~20の身空でまた少女を拾う~
ヨルビアン大陸にはグラン国とスカ国という国がある。この二国間では戦争が行われていた。戦争が始まったのは10年程前。戦争を仕掛けたのはスカ国であるし、休戦を頑として受け入れなかったのもスカ国であった。それはスカ国の王の辞書に"勝利"の二文字のみがでかでかと書かれているからであり、スカ国はありとあらゆる国民を徴兵し、軍事力を保持していた。
【名もなき少女】
アタシはいわゆる孤児だった。しかも、生まれた場所が流星街の近くであったせいで戸籍も名前すらない。そんなアタシは3歳の時にスカ国に拾われ、拷問にも似た訓練を経て6歳の頃初めて戦場へと駆り出された。スカ国の軍事力からすれば、使えるものは使え、と少年兵も数多く存在した。アタシはその一員だった。
初めて戦場へ出た時は訓練の内容も忘れ、いったいどうしていいのか全く分からなくなってしまった。それでもアタシはその時、数人の敵国の兵士を殺し、生き延びた。本当に泣きながらフラフラしていたところに敵兵が警戒心なしにやってきたところで、頸動脈をコンバットナイフで掻き切ったのは微かに覚えている。
あれから約一年。アタシは泣きまねをしながら敵兵へ近づき、頸動脈を掻き切り、人を殺すことを続けてきた。しかし、圧倒的な兵力差から、近いうちにスカ国はグラン国に負けるだろうと、朧気に思っていた。兵糧も尽きかけているし、兵士の士気は下がる一方だったから。
そんな折、国王から大規模な戦闘を行うことが兵士達に告げられた。それはまさに死刑宣告にも等しいものであった。おそらく、自分の命もそこまでだろうと確信し、計画実行の日が来た。アタシが7歳になる数日前のことだった。
アタシはいつも通り、敵兵の一人を殺した。しかし、いつもと違ったのはそれを目撃した兵士がいたこと。失敗した、それは明らかな事実であったし、イコール自らの死を意味した。そいつの銃口がアタシへ向かってくるのがわかる。死に瀕した際、世界がスローモーションに見えるというどこかで読んだ知識が本物であることを知った。徐々に上がる銃口、そして、トリガーにかかる指。アタシは全て諦め瞼を瞑る。やけに時間が遅く感じる。まだ、まだ来ないのか?瞼の裏の暗闇を見つめ続けても銃声はしない。明らかにおかしい、と瞼を開くと信じられない光景を目にした。
兵士の銃が壊れ、兵士も壊れていた。そして、戦場に不釣り合いな、白いコートに黒いスラックスの男がそこに現われていた。
アタシが声を失っていると、男は澄んだ声で告げた。
「戦争は終わったよ。スカ国の王は死んだ」
微笑み交じりにそう告げた男は、まるで天使のようで…緊張の糸が切れたのか、アタシはそこで意識を失った。
目を覚ますとそこは見知らぬ天井だった。手入れを欠かしていないのだろう。きれいな木目調の天井が目の前にあった。そして、寝転がっている部分もフカフカして気持ちがいい。兵舎では木の床に薄い布を引いた上に寝ていたから違和感があるといえばあるが、やはり気持ちがいい。しかし、訓練の賜物か、すぐに状況を確認する。
真白いシーツ、着心地の良い服、誰が? 何の目的で? 錯乱する頭をどうにか落ちつけようとしたところで近くから声がした。
「おはよう。だいぶ眠っていたから少し心配したよ」
声のした方へ眼を向けると、薄紅色の髪と空色の瞳の男と目が合った。反射的に腰に装備してあるはずのコンバットナイフへと手を向けたが、それは空を切っただけだった。
「いったいアタシをどうするつもり?」
武器も何もない状態では、そう苦苦しげに言葉を吐くしかできなかった。何より、記憶を掘り返してみれば、この男がアタシを助けたのだろうことは明らかであり、何らかの目的でアタシを生かしたのだろう。しかし、男の返答はアタシの思慮の外だった。
「特にどうする予定もないかな」
アタシは盛大に出てくる溜息を止めることは出来なかった。代わりにいくつか質問することにした。
「スカ国の王が死んだっていうのは本当?」
男は何の戸惑いも見せずに頷いて肯定を示した。
「じゃあアタシはグラン国の捕虜ってこと?」
男は一瞬間の抜けた顔をしたが首を横に振って否定した。
じゃあいったいアタシはどうなったの?そう問いかける前に男が話し始めた。
「俺はスカ国に用事があってね、戦時中の街を通り過ぎようとしてたんだ。そうしたら、キミが殺されそうになっていたから助けた。それで、ここはスカ国とはかなり離れた俺の家。用事はあの後すぐに済ませたし、そんなことよりキミの容態が気になってね。なんともなくてよかったよ」
そう言って男は微笑んだ。
男の純粋な微笑みを見て「天使みたい」だと思ったのは間違いなかったことがわかった。が、
「なんで見ず知らずのアタシを?」
そう問わずには居られなかった。しかし、男は「なんとなくかなぁ」と斜め上を向いて頭をポリポリ掻いていて、アタシは思わず笑ってしまった。そんなアタシを見て、
「笑うとやっぱり子供らしくて可愛いね。そういえば、名前は?」
そう問われ、アタシの顔が沈んだのがわかる。少年兵としての番号は与えられていても、アタシに名前は、ない。そう男に告げると、彼はポカーンとして、何やらブツブツ言っている。このままでは埒があかないのでアタシの方から話しかけた。
「あんたの名前は?」
我ながら言葉使いが荒い気もするがこれが地なのだ、しょうがない。アタシが問いかけると思考から戻ったようで返事を返してくる、思いもよらない言葉とともに。
「俺はリク。キミの名前、俺がつけてもいいかい?行く当てがないなら俺が面倒を見てもいい。もう一人世話してる子もいるからたいして変わらないしね」
そう微笑まれた。アタシに…名前? それに世話までしてくれるなんて……、いいのかな……そんな……。
考えを読まれたのか、強引なのか、目の前の男、リクは言った。
「キミの名前はリリ、ね。リリ、これからよろしく」
~あとがき~
半分くらい書いたところでPCが勝手に再起動になって文章パー(ノω・`)
明らかに書きなおし前の方が良かったけどビール飲んだら忘れてしまったってゆー・・・
こんな駄文ですがお付き合いいただけたら嬉しいです。
感想とかきたらめっちゃ喜びます!
それでは、またの機会に。。。。