「横浜基地水偵から入電。
敵艦見ユ」
伝令からのメモを奪い取るようにした高野中尉は声を上げた。
「捕まえました、艦長。敵はすぐそこにいます!」
本日未明に東京は敵艦砲射撃を受け、大被害を出していた。霞ヶ関辺りを狙ったらしい敵攻撃最大級の戦果というか戦禍は、霞ヶ関では無く紀尾井町で発生していた。軍令部長・伏見宮元帥邸が文字通り噴き飛ばされたのである。邸宅に帰宅していた伏見宮元帥の生死は未だ不明、その生存は絶望視されていた。色々言われる人物であるが、日本帝国海軍軍人にとって偉大な人物には違いがない。白浜少佐は激情のまま、錬成訓練に出ていた艦を掻き集め、半ば山勘で敵艦がいると思われる推定海域へ急行していた。
白浜少佐は勝負に勝ったらしい、彼の進む先には敵艦が居る。払暁前に大挙して発進した横浜水上機航空隊所属の水上偵察機がそれを保証してくれた。高野中尉は白浜少佐と目を合わせた。白浜少佐は断言した。
「よおし、仇を取るぞ!
全艦へ連絡。針路〇―三―〇、機関全力一杯!」
それは定格出力を越えて機関を稼働させることを意味し、運が悪ければ機関を自壊させてしまう恐れすらあった。勿論、そのようなことがあれば、命令を下した士官がどのような扱いを受けるか考えるまでもないだろう。
だが、その命令にどの艦からも反対意見は出てこなかった。