~乱獲~
【リリ】
ルルに水浴びをさせた後、アタシ達はひとまずそこを拠点にして開始より2日を過ごしていた。今のところ周囲に人の気配はないが、水場は拠点とするには絶好の場所であるため、人が来るのも時間の問題だ。しかし、猛獣溢れる樹海でかくれんぼをしていたアタシ達からすれば、要注意人物のヒソカと針男意外に奇襲を喰らうことはまずあるまい。逆に、返り討ちにしてやれる自信があった。しかし、今の状況をよくよく考えると、いささか面倒なことがわかった。
「ねぇ、ルル」
「んー、なぁに、リリ?」
「考えたんだけど、アタシ達って一点分のプレート3枚と自分のプレート1枚ずつ持ってるでしょ?」
「うん、そだねー」
「ってことはさ、もしかして最低でも5人からターゲットとして認識されてない?」
「えー、あー……うん、そうだねー。でも、それがどうかしたのぉ?」
「もし、ヒソカか針男のターゲットがこの内のどれかだとしたら、このままだとアタシ達合格ヤバいんじゃない?」
「どういうことぉ?」
「いや、もしヒソカか針男のターゲットがこの5枚の内のどれかだったら、そのプレートをあげて命は助けて貰っても、1点か3点足りなくなんじゃん」
「あー、そっかぁ! でもどうするー?」
そう、どうするか、だ。 『最悪の事態を常に考慮するべし』とはリクに教わった事の一つだ。最も、この場合の最悪は、命ごとプレートを奪われることだ。どうするべきか、そう考えていたら、ルルが簡単じゃん、と言った。
「もっとプレートを稼げばいいんだよぉ」
あ、その手があったか。アタシはルルの発言に納得した。確かに、さらにプレートを狙われる可能性が高まりはするが、合格への道が閉ざされることはなくなる。
「んじゃ、もし自分のプレート取られても大丈夫なように追加で3人狩ろう」
「おっけー、じゃあれっつごー」
「でも、最優先はアタシのターゲットだかんね」
元気に森の中へ入って行くルルにそう言うと、苦笑交じりにアタシも追った。そうだ、次からはプレートを取った相手に麻痺毒かけとこう。そうすれば、取り返しに来ることもなくなる。まぁ、姿を見せずに狩れればそれに越したことはないんだけど、相手がどこかにプレートを隠してる可能性もあるのでプレートの在処を聞き出す必要がある。そうすると結局姿を見せることになってしまうから、麻痺毒の用意は必要だ。アタシはリュックから毒の入った瓶を取り出し、愛用のコンバットナイフとは別に持っていたナイフへ毒を塗りながら移動した。
枝から枝へ飛び移り、森の中を進むこと5時間、坊主頭の小柄な男を見つけた。移動中、アタシもルルも気配を殺すことは当然行っていたので、相手がこちらに気付く素振りはない。アタシの感覚では彼以外の気配は周囲に見当たらなかったが、一応ルルに確認することにした。
「ルル、アイツ以外の人が近くにいたりする?」
「だいじょぶー、いないよー」
「そっか。それじゃあアタシ一人で行くから、ルルはそのまま周囲の様子伺っててね」
こと気配を探る、消す技術に関してはアタシはルルに遠く及ばない。その為の確認だった。そのルルがいないというのだから大丈夫だという確信がアタシにはあった。そして、音を立てずに木から降り、草むらから男の様子を伺う。男は警戒をほとんど解いているようだった。武器らしい武器も持っていない。トラップの類もないことを確認すると、アタシは無造作に背後から男の元へ駆けた。音で気づいたのか、此方を振り返り構えを取る男。お構いなしに突っ込み、男の拳が飛んでくるのをかわし、顎に拳一発、ふらついた隙に足を払ってうつ伏せに男を引き倒し、男の上に屈むと、ナイフを男の首元に当てる。
「プレートは手元にある?」
その問いに男は沈黙で答えたので、右腕を踏み折る。ぐぅと呻き声がしたが無視。
「プレートが手元にあんのか聞いてんのよ。さっさと答えないと体が使いもんになんなくなるよ」
そう言葉を吐き出すと、男が悔しそうに歯噛みしながら「鞄の中にある」と答えた。「ありがと」そう言ってナイフで切り傷をつけ、男の鞄を漁り【362】のプレートを得た。男はなんとか体を動かそうとしているが、立ち上がることも出来ないようだった。
「さっきのナイフ、麻痺毒が塗ってあるから最低数日は動けないと思うよ」
そう言い残しルルのいる木の上まで移動し、ルルにピースサインを送るとルルも楽しそうに笑った。「じゃあ次行こうか」、そう声をかけてアタシ達は再び移動し始めた。
【ルル】
試験が始まってからもうすぐ4日が終って、今日は5日目。【362】のプレートを手に入れた日には別の受験生を見つけられなかったけど、3日目の一昨日、全身黒ずくめの格好をした背の高い男の人を見つけられて、リリがさっさと【322】のプレートを獲って来た。その人も手元にプレートを持っていたみたいで、すごく楽してプレートをゲット出来たのです! ボクはいつも見張り役だったけどね。
そして今日!ついにリリのターゲットの3人兄弟の内の二人を見つけることが出来たんだ。今はリリと一緒に尾行中。あの3兄弟の誰が何番かなんてリリもボクも覚えてなかったから、3人が集まるまでこっそり尾行することにしたんだ。それなりに実力はあるみたいで、ボク達が尾行を始めて4時間後には長髪のオジサンからプレートを奪ってた。二人がかりで、だったけど。そしたら、携帯を取り出して、なにやらゴソゴソしてた。やっと3人集まるのかなぁなんて思っていたら、その二人組が移動を始めたので、気付かれないようにこっそり後を追ってった。移動が始まってから1時間位経った頃、二人組の片方が「待たせたなイモリ」って声をかけてた。そっちの方を見たら、3人兄弟の最後の一人がいた。「兄ちゃん!」なんて叫んでるし決まりだ。さらにその向こうにはキルキルがいた。でも、今はこっそり尾行作戦中だから様子を見るだけ。キルキルに限ってピンチになんてなるはずはないけど、ボクはぬいぐるみをぎゅっと抱いて成り行きを見守っていた。
イモリって呼ばれてた3人兄弟の一人がキルキルに向かって何やら話してる、と思ったらキルキルの鳩尾にキックした。キルキルがその隙にプレートを奪ってるのが遠目にだけどわかった。吹き飛んだキルキルが寝転がった状態からひょいって立つと、さっき奪ったプレートを見て残念そうにしている。その様子を見た3人兄弟はどうやら3人がかりでキルキルに挑むみたいで、陣形みたいなのを組んでた。キルキルはそのまま近づいてくる3兄弟に構わず木を駆け昇ると、そのまま3兄弟の中位の人の背後に立って膝を蹴って、首筋に爪を当ててる。その人から獲ったプレートも番号が違ったみたいで残念そうにするキルキル。3兄弟の大って感じの人からプレートを投げてもらってた。受け取った後、キルキルは大きく振りかぶってプレートを……ってダメじゃん。
「キルキル!ストーップ!」
そう声をかけてボクが姿を見せた時にはもう投げていた。
「あ、やべ。どっちかリリのターゲットだったっけ」
わりぃわりぃと言うキルアに向かいながら、呆然と立ったままの3兄弟の大の首元に手刀を当てる。リリも同じように3兄弟の小の首元に手刀を当てて焦ってキルアの元に駆け寄ってく。リリがキルアの手元に残ったプレートを覗きこんでいる横でボクも覗き込む。番号は【198】。よかったぁ、って息を吐くリリとボク。
「キルキルー、それくれるよねー?」
「ああ、いいぜ。その代わり貸し一つな?」
キルキルのケチンボー!ってボクが言ってる横で、リリは「まぁいいじゃん」って言いながら3兄弟に毒を塗ったナイフで傷をつけていっていた。ついでに、さっき二人が獲ってたプレートも獲ったみたいだ。その様子を見てキルキルが聞いてきた。
「ん? ルルの方はまだプレート貯まってねーのか?」
「とっくに貯まってるよー。ただ、襲われた時の保険でプレート集めてるのー」
「へぇ。今何点分あるんだ?」
「えーっとぉ、ボクが自分のと適当に獲った分で6点とー、リリが自分のとターゲットので6点とー、適当に集めたのが3点分だよぉ。」
「……お前らやりすぎじゃねーか、ソレ」
キルキルが呆れたように言って来る。
「でもぉ、たくさんあれば安心だよぉ」
「多い分、色んな奴らに狙われるんだぜ?」
「ボクとリリならだいじょぶー」
そう言って満面の笑みとともにピースした。キルキルが息を吐き出した。
「そうだぁ、キルキルも一緒に行動しよー」
「ルル、たまにはいいこと言うじゃない。キルア、一緒に行動しない?」
「まぁいいけどさ。……足引っ張るなよ?」
だいじょぶ、ばっちこーい、ってキルキルに言ったらやっぱり笑われた。それから、最終日の夜まで、ボクの警戒網に誰かが引っ掛かるようだったら進路を変え、場所を変えをしていた。そうしたら、キルアに「よく、お前そこまでわかるな」って多分褒められたけど、「リク兄ちゃとルナ姉ちゃのしゅぎょーの賜物だよ」って言ったら、なんだかまた呆れられた。むぅ。
最終日の夜半過ぎ、スタート地点に結構近い所を移動してたら、洞窟みたいなのがあって、入りたかったけど中に何かがうようよいる気配がしたのでやめといた。そのまま洞窟の近くを通り過ぎようとしたら、無防備に寝ているお姉さんがいた。キルキルはほっとけって言うんだけど、「乙女」は守られるべき存在だってルナ姉ちゃが言ってたから、起こしに行った。リリもついて来てくれたけど、キルキルは「どーなっても知らねーぞ」って言ってどっかに行ってしまった。少し寂しかったけど、ボクはお姉さんを揺さぶって起こした。だいぶ深く寝入っているみたいで、全然起きなかったから、仕方なくリリがお姉さんを担いで安全な所まで移動した。
夜が明けた頃、ようやくお姉さんが目を覚ました。ボクとリリの顔を見てなぜか混乱してたみたいだけど、今度は急に荷物を漁り出したと思ったら、最後に溜め息をついた。
「お姉さん、どーしたのぉ?」
「私のプレートがないのよ! バーボンのはあるんだけど……確か、ゴンとクラピカと、リオレオ?だったかしら、確かに私を運び出してくれたけどこれじゃ合格できないじゃない! あいつら……騙したわね!?」
「じゃあお姉さんはあと3点分で合格出来るってことぉ?」
「そうだけど……もう最終日の朝じゃない! 数時間後……下手したら一時間もしない内に試験終了なのに、今から3点分なんて無理よ!」
そう叫んで空を仰ぎ見るお姉さん。そういえばお名前なんて言うんだろう。気づいたらそのまま口に出していた。
「ねーねー、お姉さん、お名前なんてゆーのー? ボクはルル、こっちがリリ」
「……私はポンズよ。それがどうかしたの?」
「これあげるー」
「何よ? ……ってプレート3枚!? どうやって集めたの!? っていうかなんで自分が不合格になってまで!?」
「ん? 別にポンズさんにあげてもアタシらは合格だよ」
「……意味分かんないわ……あなた達がそれだけプレートを集められたことも、なんでくれるのかも……」
「んとねぇ、貸し一つってことで!」
ボクは満面の笑顔でそうキルアの真似をして言った。そしたらポンズさんはぽかーんとした顔でこっちを見ていた。ボクが首を傾げるとポンズさんは笑いだした。
「あはは、あなた達みたいな小さい子に助けられるなんてね。人生何があるかわかったもんじゃないわ。わかった、借りは必ず返すわね。ところで、もう一回名前聞いてもいいかしら?」
「うんっ! ボクはルル!」
「アタシはリリ」
「ルルにリリね。ありがとう。私のことは呼び捨てでいいわよ?」
「じゃあ、ポンポン、よろしくねー」
ボクがそう言ったら、ポンポンの笑顔がちょっと引きつった気がした。
「四次試験合格者12名!」
~後書き~
ルル視点が非常に楽に書けるため、今回はほとんどルル視点でした。
そして、まさかのポンズ合格。
そして、実際のところご都合主義なところがあります。
本来80番スパーの獲物が301番イルミで、スパーがイルミを狙ったためにスパーは返り討ちに遭い、イルミが80番の余剰プレートを手にし、それをヒソカに渡してるんですよ。
つまり、ルルの獲物がイルミの時点でスパーがイルミを狙う必要がなく、イルミはヒソカに渡す余剰プレートがない状態になってしまい、色々とごちゃごちゃしちゃうんですよね。
今作品では、イルミを見かけたスパーが隙だらけと思って攻撃した結果、返り討ちに遭い、イルミが80番を手にした、ということにしておいて下さい。
あと、それぞれの獲物ですが、原作とほぼ変わりなしと思って下さい。原作で合格しなかったもの同士が狩る者狩られる者になったということでお願いいたします。
今後ですが、最終試験のトーナメント表も出来上がってますし、どうなるのかも決まってます。
ポンズの扱いはおまけ程度です。
でも、逆に原作でキャラが描かれていない分、オリキャラとして扱っていけるのでまぁいいかなぁと。
ポイ捨てするかもしれませんが。
ポンポンはNGLで伝書蜂を出してますが、代わりに伝書鳩を使う人がいればいいだけの話なので、問題ないと思ってます。
キメラアント編の構想は出来ていませんが。
それでは、こんな駄文ですがお付き合いいただきありがとうございます。
感想頂けると非常に喜びます。
それでは、また。