前回のあらすじ:スカ博士は、最後までネタを仕込んでた偉人。 終わった。 え?何が終わったって? 全ての状況は終了した。そんな感じですたい。 分かんない。 分かんないって? どうしよう……。正直、あんまり詳しく説明したくないんだよねぇ? この説明にしたって、ただの現実逃避だし。 あんな現実に戻りたくはない。 誰だって苦手なことの一つや二つ、あるでしょう? そう。 今の状況こそ、ボクにとっては鬼門の一つ。 トラウマ……とまではいかないけど、恐ろしくて現実回帰したくもない、辛すぎる現実。 ……良し。 少しだけ冷静になった。 だからちょっとだけ、現状を報告しよう。 現在提督ズ+αの面々は、スーパーダイノージェットとグランジェットに乗って、ミッドのお空を徘徊中。 眼下には先程まで破壊神や究極的なドラゴンが居た場所が広がり、その中央部には新たに巨大過ぎるクレーターが出現していた。 その巨穴を瞬時に作り出した奴は、先程まで揺り籠と呼ばれていたモノ。「シズカぁぁぁぁ!!立ち上がれ!この現実がどんなに辛いものであっても、逃げることは出来ない!!だから、だから……!」 最初から全力全開の熱血オヤジ、前回中年の夢に辿り着いた漢【レジアス・ゲイズ】大将殿。 まさに最初からクライマックスなこの状況に、彼はしっかりと付いてきていた。 てか熱い。暑苦し過ぎる程に熱い。《そうだよぉ……。せっかくの最終ステージなのにぃ、【ジョーカー】がそんなんじゃ、話にならないじゃないのぉ……?》 数分前まで揺り籠【だったもの】から聞こえてくる、広域放送。 クイーンの出現は、非常に素晴らしいタイミングで行われた。 原作風に言うのなら、 【なのは様のお仕置きタイム】 ↓ 【スバ・ティアの突入】 ↓ 【魔王や狸を回収して、ヘリに乗り込む】 ↓ ―――――――――――――――――――― ↓ 【クイーンの登場】 と言った感じだった。 つまり本当に最後の最後。全てが大団円に終わりました、というタイミングで出てきたのだ。 どう考えても絶望タイムである。 もしくは絶滅タイム。 青年クロノにそう言って貰いたい位だ。 まぁ言われたら言われたで、悲壮感が全く無くなってしまうのだが。 ■■■■■■■■――――!! 聖王の揺り籠はなのはたちの脱出が終了後、本来であれば衛星軌道上に達した時点で本局の艦隊に殲滅される予定だった。 しかしそれは実行に移されなかった。 理由は簡単。揺り籠がミッドを脱出しなかったから。 そのままの流れなら、衛星軌道上までコースそのままで行く。 だが揺り籠は突如、その歩みを止めた。 そして浮遊も同時に止めてしまった。 超の付く巨大質量の落下。 場所が廃棄区画だったから良かったものの、あと少しズレていたら、間違いなくミッド最期の日になっていた。 まぁ、まだまだその可能性は高いままであるのだが。 ――■■■■■■■■!! 咆哮だった。 揺り籠から聞こえた、その大地を震わせる大音量。 そして変化が訪れた。そう――揺り籠が変形を始めたのだ。 前回【超機動大将軍】なんて冗談を言ったせいか。 ある意味ソレ以上に凄まじいモノが降臨してしまった。 何て言うか、その敵役――のデザイン元。 紅い両肩。蒼い胸パーツ。頭部と腕部は白く、そこまでならちょっと悪役入ったギャンダムに見えないこともない。 しかし。しかしだ。 上半身の下に来るはずの下半身がなく、その代わりにあるのはぶっといケーブル(?)。 そしてその下には、この揺り籠【だったもの】の異質性が顕著に現れる場所。 蟹のような鋏……の超巨大バージョンを持った、亀の親分のようモノ。 つまり鋏を持った亀らしきモノの顔の部分に、ロボットの上半身がくっ付いた状態なのである。 更には触手にロボットの頭部が付いたようなモノが存在し、それが幾本も亀の甲羅らしき場所から生えている。 ……認めよう。 認めたくはないが、認めざるを得まい。《せっかく永い年月を掛けて創った、この【デビルギャンダム】――――》 よろしい、それでは殲滅だ。 という風に出来たら、どれだけ楽なことか。 確かにデビルなギャンダムは脅威だ。 しかしコチラにもカードは幾つもあるし、何だかんだで熱血オヤジたちが根性で乗り切ってくれると思う。 これは希望的観測ではない。 過去の事実に基づく、未来予測だ。 だから悪魔は大して怖くはない。 怖いには違いないが、ソレ以上の恐怖という存在のせいで、恐れが薄れてしまっているのだ。 《楽しんでくれないと、困るんだよぉ。ねぇ…………【お兄ちゃん】?》 悪魔のコックピットが開かれる。 するとソコに居たのは、何本ものケーブルで繋がれた――まるでマリオネットのように吊るされた、一人の少女の姿があった。 聞き覚えのある声。 見たことがある容姿。 そして……覚えがあり過ぎるほどに呼んだ、彼女の名前。 そうだ。彼女は、彼女の名前は――「…………【すずか】、だったのか。今回の【クイーン】の転生した姿は……」 ボクとソックリの紫ウェーブの長髪。 未だに男性的な変化のないボクと比較すると、DNAレベルで一致していると言われても不思議はない顔。 あぁ、そうだ。あれは変装や変身魔法などではない。 ボクには解る。 血の繋がりがあるボクには、【アレ】が月村すずか本人だと理解出来てしまう。 本能が。魂が。ボクをボクたらしめている、全ての要素が。 彼女を――【月村すずか】だと認識している。《そぉだよぉ……?とは言ってもぉ、記憶が戻ったのは、ジュエルシード暴走事件が終わった後のことなんだけどねぇ……♪》 この場合の【ジュエルシード暴走事件】とは、すずかやはやてにジュエルシードが取り憑いた時のことだろう。 そしてアレが【クイーン】覚醒の引き金だというのなら……やはり世界はクイーンの掌だということになる。 偶然を装い、本人すら忘れていることをも利用し。 最後には全て自分の思い描いたとおりに事を進める。 策士にして、最悪の――神の如き【人間】。 「そうやってお前は……いつまでもボクの【妹】であり続ける訳か……」 ジェイル・スカリエッティとの融合で思い出した、最後の欠片。 それはクイーンとボクの関係だった。 クイーンとボクは、親が同じ。つまりそれは――。 《違うよぉ……いつまでも【兄妹】の因果から抜け出せないから、この世界を自分の思い通りに造り替えるんだよぉ……》 前世でも兄妹。 その前もそう。 さらにその前も……。《……何でだろうねぇ?私はこんなにもお兄ちゃんがスキなのに……コンナニモアイシテルのニ……!!どうして……ドウシテ兄妹にしか生まれて来れないノ!!》 強すぎる力を持つ者同士が、交じり合うことは危険だ。 戦力の一極集中にも繋がるし、もし子どもが生まれれば、親以上に危険な存在に成り得る。 だからボクと――ジョーカーとクイーンが結ばれることはない。 よって何時まで経っても、【他人】にはなれないのだ。 他人になれなければ、結ばれるコトもない。 だから負の感情が積もっていく。 本来正の感情から来る想いは、裏返って負の感情の溜まり場となってしまったのだ。 つまり妹は――すずかはヤンデレに目覚めた訳ではない。 生まれる前から、ヤンデレで【あった】のだ。 うぞうぞうぞ。 そんな気味の悪い音を立てながら、【顔付き触手モドキ】たちがダイノーロボたちに迫ってくる。 実際はそんなに生易しくはない。もっと俊敏で、もっと強力な――凶悪な代物。 口から光線を出したり、鋭い牙で廃ビルとかを噛み砕いていく。 どう見ても、出演する番組を間違えている気がする。 とは言っても、このリリカルな世界に様々なカオスを持ち込んだボクが、今更言うのもおかしな話ではあるが。「……どうしよう」 言葉では短く。 しかし脳みそはフル回転。 それ程までに今の状況はボクにとって衝撃的で、同時に十分予測出来た筈の未来でもあった。 ゴウダイノーとマグナダイノーのスーパーダイノージェット時は、その操縦を行うのはボクである。 故にこの思考は、操縦しながらのもの。 普通に考えれば、それはかなり危険だ。 実際。 とっても危険だったらしい。 同乗者たちの言葉を借りるのならば。『シズカァァァァ!!ちゃんと操縦しろぉぉぉぉ!!』 通信で何か叫び声が聞こえる。 失礼な奴らだ。 被弾は無いのだから、文句を言うのはおかしいだろうに。『バレルロールなんて、こんな巨体でやるなぁぁぁぁ!!』 別に良いではないか。 かのアーノルド・ノ○マン氏は、戦艦でのバレルを得意としていたんだ。 それに比べれば、ボクのやっていることなど、無茶の内には入らない。「……それよりも」 どうする? すずか=クイーン。 そうすると、ボクは彼女を倒さなければならない。 しかしボク【たち】は無限転生者だ。 ここで倒せたとしても、いつかはまた闘わなければならない。 つまり根本的な解決にはならない。 確かに【今】倒せれば、【次】までに新たな策を考えられるのかもしれない。 でもそれはあくまで、可能性の話。 そう出来るという保証は一切ない。 それにそれは、倒せ【たら】の話。 倒せるのか……? ボクに――月村すずかの【兄】に。《フフフ……つかまえたぁぁ♪》「はぃぃぃぃ!?」 ロボ面付きの触手をかわしつつ、空いたスペースを目指していたダイノージェット。 しかしソレは予想された動きだったのか。 それともボクは、追い込まれただけだったのか。 どちらかは分からない。 ただ事実として、ダイノージェットはデビルギャンダムの両掌に収まっている。 つまりそれが、今の現実なのだ。そしてボクが某【舞姫】チックなアニメの主役、のような奇声を上げてしまったのも、また事実なのである。《お兄ちゃん……お兄ちゃん!》 ヤンデレ妹に愛され過ぎて、戦闘が出来ません。 つかそれ以前に、戦闘するかも決められませんですたい。《あぁ……すずかの、お兄チャンだァ……》 恍惚の表情で言う、クイーンすずか。 見えない。見えないよ? だがしかし。相手の表情が見えなくても、過去の経験則で分かってしまうこともあるのだ。《アレ?………………………………【アノオンナ】のニオイがする》 【あの女】というのは、カリムのことだよね? だったらそれは正解だ。 何たってこのジェットの中には、その匂いの持ち主がいるのだから。《オニイチャンの……体中に、ついてる……ワタシの、ニオイ、つけたハズなのに……!!》 嘘を言わんで下さい。 そんなことをこの、【最終局面】というシリアス場面で言うと、皆に誤解されちゃうでしょうに。 第一このジェットの中には、他にも人が居るんだよ!?どうしてカリムの匂いだけ、ピンポイントで分かるのかな!?《あぁ……ああぁ……!!》 悪魔の――デビルギャンダムのダイノージェットを握る力に、熱が籠もり始める。《ああああぁ!あああああああぁ~~~っ!!》 メキメキと。ミシミシと。 破滅へと繋がる音が、外壁から聞こえてくる。《もう、イヤ、嫌ぁぁぁぁ!!こんな残酷な世界ハ……もういヤぁァぁぁ!!》 バキバキと。 ボキボキと。 非常に破滅的な音を立てて、ダイノージェットはダメージを負っていく。《つくリかエル……世界ヲ、正シク、作り替えるノ!!》 成る程。 【新世界の神に成る!】発言ですね?わかります。 でも残念!!それは負けフラグだから!!【言った後には、逆転負け】斬りぃぃぃぃ!!《ワタシと……【オニイチャン】だけの、正しい、世界へト……!》 逆転の発想かい。 世界に二人しか人間が居なければ、そこには家族だとか関係ない。 というか、言ってられない。『シズカさん。あの人は、あの娘は……!!』「あぁ……。家の娘――ボクの妹だよ」 この中で、唯一【キモウト】モードのすずかと面識のあるカリム。 そんな彼女だからこそ、事の成り行きを冷静に受け止めていた。 いや。表面上【だけでも】、冷静になれていた。『でも……!すずかさんは、地球に居て……ココに居るのはおかしいわ!!』 通信に割り込んでくるリンディ嬢。しかし分かってないな、リンディ嬢は。 すずかは【クイーン】だったんだよ? そんなこと、彼女には関係ないのだ。『どうするのですか、シズカさん……?』「…………それは《ミツケタ……カリム、サン……》!?」 ボクとカリムの通信機越しの会話に割り込む、クイーンすずか。まるでホラー映画だ。 いや。それを実体験でやられると、それ以上に怖い。 これならまだ、【冥土ノ土産】で駆け抜けていた戦場の方がマシだった。《どうしてアナタハ……ワタシのタイセツナものを奪おうとするノ……?》『……わかりません。そんなこと……』 超展開過ぎる。 そんな飛躍した話が出来るクイーンも凄いが、それに付いて行けるカリムも凄い。 流石に、人間を止めてるだけはある。《ワタシなんかよリ、十年以上モ、あとカラ割り込んできたくせニ……!》『……そう、ですね』 カリムの表情は硬い。 それは今、会話している相手の説得が不可能だと分かっているからか。 それとも別の思惑のせいか。《ほんノつい最近、ちょっと気が変わっただけなのにィ!!》『……弁解、しようがありません……』 頼むから、当事者を抜きにして話を進めるのは止めて欲しい。 なんか何時の間にか、カリムがボクの恋人【ポジション】で話が進められている。 マテや。確かアンタは、【婚約者】だったハズだろ?《イラナイ……アナタが一番、イラナイ……!!》 スーパーキモウト人の覚醒です。 勘弁して下さい。 もう表情筋と涙腺、それとダイノージェットが崩壊寸前だよ。これ以上は、レッドゾーンの領域なのに!!《コレで。これでカリムサンは……終ワリだよぉぉぉぉ!!》 今まで以上に両手に力を入れるデビルなギャンダム。 ……って、オイ!!ちょっと待て!!それじゃあ、カリムだけでなく、ボクまで終わりだよ!? どんだけ本末転倒なんだよ!?『そうは……させない!!』 ダン!ダン!ダンッ!! 三連のミサイルが、デビルギャンダムの腕部に炸裂する。 《ァァァァァ!?ダレ!誰なのヨ!!》 思わぬ攻撃。 威力は大したことがないものの、関節を正確に狙い撃ったその一撃一撃。 それはデビルギャンダムの掌から、ダイノージェットを取り落とさせるのに十分なものだった。『如何に執務官長の妹さんだとは言え、今のキミは――――我々の止めなければならない相手だぁぁぁぁ!!』 グランダイノーが――ジェット形態のグランダイノーが、デビルギャンダムに向かって突っ込んでくる。 そしてギリギリまで近付いてミサイルを発射。 同時に上方へ機体を押し上げ、ヒット・アンド・アウェイ。 惚れ惚れする程の、教科書どおりの戦い方。 それを教えたのはボクであるのだが。「クライド少年……」『何をしているんですか!!』「……え?」 予想外の台詞。 想像範囲外の叫び。 弟子から師へのその一言は、本当に考えてもいなかった一撃。『あなたは――――【シズカ・ホクト】は、そんなにも弱い人間だったんですか!?』「!?」『違うでしょう!?いつものあなたなら、こんな局面……鼻歌交じりに乗り切ってしまうでしょうに……!!』 ガツンと来た。 まさかまさかの一撃は、ボクをノックアウトしそうな威力だった。 それ程までにボクは、【らしく】なくなっていたのである。『手がないのなら、考えれば良い!隙がないなら、作れば良い!解決する方法が浮かばないのなら――――』「…………生み出せば良い」『そうです!そうでしょう!?これは全て……執務官長が教えてくれたことではないですか!!』 そうだ。 そうだったよ。 妹が相手というコトで、すっかりペースが乱れていたが、ボクの本性は真面目クンではない。 いつも飄々として、相手の裏を掻いて――それで相手が【予想外の一撃】でやられる顔を楽しみにする、【イヤな奴】。 それだ。 それこそが、ボクの本当の姿じゃないか。「(……すずかのことは、闘いながらでも考えられるじゃないか……)」 だがその前に撃墜されてしまったら、元も子もない。 【たら・れば】の台詞を吐く訳にはいかない。 だったら今は――――相手と同じ土俵に立たなければ!!「……ありがとう、クライド少年」 激励を受けて、師は再び立ち上がる。 激の中に籠もった想いをも力に換えて。 その力で、新たな【力】を創造する。「キャリブレーション取りつつ、ゼロモーメント・ポイントおよびCPGを再設定……」 実は未完成なプログラム。 あらしのあほんだらのせいで、作業を途中で切り上げてしまったのだ。 だけどデビルなギャンダムに対抗するには、そのプログラムの完成が必須である。 ならばどうすれば良いか。 簡単だ。ないのなら創れば良い。 今ないのなら、【次の瞬間】にはあれば良い。「……ちっ! なら擬似皮質の分子イオンポンプに制御モジュール直結、ニューラルリンゲージ・ネットワーク再構築、メタ運動野パラメータ更新、フィードフォワード制御再起動、伝達関数コリオリ偏差修正、運動ルーチン接続、システムオンライン、ブートストラップ起動!! 」 グランダイノーは既にプログラム搭載済み。 なら後は、ゴウダイノーとマグナダイノーへのプログラム搭載・及び書き換えが終われば。 それさえ終われば、事態は次の段階にシフト出来る。「CPG設定完了、ニューラルリンケージ、イオン濃度正常、メタ運動野パラメータ更新、原子炉臨界、パワーフロー正常。全システムオールグリーン。ストライクフリーダ……じゃなかった!【超根性合体】プログラム……起動!!」 スーパーダイノージェットでアクロバティックな機動をしつつ、手元の端末でプログラムを組み上げる。 コーディネートされた人類に出来て、ボクに出来ない訳がない。 だからやった。そして――状況は変わった。『これは……!』『……何なんだ、これはっ!?』『執務官長……やりましたね!!』 ザッフィー、ゲンヤ。そしてクライド少年から届く、それぞれの声。 驚き。驚き。若干の驚きを伴った歓喜。 彼らの持つブレスとチェンジャーが光を放つ。「良しっ、準備は完了!!さぁ出番だぞぉ……ザフィーラ!!」『……承知!』 渋いヴォイスを響かせ、スーパーダイノージェットは分離し、即座にゴウダイノーとマグナダイノーに変化する。 同時にクライド少年の乗る、グランダイノーも人型へと変形する。 非常に格好良い機体なのだが、その単体での活躍は今日はお預けにさせて貰おう。「みんな、ブレスのボタンを!!」 ブレスを持つ全てのクルーに、ボクは伝達する。 そこには提督ズとゲンヤ・クライドの他に、新規メンバーのプレシア・リインフォース、そしてゼストの姿もあった。 全員着席済み。ならばやることは、ただ一つのみ。『行くぞ、皆……!!』「「「「「「「「「応!!」」」」」」」」」 カリムとレジアス。ゲンヤとクライド少年。 その二組が腕を合わせ、そしてザフィーラが一人で登場。 最後にはゲンヤとクライド少年が、ザフィーラとダイノーチェンジャーをトライアングルに合わせる。 見える。 見えるぞ! ボクには―― 子どもの心を持った大人には、その光景が見えるぞぉ!!『キングゴウダイノォォ――――超・根性合体!!』 ダイノーロボ三体が揃い踏みし、宙でその身を分割させる。 まるでパズルのような光景。 マグナダイノーの腕部と脚部が合体し、ゴウダイノーの足裏にくっ付く。 さらにその脚にグランダイノーの胴体が下半身として変形し、合体する。 下半身とゴウダイノーの胴体が接続、既に合体を終えた新たな腕部が接合。 最後にグランダイノーのトリケラトプスヘッドが胸に、新たな【王冠】がゴウダイノーの頭に被さる。 諸兄にはこの合体の間、何故か熱いテーマソングが聞こえただろう? それは当然だ。 何故なら、クルー全員で熱唱していたからだ。 この日の為に用意した、各端末専用のマイク。 若干オッサンたちがシャウト気味だったせいか、女性陣が負け気味だったが……それはそれで良い。 とにかく歌が聞こえたのは幻聴なんかではない。安心したかい?《……そう。オニイチャンは、またワタシと闘うンダ……》「……うん。そういうことに、なっちゃったねぇ?」 ファーストフェイズ終了。 次の問題は、【すずかをどうするか?】である。 機体ごと叩き斬る?内部に侵入して、すずか本人だけを滅する? ……いや。相手は【あの】クイーンだ。 いざとなったら、気が付かれないタイミングで脱出してしまうだろう。 それ程に策士。そして策士を上回るには、それ以上の策か【奇策】が必要。「(考えろ。考えるんだ……!)」 向こうさんが脱出する方法は、幾つか存在する。 物理的に脱出する場合。転送魔法で脱出する場合。 でも転送魔法での脱出は不可能だ。 何故なら、現在この空域にはデビルギャンダムの出す超強力なAMFがある。 それが存在する限り、こちらは元より、【本人】ですら魔法を行使するのが不可能となるのだ。 ……では他の方法は? 物理的→魔法的と来れば、最後に来るのは【それ以外】の力での脱出となる。 それ以外。他にどんな力があると言うのだ? クイーンならではの【その他の力】。 クイーンにあって、普通はないもの。 ……ダメだ。 考え付かない。『ウォォォォォォォォ!!』 キングゴウダイノーは、ボクが思考中でも頑張って闘っている。 ザッフィー以下、パイロット組の奮闘のお陰だ。 ボクはジェット機の操縦時以外は司令室にいるお陰で、こうして考え事に集中出来るのだが。「(……発想を変えてみるか。もしもボクがクイーンの立場だったら――すずかだったら、どう考える?)」 ボクだったら物理的・魔法使用以外に、デコイ(囮)の使用を考える。 囮という手段は、古今東西に於いて非常に有効な手段である。 「(あと場合によっては、あらしを残して覇王が脱出とか……って、それは酷過ぎ、る、か……!?)」 閃いた。閃いてしまった。 確証はない。 でもたぶん正解だ。《オニイチャン、ムダダよ……?例えココでワタシを倒しても……またいつかハ同じことをヤルんだかラ!!》「……だからと言って、ボクが考えも無しにここまで来たと、そう思ってるかい?」《……エ?》 凍りつくすずかを見て、ボクはこの策がイケルことを確信する。「偉大なる先人、アバン・○・ジニュアール三世が生み出した技――【空絶斬】!!これなら身体に傷を付けずに、【負の部分】のみを斬れる!!」 小学生の時、雨の日に友だちと【アバンス○ラッシュ!!】ごっこをしたのは、今となっては懐かしい思い出。 しかしそれは、【シズカの剣】を手に入れてからは夢ではなくなった。 夜も寝ないで昼寝して、とうとう現実のものに出来た時の感動は、筆舌尽くしがたい。《ナ、ナニヲ言ってるノ?そんなこと、出来るハズがないじゃないノ……?》 そんなモノはない。 そう自分に言い聞かせるクイーン。 ……そうか。【彼女】を滅する手段は、ちゃんと存在したんだ。「ボクを舐めるなよ?何たってボクは、不可能を可能にするオトコなんだからねぇ……?」 シズカの剣を手に、ボクは司令室での自席を立つ。 これは賭けだ。 上手くいけば【クイーン】と呼ばれた存在を滅することが出来、そして失敗すればミッド最期の日になる。 当たりだろうとは言ったものの、それでも確信はない。 だから震えが止まらない。 今からすずかの――クイーンの前に出て、ちゃんと演技が出来るだろうか? この土壇場まで来てそんなことを考えてしまう自分は、本当に心臓が小さいらしい。 剣を握る手がカタカタと震えている。 止まらない。止まらない。止ま――った?「……シズカさん」「カリム……」 震えが止まった。 それは物理的な干渉のせい。 騎士カリム・グラシアの両掌による、ボクの左手のホールドのせいだった。「(……!?カリムは今、コックピットにいる筈だよねぇ?どうやって一瞬でココまで来たんだ!?)」「流派東方腐敗に、不可能はありません」 ご尤も。 確かに人間を、軽く超越してるしねぇ?「それよりも……」 騎士カリムは真剣味を帯びた瞳で、ボクをまっすぐに見据えている。 本当に真面目モードのようだ。 心して聞こう。「貴方の、為すべきことを……」「……ん」 不思議だ。 たったこれだけのやり取りなのに、ボクの恐れは取り払われていた。 恐るべし、カリム・グラシア。まさかこのような業を使えたとは!!「……シズカさん。帰ったら――――全てが終わったら……」「終わったら?」「……何でもありません。ただちょっと、言いたいことが有りますからね……?」 なんじゃらホイ。 もしかしてお説教かな? 今まで、散々引っ掻き回したからなぁ……?「もう……。本当にシズカさんは――執務官長は、鈍いわねぇ……?」 ふと周りを見ると、ニヤケ顔のリンディ嬢。 声にこそ出さないものの、彼女と似たような表情でコチラを見ている面々。 何だって言うんだ?何がそんなに、面白いんだ?「……よく分かんないけど、微妙に不愉快だからもう行く!」 震えは止まった。それには感謝だが、あまり時間はない。 だから行かなければならない。 妹との永きに渡る因縁を――因果の鎖を断ち斬る為にも。 ――プシュゥゥゥゥ!! エアロックが解除され、目視で禍々しい機体と――直にデビルギャンダムと対峙する。 丁度キングゴウダイノーの首筋辺りから出てきたので、同じ視点の高さにすずかが居た。 ケーブルで固定されたその身体。あどけない笑顔は歪んだ笑みに変わっているが、その姿は紛れもなく【月村すずか】だった。「クイーン」《お、オニイチャン!》 悲しい再会だ。 地球での一件以来、特に今度会った時はすずかと過ごす時間を大事にしようと思っていたのに。 そんな決意は、こんなにもアッサリと崩れてしまった。「……いくよ?」《マッテ!オニイチャン、すずかのコトがキライにナッチャッタの!?》「……好き、だよ……?」《な、なら……!!》 狼狽するクイーン。 まるで藁にも縋るような彼女。 しかし希望はない。そう【思わせなければ】、ボクに勝機はないのだから。「だから……だからこそ、ココで【オマエ】を倒す。【すずか】という存在の為にも――――これ以上、【クイーン】という存在に、【すずか】を穢されない為にも!!」《!!?》 シズカの剣を逆手に構える。 別に逆手である必要は無いのだが、この方が気持ちが入りやすい。 眼に見えない【負】の部分を斬り、それ以外は斬ることのない業。《どうして……!ナンデ!?ワタシだって、イモウトなのに!!すずかと同じ、ソンザイなのニ!!》「……違うよ」 クイーンの叫びは、ボクには届かない。 だって彼女は【すずか】じゃない。 すずかと同じ姿をした、別のモノなのだから。「家のすずかは、幾らお兄ちゃん大好きっ子でも、ここまではしない」《……?》「確かに兄妹喧嘩が行き過ぎて流血沙汰になったことはあるけど、それでも世界中に迷惑を掛けるようなことはしない!!」《!!!!》 それは明確な違いだ。 すずかはクイーンではない。 クイーンの一部が、すずかなのだ。「もう、良いだろう……?なら――――いくぞ!!」《チィィッ!!》 構え、そして放つ一撃。 光はデビルギャンダムに吸い込まれるように一直線に進み、装甲とぶつかる。 斬、残、懺。 斬られた装甲の中からパイロットが――すずかの姿が放り出された。 これで彼女を護る鎧はない。 この一撃。この一撃で、全てが決まる。《ココで、ココでヤラレル訳にハ、イカナイのよォォォォ!!》「いくぞ、クイーン!これが――――【空絶斬】だぁぁぁぁ!!」 一閃。 煌きを伴ったその一撃は、宙に放られたすずかの身体に向かって飛んでいく。 五、四、三……!!《逃げナクチャ!逃げなくチャ!!》 攻撃が着く寸前に、すずかの身体から【何か】が出た。 まるで蝉の脱皮のようにすずかの身体から分離したのは、これまたすずかと同じ姿をしたものだった。 それはすずかの真上に出現し、そのまま上方へ飛んでいく。《ワタシは死ネないノ!!お兄チャンとのシンセカイの為ニモ……!!》 クイーンは見捨てたのだ。 己の分身を。 己という【負】の部分を逃がす為に、【それ以外の部分】を――【月村すずか】を見捨てたのだ。「…………計画通りぃぃ」《……ハ?》 完璧に、悪役的な笑み。 これではどちらが悪役は、分かったものではない。 ……アレ?前にも同じようなことをしたような気が……。気のせいか?「ありがとよぉ!!コッチの思惑通りに、動いてくれてさぁぁぁぁ!!」 すずかに命中する筈だった、ボクの一撃。 それはすずかに当たる直前で、その軌道を真上に変更した。《そ、ソンナァ……!?ドウシテ、どうしてワタシに当たるノ……?》 すずかの上には、【負】の部分として分裂した【クイーン】が居た。 つまり直角に曲げられた一撃は、クイーンに命中したのだ。「簡単な話だよ。クイーンはヤバくなったら、絶対に逃げると思ったから。それだったら【空絶斬】なんて業、使えなくても何とかなるしねぇ……?」《ウソ……嘘だったノ!?》「現在練習中であることには変わらないよ?ただ、負の部分【だけ】を斬るなんて器用な芸当、まだ出来ないだけだから♪」 負の部分も含めて【完全滅殺】の攻撃なら、既に完成している。 でも負の部分【だけ】を斬ることは叶わず。 しかし必要なのは今。 足りないのなら、あるように見せれば良い。 これこそがペテン師の基本。 【ジョーカー】の本質であるのだ。「ま、本来ならコレだけじゃ弱い。普通の人間ならともかく、ボクたちは【特別製】だしねぇ?」《……?》「だから使わせて貰ったよ、ボクたちのみに有効な――【三次元人】のみに有効な、【イノセントウェーヴ】を!!」 対三次元人用特殊サポート機器。 通称【イノセントウェーヴ発生装置】。 別にGが三つ並ぶ正義の組織のような勇者ロボでもなければ、それ専用のツールでもない。 元々はボクたち三次元人を、どうすればこの世界の標準的な人間と同クラスの存在までに【堕とせるか】を研究する段階で生まれたモノ。 強過ぎる力は災いを呼ぶ。 災いからは生まれるものが少な過ぎる。 だから考えた。 しかし完成前にボクが【分割】してしまったせいで、そこで頓挫していたが。 さっき作っていたプログラムの中盤部分は、この装置の中身。 つまりジェットの操縦と合体プログラム。 さらには装置をも作っていたことになる。 見たか!スーパーコーディネーチャンよりも優れた、三次元人の力!!「この装置を使えば、ボクたちは【二次元人】に変換される。なら後は、ただ【斬る】――――それだけだよ!」 酷い。 最終決戦で見たこともない決戦兵器が登場するなんて、一体いつの頃の作風だろうか? 色々と前提条件を整え、そしてさりげなく伏線として登場させておく。 そんな配慮を気持ち良くスルーした、この展開。 一応チラホラ伏線【らしきもの】はあったものの、果たしてあれらは伏線と呼べる代物だっただろうか? ……良いんだ。こういうインチキらしい手法が、ボクの本質でもある訳だし。《ワタシは消えるノ……?オニイチャンと、結ばれルことナク……?》「……ゴメン。でも因果は消えた。それすらも【斬った】。だから……」 全てを斬る。 それならば、因果すらも斬れることになる。 何とも物騒だが、そのおかげで少しだけ希望が見えた。《……そう。だったら今度こそ……今度こそ、お兄ちゃんと恋人になってみせるんだから!!》「…………そうだねぇ?また【今度】――――次に会った時は、そうなるかもしれないね?」《うん。絶対、絶対そうなってみせるから!!》 霧散するクイーン【だった】モノ。 光の粒子となって天に昇っていくその姿は、蛍のように綺麗で、そして悲しい光景だった。 永い月日を兄妹として過ごした存在は、今後どうなるのか? もうこの世界に神【の如き存在】は居ない――ボクと言う例外を除いては。 そのボクにしたって、イノセントウェーブを使う予定だ。 これでこの世界からは、【異端】は消える。漸く消える。やっと……消えるのだ。「……さぁて、気を取り直して!!」 しんみりとした空気を払拭すべく、ワザと大きな声で言うボク。 まだ終わりじゃない。終わりじゃないから、やらねばならないコトが残っているのだ。「よっ……と!!」 宙を浮かぶ【すずか】をホールドし、キングゴウダイノーへ戻る。 医務室は変形後も存在する。 そこのベッドにすずかを寝かせると、館内放送でコックピットのパイロット組と連絡を取る。「ザフィーラ、皆――!!」『……言葉は不要。ただ――――【斬る】のみ!!』 【盾の守護獣】という字を持ちながら、鋼の軛(くびき)なんていう攻防どちらにも使える業を持っているザッフィー。 デカマイスターになった時から、段々剣持ってるのが違和感なくなっていたが……まさかここまで板に付くとは。 こんなのは正直、誰も予想していなかっただろう。『キングゥ、ブレイドォォォォォォォォ!!』 ダイノーチェンジャーが銃型に変化する。 三丁の銃から射出されるのは、(年齢的には)オヤジたちが放つ、最後の一撃。 天に向かって放たれたその一撃は、雷となって地に戻ってくる。 地を割る。 地面が割れていく。 真っ二つに裂けていく大地。マグマの底から現れ出でるのは、一振りの――超絶巨大な両刃の剣。 先端が三叉に分かれた、珍しいデザインの剣。 しかし格好良い。 流石はキャスバルが製作し、最終工程をボクが担当したモノ。 漢の夢を剣に変えたら、その一つの完成形として辿り着く姿。 それを創ったという自負は、確かにあった。 ――■■■■!! クイーンと言う【核】を抜かれたデビルギャンダムは。それは当然の如く、暴走し始めた。 止める。倒す。破壊する。 それがミッドを――――この世界を護ることになるのだから。『ダイノォォキィィングゥ、フィィィィィィィィッシュゥゥ!!』 斬。 断。 転。宙でクルッと前回りし、爆発を背中で受ける。 破壊された悪魔。 顔面付き触手は全て自壊し、大型の鋏を備えた亀の部分にも罅が入っていき――そして崩れ去った。 残ったのは、ロボット部分の上半身のみ。 そのロボット部分にしたって、既に装甲は殆ど剥げ、アイカメラには電気が通っていない。 それは事実上の【終わり】を意味していた。 終わった。終わったのだ。『根性最強ぉぉぉぉ!!キィィング、ゴゥダイノォォォォォォォォ!!』 キングブレイドを地面に突き刺し、決め台詞を叫ぶザフィーラ。 多分彼が【造られてから】、今が一番輝いている時だろう。 不遇の犬。犬。えっ?犬じゃなかったの?とか言われ続けた月日は――今日の為の肥やしだったのだろう。『(……生きていて良かった。これであと、八十年は闘える……!!)』 後年彼が記した自著、【ザフィーラ列伝】から抜粋されたこの台詞は、多くの男性読者の涙を誘ったそうな。 余談だが。 活躍が全く描写されなかったガンナー少女の闘いについては、変態ロボの殉職や、意識不明の兄が華麗に復活したなどの未確認情報が入ってきている。 そしてただのヘリパイロットだった男が、「君の存在に心奪われた者だぁぁぁぁ!!」とか言って乱入したなどとも言われているが――真偽の程は定かではない。 あとがき >誤字訂正 俊さん。毎度ご指摘頂き、本当にありがとうございます! 前回はいつもよりも多くて、ご迷惑をお掛けいたしました!! 次回予告 時空管理局本局に回収されるデビルギャンダム。 静香はそれに同行し、そんな静香を待ち続けるカリム。 事態は終わった。 終わった【かのように】見えた。 しかし最後の闘いは、まだこれからだった。 次回【デビル管理局始動!】を、皆で見よう!!(飛田ヴォイスで) 追伸:ワルノリが過ぎたかもしれませんが、どうかご容赦を。 あと予告の内容は、変更される可能性がございますので、ご了承下さいませ(笑)。