ある世界で『第三新東京市』と呼ばれ
現在では『箱根』と呼ばれる避暑地。
その地下深く自称『正義』、他称『悪』の総本山。
『世紀末の悪魔』と呼ばれる男“碇ゲンドウ”率いる『ねるふ』の牙城である
ちなみに構成員は国際公務員であり日夜、世界の平和のために戦い続けているという・・・・・・
Episode『8』
鬼塚家の食卓。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
四人という家族構成としては多からず少なからずといった人数で囲む食卓は静まり返っていた。
(さ、寒い・・・寒すぎる!)
この心情は慶一郎の心の叫びである。決して料理がまずいわけではない。
白いご飯、豆腐の味噌汁、魚の干物、納豆、海苔、たくあんなど素朴さはあるが純和風の朝食であり海外放浪の長い慶一郎にはご馳走であった。基本的に鬼塚家の食事は鉄斎と美雪が作る。それはシンジと慶一郎がこの家に来てからまだ変わってはいない。
慶一郎の不満はこの食事の静けさにあった。鉄斎が静かなのはともかく、美雪とシンジまでもが無言である。その静けさ慶一郎の初恋であった美雪の母『美咲』のことを慶一郎に思い出させる。
しかも忘れ形見の美雪は慶一郎に全くかまってくれなかった。シンジには割りと懐いているようでたまに話しているところを見かけるが慶一郎のことは意識の外に追い出しているようである。
(俺はまるで石のタヌキだ・・・・)
慶一郎は自分をそう称した。この原因は慶一郎の方にも付き合い方が分からないという理由があったが慶一郎にとっては難題であった。
「・・・・」
そんなこんなしているうちにいつもより10分ほど遅れて慶一郎は玄関に立った。見ればいつもの巫女服で神社の方に言う美雪が見える。そしてなぜか『和服』に身を包んだシンジが慶一郎の元にやって来た。鉄斎が作務衣、美雪が巫女服、そしてシンジは江戸時代の武芸者のような格好そして場所は神社。むしろ軍人っぽい慶一郎の方が異端であった。
「すっかり忘れてたんですがこれ置き忘れてましたよ?」
結局慶一郎のことを先生と呼ぶことに落ち着いたらしいシンジが『ソルバニアの石』を差し出す。
「そうか。ほかの事で頭が一杯ですっかり忘れていたが・・・・すまんな。」
そういうと慶一郎は差し出されたペンダントを受け取り怪訝そうな顔をする。
「俺がいないときに美雪ちゃんが飛ばされていたらと思うとゾッとするからな。」
嫌な想像をして更にブルーになる慶一郎にシンジは追い討ちをかけるように言った。
「飛ばされましたよ?美雪ちゃん。」
「なに!?」
「僕も一緒だったから良かったものの危うく死ぬ所でした。そういう危険物は肌身離さず持っていてください。」
淡々と事実のみを伝えるシンジに攻める感じは一切ない。そのことが逆に慶一郎に罪悪感を呼び起こさせた。
「そうか、すまなかった・・・・」
「いえ、今度から気をつけてくれればいいです。なにしろ僕も目をつけられてしまったようなので・・・あの巫女さんに。」
苦笑するシンジを見て慶一郎は『ソルバニアに行ったシンジと美雪』がやったことをほぼ正確に把握した。
「レイハ・・・か?」
「はい。またよろしくなんて言われてしまいましたから」
「すまないな。巻き込んでしまって」
申し訳なさそうな顔をする慶一郎の顔を見てシンジは今度は自嘲するような表情で言った。
「気にしなくていいですよ?人外と闘うのは慣れてますし、対人戦歴よりも対怪獣戦の専門家ですから元々は。」
「は?」
わけが分からないと言った顔の慶一郎にシンジは真顔になり問い掛ける。
「ソレより良いんですか?」
「何がだ?」
「学校です。もう九時回ってますけど。」
「なに!?しまった。すまん!シンジ!行って来る。」
そう言い慶一郎はまさしく弾丸のようなスピードで走り去っていた。残されたシンジはというと
「やれやれ・・・さてと、僕も行くとしますか。」
ゆっくりと神社の階段を下りていった。
―――――――――――――――――――――
☆
「待った!」
「待ったは無しですよ。冬月先生。」
いかにも『悪の秘密結社』といった雰囲気が漂う広々とした部屋のほぼ中央で二人の男が向かい合い将棋を指している。
「く!もう一度!もう一度だけだ!」
「それはさっきから何度も聞いたはずですが・・・」
実際は7度目である。
「ふう・・・仕方ありませんな。」
そういうと髭のサングラス―――碇ゲンドウは一つのコマをもどし・・・
「王手。」
「ななななななな」
「実は6手ほど前からツミだったのですよ。」
「く!碇・・・貴様!」
人の悪い―――見る人が見れば無邪気そうに笑う―――ゲンドウを見て冬月の怒りは一気に沈静化する。自分は力でも口でもこの男には勝てなったのだと
「ふふふ・・・いつでも再戦を受け付けますよ?」
「ふん!次こそは勝つ見ていろ!」
そう言いながらも将棋盤を片付ける冬月。ふと思い出したように呟く。
「そういえば碇。『シュバルツカイザー』の件は本当に手を出さなくて良いのか?あれでもアメリカでは有数のマフィアだが・・・」
ソレに対するゲンドウはおもむろにサングラスを取り布巾で汚れを取る。
「ふん、無論だ。すでに手は打ってある。」
「その手が私は聞いていないのだが・・・・」
組織のNo2としては大きな仕事は自分にも相談してほしいと思う。何しろこの男は自分の経験と直感そして計算だけで命令を出してしまうのだ。そしてその命令が的確だからたちが悪い。
「フ・・・心配することはない。少し息子に電話しただけだ。」
「息子?お前の息子と言えばシンジ君か?」
冬月はシンジの人となりを思い浮かべる。最後にあったのは2年前、パリにあるとある高級レストランである。
「確かに彼は優秀だろうが・・・・」
そうシンジはあらゆる点において飛びぬけた能力を持っているそれは諜報力も戦闘技術もである。
「大丈夫なのか?」
「ふん・・・碇本家から催促が着ているのだ。今シンジを奴らとあわせるわけにはいかんだろう。」
「・・・・なるほど。それでか・・・」
「そうだ。一般人であるが『公務』はいい隠れ蓑になる。それで結果が出せれば一石二鳥だ。」
「・・・・・」
そして冬月の前に バサリ と書類が置かれる。
「これは何だ?」
「全ては結果のための布石に過ぎませんよ。あとはよろしく頼みますよ冬月先生。」
「なに?」
冬月が顔をあげた時にはもう遅く冬月は慣れてしまった見たくないときのゲンドウを見てしまった。
ニヤリ
ゲンドウは皮肉るように口元を歪めるとバシュっというドアの閉まる音とともに姿を消した。冬月に仕事を押し付ける時の常套パターンである。
「こ、この・・・・くっ!」
ボトンといすに座り込む。机の上の書類はただ其処にあるだけで不吉なオーラを放っている。そして冬月が封を開け無造作に取った一枚にはこう書かれていた。
『手始めに大門高校を手に入れる』
続く
あとがき
今回短め?何とか進んでいる・・・かな?