~小休止~
【ルル】
ボクは今、三次試験会場へ向かう飛行船の中を探検していた。豆みたいな人に到着予定時間を教えてもらって、後は自由だって言われてすぐに、ボクとリリはシャワーを浴びに行った。たいして汗をかいたりはしてなかったけど、「乙女」として身嗜みに気を使うのは当たり前だ。そうルナ姉ちゃが言っていた。身体を丹念に磨いて、下着と服を着替えた。リリは相変わらずジャージ(今度は黒)で、ボクは丈の長いピンクのキャミソールにスパッツを履いて、その上に赤いパーカーを羽織った。リリと違ってボクは髪が長いから、ボクが髪を乾かしている間にリリはさっさと何処かへ行ってしまった。薄情者。でも、別にいつもリリと一緒にいるわけでもないし、これからの試験では別行動を取るかもしれないので丁度いいかもしれない。そう思ったボクはお気に入りのぬいぐるみを抱いて飛行船の中をうろうろしていた。
そうしてしばらく歩いていると、ゴンちゃとキルキルが二人でいるところを見つけたのでボクは声をかけた。
「ゴンちゃー。キルキルー。やっほー」
あ、ルル! とゴンちゃは元気よく返事をしてくれたが、キルキルは少し嫌そうな顔をしながら手を挙げただけだった。ボクはそんなキルキルにぶうと顔を膨れさせて不満を漏らした。
「キルキルってばどーして嫌な顔するのー?」
「……呼び方。どうにかなんねーの、ソレ」
「えー、キルキルはキルキルじゃんかぁ」
ボクが当然のことを言うと、キルキルは軽くため息をついた。そして諦めの色を顔に浮かべながら、しぶしぶ口を開く。
「あー、わかった。呼び方は別にもう気にしねーことにするよ。
……そういえばゴンと話してたんだけど、ルルの両親って何してる奴なの?」
「パパもママも知らないよー」
そう答えたら、二人とも目が点になっていた。なんかおかしなこと言ったかなぁ、とボクが考えているのを遮ったのはゴンちゃの声だった。
「知らないってどういうこと?」
「どういうことって言われても……」
ボクがなんて答えたらいいかうんうん唸っていたらキルキルが言った。
「リリは家族いるって言ってたぜ?」
「うん、リク兄ちゃとルナ姉ちゃとリリの3人が家族だよー」
「んじゃ、両親は?」
「ボクが生まれた時にママは死んじゃったみたい。パパは知らなーい」
あっけらかんと答えたボクを見つめながらキルキルが聞いてきた。
「んじゃ、そのリクって奴とルナって奴は?」
「んとねー、リク兄ちゃはボクを拾ってくれた人でー、ルナ姉ちゃはリク兄ちゃのいた家にいた人ー。
リク兄ちゃはとーっても強くって、ルナ姉ちゃはとーっても料理が上手なんだよぉ!」
ボクが満面の笑みを浮かべ胸を張ってそう答えると、なんだか少し呆れたようなキルキルの視線があった。うーん、と首を傾けているとゴンちゃが口を開いた。
「じゃあ、リリとは姉妹ってわけじゃないんだ」
「うん、そだよー。リリもリク兄ちゃに拾われてきたのー」
「あー、7歳位まで少年兵やってたって言ってたな、そう言えば。その時に拾われたってことか。でも、それじゃ、家族じゃねぇじゃんか」
「違うよー。ひとつ屋根の下で過ごしてたらそれは家族よって、ルナ姉ちゃが言ってたもん。だから、リク兄ちゃもルナ姉ちゃもリリも、ボクの大事な家族なのー」
ほっぺたを膨らましてそう言うと、ゴンちゃとキルキルが少しの間ボクを見つめていたかと思うと、急に笑いだした。「なんで笑うんだよぉ」ってボクが聞いても、キルキルは「お前ってガキだなぁ」なんて言いながら笑い続けるだけだった。
その後も三人でおしゃべりしていると、不意にキルキルがボクのぬいぐるみを凝視していることに気付いたので言ってやる。
「そんなに見つめたってぶんたはあげないよーだ」
アッカンベーをしてキルキルからぶんたを遠ざける。
「別にいらねーし! ってかぬいぐるみに名前つけてんのかよ、お前!」
「だってぶんたはボクの大事な友達だもん! なのにお名前なかったらかわいそうだよー!」
「……あっそ。つか、そのぬいぐるみ……ぶんた、ちょっと見してくんない?」
えーっ、と言いながらも仕方なくキルキルにぶんたを渡す。と、
「重っ! お前試験中ずっとこんな重いもん抱えてたわけ? つか、やっぱりそうだ。なんだよ、このぬいぐるみ。初め見た時から思ってたんだけど妙にリアル過ぎんじゃねーの!? 可愛らしさの欠片もねーじゃんか。爪まで作ってあるし、……げっ、牙まで」
「えー、可愛いよぉ。それに、ルナ姉ちゃのお手製のぬいぐるみなんだよー! そんな文句ばっかゆーんならさっさと返してよぉ」
「おい、ゴン。お前も持ってみ? ぬいぐるみにしてはありえねー重さだから」
ボクの抗議にも聞く耳持たず、キルキルはゴンちゃにぶんたを手渡す。
「うわっ! ホントに重いや! ルルはコレ持ったまんま一次試験走ってたんだよね? ルルってすごいや!」
「もう、いいからかーえーしーてー」
そう涙ながらに抗議したりして騒いでいた時に、よく知った声が耳に届いた。
「ルル! 一体どこ行ったかと思ったらこんなとこにいたんだね」
「あー、リリだぁ。ボクのこと探してたのぉ?」
「ん、まぁね。あ、ゴン、キルア。リリが迷惑かけなかった? ゴメンね」
そういって、ボクの方に歩いて来るリリ。二人の視線がそっちに向いた隙にぶんたを取り返す。「むしろボクの方がぶんた取られて迷惑してたよぉ」とリリに抗議するが、はいはいと言うだけで済まされてしまった。
リリが隣に立ち、そろそろ寝るよと声をかけてきた時だった。強い気配がリリの来た方からしたのでボクはすぐにそっちを見る。リリ、キルキル、ゴンちゃも同様だった。凄い速さで何かが通り過ぎた感じがして、気配とは逆の方を見た時。
「どうかしたかの?」
そう発するネテロのおじいちゃんがそこにいた。ボクがうんうんと唸っていると、キルキルが言う。
「素早いね、年の割に」
「今のが?ちょこっと歩いただけじゃよ」
ネテロのおじいちゃんとキルキルの間にピリピリとした空気が走っているのがわかる。キルキルが苛立ち交じりに「何か用?」と聞くと、退屈だから遊び相手を探していたというおじいちゃん。
「どうかな? ハンター試験初挑戦の感想は?」
その問いに、ゴンちゃは楽しいと答えたが、キルキルとボクとリリは退屈だと答えた。だって、お散歩して、豚さんと遊んでただけだもん。キルキルが行こうぜ、と声をかけてきたので、おじいちゃんにバイバイしようとしたら、
「おぬしら、儂とゲームをせんかね?」
なんて聞いてきた。ゲームに勝てばハンターの資格をくれるっていう提案と、ゲームってどんな楽しい事するんだろう、なんて興味やらなにやらが頭の中でぐるぐるしていると、おじいちゃんは続けた。
「この船が次の目的地につくまでの間に、この球を儂から奪えば勝ちじゃ」
その言葉と共におじいちゃんが視線でどうかな? って感じに聞いてくる。どうやら、身体を使ったゲームらしい。キルキルとゴンちゃはやる気たっぷりだったけど、ボクとリリはシャワーを浴びたばかり。「汗だくになりたくないからいいー」と言って、笑顔でおじいちゃんにバイバイと手を振ると、ボクとリリはその場を離れた。
一応、「乙女」に対する配慮がハンター協会にもあったみたいで、メンチさんとたまたま出会ったボクとリリは、二人部屋に案内して貰ってそこを借りることができた。部屋に入ってすぐにぶんたを抱えてベットに潜り込む。「休息は取れる内に取っておけ」というリク兄ちゃの教えがあったからだ。次の試験は楽しかったらいいなぁ、と、そんな事を考えているうちに眠くなってきたので、リリにおやすみを言って寝た。
到着時刻より前に起きたボクは、身嗜みを整え、到着を待った。でも、8時頃に到着と言っていたのに9時を過ぎても何の連絡もない。少し不安になったボクは、リリを置いて部屋を出て船の中を周った。けれど辿り着いた広間では受験生達がまだ眠っているのが見えたので安心し、部屋に戻ってリリとお話していた。
「こっから先は別々になるかもね」
そうリリが唐突に言ったが、ボクもそれは承知していた。
「リリ、落ちちゃめーだよぉ?」
そういうと、リリは笑って「ルルもね」と額を小突いてきた。それから暫くすると到着を告げるアナウンスが流れた。
ボク達受験生が降ろされたところはとっても高い円柱の建物の屋上だった。360度に渡って景色がよく見える。
試験内容は、制限時間の72時間以内に生きて下まで降りること。「どうやって降りるんだろうねー」と周りを見渡しながらリリと二人で歩いていたら、ガコンと小さく音がして、リリがいなくなっていた。
~後書き(という名の反省会)~
今回の分量は少なめ。作者的にも小休止です。
ぬいぐるみの名前は煙草を吸いながら考えました。
決して、セブンスターがブンタと呼ばれているからではありません。
内容についてはゴン、キルアとルルを絡ませ、仲良くさせることをメインに。
原作主人公達視線で物語を書く予定がないので、キルアやゴンがルルの事をどう思っているのかは不明瞭。
とりあえず、ゾル家までは一緒に行かせる予定なので友達レベルにしとかないといけなかったのです。
第三次試験ではルル視点、リリ視点の二つ視点で描く予定。
駄文ですがお付き合いいただきありがとうございました。
感想頂けると嬉しいです。
それでは、また。