注意:弓凛の固有結界が前半から中盤まで展開されているので、そういうのが嫌いな人は飛ばして、後半からお読みください。
朝が来た。
基本的に朝が弱い私は起きるまでのこの時間が辛い。
しかし、泣き言などは言ってられない。
私は無遅刻無欠席のパーフェクトな生徒として通している。
とりあえず、体を起こしまだ眠たい目をこする。
意識が、まだぼんやりとしている。
えーと、とりあえず昨日の夜のことを思い出すとしよう…。
イリヤと一緒に大師父の遺産の残りを完成させようと部屋にこもって…。
戦っている音が聞こえてきたから、外に出てみるとアーチャーの奴とライダーが戦っていて…。
士郎が出てきて、戦いは中断されたんだけど、アーチャーと一触即発の状態で…。
その後、様子がおかしくなったアーチャーの奴を部屋に呼び出して………!!!!!!
顔が一気に赤く染まる。
一瞬で目が覚めてしまった。
それから、慌てて自分の服を確認する。
…ちゃんと着ている、あれは夢だったのか?
そんなはずはない、誰かが眠っている私に服を着せたのだろう。
顔がさらに熱くなるのを感じる。
誰が着せたかなんて考えるまでもない。
士郎か誰かが万が一、部屋に起こしに来てしまったことを考えて、気を利かせたのだろう。
しかし、その場面を想像すると、とんでもなく恥ずかしくなる。
…まずい、こんな顔は誰にも見せられない。
魔術師は、常に冷静でないとならない。
落ち着け、落ち着け。
一度、深呼吸すると高まっていた鼓動が幾分か和らいだ。
「…顔、洗おう」
ふらふらと、洗面所に向かう。
途中で、誰とも遭遇しないことを祈りながら。
「リン、やっと起きたの」
そう、思っていたら帰りにいきなり白い悪魔に遭遇した。
内心の動揺を外に出さないように気をつける。
「昨日は、途中で中断しちゃったけど、あと少しなんだから完成させましょ」
「そ、そうね」
声が必要以上に裏返った気がするが大丈夫、気付かれてはいないはず。
「本当は昨日のうちに仕上げたかったのに…」
イリヤが不満そうな目で私を見る。
「しょうがないわ、あんなことがあったんだから」
私が昨日のことについてため息をつくと、イリヤは途端に小悪魔な笑顔を浮かべた。
「そうね、部屋でアーチャーと二人であんなことしてたんじゃ、しょうがないわ」
………時が止まった。
頭の中が真っ白になり、世界が歪んで見えた。
亡くなった、父さんが綺麗な川の向こう岸で手を振っている幻覚まで見えてきた。
「なっ、ななななっ!?」
口から言葉が出てこない。
「それはそうと、アーチャーとシロウなら二人で道場にいるわ」
沸騰していた頭が今の言葉で、瞬時に冷める。
しまった、何故、そんなことに気が回らなかったのか。
今、あいつらを二人にしておくのはまずい。
道場に走る。
最悪な場合も考えておかなければならない。
凄惨な場面を覚悟しながら道場の扉を押し開くと、
スパーン!バシーン!
と、竹刀の景気のいい音が道場に鳴り響いている。
「ふん、無様だな衛宮士郎。これで貴様は今日十回は死んでいる」
「うるさい!もう一本だ」
それは、どこからどうみても剣の稽古だ。
「ちょ、ちょっと何してるの二人とも」
最悪、殺し合いの場面まで想像してたので口をポカーンとさせてしまう。
「…?、剣の稽古だが。それ以外の何に見えるのかね君は」
アーチャーの様子はいつもと同じだ。
「ああ、昨日は出来なかったから。遠坂も起こせばよかったか?」
士郎の様子もまったく変わっていない。
むしろ、二人の間に流れる空気はけっして良くはないが、マシになっているようにさえ思えた。
「ちょうど、凛が来てキリがいい。今日はここまでだ」
「ああ。遠坂、オレはちょっと朝飯を作ってくるから」
士郎は道場を出た。
一人残った、アーチャーに話しかける。
「ちょっと、アーチャーどうしたのよ?」
昨日が昨日のことだったので、何か企んでるのかと疑ってしまう。
「…別に、そういう生き方も選べたのかと、少し見直しただけだ」
あっ、やばい。また、昨日の顔になってる。
「そのことはいい。それよりも、凛。切り札は完成したのかね?」
アーチャーは明らかに、話を変えようとしていたのには気付いたが、私もそれに乗ることにした。
「あっ、まだよ。だけど、骨組みは完成しているから、今夜中に投影を行うわよ」
「了解した」
これでもかというほど、いつもどおりのアーチャー。
こっちとしても、その方がやりやすいんだけど、もうちょっと何か態度に出てもいいんではないか?
こっちは、その…はっ、初めてだったんだし、もう少し気の使いようというものがあるだろうに。
「それでは、凛。私は屋根で見張りに戻る」
アーチャーは言い終えると、歩いて道場の扉を開けた。
…さてと、私も気を取り直さないと、まずは朝食だ。
そうして、私も道場から出ようとするとアーチャーはまだそこに立っていた。
「どうしたの?」
アーチャーはこちらに振り返って笑顔で言った。
「言い忘れたことがあってね、……凛、可愛かったよ」
とんでもないことを言うと同時に霊体化した。
せっかく冷めたはずの頭が再沸騰する。
というか、蒸発しかける。
「っ…!」
完全な不意打ちだ、アーチャーの奴め!
ふらふらしながら食卓に向かう。
…いや、やっぱりまた顔を洗おう。
熱くなった顔を水で再び冷やしに行った。
屋根に上ったアーチャーはふらふらしている主を微笑ましく見ていたが、瞬時に気分を入れ替える。
桜の部屋にはライダーの気配が感じられる。
昨日の今日のことだ、もう部屋から離れる気は無いのだろう。
あの小僧が桜を殺せなくなったいま、アーチャーに打つ手は無い。
ここで見張りを続けるのみだ。
そして、アーチャーは昨日のことを思い出す。
何があっても桜の味方をすると、あの少年は言った。
その何の迷いも無い姿にアーチャーは激怒し、そして何よりも嫉妬した。
自分は、一度も自分の気持ちで人を救ったことなど無い。
ただ、憧れていたものに近づくために、理想のために動いてきた。
だが、あの少年は他のたくさんの誰かよりも桜を選んだのだ。
それは、かつてのエミヤシロウの理想である正義の味方なんかではない。
ただ、自身の気持ちで桜の味方を選んだのだ。
…その時点で、この身とあの少年は完全に別人となってしまった。
アーチャーが自らの手で殺したかったのは、愚かであったかつての自分自身。
ゆえに、別人となってしまったあの少年を殺すことはただの人殺しだ。
それに、気付いたときアーチャーは自身が完全な道化であることが分かった。
選べたのだ、オレも他の道を選べたのだ。
だが、もうそれは過ぎ去ってしまったこと、この身はどうあろうと守護者の枠から外れることは無い。
それゆえに、昨日の夜は失態を見せてしまったが、気持ちは凛のおかげで落ち着いた。
あの少年が、桜の味方をするというのなら、自分も今までの生き方を通すだけだ。
間桐桜が正気でいられるのは今日で最後だろう。
凛は魔術師だ、本心はどうあれ殺すことを選択するだろう。
そして、その考えは私も変わらない。
一人を殺すことで、何人もの人が救われるなら迷わず成し遂げる。
だが、あの小僧は最後まで桜を守ると言っていた。
…どちらにせよ、対立するということか。
そんなことを考えていると、衛宮士郎が玄関から走っていく姿を見かけた。
何を考えているか分からんが、放っておくことにした。
朝食を桜の部屋に持って行く途中、士郎が家から飛び出したのを見た。
「あの、馬鹿!何を考えてるのよ」
士郎が何を考えてるかは知らないが、まずは桜だ。
「桜、入るわよ」
返事は無い、気配からして眠っているのだろうと思った。
「ちょっと、外に出てくるけどおとなしく眠っているの…」
そう言いかけて、
「……やられた。やってくれたわね、桜」
部屋に間桐桜はおらず、ベッドに横たわっているのは別の人間だった。
「…見下げ果てたわ、ライダー。サーヴァントともあろうものがベッドで主人のフリをしているなんてね」
ベッドにいるのは桜ではなくライダーであった。
状況を理解したアーチャーが屋根から降り、凛の前で実体化する。
「…すまない、凛。どうやら明け方にはすでに入れ替わっていたようだ」
普段ならアーチャーが家から出る桜を見逃すはずがないが、…まあ、今回は仕方ない。
「サクラは自分が帰ってくるまで、あなたたちを外に出すなと」
凛は舌打ちする。
ここをアーチャーに任せて自分は桜を追いかけようかとも考えたが、もう間に合わないだろう。
ならば、桜が帰ってくるまで待つしかない。
「ほんと、頭きた。一人じゃ出来ないからあいつが助けようとしたのに、結局一人で解決しにいくなんて」
「抵抗しないのですか、意外ですね」
「無駄なことはしない主義なのよ、今から行っても手遅れだろうし、それよりもライダー」
ここで一旦、凛は言葉を切った。
「言っておくけど、あの子はもう帰ってこない。…いいえ。帰ってきたところで、私たちの知ってる間桐桜ではなくなってるわ」
冷え切った声で、魔術師は最悪の結末を口にし、弓兵は避けれないこれからの顛末に拳を握り締めた。
あとがき
皆さんのレスで一喜一憂してしまいました。
この話を考えたときにはすでにこういう展開を考えていたため、自分としてはなんでもないようなつもりだったので、皆様の反応にびっくりしてしまいました。
これまで、毎日、更新してきましたが、もうすぐテストが近いので、しばらくは更新が延びると思います。
テストが終わったらまた書き始めますんで、見捨てないで下さい。
意見、感想はドキドキしますがお待ちしております。