「一体、これはどういうコトよ!」
語気荒くエージェントを罵った彼女の名は、メアリー・ピンクニー・ハーディ・マッカーサー。現陸軍参謀総長ダグラス・マッカーサーの母。息子のダグラス・マッカーサーの人生に積極的な介入を旨として、士官学校の席から、参謀総長の職まで用意した烈女である。その彼女が憤っている理由は、言うまでもなく、現在のフィリピン情勢のためであった。
「現地の状況は混沌としており……」
「そんな分かり切ったことはどうでもいいの!
早く何とか、なさい!」
フィリピンに膨大な権益を持つマッカーサー家。半ば、本国との連絡を分断されている状況は非常に好ましくないモノになっている。
サボタージュ程度ならまだしも、一部の者は武器援助を受けて武力闘争を開始しており、刻々とマッカーサー家資産への打撃を累積させていた。
「日本の仕業ね!?」
「いいえ、違います。日本方面からでは無い様です」
「一体どこの莫迦よ!?」
「詳しいことは不明です。ただ、ゲリラが使っている武器がフランス製であることを除けば、です」
「フランス!?
どうして、ここにフランスが出てくるの!
「仏政府に問い合わせましたが不明です。ただ、フランスも左派勢力が増大しつつあり、混乱しているようです」
「ケソンはなんと言っているの」
フィリピン上院議長マヌエル・ケソンを捕まえて酷いものであるが、実際彼はマッカーサー家のフィリピン番頭のような立場であるから、全く正当な扱いだった。
「完全独立主義者の一部が暴走しており、対応が出来ない。至急援軍を乞う。との事です」
「ダグは何をしているの!」
「アメリカ陸軍フィリピン派遣軍は、現在マニラ・コレヒドール・スービックへ集結して、日本軍の来寇に備えており……」
「黄色い猿が海を渡ってこれるわけないじゃない!
すぐに治安活動を強化して……」
エージェントはあくまで義務的にキッパリと述べた。
「申し訳ありません、マム。それはワタシの職掌を超えます」
「ローズベルトからの返事は!?
この間の手紙の返事はまだ!?」
「まだです」
「キーィ!
自分たちの中国権益には影響がないからと言って、この扱いは何!?
断固、抗議するわ!
フィリピンはアメリカなのよ、何よりも優先されるべきだわ!
ダグを、ダグを呼んでちょうだい!」