前回のあらすじ:遂に登場、超根性最強ロボ。 終わった。 ようやく終わった。 え?前回の冒頭とそっくりだって? 大丈夫!今回の【終わった】は、安心的な意味での【終わった】だから♪ 決して【○○終了のお知らせ】とかではないので、どうぞご安心下さいませ。「(これで……あとはボクだけか)」 クイーンは居ない。 そして他の【最初の】シャッフルも、既にこの世には存在しない。 だから――あとは本当に、自分だけという状況なのである。「(いつ、【堕ち】ようかなぁ……?)」 三次元人の二次元人化。 既に手段は出来ている。 異物は排除されなければならない。 強すぎる力は、災いを呼ぶ。 それは今回のクイーン暴走事件で、イヤと言う程証明された。 もう人間は――人間【たち】は、自分たちの手を離れた。 良い機会だ。 これを【最後】にしよう。 もう【三次元人】は終わりだ。次からは――今回の【途中】からは、ただの二次元人として生きて……そして死のう。 未練がない訳ではない。 しかしそれ以上に、妹や仲間との日々が大切だった。 だから生きる。自らを【堕として】。「……シズカ。本局がデビルギャンダムを回収するそうだ……」 現在地は地上本部の会議室。 そして今の発言は、議長であるレジアスから漏れたモノ。「ハァ!?ちょ、ちょっと待って!?いくらもう壊れたと言っても、【アレ】は危険すぎる代物なんだよ!?」「あぁ、それはオレも分かっている。しかし【アレ】の構造やデータは、これからの発展に必要不可欠とか言って、開発部門が煩いらしい」 レジアスの説明を、ボクは呆れながら聞いていた。 確かに科学者というモノは、得てしてそういうトコロがある。 それは知識欲にも似ている。 しかし大抵の場合、未知のテクノロジーを解析しようすると――待っているのは【暴走】か【大失敗】だ。 そしてそれが引き金になり、さらなる異常事態が……って考えたくなぁぁい!「つまりアレか?ボクに監督として付いて行けと?」「……妹さんがあんな状況で、お前には申し訳ないと思うのだが……」 すずかの側にいてやりたい。 それは心からの願いだった。 今度こそ新たなスタートを切る為に、妹の目覚めに立ち会う。そんで一番に【おはよう】と言ってやる。 ちっぽけだけと、とても大切なこと。 でもそれは……どうやら今回も、出来そうにない。「わかってるよ。ボク以外に、【アレ】を理解出来るモノは居ないからねぇ……?」「…………済まない」 これはボクにしか出来ない。 だから自分がやるしかない。 わかってる。わかってはいるのだが……それでも悔しい。「カリム」 この会議には、現役将校は殆ど揃っている。 だからボクの隣にカリムが居るのは、ある意味当然のこと。「すずかのこと、頼んだよ?」「……ハイ。お任せ下さい」 【あんなこと】があったばかりだというのに、カリムはコチラのお願いを聞いてくれた。 責任感が強いのも確かだろう。 しかし今のカリムは、何かそれ以上の感情が感じられるような。「うん。悪いけど……頼むね?」 だけど聞けない。 分からないけど、聞いてはいけない気がする。 何かこう、ボクには理解出来ていない感情な気がするから。「あ、そうだ。カリム、帰ってきたら話があるとか言ってたけど……何のこと?」 ずっとシリアスムードが続いたせいか、カリムに言われてたことをすっかり忘れていた。 もう帰ってきたんだし、何の話か聞かせてもらっても良いだろう。「エ……!?そ、それはそのぉ……」 何だ、この生物は? 騎士カリムが、まるで【思春期御嬢】みたいに変態しているではないか。 何を思ったのかは不明だが、身体をくねらせて頬を紅く染めている姿は……正直別の生き物に見える。「……シズカ、察してやれ」「鈍いわねぇ、シズカさんは?」「執務官長……鈍いと言われた、自分でも分かりますよ?」 レジアス、リンディ。そしてクライド。 三人の波状攻撃が、ボクに――【静香】に突き刺さる。 ジェットストリーム的な攻撃ですか。なら……踏み台にしてやる!!「やかまし。散々リンディ嬢を梃子摺らせて泣かせた、クライド少年には言われたくないよねぇ?」「……申し訳ありません!調子に乗りすぎましたー!!」 ドーンと黒い影を背負うクライド少年。 キミたちの仲を取り持ってやったの、誰だか忘れてないよね?「な、何でもないんです!?後日でも良い用件なので!!」「そう?なら別に良いんだけど……」 珍しく慌てた様子のカリム。 最近、【東方腐敗なカリム】や、今のように取り乱したカリムを見るが……何か、今までの印象が変わってきているなぁ。 悪い訳ではないんだけど、純粋に驚く。ただそんな感じ。「まぁ、なるべくはやく用事を済ませてくるから、すずかをヨロシクねぇ?」 こうしてボクは、本局の艦船と共に本局へ向かった。 デビルギャンダムの残骸という、厄介なおまけ付きで。 そしてコレが、新たな――本当の意味での【最後の事件】になるとは、想像もしないで。「はじめまして、月村提督!自分は【マリエル・アテンザ】技術主任であります!」「どもども。はじめまして、【月村静香】です」 元祖メガネっ子が出現した。 MAD。MADだ。 酢飯娘を越えるマッドが、今目の前に存在している。「……で。キミたちが、【アレ】を研究したいと言い出したのかい?」「ハイ!確かに危険な兵器だとは思います。しかしそこからフィードバック出来ることは、きっと今後の為にも……」 予想通り。 全く予想通りなだけに、却ってつまらない。 まぁこういうのに、【オモシロさ】を求めてはいけないんだけどね?「本当は許可したくない。【アレ】は人の手に負える代物じゃ、ないからねぇ……?」 ロストロギアの危険度が、マックス【以上】の危険度。 下手をすれば次元震では済まないだろう。 まさしく【ミッド崩壊のお報せ】に為りかねない。「しかし。既に許可が下りている以上、そうも言ってられない。だからキミたちは、ボクの指示に従うこと」 だが危険を恐れて、【別の危険】を呼び出す可能性も高い。 だったら自分が管理し、その下で作業をした方が百倍マシなのだ。「ハ、ハイ!!」 流石に常に上官が監視する中、余計なことはしないだろう。 結果的にボクの目論見は成功した。 しかし、それ以外の【アクシデント】を見抜けなかったのは、やはり自分の責任なのだろう。「それじゃあ、作業を開始する!」「「「「了解!」」」」 マリー嬢の部下数名と、彼女自身が動き出す。「先ずはケーブルを接続。でも絶対に、電力ケーブルは繋がないこと!」「ハイ!」 電力はもっとも都合の良いエネルギー源だ。 逆に言えば、それだけ危険を孕んでいるとも言える。 だから、絶対に繋がない。「次にデータの吸出し。この時微量だけど電力が流れるから、内部の熱反応に気を配って!」「分かりました!!」 次々と収集されていくデータ。 確かにこれらのデータには、危険を冒しても手に入れる価値があるだろう。 次世代はおろか、数世代は先の技術。 これがあれば、ヒトはさらに先に進める。 今までは救えなかった人たちが、救えるようにもなる。 だけど……それは同時に、傷付かなくて良かった人たちが傷付くことにもなる。「(わかってるさ。矛盾だってことは……)」 この段階に人間が【自ら】来たのなら、文句はない。 だが今回は、そうではない。 だから……何かが起こる。すぐ先かもしれないし、数年後……もしかしたら数十年後かもしれないが。 ヒトは罰を受ける。 自らの手に余るものを【借りた】ことで。 それは虎の威を借る狐であり、その報いはいつか受けることになるだろう。「(……ま。そうならないように、ボクが気を配らないとね……?)」 クイーンの残した痕は、兄である自分が背負い、そして癒していく。 兄妹って、そういうモンだしね?「(……って、イカンイカン。どうも真面目すぎるよなぁ……?)」 こんなの、ボクのキャラじゃない。 もっとかる~く。そして飄々と。 これがボクの本性でしょうに?「提督!これより最終フェーズに入ります!!」「了解、了解。始めちゃってー」 最後まで油断は出来ないけど、これなら大丈夫そうだ。 九十八、九十九……百パーセント。 作業は終了した。さーて、とりあえず一服しますかぁ。 ――バンッ!!「停電!?」 作業が終了した、その瞬間。全ての電子機器がストップした。 照明は非常灯を残して全滅。 PCも全てディスプレイがブラックアウトし、本体の方も停止する。 「……イヤ~な、予感がする……」 どう見てもコレは、良い感じがしない。 むしろ嫌なことが起きる前兆にしか思えない。 それ以外に思える奴が居るのなら、そいつの脳みそはさぞかし幸せな構造をしているのだろう。 ――ブゥゥゥゥン 何かが起動した。 その駆動音が聞こえる。 最初は極小さく。しかし次第に大きくなっていき……最後には騒音となっていた。「まさか!?ラインから電力を吸い上げてるのか!?」 最悪が起きた。 在り得ないなんてことは、在り得ない。 この言葉を考えた奴は、きっと天才だったのだろう。 万難を排しても、在り得ないことは在り得たのだ。 その実例が今――ボクたちの目の前に居る。「デビルギャンダム、再起動……ってか?」 ロボットの頭部アイカメラに光が灯り、どう考えても暴走フラグが入りました。 こぇぇぇ!? 生物的な感じが、尚恐怖心を増長させるではないか。 すっかり忘れていたが、コイツには【自己増殖】や【自己進化】という、恐ろしい機能があったのだ。 それは使い、状況に対応。 【死んだフリ】をして機会を窺い、そして好機を逃さないと。……我が妹ながら、何てトンでもないモノを創ってくれたんだよ、クイーンさん!?「皆、急いで避難して!!あと館内に避難警報を!!急いで!時間がないんだ!!」「「「「……りょ、了解!!」」」」 皆を避難させる。 この復元――いや。【進化】の具合なら、あと三十分は保つ。 その間に自分は――ボクは少しでも、その時間を遅らせるように頑張らなければ。「提督もはやく避難してください!!」「ムリムリ!責任者は、最後に逃げるものだし……ボクにはやらなければならないことが、あるんだから……!!」 マリー嬢の言葉は聞けない。 だってこれは、ボクの責任だから。 だから彼女たちには、【強制的】に退出してもらう。「て、転送魔法!?提督、お止め下さい!!」「良いの、良いの。責任者は責任を取る為に存在するの。それに簡単にやられるつもりはないから……ボクが無事な内に、はやく助けにきておくれよ?」「て、提督――――!?」 転送魔法の光を残し、ボクを除いた全ての人間がココから消えた。 扉を内側からロックする。 これで外からは、誰も通れなくなった。「さぁて……ガマン比べと、いきますかぁ♪」 ウィルスを作成したり、ロジックモードを変更したり。 やってみたいことは、山ほど存在する。 往くぞ、悪魔王よ。エネルギーの貯蔵は十分か?――――なんつって。 二時間後。「……パチラッシュ、もうボクは眠いよ……?」 限界が訪れた。 全ての局員が避難し、そして結構距離を離すまでは頑張れたけど、根本の解決は無理だった。 ゴメンね、クイーン。不甲斐無い兄を許しておくれ……? ギュオォォォォン!! あ、ぶっといケーブルが。 数え切れない程無数の太すぎるケーブルが、ボクを捕らえにやって来ました。 おーい、ボクは美味しくないぞぉ? それにこういうのは、本来美少女ヒロインがやるもんでしょう? 何コレ?最後の最後に来て、まさかのどんでん返し? 実は【月村静香】は、ヒロインだったのですか!? 驚愕過ぎるぞ、その新事実は!? ……在り得ない。 まじありえなぁぁぁぁい!?《オレサマ、オマエ、マルカジリ……》 悪魔がコミュニケーションをとってきました。 しかしその内容は、どう考えても友好的ではありません。《イタダキ、マス……》 ここまで来たら、言うコトは一つしかない。「……優しく、してね……?」 そう言い終わると、ボクの意識はそこでプッツリと落ちた。 場面は変わり、そして主役も変わる。 ここから先の主演は、【三次元人:月村静香】ではない。 【二次元人:カリム・グラシア】。彼女が、彼女こそが【主役】となるのだ。「すずかさん……まだ目が覚めないんですね」 場所は時空管理局地上本部――内の医療棟。 そこに収容されたすずかの病室に、カリム・グアラシアは居た。 時折花を活けたりする以外は、ずっとベッドサイドの椅子に座り続けている彼女。 ベッドに横たわる少女――月村すずかが目覚めるまで、彼女はそうし続けるつもりなのだろう。 それは約束だから。 そして――約束がなくても、最初からそのつもりだったから。「……フゥ」 この少女があの【クイーン】と同一の存在だとは、未だに理解しきれない。 例え以前、【ヤンデレ】モードのすずかを見ていたとしても。 それが騎士カリムの偽らざる本音だった。 ――バン! 病室の扉が、勢い良く開け放たれる。 次いで入ってきたのは、カリムが良く知る少女だった。「カリム、あかん!!マズイ事態になってもうた!!」 八神はやて二等陸佐。 カリムにとっては妹のような存在にして、つい先日までカリムたちが居た【機動六課】の長である。「どうしたの、はやて?ココは病室よ?そんなに騒ぐ程のことが「あったんや!!」……わかったわ、外に出ましょう」 病室を出る。 はやての言う【マズイ事態】とやらの、詳細を聞く為に。 そこに居たのは、既に【上に立つもの】としてのカリム・グラシアだった。「…………ぁれ、ココは……ドコ……?」 だから彼女は気が付かなかった。 眠り姫の目覚めの声を。 カリム自身に喝を入れる、眠り姫の覚醒の瞬間を。「それで?何が起きたと言うの……?」「説明するより、見た方がはやいわ!!」「ちょ、ちょっと!はやて!?」 はやてに引き摺られるようにして、カリムは同フロアのパブリックスペースに連れて来られる。 そこにはソファーやTVがあり、入院患者と見舞いの客が談話出来るようになっていた。 その中央に位置する場所で――件のTVが、大音量で臨時ニュースを伝えていた。《……の予定を変更して、【時空管理局本局】の事件について報道致します!!》 TVから聞こえた単語、【時空管理局本局】。 それは今まさに、【静香】がいる場所ではないか。 何が起きたというのだ?一体、どんな【マズイ事態】が起きたと言うのだ?《現在判明していることは、先日ミッドチルダに出現した巨大ロボットを回収・収容した本局が数時間後、突如としてその姿を変貌させていったことです!!》「!?」《ご存知の通り、本局は次元空間に浮かぶ【超巨大次元航行艦】です。しかしその姿は今、別の【生物】のように変化しています!》「はやて……これって、まさか……」「……たぶんな」《尚殆どの人間は避難が終了していますが、ロボット回収任務の責任者【月村静香】准将のみ、内部に残っている状態です……》「……ウソ」《准将の下で作業をしていた局員の話では、異常事態が起こると准将は皆を早急に避難させ、そして自分は避難時間を稼ぐ為に中に残ったそうです……」「ウソ、でしょう……?」《あ!!御覧下さい!!本局がさらに変形していきます!!コレは……まるで超巨大な【ロボット】のようだぁぁぁぁ!?》 変形。 ……いや。ココまで来ると、変貌や【進化】という方が相応しくなっていく。 本局サイズのロボット。羽のようなモノが付き、巨大な顔の上には更に小型のロボットの上半身があった。 色は違う。 デザインだって全然違う。 悪魔というより天使的なリファインが加えられているので、その差は歴然だ。 ……でも。 それでも変わらない事実がある。 【アレ】は知っている存在だ。そうとしか思えない。「デビル……ギャンダム」 悪魔の再来、であった。「……落ち着いたか、カリム?」「……えぇ。もう、大丈夫よ……」 顔面は蒼白。 手の震えは健在。 しかし本人ははやてからの問いに、気丈にも大丈夫だと言う。 これは彼女の責任感の強さの表れだろう。 教会の上位騎士として。そして管理局では中将として、人の上に立ってきた彼女。 それは逆を返せば、そんな立場がなければ――本来のカリム・グラシアは、非常に脆い存在だということだ。「本当に大丈夫なんか……?」「……えぇ」「……なら管理局側の対策を伝えるわ。変貌した本局――仮に【デビル本局】と命名するけど、そのデビル本局を数十発の【アルカンシェル】で殲滅する予定や……」「せん、めつ……?」「ちなみ発案者は――――三提督や」 目の前が真っ暗になった。 後日カリム・グラシアは、この時の様子をそう語る。 まさに光が消えた瞬間だと。彼女にはそう感じられたと。「……カリム・グラシアです!三提督の方々に、すぐに繋いで!!」「カ、カリム……!?」 しかし光がなくなっても、彼女はすぐに先に進んだ。 強い……訳ではない。 ただ一秒でも、ジッとしていられなくなっただけだ。《……そろそろ、連絡が来ると思っていたわ》 接続された先は、三提督の一人【ミゼット・クローベル】本局統幕議長の端末。 そこには人の良い婆ではなく、老獪な提督の姿があった。「お久しぶりです、ミゼット・クローベル統幕議長……」《無駄なやり取りは止めましょう。それで貴女は……何を聞きにきたの?》「……では率直にお聞きします。アルカンシェル数十発を使い、変貌した本局を滅するというのは……」《本当よ》 アッサリと。 本当にあっさりと、その疑問は肯定されてしまった。「そんな!?あの中には、まだシズカさんが残っているんですよ!?」《冷静になりなさい、グラシア中将。一人の命とそれ以外の数多の命。優先するのならどちらか――――簡単な答えです》「ですが!!」 分かっている。 理解している。 だが。だが……感情が納得出来ていない!《これは決定事項です。本日二十三時、整備を終えた艦船は順次本局に向かい……そして任務を実行します》「「!!?」」 はやい。 予想よりもはやい動きだ。 確かに一刻を争う事態だけど、はやくても明日になると思っていたのに!《なお、この任務にはゲイズ・ハラオウン・グラシア・ナカジマが関わることを禁止します。意味は……言わなくても分かりますよね……?》 その意味は、任務妨害を防ぐ為。 ……やられた。 これでは、本当に……為す術がない。《そもそも、貴女が彼を救おうとするのは何故ですか?彼が創ったモノたちが素晴らしいから?彼という頭脳が惜しいから?それとも……?》「…………それ、は……」 言いたいことがある。 まだ言っていないことがある。 だから、いなくなられたら困る。まだ……想いを伝えていないのだから。《ストップ。それを言う相手は、私ではないでしょう?》「……ミゼット、提督……」 もうそこに居たのは、いつもの人の好い老婆だった。 本当に【狸】であることも含めて、いつものミゼット・クローベルだった。《……実行は、今日の二十三時から。この意味……分かるわよね?》「!?…………ハイッ!!」《それじゃ今度会う時は【みんな】でお茶会をしましょうね♪》「ハイ!!」 通信が途切れる。 今度こそ真意を悟った。 ならば次は、動く番だ。「すずかさんにも報告、していかないと……」 未だ眠る姫君にも、一応報告していく。 そこには親愛なる兄を略奪するからか、それともライバルとしての宣戦布告か。 その内容は、カリム自身にもイマイチ分かっていなかった。「……その必要は、ありませんよ?」 振り返る。 するとそこに居たのは、カリムが想いを伝えに行く相手――に瓜二つの少女が居た。 白と翠が交じり合ったような色の入院着。しかし中身は、今目覚めたばかりとは思えない程凛とした状態だった。「すずかさん……目が覚めたんですね!?すぐに医師を手配し「違うでしょう?カリムさんは、私に何か言いたいことがあったんでしょう?」そ、それは……」 遮られた。 そして言われてしまった。「私なら大丈夫です。だから貴女は、言いたいことを言って下さい。時間……無いんでしょう?」 その通りだ。 こうしている間にも、砂時計の砂は落ち続ける。 無駄には出来ない。この一瞬すらも、無駄には出来ないのだ。「……わかりました。ですが、ショックで倒れたりしないで下さいよ?」「心配ありません。こう見えて私、結構強いんですよ?それは……カリムさんなら、一番理解していると思うんですけど」「……そうですね。そう、でしたよね……?」 一息入れる。 そして……宣言する。「すずかさん。私【カリム・グラシア】は、貴女のお兄さんを――【月村静香】さんに告白してきます!」「はい」「上手く行けば、私は貴女は義姉ですよ?それでも良いのですか……?」「……仕方がありません。そうなった場合は、貴女で【妥協】してあげますよ」 強かだ。 本当に女性というのは、誰もが強い存在なのだ。「【妥協】、感謝しますね?」「まだ決まった訳じゃありませんから。感謝するのは、ちゃんと決まってからにしてくれません?」「……残念です。貴女となら、きっと良い友人関係が築けると思ったのに……」「そうですね。お兄ちゃんが貴女を振ったら、きっと残念会で仲良くなれると思いますよ?」 残念だ。 こんなにも会話が弾むのに……。 本当に残念だ。「……言ってきます」「言ってらっしゃい」 【行ってきます】ではなく、【言ってきます】。 中々に洒落た言い回しだ。「では……」「あ、カリムさん。ちょっと……」「え……?」 ――パァァァァン! スナップの効いた、良い音が炸裂する。 それを生み出したのは、すずかの【右手】。 それがヒットしたのは、カリムの【左頬】。「……気合を入れました。これで全部チャラですよ?」「……確かに。気合、入れてもらいました」 すずかの脚から力が抜ける。 その場に膝から倒れ、立膝の状態になってしまう。「はやて!すずかさんをお願い!!」「了解や。すずかちゃんのことは、【親友】に任せとき♪」 素早くすずかの脇に回り、支えるはやて。 流石に【親友】と名乗るだけのことはある。「あと貴女の【隊舎】……借りるわね?」 【隊舎】とは文字通りだ。 より正確に言うのなら、隊舎が【変形】したものを借りるという意味だが。「ハァ……。出来るだけ無傷で返して欲しいんやけど……ま、しゃーないか」「ありがとう!それじゃ!!」 妹分からのOKを貰い、カリムは駆ける。 彼女も務めていた妹分の城――機動六課へと。 切り札の眠る、自分にとっても大事な場所へと。「……遅かったではないか、騎士カリム」「皆さん……どうして?」 機動六課の司令室。 カリムがそこに辿り着いた時には、既に【全員】が集結していた。「アイツには借りばかりだからな。ここらで返しておかないと、利子が膨らむばかりだ」 ゼスト・グランガイツ。「不本意だけど、今の私が在るのは【シズカ】のお陰だし……」 プレシア・テスタロッサ。「右に同じ。主はやての成長を見守れるのは、【不本意】だが奴のお陰だ」 リインフォース。「ウチの家族にとってシズカは、大事な友人だ。結婚式のこと然り、クイントとギンガのこと然りな?」 ゲンヤ・ナカジマ。「文字通り【命の恩人】ですから、執務官長は。ですから今度は、コチラが助けになる番なんですよ」「そうよ?クライドを私の許へ帰してくれたお礼は、まだ出来てませんから♪」 クライド、リンディの両ハラオウン。「……決まっている。我々の目指す平和とは、シズカを犠牲にしたモノではないからだ!」 そして……レジアス・ゲイズ。「皆さん……!!」 目頭が熱い。 カリム・グラシアは、階級や部署を超えた友人たちの心遣いに、感謝するしかなかった。「さぁ騎士カリム、出発の号令を……!」「……ハイ!!」 涙を拭う。 そして自分に喝を入れ直す。 気合は十分。あとは――宣言するのみだ。「これより我々【ダイノーズ】は、本局を乗っ取ったデビルギャンダムを破壊し……そして【月村静香】の救助活動を行います!!」「「「「「「「了解!!」」」」」」」 ――ヴィィィィン、ドォォォォンッ!! ジェット機二機が隊舎直上に舞い上がり、そして空中で合体する。 最初から合体しておくことで、総合的な推力を高める計算なのだ。「……アラ?コレ、何かしら?」 リンディのコンソールに、光るボタンが一つ。 今までの経験則からすると、新たな【何か】が起動する合図だ。 こんな場面で起動するモノとは、一体何なんだろうか?「……押しましょう」 好奇心に負けた。 そしてどんなネタが仕掛けてあるかが、明かされる。 ――ヴォォォォォォン!!「「「「「「「ハァァァァァァァァ!?」」」」」」」 流石に度肝を抜かれた。 それは様々な非常事態に慣れている、この面子ですら予想も出来なかった【非常事態】。 既に予備パーツが出ていた隊舎。 それらに分割線が入っていき、そして宙に浮かんでいく。 これで正真正銘、隊舎のあとは更地となった。 ――キィィィィン!ガッキィィィィン!! 腕に。 脚に。 胴体に。 そして……頭に。 隊舎予備パーツは、全てキングゴウダイノーの鎧へと変化した。 【超根性最強ロボ:キドウロッカー】 コンソールに出た文字が、全てを物語っていた。 つまりこれはアレだ。 はやての隊舎を全て使った、文字通り【機動六課】なのである。「それでは【キドウロッカー】、全員まとめて――発進!!」 あらゆる事態を乗り越えてきた面子は、不測の事態であろうとノリで越えていく。 実に素晴らしい環境適応だ。【進化】とも言えるが。 なお、この時【全員】に含まれなかった部隊長は、この時の映像を生で見ながらこう叫んだそうだ。「あわわわ……!?わたしの隊舎は、一体どうなってしまうんやぁぁ!?」 御後が宜しいようで。 エピローグ「何処へ……行くんですか?」 管理局をあとにして、自分の世界に帰ろうとする紫色の長髪。 そんな【彼】に、後ろから声が掛かる。「おや?天下の【大将】閣下が、こんなトコロで油を売ってて良いのかな?」 あれから、ちょっとした騒動があって。 独断専行した提督ズ+αは、全員が一階級降格。 しかし直後に二階級の特進を果たし、カリム自身は【大将】となった。 余談だがレジアス【元帥】は、崩壊した本局を地上本部と統合して再編した為、【今まで以上に】忙しい日々を送っているらしい。「一応教会側からの出向組が、【あんなこと】を起こしてはダメでしょう?ですから責任を取って、管理局も聖王教会も辞めてきました」「……もったいない。これからだって時に……」 勿体無いと言いながらも、その声にそんな色は籠もっていない。 どちらかと言えば、【あぁ、やっぱり……】という色が強く見られた。「それで、質問には答えて貰えないんですか?」「……妹を連れて、地球に【帰る】んだよ。今度こそ、間違わないように……ってね?」「やっぱり、そうなんですね……」 カリムから蒸気のようなモノが立ち昇る。 最近すっかり見慣れたその光景は、彼女が体温が急激に上昇している証だった。「どうして、言ってくれなかったんですか……?」「……?何を?」 不思議がる男。 そんな男の様子に苛立ち、声を荒げるカリム。「どうして、【自分に付いて来い!】って言ってくれなかったんですか!?」「いや!それは、そのぉ……」 男は言い淀む。 「そんな恥ずかしいこと、言えるかよ……」とか漏れているが、そんなことは今更過ぎる。「そんなこと、今更過ぎますよ。ほら、先日の【大告白大会】のことを思い返せば……」 カリムはそう言うと、手元に持っていた端末から先日の記録映像を立ち上げる。 次元空間に浮かぶ、デビル本局。 その異様さと巨大さは、まさに神か悪魔かと言ったところ。 射出される機動兵器を【キドウロッカー】が破壊・破壊・破壊していき、そして突貫していく。 斬って、斬って、また斬って。 デビル本局の内部に突入してから数時間後。 まさに【ラスボスの間】らしき部屋に出た時、本当にラスボスが出現した。 ――ヴォォォォォォォォンッ!! 進化の最終型。 デッカイロボットの顔の上に、小さなロボットの上半身がくっ付いたモノ。 デビルギャンダムの中に、更に進化したデビルギャンダム。……まるでマトリョーシカのようだ。「シズカさぁぁぁぁん!!お願い、話を聞いてぇぇぇぇぇ!!」 ピタ。 そんな擬音が聞こえてきそうな、デビルギャンダムの静止。 ラスボスながら、実に律儀な奴だ。それさえしなければ、負けることもなかっただろうに。「シズカさん、私言いましたよね……?帰ったら【言いたいこと】が有るって……」《……》 悪魔は静止し続ける。 どう見ても突っ込みどころ満載なのだが、お約束を護っているのだろうか?「私はご存知の通り、キング・オブ・ハートだったことを隠していたり、肉弾戦が出来ることを隠して【オンナらしい】ことに拘った、卑怯な人間です……」 いや、あれは隠したくなるだろう。 普通の感性をしていれば、それは当然の選択だと思うが。「でも、今だけは感謝しているんです。いちいち【恥ずかしいこと】を絶叫出来る流派をやってきた事に――これから言う【恥ずかしいこと】を、絶叫出来る事に!!」《……》 絵図としては、デビルギャンダムを真正面に見据えたキングゴウダイノー。 その掌には、騎士カリムの姿が。 なお、この時点で【キドウロッカー】の装甲は全て破壊され尽くしており、ノーマルのキングゴウダイノーに戻っていた。「私は、私は……!」《……、……》 徐々に。徐々に開いていく、デビルギャンダムの胸部ハッチ。 空気読みすぎだ。 ラスボスながら……。いや、ラスボス【だからこそ】、空気を読んでいるのかもしれない。「貴方が好きでぇぇぇぇす!!貴方が欲しいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」 恥ずかしい。 確かにコレは、恥ずかしい。 管理世界【三大恥ずかしい告白】の、ぶっちぎりのトップにランクインしたというだけある――その恥ずかしさ。「シズカさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」 カリムの大告白。 それを聞いたデビルギャンダムは、まるで【静香】を吐き出すように射出する。 糖尿病はゴメンだと。これ以上の砂糖は要らないと、そう言わんばかりに。「シズカさん!シズカさん!!」 吐き出された【静香】を、宙に飛んでキャッチするカリム。 身体能力が異常すぎる。 流石は流派東方腐敗。「……カリムさんや。これってもしかして……やらないとダメですか?」「ハイ♪やらないとダメですよ♪」 【静香】の意識が戻った時、前門にはカリム・グラシア。 そして後門には、デビルギャンダムがいらっしゃった。 これはアレか?空気を読むと……砂糖を吐くような展開に殉じろと?「……わかった。やるよ、やれば良いんだろ!?」「ご理解頂けて、嬉しいですわ♪」 周囲が言っている。 ラスボスですらも、その目が言っている。 【空気を読め!!】――と。「「二人のこの手が真っ赤に萌える!」」「幸せ掴めと!」「轟き叫ぶ!!」 騎士カリムと両掌を合わせ、まるでダンスを踊っているかのような【静香】。 ……男女逆転しているような気がするのは、きっと気のせいではない。「「ばぁく熱!ゴッデス、フィンガァァァァ!!」」 もしもココに冥王さまが居れば、「チャージなどさせるものか!」と突っ込んでくれただろう。 だが生憎彼は居ない。 よって、砂糖垂れ流しシーンは続く。「責」「破」「「ラァヴラヴ――――天、驚ぉ、けぇぇぇぇぇぇん!!」」 何か出た。 二人の掌から、何かハート型の怪光線が出た。 そしてその光線の上には、何故か初代キング・オブ・ハートが腕組んで乗っかっているではないか。「「ヒート、エンド……」」 ハート型の穴が空き、そしてデビルギャンダムは爆散した。 ちなみこの一部始終は、キングゴウダイノーの外部カメラによって生中継されており……その視聴率は、歴史上最高の数値だったらしい。 ……これじゃあ、ミッドに居づらくなる訳だ。「思い、出して貰えましたか?」「……忘れたくても、忘れられないよ。アレから、ミッドを歩く度に言われるんだよ?「告白のヒトだー!」って!?」「フフ……。これでもう、全管理世界公認の恋人同士ですよ?」 黒い。 何か【既成事実】並に黒いよ! コレ、本当にカリム・グラシアなの!?「……違うよ」「え?」 【静香】は否定する。 カリムの言った【恋人】発言を。「ボクたちは、【恋人同士】なんかじゃあ、ないんだよ……」「……」 だって【静香】はまだ、【返事】をしていない。 なのに【恋人同士】はないだろう? 当人を置いてけぼりにするのは、ダメでしょうに?「……【今は】、ね?」「エ……?」 不意打ち。 それは本来、【静香】のようなジョーカーがやることだ。 正統派であるカリムにやらせることでは、断じてない。「今度はコッチから言わせてもらうよ?……カリム・グラシアさん。ボクとの【婚約】を解消し――――【コレ】を受け取って下さい」「コレって……?指、輪……?」 ちゃんと給料三か月分ですよ? 准将の給料なので、その凄さは押して知るべし。「ボクと……【結婚】して下さい、カリムさんや?」「ッ、……ッ!ハイ……ハイッ!!」 ボロボロと涙を流しながら、カリムは了承する。【静香】からの【プロポーズ】を。「そんじゃ、さっさと地球に「シズカァァァァ!!これから式だぞ!!準備は良いだろうなぁぁぁ!!」……って、何ですとぉぉぉぉ!?」 【静香】のセリフは、突如乱入したレジアスによって遮られた。 つーか今、レジアス元帥殿は何と言った?「…………やられた」「♪」 全ては策士【カリム・グラシア】の掌だったということか。 彼女は正統派【策士】だったようだ。「(……でも良いか。コレだけ清々しいやられ方は、他にはあるだろうしね?)」 【静香】の胸中は穏やかだった。 まるで雲一つない、快晴のように。「しゃーない。これからもヨロシク頼むね?……【ボクの】カリムさんや?」「……ハイッ!!」 この日。世界から一人の三次元人は消滅し、新たに二人の二次元人が誕生した。 その名は【月村静香】と【月村カリム】。 そして物語は、大人数を巻き込んだ【超恥ずかしい結婚式】に移行するのだった。 了 あとがき コレで終了です。 本当に終了なんです。 延々と九十話もお付き合いして方々、誠にありがとうございました!! 特に殆どの話に誤字訂正&感想を付けて下さった【俊さん】には、感謝の言葉しかありません! 本当にありがとうございます!! この物語の発想について> 元々はネタでした。 それも、ただの実験作のつもりだったんです。 ですがレジアス中将(当時)を出したところから、変化が訪れました。 みんな大好き、熱血オヤジ。 サツキも最初は受け狙いに書いていただけでしたが、今は一番書くのが楽なくらいに愛着が湧いています(笑)。 出来るだけネタを仕込んで、仕込んで。 いくつか回収できなかったモノもありますが、これ以上にネタを放り込んだSSはないでしょう。多分ないと思います(苦笑)。 全部のネタがわかる人は……多分satukiと友人になれます。嬉しくは、ないと思いますが(マテ)。 最後になりましたが、今一度感謝の言葉を言わせて頂きたいと思います。「本当に、ありがとうございました!!」「馬鹿者!!事件は会議室で起きているのではない!現場で起きているのだぁぁぁぁ!!」 主演:レジアス・ゲイズ大将。「レジアス……オレはこれから、現場に向かう。あとのことは……頼んだぞ」 助演:ゼスト・グランガイツ。「この事件は……また随分と【きな臭い】ことだなぁ……?」 同じく助演:ゲンヤ・ナカジマ。「このミッドチルダは――この次元世界は、【あのヒト】が護ったものです!!」 客演:月村カリム(旧姓:カリム・グラシア)。「さぁ……ゲームの始まりだぁ♪」 謎の敵:????「そんな!?オマエは……!?」「久しぶりだねぇ、レジアス……?」 物語は、かつて出会った二人が【再び】出会うことから始まる――。 映画【真レジアス・ゲイズ――ミッドチルダ最期の日】 新暦七十七年十二月二十四日、全次元【一億五千万】のシアターで、みんなのレジアス元帥が帰ってくる!!「オレの正義は……オマエと共に在ったというのに!!」 Coming soon! あとがきのあとがき ……済みません。調子にのって書いてしまいました(オイ)。 どうかお許しを……(逃)。