~三次試験前編~
【リリ】
――まずい。そう思った時にはもう遅かった。つい先程までは、トリックタワーと呼ばれるこの塔の天辺をルルと二人で歩いていた。小高い丘に建てられたこの高い建物は非常に見晴らしがよかったため、アタシとルルは下に降りることよりも、まず、その景色を堪能すべく歩いていた。そうして、足もとに全く注意を払っていなかったのがいけなかったのだろう。天辺で踏んだ最後の一歩は見事に隠し扉と思われるところを踏み抜き、アタシはルルに何かを告げる間もなく塔の内部へと入ることとなってしまった。
「如何なる時にも周囲への注意と警戒を解いちゃあならない。例え眠りについている時でもね」
それは、リクに教えられたことの一つで、決して忘れていいものではなかった。あの森の中でサバイバル生活を送った時にそのことは痛感していた。にも関わらず、アタシはこうしてドジってしまった。自己嫌悪に陥りながらも、辺りを見渡す。部屋は4畳半程度の広さで、扉が一つ、さらに壁に取り付けられた机があり、その上には腕輪のようなものが一つ乗っている。どうやらタイマーのようだ。制限時間と同期して数字が減っているのだろう。扉に触れてみるがこのまま開く様子はない。仕方ないか、とタイマーを手首へ取り付けると扉が開いた。扉の先に伸びる通路を10m程進んだところに再び扉があったが、すぐに開いた。扉の向こうは広間になっているようだった。壁に何やらメッセージボードのようなものがあったのでそのまま歩みを進めると、ひとりでに扉は閉まった。ボードには次のような事が書いてあった。
『 勝ち残りの道
君達にはこれより数多の試練を受けてもらう
ゴールに辿り着くには5人の仲間と共に扉を開き
試練には一人ずつ挑まなければならない
しかし、例え一人になっても勝ち残る事が出来ればよい』
うーん……と少し考え、四角い広間を見渡す。アタシが通ってきた扉と並んで同サイズの扉が他に4つ。正面にはメッセージボードと天井近くにスピーカー。右側にひときわ大きな扉がある。メッセージから想像するに、アタシが最初に着いた部屋と同じような部屋が他に4つあり、そこから受験生がここへ集まり、5人揃ったところで何らかの連絡があるか、あの大きな扉が開くのだろう。ということは、受験生が5人集まるまではただ待つしかなさそうだ。ふと、タイマーを見る。残り時間を示すだろうディスプレイには【71:43:10】と表示されていて、その下には【1】と書いてある。……勝ち残りの道。ということはおそらくアタシが一番手になるのだろう。どんな試練が待ってるかなんてわかりはしないが、さっさと済ますにはアタシが一番手というのは都合がいい。しかし、人数が集まるにはまだ暫くかかるだろう。アタシがこうしてタワー内部に入ってしまったのは過失と偶然の重なりあった結果であり、実際扉を探すとなると時間がかかるだろう。そう思い、壁に寄りかかり、腰を落ち着けて待つことにした。そういえば、ルルはどうしているんだろうなぁ、とぼんやりと考えていた。
【ルル】
ボクはリリが消えた辺りを調べていた。そうすると、他と比べると明らかに長細い長方形の石がはまっているのに気付いた。でも、押しても全く動く様子がない。仕方なくリリのことはリリに任せて自分のことに集中することにする。きょろきょろと辺りを見渡していると、周りに気付かれないようしゃがんでいる人が見えた。そのままその人をこっそり観察してたら、その人が床の部分を押した途端にくるりと長方形の石の床が反転して、その人はそのまま中に入って行った。どうやら、ああいう仕掛けになってるみたいだ。足もとに気をつけながら進んで行き、さっきの人が降りた部分を調べてみると、リリが消えたところと同じように、長細い長方形の石はぴくりとも動かなかった。どこか適当な所を探して降りようかな、そう思った時にゴンちゃに呼ばれた。
「ルルー、どうやって降りるか分かった? 外壁を伝って降りるのは無理みたいなんだけど……」
「うん、たぶんだけど分かったよー」
マジで!? と、ゴンちゃと一緒にいたキルキルが叫んだ。そんなにお馬鹿さんに思われてるのかと、ボクは唇を尖らせた。そんなボクの様子もお構いなしにキルキルが口を開いた。
「で? いったいどうやって降りるんだ? あ、てかリリは?」
「んとね、長細い長方形の石が隠し扉になってるみたいー。リリは知らないうちに落ちちゃってたの」
へー、と二人が感心する。「どうだ、ボクって凄いだろ!」って言ったらキルキルはそれを無視してさらに聞いてきた。
「じゃあ、それがわかってんのになんでルルは降りないんだ?」
「んー、一度通ったところはもう通れないみたいなのー。それで、今ちょうど降りるとこ探してたの」
「そーゆーことか。じゃあ三人で探すか」
そだね、とボクとゴンちゃは同意して隠し扉の探索に向かったのだ。
で、とってもあっさりと扉は見つかった。それも5個も。密集してあったものだから、どれかは罠かなぁ、なんて三人で考えてたんだけど、そんな時にゴンちゃがクラピーとレオリーを見つけて呼んだ。二人に扉は一度しか開かないことと、この内のどれかは罠かも知れないことを説明して、どうするか聞くと、この5人で一人一つを選ぶことが決まった。罠になっても恨みっこなしで、いっせーので、みんな同時に入ることにした。レオリーが「地上でまた会おうぜ」なんて言った。もちろん、ボクも一人でだって地上まで到達してやる。そう覚悟を決めて、
「1……2の……「「「「3!!」」」」」
トリックタワーの中へ入った。
扉から抜けた途端床が見えたので空中で姿勢を変えてなんとか足から綺麗に着地。長く伸ばした髪がはらりと舞う。そして、辺りを見渡すと……頭から着地したレオリーと、ちゃんと着地したクラピー、キルキル、ゴンちゃがいた。結局同じ部屋に落ちる仕組みだったみたい。みんなで顔を見合すと、互いにてへへと笑った。クラピーとレオリーがなんか言い合ってるけど、それより気になることがあった。
「この部屋、出口ないねー」
部屋は全部石壁で、扉も何も見当たらなかった。そのかわりに、テーブルと何か書かれたボード。書いてあったのは、
『 多数決の道
君達5人は、ここからゴールまでの道のりを
多数決で乗り越えなければならない 』
テーブルの上にはタイマーと、○と×のボタンが付いた腕輪があった。と、部屋の隅にあるスピーカーからノイズ交じりの音声が聞こえてきた。
「ようこそ、トリックタワーへ。このタワーには幾通りものルートが用意されており、それぞれクリア条件が異なるのだ。
そこは多数決の道。たった一人のわがままは決して通らない!
互いの協力が絶対必要条件となる難コースである。
それでは諸君らの健闘を祈る!!」
それだけ告げると、スピーカーは何も言わなくなった。スピーカーが喋っている間にボクはせっせとタイマーを手首につけていた。
「それじゃあ、キルキル、ゴンちゃ、クラピー、レオリー、れっつごー」
ボクは腕輪をはめた手を挙げてそう言った。そうすると、みんな腕輪をつけ出し、全員がつけたと同時に石壁の一部がせりあがって扉が現れた。ボクが向かった方とは全く逆側だった。あはは、と笑いながら扉に近づくと、扉には、このドアを開けるかどうかマルバツで決めるように書いてあった。みんながボタンを押す。
そうすると、【○4 ×1】とドアに表示された。おおー、ちゃんとバツも反応するー、と一人で納得していると、レオリーが「誰がバツを押した?」ってちょっと怒った顔で皆の顔を見回していた。レオリー怖い……けど、ちゃんと言わなきゃダメだよなぁと思って言った。
「ごめんなさい。ボクがバツ押しましたー」
「っ! ルル! てめぇなんでバツ押すんだよ!?」
「だってさぁ、もしマルしか反応しなかったら大変だよー」
そうボクが言ったら、クラピーが「確かに、そういう可能性もあり得たな……」と呟いていた。レオリーも納得したようで、謝ってくれた。
そのまま歩き始めると、今度は分かれ道。右ならマル、左ならバツらしい。ボクは特に何も考えず、マルを押した。結果、【○3×2】で、右側の柵が空いたんだけど、またレオリーが騒ぎ出す。それに対してクラピカが色々説明してたけど、どうでもよかった。でも、ボクが早く行こうよー、って言ったら、レオリーが「ルルはどっち押したんだ!?」って聞いてきたから、「さっきバツ押したから今度はマル押したよぉ」って言ったら呆れられた。別にどっちだっていいじゃん、そう内心思いながらも先に進むと、真中に四角い闘技場みたいなスペースが浮いている部屋に着いた。下を覗き込んで見たけど、どれだけ深いのか分からなかった。そんなことをしていたら、レオリーに「危ねぇからやめとけ」って言われた。
ふと、視線を上げると、丁度反対側には5人のフードを被った人達がいる。じーっと見ていたら、おもむろにそのうちの一人がフードを取って言った。剃りあげた頭に傷跡が見えるオジサンだ。オジサンの言う事を要約すると、一対一で順番に戦って、三勝すればボク達は晴れて先へ進むことが出来るということだった。この勝負を受けるかどうかも多数決で決めるらしく、ボク達は皆マルを押した。一番手はあのオジサンらしい。ボクは皆に言った。
「ねーねー、ボクが最初でいい? っていうか最初じゃなきゃヤダー」
それを聞いたレオリーは、ぎゃんぎゃん喚いてきたが知らない。他人のペースに合わせるのって疲れるんだもん、と胸中で呟いていると、闘技場への道が現れたので急いで駆けて行く。
「おい、ルル! お前は危ねーから下がっとけ!」
「だいじょぶなのー。てか、もう着いちゃった」
橋がかかりきる前にジャンプして闘技場の上に立つと、心配して叫んでるんだろうレオリオの言葉に返事をして、てへっと笑った。
「リオレオ、大丈夫だって、ルルなら」
「あぁ!? キルア、どこにそんな保障あるんだよ!」
「オレもルルは大丈夫だと思うよ」
あー、ゴンまで!? と叫んでいるのが聞こえてきたが、ボクは目の前の男の人をじーっと見る。どこか優しげな表情な木がするのは気のせいだろうか。と、彼は口を開いた。
「さて、勝負の方法を決めようか。お譲ちゃんだからって優しくはしない。オレはデスマッチを提案する!!」
「んー、どっちかが死ぬまでなのぉ?」
「いや、一方が負けを認めるか、死ぬまで、だ。」
「うん、わかったー。ばっちこーい」
「……その覚悟、見事。では――」
勝負!! そう言って突っ込んできた彼に向ってボクも深く沈みこむように一歩踏み出す、と同時に片腕を取り片手でくるんと一本背負いのようにして投げ、うつぶせに地面へ叩きつける。そのまま掴んだ腕を極め、オジサンの体を足で踏みつけにして動けないようにする。あ、レオリーが唖然としてる。
「オジサン、どうするのぉ? 完全に死に体だよぉ?」
そう声をかけても、彼はなんとか抜けだそうともがいている。
「オジサンがボクより凄い力持ちならぬけれるかもだけどぉ、そうじゃないから足掻くだけ無駄だよぉ?」
それでも彼は足掻く。
「あのね、ルナ姉ちゃにね、無駄な殺生はいけません、って教わってるの。だから殺さないだけでいつでも殺せるんだけど……」
まだ、彼は足掻いている。むぅ、さっさと勝負つけたいのに。と、思いついた。これは個人戦じゃないんだった。ボクはレオリー達に聞こえるように言った。
「ボクが負けてもなんとかしてくれるー? この人凄いしつこいのー」
それを聞いた皆は何やら話し合っている。キルキルが「さっさと殺ればいいのに」って言っているのがちょっと聞こえた。そんなことより、さっさと結論を出してほしい。そして、硬直状態が10分程続いた時、やっと負けてもいいと言われた。ので、すぐさま負けを宣言したのです。
「あとはまかせたよ、みんなー」
【リリ】
アタシがこの部屋に着いてからもうすぐ2時間が経とうとしている。4人目までは意外と速く集まったが、皆覚えのない顔だった。途中、スピーカーからの音声で説明があったが、分かれ道に入った時は1番、もしくは一番番号の若いものが道を選び、一個一個の試練で勝ち残りを行うが、死なない限り全ての試練で1番から試練に向かうようだ。どちらにしても、妙な課題が出てこない限り、アタシが一人で片付けるつもりではあったから丁度いい。と、ようやく最後の扉が開いた。そこから出てきた人物は覚えている。
――外道の豚パだ。
~後書き(という名の懺悔)~
リリ視点→ルル視点→リリ視点 な感じですね。
三次試験、完全に流れを決めていたにも関わらず難産。
ありとあらゆる台詞や説明を省いていったら、省きすぎたのか、いまいち文章がまとまってない。
勢いで書きすぎたのかもしれないです。
と思って、投稿から30分程で改訂いたしました。
駄文ですが、感想頂けると嬉しいです。
では、また次回。