博雅は語り終えた。死人を引き連れる猫の話を、である
喋り通しで喉が渇いたのか、口を閉じたのち博雅は酒を一杯飲み干す。
「いかかです、さとりさま」
「その猫……たぶんお燐だわ。地上で何をやっているのかしら」
心配そうにさとりはため息をついた。
さとりの猫である火焔猫燐は死人を操るという力を持っている。
十中八九お燐に間違いはない、そうさとりは確信した。
「いえ、それよりもあの声ね」
「ええ、そちらの方が早いでしょう」
晴明がさとりの言葉に相槌を打つ。
検非違使忠明の聞いた姿なき人の声は何らかの手段で燐を使っているのだ。そちらをどうにかせねばならない。
「晴明、結局どうするのだ」
「その声の主とやらに、会いに行くのさ」
晴明の紅を塗ったような赤い唇が弧を描く。
博雅の問いに晴明は笑みを浮かべながら答えた。
「なるほどな。しかし声の主はどこにいるのだろう。晴明。何か心当たりがあるのか」
「あるさ」
「何かしら」
あてがあるのか、言葉とともにうなずいた晴明にさとりが問い返す。
「我らにはちょうど良い道案内がいます」
そう言って晴明はさとりの膝の上で丸くなっている沙門を見やった。
「沙門……」
膝の上で丸くなってくつろいでいる沙門をさとりは持ち上げる。
沙門はこれまで眠っていたのか、大きく口を開けてあくびを一つした。赤い口の中から白い牙が覗く。
「猫のことは猫に任せましょう」
晴明の顔を不思議そうに眺めながら、金色の目を沙門はぱちぱちと瞬いた。
しかし晴明の言葉を受けても、沙門はあくびをしたり、耳を動かすだけで動く気配はない。
さとりは無言で沙門の体を反転させ、猫の顔をこちらに向かせる。
「お願いね」
短く、さとりは言った。
やる気があるのかないのか、面倒臭そうに沙門はにゃあと鳴き声を上げる。
さとりの腕から床へと沙門は飛び降りた。
猫又の証である二つに割れた長い尾が天に向かって立つ。
黒い尾が何度もひょこひょこと動く。
「沙門はさとりさまを好いているようですね」
感心したように晴明は言った。
猫は元来気まぐれなものである。それに加えて沙門は長き年月を経て変じた猫又である。気位も高い。
その沙門を動かすのは、保憲以外の者ではなかなかに面倒であった。
「お前に術をかけられたことを、案外沙門は根に持っていたのかもな」
突然心に閃いたことを博雅は口に出した。
以前に晴明は、大きな黒虎に化けた沙門を元の黒猫の姿に戻したことがある。そのことを博雅は言っているのだった。
博雅の言葉に晴明は何も言わない。ただあいまいな微笑を口元に浮かべた。
やがて沙門は鳴き声をもう一つあげ、屋敷の外へと歩き出した。
晴明と博雅とさとりは牛車に乗っている。
日は沈みかけており、平安京を囲む山々は赤く染まりだしている。
ごとごとと車輪が回る音を立てて牛車は進む。
牛飼い童や牛の轡(くつわ)を取る従者は晴明の牛車にはいない。
けれど牛は誰かに指示されているように進んでいく。
「どこを目指しているのだろうな」
簾の隙間から外を眺めながら博雅は言った。
晴明邸を出たのち牛車はひたすら南へと下っている。すでに朱雀門は通り過ぎ、今は下京である。
「それが猫のみが知っているのであろうよ」
「……行く先は、都の外ね」
牛車の前の簾(すだれ)を大きく開けてさとりが言った。さとりの視線の先には牛の背に乗り座っている沙門がいる。
「見たのですか。沙門の心を」
「そうよ、見たわ」
さとりは、ごくごく当たり前のことのように答えた。
さとりにとって心を読むというのは、常人が目で風景を眺めるのと何ら変わりがない。出来て当然なのだ。
牛車は朱雀大路を進み続けた。不意に車輪の振動が激しくなる。牛車は朱雀大路を外れ、でこぼこの多い道に入ったらしい。
簾の隙間から入る光が赤く、弱々しく変わっている。
牛車が止まった。
「着いたか」
「うむ」
左右の簾を晴明は上げた。途端に寒々しい風が吹き込んでくる。
牛車が止まったのは、どことも知れぬ、荒れ果てた荒野であった。
「ここは……」
牛車から降りたさとりは周囲を見渡した。
西に沈む日が荒野の草原を赤あかと染めている。
牛車の前には、所々壁が崩れた荒屋(あばらや)が一軒建っている。
「どうやらここに、あの声の主がいるようですね」
「ならば早く行きましょう」
荒屋に向かってさとりは歩き出す。牛の背から降りた沙門がさとりの胸へと飛び込む。
沙門の小さな体を受け止めると、さとりは抱きかかえた。
さとり、晴明、博雅の順に荒屋の入口をくぐった。
荒屋の中は暗い。もうすぐ日も落ちるというのに、ここの主は火を灯していない。
ただ崩れた壁や板の間からかろうじて夕日が差し込み、何本かの赤い光の線となっている。
奥の板の間に、ぼろぼろの法師服を着た男が一人寝ころんでいた。
櫛を入れたこともないようなぼうぼうの髪を、蓬髪にしている。
「よく来たな。晴明」
「やはりあなたでしたか。道満殿」
法師姿の男、蘆屋道満は寝ころんだまま楽しげににんまりと笑った。
道満の前には酒の入った瓶子と杯、それにつまみとして瓜などの果実と魚を焼いたものが盛られた皿が二つ置いてある。
「そこにおるのは博雅と……古明地さとりではないか。相変わらず辛気臭い顔をしておる」
「蘆屋道満、久しぶりね」
さとりは道満を見据えながら言った。久しぶりと、さとりは返答したが、その顔も、目も笑っていない。
何やら因縁浅からぬ相手のようだった。
床から体を起こすと道満はあぐらをかき座りなおした。
手に持った杯はそのままである。
「おう、小野篁(おののたかむら)殿と地霊殿を訪ねた時のことか……古い話をよく覚えておるわ」
旧い友人を懐かしむように、道満は言った。
「そうね、古い話を蒸し返しても仕方がないわ」
「わしに何か用か」
「とぼけるのは止めることね。もう分かってるでしょう。お燐はどこ?」
巧みに道満は話をはぐらかそうとする。しかしさとりは惑わされなかった。
「ふん、全てお見通しか」
道満はさとりとの問答を止め、手を動かした。
途端に荒屋の一角から猫が一匹姿を現す。
大きさは沙門と同じくらいで、大きくはない。
艶やかな黒い毛並みに、所々赤いものが走っている。
尾は猫又のように二つに割れていた。
「お燐」
さとりが猫の名前を呼ぶ。その途端さとりが抱いていた沙門は床に飛び降りた。
「その猫の力、使わせてもらったわい」
「道満、あなたが何を企んでいようが、わたしはどうでもいいわ。ただ、わたしの家族に手を出したのは間違いよ」
「やめとけ、この爺は一筋縄ではいかんぞ」
面白そうに笑いながら、道満は手に持った杯を置く。
晴明は言葉をかけようとしない。無言でさとりと道満を眺めている。
止めるため声をかけようとした博雅も晴明が何もしないのを見て、思いとどまった。
さとりと道満は互いに相手を見据えたまま動かない。相手の出方をみているようであった。
「待ってお姉ちゃん」
不意に声が荒屋に響いた。ここにいる誰の声でもない。
女の声である。しかしさとりはそのような言葉を発してはいない。
その声は上から聞こえた。天井の梁の部分に誰かが座っているのだ。
先程まで人がいるという気配は全くなかった。
まるで何もない所から一瞬で湧いて出たようである。
「まさか、こいしなの」
声の主に覚えがあるのか、さとりは天井に向かって呼びかけた。
「ばれちゃった」
声とともに人影が梁から道満の後ろへと飛び降りた。
壁の隙間から差し込む陽光がますます少なくなっており、どのような姿かは分からない。
人影は道満の前へと歩いていく。次第に陽光に照らされ姿が浮かび上がる。
癖のある白い髪をした女童であった。さとりに負けず劣らずその肌は白く、月の光に透けてみるかのようである。
女童はさとりと同じく管のようなもの体に巻いており、その先が右胸に浮かぶ瞳に繋がっている。
しかし、その瞳は開いてはいなかった。
古明地こいし――古明地さとりの妹であった。
「その人、お燐に悪いことはしてないよ。わたしずっと見てたもの」
こいしが座ったままの道満を示し言った。
「こいし、最近見ないと思ったらこんなところに……」
こいしがここにいるとはさとりは全く予想していなかった。
放浪癖があり神出鬼没なこいしの行動に呆れて、さとりはため息をつく。
「何か悪いことされそうだったら、わたしが助けてあげたけど」
「こいしとやらの言うとおりぞ。わしは、ただ力を借りただけよ」
状況を察したのか、こいしの言葉に道満は同調した。
「それに、わたしの分のつまみも用意してくれたしね」
魚の焼き物が盛られた皿の近くにこいしは座り込む。
そして魚を一つつかむと口を付けた。
「近頃つまみがやけに早くなくなるのでな。多めに用意した。ただそれだけよ」
こいしのためではない、と道満は言った。
ぼさぼさの白髪をがりがりとかく。道満としては、そういうことにしておきたいらしい。
「……もういいわ。こいしがそう言うのなら」
こいしと道満のやり取りに毒気を抜かれたのか、さとりは表情を緩めた。先程までとは違い顔に険がない。
「それがよいわ。わしと勝負しても疲れるだけよ。お互いに、な」
口の両端を上げ、にんまりと道満は破顔する。
「侘びと言ってはなんだが、飲んでいかぬか」
どこから取り出したのか、いつのまにやら床には杯が四つ置かれている。その一つを手にして、道満はさとりに差し出した。
「そうね。頂くわ」
すでに焼いた魚を食べ終え、熟れた瓜にこいしは手を伸ばしている。
それを見て逡巡したのち、さとりはうなずいた。
荒屋の一辺の壁は大きく崩れており、そこからちょうど天へと上がり始めた月が見える。
うまい具合に隙間から吹き込んでくる風はないので、肌寒くはない。
「お姉ちゃん、これおいしいよ」
串に刺さりこんがりと焼かれた魚をこいしがさとりに進めた。
さとりは焼き魚を受け取るとは小皿に置く。
こいしがそのまま魚にかぶりつくのに対し、さとりは箸をつかって食べている。
似ているようで細かい所は違う姉妹である。
少し離れたところで黒一色の毛並みの猫と、黒地に赤が流れる毛並みの猫がじゃれ合っている。両方とも尾は長く、二つに割れている。
沙門と燐である。
猫又と火車。
霊喰いと死人繰り。
種族は違うが、もとが猫の怪というのは同じである。
その光景を穏やかな表情でさとりは眺める。
「不思議なものね」
「どうしたの、お姉ちゃん?」
さとりが唐突につぶやいた。それにこいしが反応する
「また地上に出て、お酒を飲むなんて」
さとりが地上の下に広がる地獄の跡、地霊殿に身を隠してからかなりの年月が経っている。
地上、しかも人の作り上げた都に姿を現すのはいくらぶりだろう。
まださとりが地上にいた頃は、この地に都などなかったはずである。
「お姉ちゃんはいつも地霊殿にいるもんね。どこかへ出歩いてもいいのに」
さとりはその長い時を地霊殿に籠り過ごしている。灰色の岩と砂、そして炎と怨霊にまみれた地霊殿で。
地霊殿を離れて様々な場所を放浪するこいしには、いつまでも地霊殿にいる姉が不思議だった。
自らの力を閉ざせば、疎まれることもなくなるのに。
「わたしはこれでいいのよ」
素っ気なく答えたさとりの横顔をこいしは眺める。
瞳を閉ざし、心を読む力を封じたこいしには、さとりが何を考えているかは分からなかった。
「ほらほら」
こいしは魚の肉を骨から取り口に含む。
そして身を食べ終わったあとの魚の骨を、こいしは片手に持ち猫たちの前に垂らした。
沙門がこいしの手から魚の骨を口で噛み咥える。
さとりを見上げて燐は、魚の骨を催促するようににゃあと一つ声を上げる。
先程身を外した骨をさとりは手に取る。それを燐の目の前へと持ってきた。
「いいわ」
その言葉を待っていたのか、燐は骨を口に咥え食べ始めた。
猫の口が動かなくなるのを待って、こいしは微笑みながら沙門と燐の前に指を差し出す。
白い指に赤い液体が垂れている。
指に酒を浸して、猫たちの前に差し出したのだ。
酒が指先に溜まり、滴となって崩れ落ちる寸前、沙門が舌で滴を舐める。
沙門が舐め終わると、こいしはもう一度指を酒に浸し、前に出す。
おずおずと舌を出し、燐はこいしの指に溜まる酒を赤い舌で舐め始めた。
「旨いか?」
酒を口に運びながら道満はさとりに聞いた。
「ええ、地上の魚を食べるのも久しぶりね。悪くないわ」
「お主も元は地上の者だ。地霊殿に引き籠っても、地上の味は忘れられんだろう」
「住めば都、よ」
魚の肉を探る箸の動を休めて、さとりは短く答えた。
「住めば都、か。確かに、その通りかもしれぬわ」
何やらおかしそうに口の端を曲げながら、道満は酒をあおった。
「ほう」
不意に晴明が声を上げた。
晴明の視線の先には、沙門と燐、二匹の猫がいる。
二匹の黒い猫の輪郭がゆっくりと、だが確実にぼやけてきているのだ。
猫の輪郭が薄くなる代わりに、形作られていくものがある。
片方は流れるような黒髪、もう片方は二つに結ばれた赤髪。
共に黒い衣装を着ている。
沙門と燐は、それぞれ女童へと変化していた。
青白い火の玉が一つ二つと漂い出す。どちらが呼び出したのか、鬼火であった。
初めは腕であった。
その細い腕をゆっくりとしゃなりしゃなりと動かす。
次は足であった。
その細い足はゆっくりと床を踏む。
舞、である。
沙門と燐は、隙間から差し込む月光を舞台に、舞っているのだ。
「おお」
その光景に博雅は驚きの声を上げた。
それがどのような種の舞いなのか、博雅には分からない。
しかしそれが美しい、ということだけは博雅にも分かる。
ふんわりと宙を舞い、沙門と燐が化けた女童は重さそのものがないかのように地に足を付ける。
沙門も燐も人ではなく、猫である。
人の姿でありながら、猫の如く身軽であった。
その舞いに共鳴するように。笛の調べが空気に流れ始めた。
朱雀門の鬼の笛・葉二に博雅が命を吹き込み始めたのである。
猫の舞踏と、鬼笛の調べが一つに混ざり合い、周囲の大気自体を震わせていく。
天が、地が、ざわざわと蠢き始める。
天地の間に存在する、様々なものたちが舞踏を見ているようである。
荒屋の壁の隙間から、神仏、鬼、妖怪が舞踏を覗いているようである。
それは突然のことである。さとりの胸の瞳が大きく開かれたのだ。
さとりの耳に夢幻の音色が幾重にも折り重なり響く。
それは博雅の笛に奏でられるより前の、博雅の心から湧きあがる音色である。
笛の音として外界へと流れる前の、より原色に近い博雅の心の奥でのみ奏でられる音楽である。
さとりの瞳に無限の光景が万華鏡の如く写りこむ。
それは神仏の、鬼の、妖怪の、人の見る世界である。彼らの見る世界がさとりの心に現れては消えていく。
神仏の、鬼の、妖怪の、人の見る世界。それぞれの世界は集まり、一つの宇宙を形作っていく。
心を見る力を持つさとりのみが感じることのできる、心の内に作られた宇宙。
さとりの力がなければ、どれほど望んでも一片すら見ることも、聞くことも出来ないもの。
その中をさとりは漂っているようであった。
沈むわけでも、浮かぶ訳でもなく漂っている。博雅の心から流れる音色に身を任せ、ゆっくりと、ただゆっくりと。
「お姉ちゃん、どうしたの」
こいしに声をかけられて、さとりは意識を戻した。
こいしは不思議そうな表情でさとりを見ている。
いつの間にか沙門と燐は元の黒猫の姿に戻っており、じゃれついている。
博雅もすでに笛を吹き終わり懐の内へと納めていた。
さとりと博雅の心にはすでに因果の如きものが結ばれている。
出会った時の問答、あの時にこの因果は生まれたのだ。
そして博雅の心の内より音色は流れ込み、さとりに宇宙を見せた。
「本当に、こんなことは久々だわ」
酒の注がれた杯を持ち上げ、さとりは一口で飲み干す。
唇が艶やかに紅色に濡れる
さとりの白い頬が、ほんのりと桜色に染まっていた。
暗い、暗い一本道を二つの影が行く。
さとりとこいしの古明地姉妹である。
使われなくなって久しい、旧地獄街道を行く。
粉雪とも、灰とも見えるよく分からぬものが降り積もっている。
一説には魂を燃やした残りの灰であると言われているが、定かではない。
「これあの人の足跡だよ」
降り積もる粉雪の上に残る人間大の足跡をこいしが指差した。
ほとんど消えかけているがそこには確かに人の乗った重さが残っている。
地獄では時の流れは分かりづらい。すぐに消えてしまうものもあれば、何年も痕跡を残すものもある。
「道満もこの道を通ったのね」
さとりは消えかけている足跡を見ながら言った。
入口である六道珍皇寺の井戸から地獄街道に入り、出口である嵯峨の薬師寺の井戸へと抜けていったのだろう。
かつて小野篁(おののたかむら)も地獄へ向かうために、この道を通って行った。
「それにしてもよく地上に出る気になったね、お姉ちゃん。わたしがどれだけ地上に行っても、探しに来てくれなかったのに」
「お燐の姿が見えなかったから、不安だったのよ。あの子はあなたと違って地上に慣れてはいないから」
さとりは足元を歩く、赤と黒の毛並みを持つ猫を見た。
「ふーん、じゃあわたしがどこかに行っても、お姉ちゃんは心配してくれないんだ」
こいしは拗ねたように口を歪ませる。
「こいし、あなたはいつも唐突にいなくなるわ。でも、今までだってずっと地霊殿に帰ってきたじゃない」
歩きながらさとりは優しく語りかけるように口を開く。
「だからわたしはね。こいし、あなたを探さない」
さとりは顔をこいしの方に向けた。歩みが止まっている。自然とこいしもその場に留まった。
「わたしはあなたの帰りを待っているわ。地霊殿で、わたしたちの家で、ね」
そしてさとりは澄んだ微笑を浮かべた。
「お姉ちゃん……」
寂れてしまった旧地獄街道を、さとりとこいしは二人並んで歩いていく。
やがて片方の影がそっと手を横に出し、もう片方の手を握った。
手と手が重なり、指と指が絡み合う。
白くて細い二つの手を繋いで、姉妹は旧地獄街道を行く。
さとりの足元を歩く燐が、にゃあと鳴き声を一つ上げた。