~光明~
【リリ】
アタシとルルが駆け出すと、斜め前を銀髪の同い年くらいの少年がスケボーですいすいと進んでいた。道具を使われたって勝ってやろうじゃんか、そう思って少年から距離を離されないよう走っていると、少年に向かって誰かが喚きだした。
「おい、ガキ! 汚ねーぞ! そりゃ反則じゃねーか、オイ!!」
声の方をみると、黒いスーツをネクタイまでびっちり締め、サングラスをかけたオジサンがいた。確か、一番最後に入ってきた3人組の一人だ。銀髪の少年は自分に向かって喚いているのに気づいたのか、オジサンの方を見ると、あっけらかんと言った。
「何で?」
「何でって、おま……。こりゃ持久力のテストなんだぞ!」
そうオジサンが返すと、3人組の髪のツンツンした少年が「違うよ」と否定した。
「試験官はついて来いって言っただけだもんね」
「ゴン!! てめ、どっちの味方だ!?」
アタシはツンツンの少年、改めゴン君の言うことが正論だよなぁ、と考えながらも走る。すると、3人組の残りの一人、サラサラの金髪で中性的な容貌をした人が極めて冷静に言った。
「どなるな。体力を消耗するぞ。何より、まず、うるさい。テストは原則として持ち込み自由なのだよ」
その人の言葉にうんうん、と頷いていると、どうやら金髪の人とオジサンに存在に気付かれたようだ。アタシを見て、そのままぬいぐるみを抱えたまま走るルルの方へ視線を移動し、その容貌を見て目を丸くした。とりあえず、適当に「こんにちは」と挨拶しておく。ルルも続いて「こんにちはー」と満面の笑みで挨拶した。と、銀髪の少年がゴン君をちらっと見遣り、「ねぇ、君。」と声をかけた。ゴン君が自分を指差すと、銀髪の少年は軽く頷き、聞いた。
「年、いくつ?」
「もうすぐ12歳!」
「……。ふーん」
銀髪の少年がわずかに目を細め、何か思案するようにしていた。そして、決心がついたのか、「やっぱオレも走ろっと」っと、スケボーを頭上まで蹴り上げ、片手でキャッチした。「おーっ」とルルが目をキラキラさせながら声を上げる。声に反応したのか、銀髪の少年がこちらを見て同じように歳を聞いてきたので、答えておく。ルナ辺りに聞くと、「女性に歳を聞くなんて礼儀知らずよ」なんていうのだが。
「アタシは13歳」
「ボクは12歳ー」
同じくらいか、とボソッと言ったあと、銀髪の少年は隣を走るゴン君に向かって言った。
「オレ、キルア」
「オレはゴン!」
そして、ちらりと僅かに後ろを走るアタシ達を見遣ったので、
「アタシはリリ」
「ボクはルルなのー」
と、二人で声を返しておく。キルアは、へー、とかどうでも良さそうな声を出しながら、今度はオジサンの方へ声をかけた。
「オッサンの名前は?」
「オッサ……これでもお前らと同じ10代なんだぞ! 俺はよ!!」
「「「ウソォ!?」」」
アタシとゴンとキルアは同様に声を上げた。嘘だ、その容貌で10代って……ってか同じにされたくない。そんなことを思っていると、
「あーーー!! ゴンまで……!! ひっでー、もぉ絶交な!!」
なんて、大人げない叫びを聞いた。っていうか、名前なんて言うんだろ、って思ってたら、ルルが代弁してくれた。
「えーっとぉ、オジサンのお名前はぁ?」
「オジサンじゃなくて、お兄さん!! だろぉが!! ……ってスマン! いきなり叫んじまって」
ちょっと余計なことまで言ってしまったので、勢いをそのままにオジサン……もとい、オニイサンはルルに向かって叫んでしまい、結果、ルルは元からまん丸な瞳をさらに丸くしておどろいてしまった。その様子を見て少しはオニイサンの怒りは収まったようだが、今度は知らない少女にどなり散らしてしまった事に罪悪感を持ったのか、物凄く慌てていた。しかし、結局名前はわからなかった。そんな中、この馬鹿騒ぎを知らんぷりしようと金髪の人は少しペースを上げて走って行ってしまった。
走り出してから3時間程がたった頃、アタシ達は相変わらず最後尾を走っていた。なぜなら、あの肉と汗の集団に埋もれて走る勇気がなかったから。アタシとルルはこの程度なら全然疲れはしない。追いかけっこというより、散歩に近い感覚。ゴンとキルアもそうみたいだった。でも、そんな中、オニイサンのペースが段々と落ちていく。ゴンに「大丈夫?」なんて聞かれてサムズアップしてたけど、全然平気そうじゃない。ルルも「お兄さん、だいじょぶー?」って聞いて、それに答えるようにサムズアップ、しようとした手が上がらない。最初の脱落者はオニイサンかな? そう思いながらもアタシは走り続けていたが、オニイサンの歩みが一歩一歩重くなって、仕舞いには止まってしまったのを見た。その様子を見たゴンが、「レオリオ!」と叫ぶが反応する様子はない。そこでアタシは初めてオニイサンの名前がレオリオだと知った。まぁ、走り疲れてギブアップなら怪我もないし安全だ。オニイサン……改め、「レオリオ、君の名前は忘れない」と心にもないことを思いながら走り直そうとしたのだが、レオリオが何か呟いたのが聞こえた。と、その数瞬後、
「絶対にハンターになったるんじゃーーー! くそったらー!!」
そう叫び、必死の形相で奇声を発しながらも気合で再び走り出し、アタシ達を追い越して行った。並走していたレオリオが急にスピードを上げたものだからルルはぽかーんとしながら走っていたが、「あ、お兄さんの荷物……」と後ろを振り返る。アタシがアタッシュケースが落ちているのに気付くのと同時に、ゴンが釣竿を振った。そして、見事に針を取っ手部分に引っ掛けるや否や、ぐんっと引っ張ってキャッチした。「おおー」とルルが目をキラキラさせているのがわかる。きっと、アタシの目も輝いてる。キルアが言った、「おー、かっこいい」という台詞まんまがアタシの心の中で叫ばれた。キルアが後でそれやらせてよ、とか言ってるが、アタシもやってみたい。ゴンがキルアに「スケボー貸してくれたらね」って言うのに言葉が被さって、「アタシにもそれやらせて」ってお願いしたのは間違いじゃないはずだ。ただ、「リリは何貸してくれるの?」って問われて、コンバットナイフしかないことを言ったら難しい顔をされた。
その後は各自バラバラのペースで走っていた。アタシは未だに肉と汗の塊に突っ込む勇気が出ず、ルルと二人で最後尾の辺りを走っていた。ゴンやキルア、金髪の人とレオリオは多分結構先を走っているだろう。まだ暫くは最後尾で走っていようと思っていた時、よくわからない三人組が絡んできた。
「ヘーイ、お譲ちゃん達。偉くゆっくり走ってるみたいだけど大丈夫ー?」
「やっぱり嬢ちゃんには無理なんじゃねーの?」
「帰ってパパに安心させたげなよー」
どうやら、アタシ達がへばって最後尾まで落ちたと思っているようだった。3人の顔を見てみると、どことなく共通点が見える。兄弟か何かなのだろう。ふと見ればナンバープレートも197~199と並んでいる。しかし、こいつらは大した実力もないくせにアタシ達を揶揄してくる。少しイラッとしたので逆にからかってやろうと思い、ルルに話しかけた。
「肉と汗の塊に突っ込むのは正直勘弁だけど、こいつらうざったいから振り切るよ?」
ルルはぼけーっとしたままコクンと頷いた。どうやら、ペースが遅すぎて意識は夢の中だったらしい。そのことに苦笑しながら、3人組に言い放った。
「冗談は顔だけにしといで。まぁ、次に顔見るのはいつかわかんないけどね。とりあえず……」
バイバイ、そう言葉を出したところで全力で地を蹴って走り出す。一歩で頭一つ分抜き去り、二歩でさらに倍の距離を飛ぶように行く、三歩目を踏み出すころには彼らの姿はもう1センチ位の大きさになっていただろう。おそらく、彼らにはアタシ達が消えたように見えただろうと思う。全力で20歩程行けば、もう周りは肉と汗だった。こうなれば逆に先頭を走った方がいい、そう思いそのままの速度で走っていくと階段が見えた。肉の壁を避けながら5、6段飛ばし位で駆け上がっていると、なぜかネクタイを残したまま上半身裸のレオリオと金髪の人が並んで走っているのが見えた。スルーするかどうするか迷いながら、まだ金髪の人の名前を聞いてない事に気づき、話しかけることに決めた時、金髪の人の声が鼓膜に響いた。
「緋の眼。――クルタ族が狙われた理由だ」
ちょうどそこで、金髪の人と並んでしまい、気付かれた。いつの間にここまで? とそう聞かれたが、ちょっと全力で走った間です、と答えると金髪の人が苦笑した。そして、どこまでもマイペースなルルは「お名前なんて言うのー?」とか、いきなり聞き出した。少し重い空気だったにも関わらず。それでも金髪の人は律儀にも答えてくれた。
「ルルとリリ、だったかな? 申し遅れてすまない。私はクラピカだ」
「そっかぁ、クラピーね。クラピーもレオリーもよろしくー。お名前わかったからボク達は先行くねー」
どこまでも空気が読めないルルに愕然とした。しかし、壊してしまった雰囲気から抜け出すのに好都合だったので、アタシもルルに合わせて、「また後で」そう短く言って、逃げるように全力で階段を上って行った。
おそらく、最後尾からもう300人以上は抜いただろう。奇術師やら針男やらの視線を途中で感じたが、完全に無視してひたすら階段を上った。肉と濃くなるばかりの汗の匂いも振り切り、ようやく試験官のサトツさんの後ろに着いた時、そこにはゴンとキルアがいた。二人ともアタシ達の姿を見た途端驚いていた。
「ルル!? リリ!? お前ら最後尾にいたんじゃねーのかよ!?」
「ん、まね。ただ時間制限あったりしたら危ないっしょ? だから急いでここまで来たんだよ」
「……にしては汗の一つもかいてねーじゃんか」
「これでも体力に自身あんの」
「つか、リリは納得するにしても、ルルも一緒にだろ!? 見た目とのギャップが……」
「キルキルー、人を見た目で判断しちゃめーなんだよー」
「二人とも凄いや!」
「そういうゴンもキルアも一番前にいるじゃんか」
「まぁな。だってペース遅いんだもん。こんなんじゃ逆に疲れちゃうよなー」
確かにそうかもねーと相槌を打つアタシとは裏腹に、ゴンは少し汗をかいて無言だった。ってかキルキルってなんだよ、なんて呟きが聞こえた気がするけど気にしない。
「結構ハンター試験も楽勝かもな。つまんねーの」
試験官の真後ろにいるにもかかわらず、キルアはそんなことを宣った。心証悪くなるぞ、とは心の中の弁である。そんな中唐突にゴンが切り出した。
「キルアは何でハンターになりたいの?」
「オレ?」
別にハンターになんかなりなくないよ、そんな更に心証を悪くする言葉を言いながら続ける。
「ものすごい難関だって言われてるから面白そうだと思っただけさ。でも、拍子抜けだな」
そのまま「ゴンは?」と問いかける。
「オレの親父がハンターをやってるんだ。親父みたいなハンターになるのが目標だよ」
「どんなハンター? 親父って」
「わからない!」
キルアの目が点になった。――そういえばアタシもリクがどんなハンターなのかは知らない。泥棒もするハンターってなんだろう? 疑問に思った時、キルアが笑った。
「お前、それ変じゃん!」
「そお?……オレ生まれてすぐおばさんの家で育てられたから、親父は写真でしか知らないんだ。でも、何年か前カイトっていう人と出会って、親父のこと色々教えてもらえた。色んなことに貢献してて、トリプルハンターと比べても遜色がない位なんだって」
「それってすごいことなのか?」
「ううん、わからない。ただ、カイトは自分のことみたく自慢気に、とても嬉しそうに話してくれた。それを見て思ったんだ」
純粋な瞳を輝かせてゴンは言い切った。
「オレも親父みたいなハンターになりたいって」
ゴンの純粋な瞳に吸い込まれそうになった、いや、もうすでに引き込まれていた。強く太い志をこの歳でもうドンと自分の中央に置いているのだ。それに比べてアタシは目標なんかなかった。ただ、ハンター試験を受けて来いと言われて受けに来ただけ。ハンターになって何をするのか、何ができるのかまで考えていなかった自分がとてつもなく小さく思えた。
でも、とアタシは思った。この試験中、それが無理だとしてもハンターになって世界を見つめたら、アタシにもきっと――。
その時、光が見えた。ようやっと、この薄暗いトンネルから抜けられる。「ふう、ようやくうす暗い地下からおさらばだ」そんな呟きが聞こえたが、今はただ目の前の景色を見つめるだけだった。
「ヌメーレ湿原、通称”詐欺師の塒”。二次試験会場へはここを通って行かねばなりません。
この湿原にしかいない珍奇な動物達、その多くが人間をもあざむいて食糧にしようとする狡猾で、貪欲な生き物です」
一次試験官サトツさんは、受験生たちを見渡して言った。
「十分注意してついて来てください。だまされると――死にますよ」
~後書き――という名の反省~
今回を書いていて思い出しました。
”私は要約が苦手です”
ほとんど、原作コピペみたいなもんですねー
オリジナル要素が薄っぺらー
後々のためにアモリ3兄弟のプレート番号と顔一致させましたー
こんな駄文ですみません・・・orz
よろしければご感想頂けたら嬉しいです。