~三次試験終了、そして四次試験~
【リリ】
アタシは今、とてつもない疎外感を味わっていた。三次試験を10時間以内にクリアすることが出来た事自体はまるで問題がない。問題は、これから試験終了までの間を如何にして過ごすかであった。どうやらアタシ達は試験を早くクリアしすぎたようで、人は少ない。アタシと共に合格した4人は、最後の試練で見せたアタシの姿があまりにも印象的過ぎたのか、最後の扉を開けた瞬間に蜘蛛の子を散らすように離れていってしまってこちらを見ようともしない。とは言っても、此方から気さくに声をかけるつもりもなかったのでいいのだが。アタシはスタスタと歩みを進め、壁際に腰を落ち着けた。
次の合格者はいつ頃来るだろうか、それはアタシの知り合いだろうか、そんな事を考えながら辺りを見回していた時、奇術師と目が合った。合ってしまった。受験生の中で一番ヤバい奴だ。確か名前は――
「やぁ、はじめまして。ボクはヒソカ◆ 君の名前を聞いてもいいかな?」
そう、ヒソカだ。何故目の前にいる? 極力近寄らないようにしていたのに……。錯乱しそうになる頭をどうにかして冷静に保つ。
「構わないよ。アタシはリリ。ところで何か用?」
笑顔を顔に張り付けて、そう問う。恐怖心が溢れ出そうになるのを必死で堪える。
「用があるというわけじゃないんだけど、どうにも早く着きすぎてしまったようでね、暇なんだ◆」
そう言ってピエロは笑った。
「今まで他の子達を見ていたから気付かなかったけど、君も美味しそうだ◆」
「はぁ?」
つい、口に出してしまった。でも、美味しそうって一体何だ。わからない。言っていることも、コイツのことも。アタシの声が聞こえなかったのようにヒソカは言う。
「そうだ、時間もあることだし遊ばないかい?」
遊ぶ? 何をするつもりだ? ヒソカは笑っているが、それは張り付けたような笑みだ。警戒を最大まで引き上げる。と、おもむろに何かを取り出した。――トランプ?
「何にしようか? ババヌキか、ポーカーか……ご要望は何かないかい?」
一瞬で身体の力が抜けた。どうやら、本当にただの時間つぶしのようだ。そう判断した。
「じゃあ、ババヌキで」
「オーケイ。それじゃあ始めようか」
そうしてなし崩し的にヒソカとトランプで遊ぶことになってしまった。
あれから5時間程度だろうか、いまだ合格者が現れる気配はない。ヒソカとの勝負は案外面白かった。戦績は五分五分と行ったところ。最初に顔を合わせた時からすれば、明らかにアタシの緊張はほぐれていた。そのため、きゅうと鳴く腹の虫を諌めることが出来なかった。それを聞いたヒソカはおもむろに上を見上げ言葉を放った。
「食事とかは用意してくれないのかい?」
少しの間を置いて、ノイズ交じりの音声が聞こえた。
「君達のいる右側、7つ目の扉の中は個室になっている。自由に使ってくれて構わない」
簡潔にそう告げると、ノイズが止んだ。
「それじゃあ、行こうか、リリ」
「あんたに襲われたらたまったもんじゃないから一人で行くよ」
そう答え、立ち上がり個室へ入る時、「残念」と声が聞こえた気がした。
個室で料理を作って食べたり、シャワーを浴びたり、仮眠を取ったり、ヒソカとトランプをしたりと時間を潰していると、少しずつ合格者は増えていった。アタシは今か今かとルルを待ちわびていたが、一向に現れる気配がないまま残り時間は5分を切った。また一人と合格者が出てきたが、ルルは来ない。ゴンやキルア、クラピカにレオリオもだ。刻々と残り時間は減って行く。そして残り時間が一分になった時、新たに扉が開いた。そこから出てきたのはゴンとキルアとクラピカだ。ルルは? と三人に聞きに行こうと駆け寄った時、開いたままの扉からレオリオとルルが出てきた。どうやら、無事に合格したようで、安心した。ただ、5人とも服は汚れに汚れていた。
そして、制限時間が来ると同時に放送がかかった。
「タイムアップ! 第三次試験、通過人数30名!!」
【ルル】
ボク達がなんとか三次試験を通過すると、リリは少し不機嫌だった。話を聞くと、ボク達がいない間にヒソカにちょっとからまれたらしい。それはそれはご愁傷さまでした、って言ったら呆れられた。ボク達の受けた試練の内容を話していると、塔の外へ出るように指示されたので開いた扉から出た。久しぶりに空を見たなぁ、なんて思っていると、パイナップルみたいな頭をした人が次の試験についての説明を始めたのでおとなしく聞くことにした。とりあえずは塔を出た順にクジを引いていくらしい。ボクは最後から二番目に引いて、クジには【301】と番号が書かれていた。それからパイナップル頭の男の人が説明することには、自分のプレートが3点で、書かれていた番号の人のプレートが3点、それ以外の番号のプレートは1点で、これから向かうゼビル島での滞在期間中に6点分集めると合格になるらしい。301番といえばあの針の人だ。うーん、と考えたがどう考えても無理だと思った。と、船に乗るように指示がされたので船に乗る。ゼビル島に向かう船上はとてつもなく空気が重かったけど、ルルと一緒に少し離れたところで話をすることにした。移動すると、ゴンちゃとキルキルが見えたので声をかけた。
「ゴンちゃー、キルキルー、ターゲット誰だったぁ?」
そう呼びかけたら、キルキルに「アホ! 人にばらしてどうすんだよ」って言われた。確かにターゲットの人にばれたら面倒だなぁって思ったけど、ボクとリリのターゲットは二人じゃないから見せることにしたら、せーので見せっこすることになった。
ゴンちゃが【44】、キルキルが【199】、リリが【198】、ボクが【301】だった。キルキルがゴンちゃに、「お前クジ運ないなー」って言ったけど、ボクもそう思った。というかボクもクジ運悪いみたいだ。キルキルが自分のターゲットがわからないみたいだから、リリが教えてあげてた。
「199番は3人兄弟っぽい人の誰かだよ。アタシもそう。んで、ルルは針指してる男なんだけど……正直あいつから奪うより1点3つの方が楽だから、スタート直後にアタシがルルの分かき集めるつもりなんだ」
どうやらリリはボクの分を取ってきてくれるらしい。「ありがとう」って言ったら頭をガシガシなでられた。そうしているとゴンが震えてるのがわかった。キルキルもそれに気付いたみたいで口を開いた。
「うれしいのか、怖いのか、どっちなんだ?」
そうキルキルが聞くと、ゴンちゃは両方って言った。怖いけどやりがいがあるらしい。「頑張ってね」って応援したら笑顔で返してくれた。
【リリ】
キルアやゴン達と話してから少しして、目的のゼビル島に着いた。通過時間の早い順に二分置きにスタートし、滞在期間は一週間。上陸地点の目の前にはもう森がある。3点分一気に掻っ攫うには好都合ではあるが、二分置きというのは時間が短い。結構本気で動かないといけない。一人につき一分でカタをつける。そう決意し、アタシは島へ上陸した。
森へ入ってすぐ、木に登り、気配を完全に殺して上陸地点を見る。アタシの髪は森の中では目立ってしまうので、上陸前に黒のニットキャップを被っておいた。それから数十秒後、アタシの次の奴が島への一歩を踏み出し、此方から見て左の森へ入って行こうとするのがわかる。それと同時にアタシは動いた。今まで立っていた枝を蹴り、気配を消したまま目標の方へ一気に動く。枝から枝へ移動を繰り返すとすぐに目標が射程圏内に入る。と、同時に囮の石をアタシと反対方向の茂みへ投げる。相手が反応すると同時に背後へ着地し、振り向く間を与えぬまま首に手刀を一撃。それで目標は気絶した。服を、荷物を漁り、プレートを手にする。同時に最初にいた場所に急いで戻る。次の受験生はすでに上陸し始めていた。気配を消すのは忘れずに、観察。今度は右の森の方へ向って行くのがわかったので、先程と同様に一気に動く。相手はきょろきょろと周りを警戒しながら進んでいるが、問題ないと見てとり、枝を蹴り目標の背後へ。同時に首に手刀を一撃。こいつもあっさりと気絶してくれたので、急いでプレートを探し、手に取る。そして再び最初の場所へ。次の受験者がすでに左の森へ入って行こうとしているのが見えた。急いで後を追う。最初に倒した人を見つけたようで、慌てて周囲へ警戒をし始める。相手の注意を逸らすため、石を相手の右側の草むらに投げ込み、さらに左側にも放る。それと同時に相手の真正面へ。注意が分散していたところで急に現れたものだから、相手は反応が遅れた。行動を起こされる前に素早く顎に衝撃を加え、相手がふらついた隙に背後へ回り手刀一閃。相手は気絶した。急いでプレートを探し、手にすると同時に離脱する。保険の為にもう一枚手にして置きたかったが、さすがに時間がたりなかった。しかし、かなりの強硬策だったがなんとか成功した。上陸してまだ10分も経っていないが、アタシの手元には【311】【160】【73】の三枚のプレートがある。あとは暫く隠れてからルルと合流し、アタシのターゲットを捕らえるだけだ。
【ルル】
リリが出発してから1時間近く経って、ようやくボクは島に上陸した。最後の方の出発だから、誰かがボクを狙おうと隠れているかもしれない。ボクはかくれんぼの時のようにして周りに注意を払いながら、急いで移動する。ケータイを見ると、運のいいことにこの島は圏外じゃないみたいなので、リリに電話をかけた。
「リリー、今どこにいるのぉ?」
「今はとりあえず島に入った方から見て左側の森の中。ってか、GPS機能使って探した方が早いよ」
「あー、そっかぁ。じゃあ電話切るねー」
はいはい、とリリからの声が届いたところで電話を切って、GPSに表示されたリリの居場所まで駆けていく。キルキルとかゴンちゃとかにも会えるかなぁなんて考えながらも、気配を殺して移動すること30分。ようやくリリが視界に入った。リリはボクに気づいていないようだったので、こっそりとリリの背後の方に周ってから声をかけた。
「リリ、みーっけ!」
ボクが声をかけたらリリは素早く距離を取って構え、ボクの姿をちゃんと見た途端に溜め息をついた。
「まったく、本当にあんたは気配殺すのがうまいんだから……。焦っちゃったじゃないか」
「えへへー、リリをびっくりさせようと思ってー」
そう言って笑うとぽかりと頭をはたかれた。むぅ、ちょっとした悪戯じゃないかぁって文句を言ったら、さらにはたかれた。
「お馬鹿さんになったらリリのせいだからねー」
「ルルは十分お馬鹿さんだから変わんないって」
完全にばかにされてる。むぅ、とボクが頬を膨らせると、苦笑交じりにリリが何か手渡してきた。
「はい。これがルルの分ね」
「ボクの分? あー、リリもう三人分とったんだぁ」
プレートを三枚受け取ると、ボクはリリに笑顔でありがとうを言った。そしたら、別にたいして手間取ってないからいいんだよ、って返してくれたけど、ボクのために頑張ってくれたのはやっぱり嬉しかったから、もう一回ありがとうって言ったら、リリも笑った。
「そういえば、あんた服も何もかんもドロドロじゃない。水場探して、綺麗にしよう?」
そう言われて自分の身体を見ると、確かにドロドロだ。とりあえずはリリと水場を探すことにした。
~反省会(後書き)~
ヒソカの語尾のマークは再現するのが大変なので「◆」で代用。
今まではヒソカと関わり合いがなかったけれど、ヒソカに目をつけられてしまいました。ご愁傷様。
内容に関しては構想通りなんですが、文がいまいちかな、とか思ってたりします。
上陸直後の急襲は、プレートを持ち物以外の場所に隠す間もないから凄く有効な策だと思ってたんですよね。
リリの敏捷はハンゾー並な感じです。ルルも実はぬいぐるみを手放せばその位早く動けます。
改訂が入る可能性が高いですが、とりあえずは四次試験を進めていく方向で行きたいと思います。
感想頂けると嬉しいです。
それでは、また。