Episode『4』
草という男はわりと大柄といっていい男だ。年のころはシンジと同じくらいで赤銅色の肌と虎縞の鉢巻が獣っぽさをアピールしている。漠然とシンジは自分の関西弁の友人のことを思い出してた。
(トウジ・・・・より馬鹿っぽい?)
何気にひどいことを考えていた。
「シャアァッ!!」
草の最初の一撃は蹴りであった。力強い唸りを上げながらシンジのわき腹を目掛けて打ち込んだ。
「―――」
シンジは、片目をつぶって左手を突き出すと草の蹴りに合わせて掌を返し半歩下がって衝撃を反らすと勢いのあまった草の蹴りを追うように体をねじり草の後頭部目掛けて後ろ回し蹴りを放つ。
ギシッ
体勢を崩されながらも反射的に左腕でガードした草だったが骨のきしむような音ともに2メートルほど後方に吹っ飛んだ。
「っ痛ぅ―――やるやないか!!」
草にしてみれば最初の一撃でしとめるつもりだったので反撃は予想外だったのである。ただ、その瞳には驚きよりも喜びのほうが勝っていた。
ワァアアアア
観衆がどよめく。それほどこの草という少年は圧倒的な強さなのだろう。
「くぅううう!!面白いわ!!やっぱケンカってのはこうでないといかんなァッ!!」
うれしそうに笑いながら体を小刻みに前後に振りながらチャンスをうかがう草。
「そうだね。闘いってのはある程度実力が近くなくちゃ面白くない・・・」
シンジは腰に力を入れるような体制をとると片目を閉じたまま一回、深呼吸をしゆっくりと草を見据えた。
「今度は・・・・こっちからだッ!!」
ピッ
ほぼ無音でシンジが草に飛びかかる。草に比べてシンジの攻め方は豪快さにかけていたが、その分研ぎ澄まされたナイフのような鋭さが優美な動きに見せていた。
「おうっ!」
駿足の動きでの連続攻撃は着実に草の体にダメージを与えていく。
回し蹴り、回転打ち、肘、突き
舞うような連続技にもかかわらず周囲に響く音は草へ当たった打撃音だけである。シンジの繰り出す技は風を切る音もしなければ踏み込む音すらしなかった。正確には音はしているが小さすぎて聞こえないのである。
シンジの連続攻撃に草は十字受けで防いでいたがそれ以外の場所を攻撃されるのでガードが間に合わない。
「く・・・・調子に――――のんなァ!!」
草が叫ぶと同時に迫っていたシンジの蹴りを右手でつかむ。利き足を握られてしまったシンジは天地さかさまな状態になり左手アスファルトにつけて体を支えなければならない状態になった。
「せいりゃァ!!」
シンジをそのままの体勢に固定した草はニーキックでシンジの腹に強烈な一撃を入れた。
「か・・はッ!!」
たまらずシンジがうめき声をもらすとそのまま連続的に蹴りを叩き込む。
「どりゃあァ!!」
「ぐ!!」
ズン ズン ズン ズン
広場自体に重い打撃音が木霊する。いかにも効いていいるようなくぐもった音だ。
「ちィッ!!」
蹴りの合間を見てシンジは左手のアスファルトにつく力を更にこめる。
利き足でない方の足で加速をつけるとまるでコマのように回転し草の体を弾き飛ばす。
「うおっ」
「まだまだ!」
勢いづいたシンジはそのまま草に関節技を仕掛けようとしたが、冷静さを取り戻した草は注意深く距離を取りシンジの攻撃は失敗した。
「――――」
「――――」
5メートル程はなれたところでにらみ合いを続けるシンジと草。
ギャラリーが息を呑む音が聞こえてくるような異様なまでに静まり返った広場の中はピリピリとした緊張感が重たい空気となって漂う。
「――――ッ」
シンジが再び仕掛ける。先程、足首を掴まれた力からすると若干自分の方が劣っていると感じたためだ。
「いっくでェ!」
草の攻撃とかち合う。競り押したのはシンジだった。破壊力を決めるのは力だけではない。スピードと技術は自分が勝っているとシンジは確信した。
「フッ!!」
「セイッ!」
速度自体は若干の差であり攻撃自体は二人ともクリーンヒットを当て続けた。
だんだんと二人の衣服がボロボロになっていく。そしてしばらく闘い続けたあと再び二人は距離をとった。
シンジはだんだんと気持ちが高揚していくのにたいして内心冷静になっていく自分に気づいた。以前、ゼルエルに殴りかかった時のように気分がすごくハイになってがむしゃらになったのとは違う。シンジは片目を開き一度草を注視する。相手もひどく興奮しているようだが嬉しそうなのは変わりない。内心で笑いをかみ殺すと再び片目を閉じる。
「へっ!どうやら、このままやと決着がつかへんようやなァ!!」
草がひどく嬉しそうに言い放つ。
「でも、このままいけば僕が勝つ。」
苦笑しながらシンジが言い返す。確かに体力的にも技術的にも若干シンジの方が勝っていた。
「アホか!勝つのは俺や!これから俺の<切り札>で一発や!」
「切り札か!」
その言葉を聞いてグッとシンジが身構える。それに答えるようにして草が半身の構えを取り、胸を大きく膨らませて高い息吹きの声を上げる。
「ヒュゥゥゥ―――・・・・」
シンジは草の体内に高度な熱量を持った霊的エネルギーが集まるのを感じ取った。発せられる熱気の影響か草の体が揺らめいて見える。シンジの霊的な視覚は草の体に纏う炎の神気が虎の形をしているように見えた。
(来る!)
「<赤いィ―――牙ァ>!!」
アッパーのモーションから炎の神気が放たれる。
シュゥゥウウウウウウ
高温の火柱のような<神気>がシンジの体を襲う。それは火口から襲い来るマグマのような印象をシンジ与えた。
(火山の火口にもぐった時に比べれば何とか耐えられるはずだ!!)
そしてシンジは真っ向から<赤い牙>を迎え撃った。
「あれ?」
「は?」
間抜けな声を出す二人・・・・なぜなら<赤い牙>はシンジに全くダメージを与えることなくシンジにぶつかった瞬間火花を跳び散らし霧散してしまったのだ。
「え~と・・・・今のが切り札?」
「な、なんでやねん!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
気まずい空気があたりを支配した。今の現象の詳細はこうである。草静馬の神威の拳『炎の虎』の遠距離技『赤い牙』は神気の密度が物凄く薄かった。 これは正式に神威の拳の修行を受けていないことと神威の拳の詳細を知らないため訓練自体できなかったためである。これはシンジも同じであるがシンジの場合『ATフィールド』の知識があるためある程度『神気』の特性を理解していたのと元来真面目な性格が幸いして色々と研究していたことがあり『神気』の錬度に大きな差があった。
それに加えてシンジは草の『切り札』発言で強力な神気攻撃が来ると思い神気を体に溜め込んでいたのである。結果、<赤い牙>は鉄壁と化したシンジの神気に吹き散らされてしまったのだ。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
拍子を抜かれたようなシンジに対して草は焦りまくっていた。草、最大の技が簡単に破られてしまったのである。先程までの笑いは消えている。
「・・・・・じゃあ、次はこっちからいくよ?」
「なに!?ちょっとまてや!」
もちろんシンジにまつ気などない。あたふたしている草を尻目に体内に蓄積された神気を開放すると、シンジの体から紫がかった銀色の『神気』が輝きだす。
「な、なんやそれは!?」
「<月光鬼龍>とでも呼んでくれればいいさ。まあ君の<炎の虎>にあたるものだよ。」
せっかく楽しめそうな闘いだったにもかかわらず結局つまらない『オチ』が付いてしまったのでシンジは機嫌が悪くなった。どこか口調も投げやりである。
「シュゥゥゥ―――・・・」
息吹きの声が場に大きな緊迫感を与えギャラリーも声を発さなくなる。急速にシンジの纏う神気がねじれるようなうねりを見せはじめ突き出した両手に鬼のような紫の一本角を持つ龍を形どる。
「―――<鬼龍翔撃牙>!!」
シンジの両手から放たれた<鬼龍翔撃牙>はうなりを上げ草に襲い掛かる。とっさにかわそうとする草だが紫の神気は草に追従するように動きをあわせかわすことが出来ない。
ドォォォオン
ダイナマイトのような爆発をあげ、草は吹き飛ばされた。ざっと10メートルは吹き飛んだようだ。
「ぐ・・・・・・まぁだ・・・まぁだやァ!!」
もはや根性だけで立ち上がる草。しかし、もはや闘えるほどの力が残っていないのはギャラリーから見ても明らかだった。それに対してシンジは一瞥すると感情のこもらない声で言った。
「無様だね・・・・」
「なんやとォ!」
「もっと強くなってから再戦だ。それまで勝負は預けておくよ。」
そう言ってシンジは体を翻すとそのまま走っていった。
「まてぇ!!俺は!俺は!まだ、闘えるんや!闘えるんやァ!!」
その場には力なく片足ついた草と呆然としたギャラリーが静かにその場に存在していた。
しかし、この事件においてシンジは草静馬から勝ち逃げした『静馬より強い男』としてうわさが広まることとなるのだがこのことをシンジが知るのはしばらく後のことである。
あたりもすっかり暗くなってしまったころようやくシンジが鬼塚家に帰ってきた。
「・・・?」
妙に静かというか、湿っぽい雰囲気がする。どうやら例の居候が帰ってきたらしい。今朝はなかった気配が増えている。とりあえず、帰ってきたことを伝えに置くの八畳間まで進む。
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
そこにいたのは美雪と鉄斎とえらく湿っぽい大男―――南雲慶一郎だった。
「・・・ただいま戻りました。・・・・何なんですかこの湿っぽさは?」
とりあえず鉄斎に尋ねるシンジ。もちろん美雪に聞いても答えてくれないかもしれないし慶一郎に聞くには彼は心ここにあらずといった感じだった。
「シンジか・・・この馬鹿に娘夫婦が死んだことを話したらこのざまだ。」
「はあ、なるほど。」
「・・・・」
「・・・・」
「ところでずいぶん遅かったな。何かあったのか?」
「ちょっと、野試合を申し込まれたので・・・」
「ほう・・・・勝ったのか?」
「あれは・・・こっちの勝ち逃げでしょうか?」
「そうか。勝ったのならば良い。」
あまりにショックが強かったのか慶一郎は微動だにしない。まるでシンジに気づいていないようだった。シンジと鉄斎の会話にまるで反応しない。美雪は相変わらず無表情だがどことなくさびしそうな雰囲気を感じさせていた。
「・・・・いつまで呆けておる!!しっかりせんか!」
鉄斎の喝が飛び、一瞬慶一郎の肩が震えるとようやく正気に戻ったようだ。
「・・・・鉄斎先生?」
「うむ。」
いまだうつろだが確かに意識を持ち直しているようだ。大丈夫だろうと判断した鉄斎がシンジを紹介する。
「慶一郎。こやつが今、うちに居候しておる碇シンジだ。・・・・シンジ、この馬鹿がもう一人の居候の南雲慶一郎だ。」
「・・・碇シンジ?」
「はい、よろしくおねがいします南雲さん。」
いぶかしむ様な慶一郎に対しシンジが無難に挨拶する。やがて慶一郎もシンジのことを思い出したようだ。
「君は・・・昨日の?」
「はい。どうやら縁があるようですね・・・・」
「何だ、知り合いか?」
見知った顔にあったという反応に鉄斎が探るような目つきで問い掛ける。もはや美雪は部屋のマスコットと化していた。
「ええ、昨日ちょっと・・・・」
「そうか」
慶一郎はシンジに対して警戒心を抱いていた。鉄斎の遠縁ということは自分とも親戚関係にあるということだがシンジにどこか得体の知れない何かを感じていた。
「・・・・碇は・・・」
「あ~これから一緒に住むんだしシンジでいいですよ。」
「・・・シンジはなんでここに居候してるんだ?」
「それは・・・・・・・人探しって言うか・・・修行のためって言うか・・」
シンジの歯切れの悪い答えに慶一郎は口をつぐんだ。今は死んだ美雪の母親のことで胸がいっぱいだったのだ。
再び場に沈黙が訪れるかと思いきや、案外そんなことにはならなかった。
「まあそんなことはどうでも良い。・・・さっさと晩飯しするぞ!」
鉄斎の言葉は絶対である。鬼塚家のヒエラルキーでは鉄斎に逆らうものは許されない。そのことが昨日からのことで分かっているシンジと体にしみこんでいる慶一郎の行動は迅速かつ的確で速やかに鬼塚家の晩御飯は執り行われた。
☆
「あ~慶一郎先生、いってらっしゃい。」
「・・・・」
「ああ。」
翌日、どうやら吹っ切れたらしい慶一郎を見送り(慶一郎の職業が教師だと聞いて慶一郎先生と呼ぶことにした。)、シンジと美雪は朝食の後片付けをはじめた。
無言。
とにかく無言。
鉄斎は所用で出ているため不在。
常人にはきつく感じる無言空間も綾波レイとの経験があるシンジには耐性があった。特に問題もなく仕事を片付けていく。
それも終えたころ
「じゃあ、美雪ちゃんお茶でも飲む?」
「・・・うん」
美雪と友好関係を結ぼうと努力していたシンジの耳に聞こえる音があった。
チリ―ン・・・
涼やかに澄んだ、鈴の音に似た響きである。
チリーン・・・
「風鈴の音?」
シンジが美雪に尋ねるようにささやく。
「・・・・」(ふるふる)
美雪は首を横に振って答え音のする方を向き歩き出す。
「あ、ちょっとまって。」
あわててシンジが美雪を追いかけると、居間で美雪を発見したが美雪は手に何かを持っているようだった。
チリーン
「なにもってるの?」
「・・・・これ・・」
美雪が出したのは慶一郎の青いペンダントだった。どうやら気が動転していた時に忘れていったらしい。
チリーン
どんどんと音が大きくなっていく。
「・・・・これってもしかして・・・」
シンジはこの前の慶一郎との会話を思い出した
『魔法で異世界に召喚されたんだ』
そして、白い閃光が瞬いた。
「やっぱり・・・・?」
「あ・・・」
シンジの嘆くような声と美雪の驚いたような声は光に飲み込まれそして誰もいなくなった。
続く
あとがき
ようやく主要キャラが集まってきました。エヴァキャラはシンジ以外ではゲンドウしか出てません。もっと出さなきゃまずいかな?とりあえずシンジ君の属性は『月』になりました。静馬君に勝っちゃいましたがこのころのこの人は弱いのでしかたありません(言い訳)。