~私の系統、ルルの系統~
拝啓、お父さん、お母さん、元気にしていますか? ルルとリリの家にお世話になってから一週間になります。私が纏に合格点を貰ったのは一昨日のこと。そして今日私は猛獣の蔓延る樹海に放り出されました。絶を覚えるのが遅い私を見かねて、ルナが命の危機を感じれば絶をすぐに覚えるかもしれない、という突拍子もないことを言い出し、ルルとリリもそれに賛同した結果今の状況に至ります。息を殺して身を潜める草むらの向こう側には熊のパワーに狼のスピードを持ったベアウルフの群れが獲物(私)を探しているのです。もしかしたら今日が私の命日になるかもしれません。親不孝な私を許して下さい。あなたの愛しい愛娘ポンズより。
P.S. もーいやだ、帰りたい。
【ポンズ】
精神に異常をきたし、故郷の両親に脳内で手紙を書いた日、どうにかこうにか私は絶をマスターした。しざるを得なかったから。だって、絶が出来なかったら私は今頃この樹海の糧になってしまっていたから。私が纏と絶を覚える間に、ルルとリリは練と応用技の凝を限りなく早く行う訓練と、練の持続時間を延ばす修行がされていて、結構な差をつけられてしまった。私が練をどうにか覚えることが出来たのは、この家に来て一ヶ月が経った頃。凝を覚えるのにはさらに一週間かかった。私が凝を覚える間には、本当はルルとリリは発の修行に入ってもいい段階だったのだけれど、系統を判断する水見式をルルがみんなで一緒にやりたいと言ったために、これまで二人は練と凝をひたすらに修行して待っていてくれた。おかげで、練をした時のオーラの量が倍近くも違う。あの二人は本当に才能に恵まれていて、私にそれがないことを実感した。それをルナに言うと、
「あの二人が異常なだけさ。あたいはあんたにも才能があると思うけどねぇ」
と、言われた。ルナは嘘はつかないので、自信をもう少し持ってもいいのかもしれない。寝る前に練を倒れるまでやる習慣もつけた。ルナがそうした方がオーラの絶対量が増えると言ったからだ。リリとルルもそれを行っていたようで、二人の練の力強さは私とは比べようもない。しかし、差はあっても私は練と凝を習得することが出来たので、今日から発の修行に入る。
いつもの着物姿のルナが、ボードに六性図を書き、それぞれの特徴について説明をしている。そもそも、発はオーラを操る技術で念能力の集大成、詰まるところの必殺技だという。自身の生まれ持ったオーラの性質は今ルナが書いた六性図のどれかに分かれ、発(必殺技)は自身の系統に見合った能力にすると会得も早く、威力も上がるということだそうだ。系統には相性があり、六性図で隣り合ったものは相性がよく、離れたもの程相性が悪く、能力の会得と威力に影響が出るそうだ。と、気になったことがあったのでルナに聞いてみた。
「ルナの系統は何になるの? あとルナの必殺技って何なの?」
聞いた途端、扇子が飛んできた。オーラは込められていなかったけれど、速く、ギリギリかわしたと思ったらかすっていた。私の蜂蜜色の髪が数本宙を舞う。
「自分の系統を無暗に晒す事は馬鹿のやることだよ。発についても同じさ。相手の系統や能力を知ることが出来れば弱点もつけるからねぇ。ま、でも今の攻撃をかわした事に敬意を払って教えてあげようかね。あたいは強化系。発は≪至高の料理(マザークック)≫。周っていう物質にオーラをとどめる応用技があってねぇ、その周をした愛用の調理道具で料理を作って相手に食べさせると体力・オーラ・怪我の回復が起こるのさ。あたいの料理の腕と材料、出来上がった料理の美味しさに比例して威力は上がる。制約と誓約は食べる前に「いただきます」をして、完食して「ごちそうさま」を言うことと、同じメニューを続けて作らないこと。制約と誓約についてはまた別の機会に説明するよ。戦闘用の念じゃあないからこうして簡単に教えられるんだけどねぇ。戦闘は愛用の十手を使うくらいさ。強化系には特に必殺技はいらないからねぇ」
なるほど、それでルナの料理を食べた後は元気になるのか、私は納得した。
「まぁ必殺技についてはこれから行う水見式の結果とこれからのあんたらの行動次第さ。あんたらは他の能力者に遭ったことがないからあまりイメージはわかないだろうしねぇ。それじゃあ水見式を始めるよ。まずはポンズ、あんたがやりな。このコップ手を近づけて練をすればなんかしらの変化が起きるはずだよ」
言われて、葉の浮かんだコップに手を近づけ練を行った。――変化がないみたいなんだけど。私は首を傾げてルナを見た。
「ちょっと貸してみな。……うん、水の色がほんの少し黄色くなってるねぇ。ポンズ、あんたは放出系のようだよ」
言われてよくみると、確かにほんの少し水が黄色っぽくなっている気がする。私がそれを眺めている間にルナは次のコップを用意した。
「じゃあ、今度はリリだ。やってごらん?」
リリがコップに手を近づけ練を行う。しかし、何も変化がない。色も変わっていないようだ。でも、ルナは別に焦った様子もなく言った。
「リリ、水を舐めてごらん?」
リリは言われて指を水に漬け舐めた。と、
「うぇ、辛っ」
「やっぱり味が変わってたみたいだねぇ。味が変わるのは変化系の証さ。にしても辛いのか、これから修行が面倒そうだねぇ」
ルナは楽しそうに笑いながら新しくコップを用意する。
「じゃあ、最後にルル、やってごらん?」
言われてコップに手を近づけて練をするルル。と、葉がゆらゆらと揺れている。
「葉が揺れるのは操作系の証さ。これで全員の系統がわかったね。それじゃあこの変化が顕著に現れるように各自修練することだね。寝る前に練をぶっ倒れるまで維持するのは続けて行うようにね」
そういって去ろうとするルナに私は疑問をぶつけた。
「ルナ、他の系統はどんな変化が起きるの?」
「特に知る必要もないとは思うけどねぇ。まぁ、説明しようか。水に不純物が現れるのが具現化系、こんな風に水の量が変わるのが強化系さ」
そう言って、グラスに手を近づけて練を行うルナ。同時にコップから水がものすごい勢いで溢れ出した。私がそれを呆然と見ていると、
「まぁ、あたいはこれでも念を覚えて10年以上だからねぇ。この位の変化は当り前さ。特質系だとそれ以外の変化が起きるんだけど、これといって傾向はないね。じゃあ各自部屋にこもって精進するように。あたいは今晩の食材でも捕ってくるから」
そう言って森の中へルナは消えてしまった。そして、私達の発の修行が始まった。
それから一ヶ月、ひたすら発の修行と練の持続時間を延ばすことに時間をさいて、再び水見式を行うことになった。
「じゃあ、あんたらの一ヶ月の修行の成果を見せてもらうとするかねぇ。まずはポンズ、やってごらん?」
そう言われ、私はコップに手を近づけ練を行う。水の色は黄色っぽいがまだまだだと自分では思っている。
「ポンズはまだまだ発の修行をする必要がありそうだねぇ。もっと頑張りな」
ルナの言葉に頷き、私は二人の結果を見ることに集中する。今度はリリ。
「出来たよ。ルナ、舐めてよ?」
「わかってるよ……うん、十分に辛い。ハバネロなんかよりよっぽど辛いねぇ、これは。あんたは合格だ。じゃあ、ルル、やってごらん?」
言われたルルは少し戸惑い気味に手をコップに近づけた。なんで戸惑う事があるんだろう? 私はそう思ったが、結果を見て納得した。葉から根が生え、小さな草となり、花を咲かせていたのだ。
「ルルはやっぱり特質系かい。ただ変化は十分だね。リリ、ルル、あんたらは裏ハンター試験合格だ。あたいから協会に連絡を入れておくよ」
ルルが特質系であることをルナは「やっぱり」と言った。……ルルは何か特別なのだろうか? そんな疑問が口を衝いて出るところをリリの声が遮った。
【リリ】
やっと四大行が終わった。これでようやく"神の子"についてルナが話してくれる。そう思ったアタシはすぐにルナへ言った。
「ルナ、四大行はマスターしただろ? ならルルと"神の子"について話してくれよ」
ルナはアタシの声を聞くと目を閉じてしばらく考え込むようにしていたが、それも数秒に満たない間で、再び目を開くとアタシとルルを見て、そしてポンズを見てゆっくりと口を開いた。
「これから話すことはなるべく知らない人間が多い方がいい。今から話すことは真実さ、それは保障する。でも、今から説明することはなるべく誰にも話しちゃあいけないよ? それが約束できるかい?」
アタシはすぐ様頷いた。ルルもポンズも迷いなく頷いたのを確認してルナは再び口を開いた。
「とある何でもない街の何でもない夫婦から生まれた子供がいたんだ。本当に何の変哲もないはずの生まれだったはずの少女は、成長するにつれ、親の遺伝子を無視したかのように愛らしくなっていった。ただ、最初は本当にそれだけだったらしい。詳しい資料なんかは残っちゃいないからね、伝承に近いものなんだけど、その少女はどんな怪我を負っても瞬く間にそれが癒えたという話だ。それから暫く月日が流れて、少女が女性へと変わろうとした時、……その街は疫病に侵された。疫病への対抗策もないまま街の人々が一人、また一人と命を散らしていった。ただ一人の少女だけの命を残してね。その少女は街が滅んだ後、別の街へ連行されたらしい。魔女として。しかし、少女は街が滅んだ時に気付いたんだ。自分に特別な力がある、と。最初は怪我をした兎か何かを相手に、自分の血を気まぐれに与えた。すると、どうだ。兎の怪我がみるみる内に癒えたんだ。そして、少女は自分の力を理解した。碌な扱いをされなかった街で、不意に病院へ立ち寄ると、病人一人一人に自分の血を与えていった。すると瞬く間に病人は健康になり、病院の患者皆が退院したそうだ。そして、患者の家族たちから、少女は女神と呼ばれ、魔女から女神へと少女の呼び名が変わった。女神となった少女は教会に預かられることになり、訪れる病人たちを嫌な顔一つせずに治療していったという話だ。」
アタシはルナの言葉を聞きながら、少女の力について思い当たるものがあった。つい最近アタシ達が習った、念だ。ルナはそこで一息間を置くと、続きを語り出した。
「女神の力はおそらく念だったのだろう。女神はすでに死んでしまっているから確かめる術もない。ただ、そうして治療を続けていた女神だったが、男が嫌いだったらしい。何故嫌いだったのか、それを確かめる術はすでにない。理由を明確にする必要もない。重要なのは女神が男が嫌いで、治療はするもののそれ以上の何かをすることがなかった、それだけさ。そして、逆に女神は子供がとても好きだった。男は嫌いだが、子供が欲しい。女神がそう願い続け、願いが強まった時、奇跡が起きた。男と交わることなく、女神の腹に子が宿ったんだ。神が与えてくれたのだと、女神は大層喜んだそうだよ。しかし、同時に悲劇への始まりが起きた。腹の子が育っていくにつれ、女神の治癒の力が薄れていったんだ。そして、女神は罵られた。純血が汚され治癒の力がなくなった、などと言い出す者もいたらしい。それでも、女神は子を生みたかった。幸い、教会に彼女を理解してくれる女性がいたらしく、女神は街を離れ、寂れた教会で子を産むことに専念しだした。彼女を理解する女性は女神と呼ばれた女性が無事子を産めるよう、巧妙に場所を隠した。だが、女神は自らの子を抱くことが出来なかった。子を産むと同時に生命エネルギーのようなものが全て子に渡ったらしく、子が産まれると同時に女神は命を落とした。その後、女神を理解していた女性が子の面倒を見ていたが、隠れるのにも限界があったようでね、居場所を突き止められ、その女性も殺された。残されたのは子一人。しかし、それを見つけた者はその子供にも女神の力があると思い、最低限殺さぬように隠された一室で力が目覚めるのを待った。そして少女が6歳になる頃、女神の話を詳しく調べた若者がその場所を見つけ出し、子を保護した。それが6年前。ここまで言えばわかるだろう?」
アタシはからからに渇いたのどを鳴らし頷き、なんとか声を発した。
「その若者がリクで、子供がルル」
「そういうことさ。"神の子"という呼び名は女神が純潔のまま子を産んだことに起因してる。ルル、あんたにはおそらく、癒しの力がある」
そう言われたルルの方を見ると、目が虚ろになっていた。それを見たルナは言った。
「リクは最初、ただその癒しの力をもつ"神の子"が欲しかっただけだった。でも、今は違うさ。一人の妹としてしっかりあんたの事を見てる。それはあたいが保障する。」
しっかりと目を合わせたまま発せられた言葉にルルはやっと反応した。
「リク兄ちゃはリク兄ちゃってことー?」
「そういうことさね。血は繋がってないが、ルルとリクは兄弟だ。リリとリクもね」
そう言ってルナは笑った。ルルはいつもの花の咲いたような笑顔で頷いた。
~おまけ~
「ねーねー、ルナ姉ちゃはどーして戦闘用の念をつくらなかったのぉ?」
ボクがルナ姉ちゃに疑問に思った事を聞いてみた。そしたらルナ姉ちゃは少しほほを赤くして言った。
「あたいは狙った獲物は逃さないのさ。男は胃袋で捕まえるものだからね」
よくわからない返事が返ってきた。
~後書き~
オリキャラ達の念を覚えるペースが異常な気もしますが、まぁいいかなぁと。
ポンズは意外と速いペースで念を覚えてますねぇ。
リリルルポンの問題は実践不足かな?
まぁ、次回更新ではまた2か月位時間が飛ぶと思います。
今回はポンズの受難はあったけれど、どちらかというとルルの生まれについてでしたね。
残る謎はあと一つ。
ヨークシン編をぐだぐだにやって終わりでいいかなぁと思い始めた今日この頃。
というかオリキャラばかりだとやっぱりPV落ちるのかな?とか思って誰かよこそうと思ったけれど、メンチ位しか該当キャラがおらず、オリキャラが増えるだけなので意味無いなぁと気づいた。
ヨークシン編までがんばるぞー
感想頂けると執筆意欲が増します。感想待ってます。辛口でも甘口でもOK
では、また。