ゼスト……って、はや!?」 簡単に分かれの挨拶を言うと、ゼストはあっと言う間に遠くの空を飛んでいた。 ……仕方がない。レジアスVSスカリエッティの邪魔はしないだろうし、行かせてやるとしますか。 ん?そういえばゼストのヤツ……「ザンカンブレイドが壊れてるのに、どうやってスカに御礼参りするつもりなんだ?」 それは正しく、本人のみにしか分からないことだった。 さ~てと。とりあえずボクに出来ることと言えば……「オイ貴様!今までのやり取りはどういうことだ!何故リインフォースが変化した!どうして貴様とユニゾン出来るのだ!!何で……」「……ノーコメントですたい」 非常にウザク……じゃなかった。 ウザくなっている、ニート騎士から逃げることだった。 勿論リインは置いていきます。当然CⅡモードも解除済みで。「あぁばよ、とっつぁん!!」 逃げるとき。逃げれども。逃げれ。 三十六計、逃げるに限る! ……なんか違うって?大丈夫、許容範囲内だ!「……とっつぁん?何かの暗号か?しかし……」 ほらね? 世間から隔絶された頭コチコチ騎士には、これでOKなのである。 だからこの隙に逃げる。それでは皆さん、さよなら。さよなら。さよなら♪ あとがき >誤字訂正 俊さん。毎度ご指摘頂き、本当にありがとうございます!