~空色の使者~
【リリ】
アタシの目の前には信じられない光景があった。煌めく金色の長い髪の少女のお腹から突き出た赤い手。そこから流れる赤。その後ろに立つ銀髪の少年。見間違いようもなくルルとキルアだ。でも、なぜキルアがルルを? わけがわからない。たちの悪いジョークだ。手品か何かか? ああ、きっと夢だ。それにしてもとんでもない悪夢だ。でも、頭がガンガンする。血の匂いもする。夢じゃないの? そんな混乱する頭を余所に、部屋から出ていくキルア。崩れ落ちるルル。そう、ルルが刺されたんだ。あの傷はまずい。死ぬかもしれない。ルルが? 死ぬ? ふらりと足がルルの元へ進もうとした時、いやに静まった部屋に声が響いた。
「みんなちょっと動かないでくれるかな?」
声と同時に空気が色を、質を変えた。身体が全く動かない。わけのわからない圧迫感。冷汗がどっと噴き出す。この部屋のほぼ全員がそんな状態のようだ。視線だけを動かすと、キルアの兄と言った男ギタラクル、ヒソカ、ネテロのジイサンは何も変わらないままの様だ。いや、どことなく顔が険しい。しかし、さっきの声、どこかで……。思い出そうとしていると、黒髪にサングラス、黒服の男がルルの元にしゃがんでいた。
「出血はもうすでに止まっている、か。修復も始まってる。予想以上だね。20分位で完治しそうだ」
この重い空気の中で、男は場違いな程に平淡な声で呟いている。そうだ、この声は。辛うじて震わせられた喉が、微かな音となって部屋に溶けた。
「……リ……ク……?」
アタシがなんとかそう声を出すと、ルルの様子を見ていた男がおもむろに立ち上がり、サングラスを外し、カツラを取ってアタシに微笑み口を開いた。ゆるくパーマのかかった薄紅色の髪、空色の瞳、あの顔立ち、間違いなくリクだった。
「リリ、ルルは大丈夫。すぐに治るよ」
根拠などない言葉だったが、アタシはそれだけで酷く安心した。しかし、やけに重たく、圧迫してくるような空気はそのままだったので、声を返すことは出来なかった。リクを目で追うだけしか今のアタシには出来なかった。と、リクが視線をアタシから外した。
「イルミ、俺の大事な妹になんてことするんだい? 今回はルルの治癒の許容範囲内だったからよかったけど……次はないよ?」
「……何の事? 刺したのはキルだよ」
リクが話しかけた男は、確かギタラクルだったはず。イルミ? どういうこと? あの人が何かをしたせいでルルが……? アタシの頭の中で疑問ばかりが飛び交う中、リクが短く息を吐くのがわかった。
「とりあえず今は知らない人ばかりだからやめとこう。ただ、本当に次にルルやリリに手を出したら、ゾルディック家がなくなると思ってね」
そう言ってリクが笑った。リクの発言はわけがわからない。と、リクはまた視線を移した。
「ネテロさん、久しぶり。ちょっといいかな?」
「話をするのは構わんが、まずはこの空気をどうにかしてくれんかのう。皆が硬直しとるではないか。それに年寄りには少々堪えるわい」
あ、そうだね、とリクが言った途端、圧迫されるような空気が消えた。
「ルルはこうして生きてるんだけど、この場合不合格者はどうなるのかな? キルア君がどっか行っちゃったから、キルア君の棄権失格ってことで残りの人が合格?」
ふむ、とネテロのジイサンは少し考える素振りをしてから言った。
「そうじゃな。99番キルアは試合妨害及び試合放棄により失格。残りの11名を合格とする」
「良かった。じゃあ俺はルルを個室に寝かしてくるよ。回復はすぐだろうけど、意識が戻るのには時間がかかりそうだからね」
そう言って、リクはルルを抱きかかえ部屋を後にした。そんなリクに誰も声をかけることは出来なかった。そして、ネテロのジイサンが合格者への説明会を明朝から始めるので、それまで個室で身体を休めるよう部屋に残ったアタシ達受験生、いや、合格者達に言った。
個室でぼーっと過ごしていると、ノックの音が聞こえた。こんな夜中に誰だろう? そう思ったが、鍵を開け、扉を開く。そこにいたのはリクとルルだった。ルルが元気に立っている姿を見て、思わず涙腺が緩んだ。が、直後、
「リリー、ぶんた返してー」
との声を聞いた途端、アタシは笑ってしまった。ルルだ。間違いようもなくルルだ。思わず声を上げて笑っていると、頬を暖かい何かが流れるのを感じた。涙。そうだ、アタシはこうしてルルが無事でいることがとてつもなく嬉しくて、笑いながら泣いているんだ。そう気付くと、ぶんたを催促してくる声に構わずアタシはルルを抱きしめた。そんなアタシの腕の中で、ルルは相変わらず「ぶんたを返せー」なんて言っていた。
ようやく落ち着いて、ルルとリクを部屋に招き入れると、まずはルルにぶんたを返した。途端に「ぶんたー」と嬉しそうにぶんたを抱きしめるルル。アタシよりぶんたかよ、と思い少し腹が立ったが、横で苦笑しているリクを見つけると、アタシはリクに疑問をぶつけた。
「ねぇ、なんでルルはこんなに元気なの? 普通、腹ぶっ刺されたその日にこんな回復してるはずない、ってゆーか、下手したら死んでんじゃん? しかも、リクはルルが回復するのが当然みたいなこと言ってたし。それにキルアがルルを殺そうとしたことも。なんだかリクはギタラクルに詰め寄ってたみたいだけど。一体どういうこと?」
アタシがそう問いかけると、リクは表情を改め、ルルにも話を聞くように告げ、言った。
「そういう体質なんだよ、ルルは」
は? 体質? そんなんで説明したつもりかよ、と非難を込めた眼差しでリクを睨むとリクは苦笑混じりに言った。
「んー、じゃあ、そういう家系ってことで」
「じゃあ、とか、ことで、ってなんだよ! 真面目に答えろ!」
リリは相変わらず口が悪いなぁ、なんてリクが言っているが気にしない。気にしたら負けだ。ちゃんと説明しろ、とアタシが言うと、渋々口を開いた。
「体質っていうのも、家系っていうのも、あながち嘘じゃあないんだよ。とりあえず、ルルは"神の子"なんだ。ちゃんとした説明は今はまだ出来ない。しないんじゃあなくて、出来ない。今、言えることは、ルルは普通の子とは違うってことだけだね。キルアの行動については家庭環境のせい。だから俺はイルミにキレた、それだけ。」
そう言ったリクは真剣な目をしていたので、とりあえずはこれで納得するしかないのだろう。"神の子"が何を意味するのかはわからないが。それでも食い下がるように言った。
「今はってことはいつかは教えてくれるんだろうね?」
「うん、教えるよ。あ、そうだ。ライセンスを貰ったらルナに絶対に連絡入れるんだよ? 何か用事があるならそっちを済ましてからでもいいけど、なるべく早くルナの所へ行くこと」
わかったかい? そう言われて、アタシもルルも頷いた。
「それじゃあ、今日は俺もう行くから。明日の説明会に顔を出すように言われちゃってるし、今からネテロさんのとこ行かないといけないからね」
そう言って、リクは部屋を出て行った。アタシはぶんたを抱えたリリを抱きしめて眠りについた。
朝になって、ルルを起こして身嗜みを整えさせた後、アタシはルルを連れて説明会の行われる部屋に移動した。その際、廊下でポンズにばったりと出会ったので一緒に行くことにした。ポンズはルルの元気な姿を見て不思議そうにしていたが、アタシがリクの説明の通りに話すと、訝しげにしていた。わかんないことはわかんないんだからしょうがないじゃんか、そう言うと渋々引き下がってくれた。そうして、説明会の行われる部屋に着くと、もう既にほかの面々は集まっていた。リクの姿も試験官にまぎれているのがわかった。アタシ達が席に着くと説明会を豆の人が始めたが、クラピカとレオリオがキルアの不合格に異議を唱え出し、説明会そっちのけで論争に入ってしまった。リクが昨日、何か知っている様子を見せていたので、クラピカもレオリオもリクへ色々と話を振っていたが、リクはのらりくらりと口撃をかわしていた。
そんな時、部屋のドアが大きな音を立てて開き、ゴンが現れた。皆がそちらを見ているのにも関係なしに、そのままギタラクルの所へ歩み寄ると、少しの言い合いの後、腕を掴んでギタラクルを席から無理矢理に引っこ抜いた。その様子にアタシを含める合格者の面々が驚いたが、ゴンは構わずギタラクルへ言葉をぶつける。キルアがギタラクル達に操られているのだから、今回キルアが去って行ったことは誘拐も同然と言うゴン。その言葉にネテロのジイサンが「ちょうどそのことで議論していたところじゃ、ゴン」と反応した。それに続き再び異議を唱え始めるクラピカにレオリオ。しかし、ネテロのジイサンにあっさりと説き伏せられたのだが、なぜか話が脱線し、それぞれの合格についての言い合いが始まった。アタシはそれをただ眺めていたが、不意にゴンが核心的な言葉を発する。
「人の合格にとやかく言うことなんてない。自分の合格が不満なら満足できるまで精進すればいい」
それより、とゴンは続けた。
「今まで望んでいないキルアに、無理やり人殺しをさせていたのなら、お前を許さない」
そうギタラクルに言った。お前達からキルアを連れ戻してもう会わせない様にするだけだ、とも。そんな時、ネテロのジイサンから合否は覆ることがないと声がかかり、説明会が再開された。嫌に長ったらしい説明会が終わるとともに、ここにいるアタシを含めた11名が新たにハンターとして認定された。
その後、すぐさまゴンはギタラクルに声をかけた。キルアの居場所を教えるように。アタシは、ルルを傷つけられた事実は変わらないので、キルアに文句の一つでも言ってやりたいと思っていた。それに何より、ルルが無事であることをキルアに伝えたかった。だから、アタシ達はククルーマウンテンへと向かう事に決めた。ルルはと言えば、「キルキルにめーするのぉ」なんて暢気な事を言っていた。
しかし、アタシ達にはククルーマウンテンなんて場所に心当たりはなかった。リクなら知っているかと部屋を見渡したがすでに姿がなかったので諦めた。何の挨拶もなしに消えるなよバカ、なんて胸中で呟いたが、恐らく仕事にでも行ったのだろうと思った。そういえば、何故最終試験会場にいたのかも聞いていなかったことを思い出したが、ゴンに呼ばれたのでそんな疑問はとりあえず放って置いた。いずれ会う事もあるだろうし、いざとなったらケータイで連絡も取れる。気持ちを切り替え、部屋を出て、ハンゾーやポックルなどと挨拶代わりに名刺交換をしているクラピカやレオリオ、ポンズを尻目に、アタシとルルとゴンは訳がわからなくて互いに顔を見合わせた。ホームコードやらなにやらハンターの電波系三種の神器だとかレオリオが言っていたが、アタシとルルはとりあえずはケータイで事足りると、番号を交換し合った。ポンズにこの後どうするのかを問うと、特に何も決めていないとのことだったので、ルルが強引にククルーマウンテン行きに誘い、ポンズは折れた。
場所を変え、ククルーマウンテンに関して電脳ページとやらで調べて(俗にめくるというらしい)みると、飛行船で3日程のパドキア共和国のデントラ地区とやらにあるらしい。クラピカにすぐさまチケットを6人分予約してもらった。ついで、と言ってゴンが父親について調べて貰ってみると、極秘指定人物となっていた。とんでもない人物らしい。アタシもついでにルナとリクについて調べて貰ったが、極秘指定人物ではないにしろ、ルナは一ツ星ハンター、リクが二ツ星ハンターであることがわかり、さらに、アタシ達の面倒を見ながらも意外と色々と大きな仕事をしていることがわかった。
とりあえず、調べるべきことは終わった。そう思ったが、ふと頭に残った言葉があったのでついでに調べてもらった。"神の子"についてだ。しかし、お伽噺か、聖書のようなものについてばかりで情報がろくに集められないことがわかったので、詳しいことはルナかリクに聞くことにして、アタシ達は飛行船に乗るべく、移動した。
”神の子
ある所に女神がいた
女神はどんな病や怪我でも瞬く間に治した
しかし、女神は男が大嫌いだった
傷を治すことはしてもそれだけであった
女神は子供が大好きだった
自らも子を持ちたいと願った
しかし、女神は男が大嫌いだった
それでも子を願った
神は女神へ子を宿した
女神はそれを喜んだ
しかし、子が成長するにつれ力が弱まった
力を失った女神は蔑まれる
暗く狭い部屋へ追いやられた
それでも女神は子を願った
そして、女神の死とともに神の子が生まれた”
~後書き~
前回は感想懇願して申し訳なかったです。
とりあえずのハンター試験編最終話です。
謎は謎のままでした……orz
ルルの設定については、サイト名『Chocolateman's studio』様の作品に大きな影響を受けている所があります。
パクリだろ、それ!とか言う指摘が来たら、この小説は下げます。
とりあえず、『Chocolateman's studio』様の作品は大変素晴らしいものです。
自分の駄文とは比べ物になりません。
H×Hの二次創作が好きな方は読むことを強くお勧めします。
こんな駄文ですが、感想、また頂けると嬉しいです。
ハンター試験終わったので暫く構想練って、いろんな本読んで、それから続き書きたいと思います。
今後ともよろしくお願いします。
では、また。