~必然の再会~
【リリ】
トンネルを出たところは小高い丘になっていて、視界いっぱいに広がる湿原を見ることが出来た。相当に広く、おそらくこの後もサトツさんの後ろを付いて行くことは確かだろうが、どれだけの距離を走らされるのか、見当もつかなかった。アタシがそんなことをつらつらと考えている間にもサトツさんの説明は続いていたが、アタシには距離や危険度よりも重要な問題があった。ルルのことである。ルルは無類の動物好きであるから、この湿原に生息する生き物達に興味を示さないはずがない。どうやって、ルルの動物への興味を外そうかと思案していた時、声が聞こえた。
「ウソだ! そいつはウソをついている!!」
思考を一旦中断し、そちらを見れば、そこかしこに怪我を負った短髪の男の人がいた。ついでに見れば、いつの間にかトンネルの出口はシャッターによって閉じられていた。
「そいつはニセ者だ! 試験官じゃない! オレが本当の試験官だ!!」
そう言って彼はサトツさんを指差したが、いかんせん彼はどうにも強そうには見えない。試験官は時に受験生による妨害行為なども受けるから、それに対応できる実力があってしかりなのだ。サトツさんのように。アタシは冷ややかな目で彼を見ていたが、周りでは疑心にとらわれている人たちもいた。と、彼が、左手にぶら下げていた何かを皆に見えるよう引っ張り出し「これを見ろ!!」と言った。
「ヌメーレ湿原に生息する人面猿!! 人面猿は新鮮な人肉を好む。しかし、手足が細長く非常に力が弱い。そこで自ら人に扮し、言葉巧みに人間を湿原に連れ込み、他の生き物と連携して獲物を生け捕りにするんだ!!」
それは舌をダランと垂らし、犬歯が鋭くとがった、まさしく人面猿だった。へぇ、そんな動物がいたんだ、などと考えながらもルルの方を見る。しかし、ルルは人面猿には興味がないらしく、ぬいぐるみで遊んでいた。アタシは彼の言葉を右から左の状態だったが、彼がトドメとばかりに言葉を放った。
「そいつはハンター試験に集まった受験生を一網打尽にする気だぞ!!」
その瞬間、どこからか飛来したトランプが彼に突き刺さった。あろうことか、ただのトランプであろうそれは、その半ばまで彼の頭に深々と突き刺さり、呻き声をあげながら彼は仰向けに倒れた。おそらく即死だろう。そして笑い声が聞こえた。そちらを見れば奇術師のあの人だった。トランプを弄りながら笑い、なるほどなどと言っている。やはり、アイツは相当にヤバい。と、今はもう亡き彼の引きずっていた人面猿が飛び去っていくが、奇術師が再びひょいとトランプを投じると後頭部へ突き刺さり、ピクピクと痙攣をしたのもつかの間、人面猿は動きを止めた。ニセ者呼ばわりされたサトツさんの方を見れば、飛来したトランプを事もなげに受け止めていた。やはり、ただ物ではないらしい。その後、奇術師が色々と説明していたが、要約すれば、試験官はプロハンターが無償で任務に就くものらしく、それなりの実力があって当たり前、といったところだろうか。特に興味のある話でもないためしっかりと聞くことはしなかった。
そんな遣り取りが終わろうとした時、バサバサと羽音を発てて試験官と言い放った彼の亡骸へ鳥達が群がっていく。
「あれが敗者の姿です」
サトツさんは事もなげに言う。そう、この世は所詮、弱肉強食だ。負けて命があるなどどいったことの方が珍しい。それは幼少期、少年兵として過ごしてきた時からわかっていた。今まではリクという強者に守られていたアタシだが、最低でもこの試験中は強くあらねばならない。ルルも同じだ。ルルは決して弱くない。少なくともアタシ以上には。いつでもぽやぽやしたマイペースを崩さないが、ルルはそのままでも十分に強いのだ。試験中に知り合った彼等はアタシがルルを守っているとでも思っているだろうが、実際のところは、ただ単にアタシが主導権を握って動いてきただけなのだ。彼らもいずれルルの強さに気づくだろう。
そんなことを考えていたら、いつの間にかサトツさんは走り出していたので、慌ててルルを引っ張り走り出した。
しばらく走ると、見知った銀髪と、ツンツン頭が見えたので「やほ」と声をかけると、ゴンから「あ、リリにルル!」と返ってきた。周囲は霧に覆われ始めていた。霧はまだ気にするほどのものでなかったが、後ろから感じる殺気に背筋がぞくりとするのがわかった。ルルのぬいぐるみを抱く手にも力が込められているのがわかる。と、キルアが声をかけてくる。
「ゴン、リリ、ルル、もっと前に行こう」
「うん、試験官を見失うといけないもんね」
「いや……そんなことよりヒソカから離れた方がいい」
「ヒソカってあの奇術師?」
そうアタシが問うとキルアが頷く。ゴンは僅かに首を傾げる。どうやら、この殺気に気づいていないらしい。アタシが話そうとしたところで、キルアが口にする。
「あいつ殺しをしたくてウズウズしてるから。霧に乗じてかなり殺るぜ」
言うと、ちらりとヒソカの方へキルアは視線をやった。ゴンは何がなんやらわからない様子だ。キルアは微笑みながら言う。
「なんでそんなことわかるのって顔してるね。リリはわかってるみたいだけど」
アタシはニヤリと笑い。そして、キルアは目つきを僅かに厳しいものにしながら続けた。
「なぜならオレも同類だから。臭いでわかるのさ」
ご丁寧にもくんとキルアの匂いを嗅ぎながらゴンは言った。
「同類……? あいつと? そんな風には見えないよ」
「それはオレが猫被ってるからだよ。そのうちわかるさ」
そうキルアが答えると、半信半疑の様子でゴンはふーんと言い、くるりと首を後方へ向け叫んだ。
「レオリオ―! クラピカー! キルアが前に来た方がいいってさー!!」
アタシは緊張感のないゴンの様子に殺気のことも忘れて噴き出してしまった。その後も大声でのやり取りが聞こえたが、聞こえないふりをして黙々と走る。霧は一段と濃くなっていった。
そのまま走り続けて30分程だろうか。後方から悲鳴、怒声、様々な声が聞こえ始めた。ゴンはどうやら、クラピカとレオリオのことが気になるようで、チラチラと後方を注意を向けながら走る。先程から呼んでいるキルアの声にもなかなか気付かなかった。
「ゴン!!」
「え? 何?」
一段と大きな声でキルアが呼びかけると、ようやっと気づいたようだ。
「ボヤっとすんなよ? 人の心配してる場合じゃないだろ」
「そだよ、ゴン。ほら、周り見てみな。霧が濃くなって前を走る人だって霞んで見えてんだよ? 逸れたらアウトだって」
そうキルアとアタシが声をかけると、「うん……」と返事はしたものの、やはり後方の二人が気になるようで表情はすぐれない。
キルアが、「せいぜい友達の悲鳴が聞こえないよう祈るんだな」と、そう言った時だった。
「ってーーー!!」
数多の悲鳴に混じって、おそらくレオリオだろう声の悲鳴が届いた。その瞬間、「レオリオ!」と叫び、キルアの制止も聞かずに、ゴンは後方へと走って行ってしまった。
その様をただ見送ることしか出来なかったアタシとキルアはため息を吐きながらも、ゴンを追いかけることもせず、顔を見合わせると、「行くか」とどちらからともなく言い、試験官の後を付いて走って行った。
「ところでキルア?」
「ん? なんだよリリ」
「同類ってどういうこと? アンタも殺人狂だったりするわけ?」
「んなわけねーだろ! ただ、家庭の関係でね」
「ふーん……暗殺家業とかか」
そう事もなげに言うアタシの顔をキルアはまじまじと見て言う。
「……お前変わってんな」
「まぁ、7歳位まで少年兵やってたし、その後は怪しい家族と樹海に囲まれてたからね」
「怪しい家族って……まぁ、オレも人のこと言えたもんじゃないけどさー。ちなみに家族って何やってんの?」
「よくわかんない。一応プロハンターらしいけど片方は泥棒とかもしてるらしいんだよね」
「ハンターで泥棒って、変わってんなぁ」
「お互い様っしょ」
「そだな」と笑いながら走って行く。どこかに行ってしまわないようにルルの手を握ったまま。
そうしてキルアと談笑しながらしばらく走っていると、いつの間にか木々が増え始めた。どうやら湿原を抜けたらしい。「おい、あれ」と、キルアが指差す方を見れば、急造の非常に大きなプレハブ小屋が見えた。と、小屋の前に着くと一次試験官のサトツさんから、無事第二試験会場に着いたことが告げられた。
ビスカ森林公園、それがどうやら二次試験会場らしい。森から浮いた大きなプレハブ小屋からはどこかで聞いたような猛獣の唸り声のようなものが聞こえてきていた。
二次試験開始時間の正午を、キルアとルルと待っていると、レオリオを肩に抱えたヒソカが見えた。先刻までの殺気は消えていたので、とりあえずは放置しておいた。それから数分後だろうか、一体どうやってここにたどり着いたかはわからないが、ゴンとクラピカが到着し、レオリオの方へ寄って行った。それを見て、アタシ達はゴン達の方へ近づいていく。と、ゴンの疑問の声が聞こえた。
「ところで、どうしてみんな建物の外にいるのかな」
「中に入れないんだよ」
「入れないのー」
そうキルアとルルが返すと、ゴンはこちらに気づき、声をかけてくれた。しかし、それにしても……
「どんなマジック使ったんだ? 絶対もう戻ってこれないと思ったぜ」
キルアがアタシの気持ちを代弁してくれた。うん、そうそう。アタシもそれが気になったんだ。などと言っていると、信じられない答えが返ってきて、思わずキルアと二人、大声を上げてしまった。
「「香水の匂いをたどったーーー!?」」
ありえない、一体どんな嗅覚してるんだろう、そう思ったが、ルルは「ゴンちゃは凄いねー」などと純粋な賛辞を送っていた。
そうして人数の増えた集団でがいがいわやわやしていると、どうやら、正午になったらしい。ついに建物の扉が開いていった。そして、アタシは有り得ない――いや、十分にあり得ることだったが完全に思慮の外だった――人たちを見たのだった。
扉の開ききった建物にいたのは、相変わらず線香花火のように黒髪をくくった女性――メンチと、3メートル近い巨躯のずんぐりした男性――ブハラだった。
~~後書き――という名の言い訳~~
どうも今晩は。ようやく一次試験が終わりました。
おそらく二次試験はちゃっちゃと進むと思います。
今のところヒソカと接触はまだ先、というところですね。
それにしても、原作を読んでいて思ったんですが、キルアがリオレオと呼ぶのもしょうがない位に名前の出てくる場面が少ない。
お陰様でなるべく不自然にならないよう、名前を知ってもらったり、知合いフラグ立てしてたりします。
今のところ、ゴンよりもリリの方がキルアとしゃべっていると思います。
オリキャラという実際はいない存在に原作主人公達の目を向けさせるのに難儀しながらも頑張ってます。
ルルが完全にリリの影になってますが、この話を完結させるための一番重要なピースだったりするので、いなかったことにはしないで下さい。
三次、四次、最終試験では順に株が上がると思うので。。。
感想頂ければ幸いです。
PVが15000位まで来てくれたのは嬉しいのですが、感想が少なくって作者はちょっぴり泣きそうです(笑)
それでは、失礼いたします。