「さて、我々のビジネスの話をしようか」
米陸軍の頂点にいる男ダグラス・マッカーサーは、傲慢にそう言い放った。
副官であるアイゼンハワーは、落ち窪んだ目をしているコチィ大佐を気の毒に思いながらも、無言だ。この尊大な男を扱うには常に危険がつきまとう。内心辟易しているアイゼンハワーだったが、それが完璧に内心以外の何者も動かしては、いなかった。
「まずは復習からだ。始めてくれ」
「はい、参謀総長」
「まずは、海軍が日本海軍を打ち破ることを前提とします」
「勿論だ。だが、この段階での降伏は認めない。大統領府の方針だ」
政治的にダメージを受けすぎたルーズベルト大統領は、たとえ決戦を大勝利で終えても、戦争を終わりにするつもりはなくなっていた。徹底的に、東京で観艦式と凱旋式を行うまで、戦争を続ける意志を明らかにしていた。陸軍としてはそれに従うしかない。
「はい、現状では国民を納得させるために、より決定的な勝利が必要でしょう。そして、その障害となる敵の陸上戦力は一三個師団。内二個師団が首都圏へ存在します。他の師団は管轄地域で防衛体勢を取っているか、あるいはヒロシマへ集結しているかです」
「ヒロシマへの集結理由は?」
「推測ですが、フィリピンあるいはグァムへの上陸戦準備と思われます」
「いずれにしても、制海権が確定していなければ、無視できる。仮に上陸してきたところで補給も受けられず立ち腐れるだけだ」
「はい。一方、我々が用意できる兵力は四個師団です。本来は六個師団でしたが、ご存じの通り……」
「海兵隊を含む二個師団が、日本海軍の通商破壊作戦で壊滅した」
「その通りです。そのため、当初予定されていた二正面同時上陸作戦は行いません。敵兵力分散のために陽動は行いますが、我々は全力でクジュウクリハマへ上陸します」
「その通り。我々は兵力分散の愚を犯すべきではない。またトーキョーガルフへの直接侵入も行うべきではない」
「はい。あの湾岸要塞を正面から攻撃することは得策ではありません。その分、海軍には別の所で働いて貰います。航空攻撃を避けるために飛行場を、増援を遅らせるための操車場、変電所の攻撃を。徹底的に行う予定です」
「徹底的にか」
マッカーサー参謀総長の言葉には詰問の色があった。沿岸部への打撃力はともかく、その後方部へ送り込むための能力は【アラモ】級戦巡二隻の喪失により、明らかな低下をもたらしていた。
「確かにご指摘の通り、沿岸部後方への打撃力は、当初見込みより低くなりました」
「海軍が【アラモ】を二隻も沈められたからだ」
「残念です。が、戦艦六隻の支援が確約されています。なんとか修理を終えた【アラモ】と合わせて、敵兵力稼働率を二〇%は抑えることが可能でしょう。増援も二日で一個連隊程度と見込んでおります」
コチィ大佐の言葉に頷く、マッカーサー参謀総長。
「続けてくれ」
「艦砲射撃で敵迎撃部隊を抑えた後、上陸を開始します。上陸第一陣には、第一師団を予定しています。彼らが橋頭堡を確保次第、第一騎兵師団を揚げます。同時に海軍より割り当てられている空母へ積み込んだ三個飛行中隊一五〇機を展開、直ちに作戦支援を行わせます」
「問題は無いだろうな」
「促成飛行場を使います。ドーザーでならして、必要であれば鉄板を敷き詰め、滑走路を確保します」
この辺りの工事技術は、第一、第二パナマ運河の工事で培われており、他国の追随を許さぬ、というより想像を超えた域に、米国工兵隊は達していた。そして、その指揮を執っていたのはマッカーサー参謀総長だ。その実力を誰よりもよく判っている。
「うむ」
「展開した航空隊は、敵航空機を排除しつつ、道路・鉄道上の動くモノ全てを攻撃します」
「順当だな」
「そして第一騎兵師団を前進させます」
そういって、コチィ大佐は、駒を九十九里浜~東金~千葉~習志野へと進ませて見せた。
「別途、先に上陸した一個師団には側面防御をかねて、カスミガウラへ進出して敵航空根拠地攻撃も行わせる予定です。本隊はチバ・ナラシノ方面へ進撃。巧くすれば敵集結前に蹂躙できるかも知れません」
「楽観的すぎる」
「はい、おそらく敵迎撃戦力約一~一.五個師団程度に拘束されるでしょう」
コチィ大佐の言葉に、過剰反応を示すマッカーサー参謀総長。彼にはこの状況を打破するための秘策があった。
「機甲師団用戦車の出番だな?」
マッカーサー参謀総長は可笑しげに言った。理由は戦車は歩兵師団しか保有を認められていなかったからだ。だから、このような言い回しをして、機甲師団に戦車を配備している。
「はい、閣下の作り上げられた第一機甲師団の出番です。揚陸された彼らは、あの素晴らしい進撃速度で、内陸よりに迂回進撃して敵後背を衝きます」
コチィ大佐が示した侵攻ラインは、九十九里浜~成田~印西~柏~松戸を示していた。
「演習で確認したが、あの進撃速度は素晴らしい。クリスティ戦車を採用して正解だった」
「はい。閣下のご慧眼に感服いたします。そして、クリスティ戦車に蹂躙される日本兵に憐れみを」
「日本軍の練度ならば、一戦で士気崩壊だな」
「はい、後方を遮断された敵迎撃戦力は早々に瓦解するでしょう。後は第一機甲師団・第一騎兵師団が宮城へ星条旗を立てて、トーキョーを占領。日本帝国は消滅します」
「良い仕事だ、大佐。では、征こう」