~赤い手~
【リリ】
四次試験を通過したアタシ達受験生は、直ぐ様最終試験会場へと向かう飛行船に乗せられた。その際、飛行船に乗り込むポンズの姿を見てゴン達が驚いた表情をし、その姿を見たポンズが文句を喚き散らしに行ってしまった。暫くの間、ぎゃんぎゃんと騒いでいたが、ルルの発した「ポンポンは綺麗な目をした優しい人だからいいのー」と言う声に皆毒気を抜かれたようで、改めて挨拶などをしていた。ただ、どうやってあそこから受かったのかをポンズが聞かれ、説明したために、アタシとルルの行った乱獲がばれた。そして、レオリオに「もしお前らがオレの獲物奪ってたらオレ落ちてたんじゃねーのか?」というどこか非難めいた言葉を受けたので、とりあえず謝って置いた。ルルは「じゃあレオリーに借り一つだねぇ」なんて言っていたが、結局被らなかったんだからいいじゃないか、そう思った。
そうやってしばし話した後はそれぞれ自由に行動し、アタシとポンズはルルに付き合わされて飛行船内のシャワーや洗濯機を借りて身嗜みを整えていた。そんな中、アナウンスで各自面談を行う旨が伝えられた。数人が呼ばれた後、アタシが呼ばれ、応接室に行くと、畳敷きの部屋にネテロのジイサンが座っていた。アタシに対面に座るように促すと、ネテロのジイサンは本題に入った。
「それじゃあ、まず聞くが、何故ハンターになりたいのかな?」
「アタシとルルは戸籍がないからね。世話してくれてる人に身分証代わりに取ってこいって言われたから受けに来ただけだよ」
「ほうほう。確か、ルナ君だったかな?」
「あとリクもだね。っていうかアタシを拾ったのはリクだし」
「……リク、か」
リクの名を聞くとネテロさんは一瞬どこか複雑な表情をしたが、続けて聞いてきた。
「では、お主以外の11人の中で一番注目しているのは?」
アタシはその問いに答えるのに幾らかの時間が必要だった。注目……うーん、と考えると一次試験の時に見たゴンの瞳を思い出した。
「405番かな? ルル……201番は目が離せないって感じだけど、注目って事ではゴンだね。 逆に44番と301番からは出来る限り目を背けたいね」
「ふむ。では、最後の質問じゃ。11人の中で今一番戦いたくない者は?」
「44番に301番。視界に入ることすら怖いからね」
「なるほど……御苦労じゃった。では、下がってよいぞよ」
そう言われたので、アタシは部屋から出た。
四次試験合格者全員の面談が終わり、目的地に着いたのは日の沈む頃だった。最終試験を行うのは三日後らしく、着いたその日はそのままホテルで休んだが、最終試験開始までは自由行動らしく、アタシはポンズとともにルルに街へ連れ出され洋服などの買い物をして二日を過ごした。
そして、最終試験試験当日、最終試験の内容が発表された。ネテロのジイサン曰く、一対一のトーナメント方式で一勝すれば合格、負けたものがトーナメントを負け昇るというものだった。不合格者は一名、そして対戦で相手を殺した場合にも失格となるらしい。勝ちの条件は相手に「まいった」と言わせる事。一人が戦える回数はてんでバラバラで、トーナメント表はとてもいびつなものだったが、とりあえず、アタシの一回戦の相手はキルアだった。組み合わせが公平でない理由についてジイサンが色々説明していたが、相手があのキルアであったので、内容は右から左だった。対戦相手であるキルアの方を見ると、どこか不機嫌そうだったが、とりあえず話をすることにした。
「キルア、ちょっといい?」
「……なんだよ、リリ?」
「対戦のことなんだけどさ、アタシらん中でルール決めてやんない?」
「はっ、普通にやっても勝てなそうだからそういうこと言い出してんの?」
「違う違う。アタシとキルアがガチでやったら絶対負けた方はボロボロになってるだろうからさ」
「はぁ? お前俺に勝てる気でいんの?」
「ったく、なんでそう喧嘩腰なのよ。アタシが勝てるかどうかなんてキルアの本気はまだ見てないからわかんない。キルアもアタシが本気で戦ってるとこ見てないでしょ?」
「……そりゃそうだけど」
「だから、提案。三本勝負で、先に二本相手に攻撃を当てた方が勝ち。それでいい?」
「……一撃で気絶した場合は?」
「起きたと同時にギブアップ。いいかい?」
「オーケイ。それでいいぜ。さっさと勝たせてもらうからな」
話はそれで終わり? そう聞いてきたキルアに頷くとキルアはさっさと離れてしまったので、アタシはルルの横に立って、一試合目の観戦に入った。
ゴンはハンゾーにボロボロにやられていた。拷問に似たハンゾーの攻撃が始まって早3時間。ゴンは血反吐も出ない有様だった。その様子を見てハンゾーにキレるレオリオ。それを諌める立会人。アタシは黙って見続けるだけ。と、ゴンの右腕が折られた。レオリオとクラピカが何か話している。二人とも怒りを抑えきれない状況のようだ。それでもアタシは黙って試合を見つめ続ける。ルルも隣でぶんたを抱えたまま見続けている。
倒れたゴンの横でハンゾーが倒立しながら負けるよう言い聞かせる。身体を支える指が一本、また一本と減り、人差し指一本になった時、ゴンがハンゾーを蹴り飛ばした。レオリオが何か喚いているが知らない振り。思いっきり顔を蹴られたようで鼻血を出しながら立つハンゾー。鼻血を吹くと腕から刀を取り出し、ゴンの脚を切り落とす、そう宣言した。しかし、ゴンはあっけらかんと「脚を切られるのは嫌、負けるのも嫌。別のやり方で戦おう」とか言い出した。頭から湯気をだして憤慨するハンゾー。なんだか笑いがこみあげてきた。会場の空気も緩んだのがわかる。と、ハンゾーが刀をピタリとゴンの額に当てた。再び空気が張り詰める。ハンゾーが何やら話しているがゴンは突きつけられた刃も気にせずハンゾーを見つめ続けていた。ハンゾーが叫んだ。
「命よりも意地が大切だってのか!! そんなことでくたばって本当に満足か!?」
ゴンの瞳は揺らぎもしない。アタシはそんな瞳をさっきからずっと見つめていたのだ。「親父に会いに行くんだ」そんな言葉が耳に届いた。
「もしオレがここであきらめたら、一生会えない気がする。……だから退かない」
そう宣言した。ハンゾーが最後の忠告をした。しかし、それでもゴンの瞳は揺るがなかった。と、ハンゾーが刀を納め、「まいった」と宣言した。この試合でゴンの意志の固さを再認識させられた。……と思ったら、ゴンがちゃんとした勝負で決着をつけようとか言い出しやがった。ハンゾーはアンタの意志に負けたのに、なんだかやるせない気分になった。なおも言いつのるゴンにハンゾーが拳をくれて吹き飛ばすことで口を封じ、一試合目は終了した。
第二試合はクラピカ対ヒソカだった。明らかに戦闘能力の劣るクラピカに勝ちはないだろう。そう思って試合を見ていたが、ヒソカが明らかに手を抜きながらクラピカと暫くやり合ったあと、不意にクラピカに何かを囁いたかと思えば、ヒソカが負けを宣言した。クラピカがこちらに背を向けた状態だったため、ヒソカがほんの少しの言葉を呟いたところが見えたが、同時にクラピカの体に力が入ったのがわかった。……一体何が起こったのだろう。不思議に思った。
第三試合はハンゾー対ポックル。ゴンの時と同じような体勢になると、「悪いがあんたにゃ遠慮しねーぜ」とハンゾーが告げると、ポックルは負けを認めた。
そして第四試合。ようやく、アタシの出番が来た。
この試合にナイフは使わない。そう決めていた。向かいにキルアが立つ。立会人が試合開始の合図を告げるその前に、アタシはハンゾーに声をかけた。
「ハンゾーさん、アタシとキルア、三本勝負で先に二本相手に攻撃を当てた方が勝ち、ってあらかじめ決めて置いたんだ」
「で? オレに何をしろって?」
「攻撃が入ったかどうかを見て欲しいの。頼んでいい?」
「……わかった」
よし、とキルアに視線を向けると、明らかにさっきよりも機嫌が悪い。冷静さを無くさせれば結構楽かもしれない、そう思った。
「あ、立会人さん、ゴメン。アタシはいつでもいいよ」
「オレもいつでもいいぜ」
アタシが立会人さんに声をかけるとキルアも声をかけた。
そして、試合開始。
ふっと消えるように動くキルアを目で追う。アタシの右側を通り抜けて――狙いは首か。そう判断すると同時に、アタシは右足を左斜め前に置き、重心を掛け、そこを支点にするようにして反転、右手でキルアの手刀を受けてその勢いを吸収して回転し、左の後ろ回し蹴りを叩き込む。不意を突くつもりが完全に後の先を取られたキルアは防御も間に合わずにアタシの踵を脇腹に受け吹き飛ぶ。――これで一本。
「これで、まず一本。で、いいよね?」
視線はキルアに向けたまま、こくりと頷くハンゾーを確認する。キルアは目つきを鋭くこちらを見据えてくる。他の受験生達の大半が目を丸くしているのがわかる。
「キルア、ちょっとアタシのこと舐めすぎじゃない? まさか今のが本気じゃないよね?」
ニヤリと笑って怒りを助長する。攻撃を受けた直後にキルアが自分で後ろへ跳んで衝撃を逃したのはわかっている。それに、さっきの攻撃が当たったのはキルアがアタシを舐めていたからだ。ここからはキルアも本気で来るだろう。でも、アタシもここからが全力だ。と、ゆらりと歩んでくるキルアが何人にも見える。歩法の一種だろう。しかし、何人に見えようとも攻撃に転じる時の殺気を感知すればいいだけだ。と、殺気とともに左方向からの蹴り――速い。ギリギリで左腕でガードする。と、続けざまアタシの左足へのローキック――は囮、本命は左足での蹴り。瞬間的に悟ったアタシはバックステップ。読みは当たったが掠った。キルアの舌打ちが聞こえた。同時にアタシの右正拳突きがキルアの鳩尾に決まっていた。少し吹き飛び目を見開いたキルアに言い放つ。
「これで二本。アタシの勝ちってことでいいんだよね?」
キルアは見開いた目を伏せ、「まいった」と宣言した。……まさか”無拍子”を打てるとは思ってなかったんだろうなぁ、とアタシは思う。ってか、ハンゾーいらなかった。ハンゾーに目を遣ればハンゾーも目を見開いていた。
「な、んで、お前みたいな、ガキが、”無拍子”なんて……」
「師匠に相当しごかれたからねぇ……」
アタシは遠い目をして言った。でも、アタシの出来る”無拍子”は正拳突きだけで、蹴りや投げはまだ無理。なんにせよ、これでアタシは晴れてハンター試験合格だ。後は誰が落ちるか、だ。次は確か……ポドロっていうジイサンとヒソカか。ヒソカが勝つんだろうな、そう思いながらアタシはルルの元へ近寄って行った。
【ルル】
リリがキルキルに勝った。たぶん普通にやり合ってたらリリが負けてたと思う。だって、リリの方が力がないから。リリは結構ずるいことをする。正々堂々なんて言葉とは無縁なんだもん。と、第5試合目のポドロのおじいちゃんとヒソカの試合がいつのまにか終わってた。ポドロのおじいちゃんはボロボロだった。次の第6試合はボクの番だ。相手はレオリー。どうしようかなぁ、って考えてたら、そういえばレオリーに借り一つだった事を思い出した。試合場に向かいながら、レオリーに言う。
「レオリー、ちゃんと戦うつもりあるぅ?」
「……」
「ないのぉ? それじゃあ四次試験の時にボクが借り一つだね、って言ったの覚えてるー?」
「そういえばんなこと言ってた気がするが……」
「じゃあ、立会人さん始めてくださーい」
ちょ、ちょ、待てよ、なんて聞こえてきたけど気にしない。立会人さんが試合開始を合図した。同時に
「まいったー」
ボクは宣言した。
「レオリー、これで借りは返したよぉ」
満面の笑みでそう言うと、レオリーは呆れてた。そのままボクはリリのところへ戻る。リリは少し不機嫌な顔をしてたけど、「借りはなるべく早く返すものなんだってー」ってボクが言ったら溜息を吐いた。
次の第7試合はポックル対キルキル。なんだけど、試合開始と同時にキルキルが負けを宣言した。「悪いけどあんたとは戦う気がしないんでね」って言ってた。勝てるなら勝っとけばいいのにって思う。
その次の第8試合はポンポン対ギタラクルさん。「ポンポン無理しちゃだめだよー」って言ったけど、なんかやる気満々だった。あの針の人は危ないのに……そう呟いたけど、誰の耳にも届かなかったみたいだった。立会人さんが開始の合図を告げた。そしたら、針の人が立会人さんの所へ行って、なにか囁いたと思ったらポンポンの勝ちが宣言された。あの針の人、なんでちゃんと試合しなかったんだろう? そう疑問に思ったけれど、今度はポドロのおじいちゃんとボクの試合。でも、ポドロのおじいちゃんの怪我が酷かったので、ネテロのおじいちゃんに試合を後に回してもらうように言ったら、そうしてくれた。
そして、キルキル対ギタラクルさん。試合開始の合図と一緒にキルキルが一歩を踏み出したら、針の人が初めて喋った。
「久しぶりだね、キル」
そう言って、頭に刺さった針を抜く針の人。同時に頭が完全に別人になった。そこにいたのは黒い髪を長く伸ばした黒い猫目の男の人。その人の顔を見た瞬間、キルキルの口から言葉が飛び出した。
「兄…貴!!」
あの人はキルキルのお兄ちゃんだったんだ。そういえば、どことなく目元とかが似てる気がする。ほかに似てるとこあるかなぁって考えている内に、キルキルのお兄ちゃんの色々とキルキルに話しかけていた。「言ってごらん。何が望みか」そうキルキルのお兄ちゃんが言ったら、キルキルは汗を浮かべながら言った。
「ゴンと……ルルやリリと……友達になりたい」
何言ってるんだろう、キルキルとボクはもう友達じゃないか。でも、キルキルからしたら違うのかな? どうなんだろう、そんなことをしばらく考えていたら、話が進んでたみたいでキルキルのお兄ちゃんが言った。
「よし、ゴン達を殺そう」
何を言っているのかわからなかった。なんで、弟の友達を殺すことになるの? そう思っていたら、キルキルのお兄ちゃんが立会人さんの一人に針を刺してゴンちゃの居場所を聞き出した。そのままゴンちゃの居場所へ行こうとするキルキルのお兄ちゃんの行く手を遮るようにハンゾーさんとクラピーとレオリー、それからリリが立っていた。ボクも当然そこに立つ。そしたら、キルキルのお兄ちゃんは何やらボソボソと独り言を呟いて、「まず、合格してからゴン達を殺そう」なんて言い出した。そのままキルキルの方へ振り返って色々言いながらキルキルに手を近づける。レオリーがキルキルに何か叫んでるけどキルキルには聞こえてないみたいだった。そのままどんどんキルキルのお兄ちゃんの手がキルキルに近づくと、キルキルが負けを宣言した。その後笑ってキルキルに何か話しかけたと思ったら、キルキルもキルキルのお兄ちゃんも試合場から離れていった。あ、そういえば次はボクの試合の番か。キルキルの様子が凄く気になったけど、ぶんたをリリに渡して試合場へ立つ。向かいにはポドロのおじいちゃん。立会人さんが試合開始の合図をした途端、後ろに物凄い殺気を感じて身を捩った。でも、よけられなかった。
見えたのはボクのお腹を貫いた、たぶん、キルキルの赤い、手……どう、し……て……
~後書き~
最終試験終了です。
キルア対リリの戦闘描写が微妙かなぁとか思ったり。
無拍子については、某「まかりとおる」を参考にしてますので実際とは違ったりするとは思います。
あと、キルアの敗因はルールを受け入れた事と油断です。
トーナメント表、手書きで見てみると凄く歪な形だったりしますが、
四次試験の行動を見れば実際のネテロ会長でもこんな感じにしたと思います。
作者の都合とか入り混じってますが。
ここから先の話でやっと核心に迫ってきます。
こんな駄文ですが、PVから沢山の方に読んで頂けていることには大変感謝しております。
ただ、ただ、感想が少なくて作者泣きそうです……。
……いっそのことここで打ち切りにしてやろうかと思うほどに悲しいです。
出来ましたら感想下さいませ…強要するような形で大変申し訳ないんですが、もう一度だけ言わせて下さい。
安〇先生……感想が……欲しい…で…す……
では、また。