~決別~
ルルとリリが裏ハンター試験に合格してから一ヶ月後に、ようやく私も水見式の変化に太鼓判を押された。発の結果によって、コップの水はトパーズのような黄色になった。これで私も裏ハンター試験に合格した。そして、晴れて一人前のハンターとなれた私だけど、それから一ヶ月経った今でもルナのところで修行を続けている。念は基本の四大行だけ覚えたからといって即戦力になるわけでないことをルナに言われたからだ。発、必殺技を決めるにはフィーリングが一番大事なことだけれど、それは自分の趣味・趣向や体験から得られるもので、特に今すぐ発を考える必要はないらしい。それよりも、自分の発を考えついた時、それを強力な武器として使えるよう今はオーラの総力を上げることとオーラを操る術を学ぶべき、というルナの考えがあってのことだ。そうして、発の修行が完成した後も私はルナの下で修業している。四大行はあくまで基本でしかないらしく、応用技をしっかりと身につけるだけでも下手な能力者相手に不覚は取らないということで、ルナ相手に組み手をしたりしながらも今はその応用技を教えてもらっている。
私達が寝る前に練を維持し続けていたのも、あれは練と纏の応用技の堅というもので、堅の状態をどれだけ保つことが出来るかで戦闘は大きく変わると教えられた。ルナには最低でも一時間は堅を維持しろ、と言われたが、私は未だに10分が限界。ルル、リリは30分程度。私が自分を不甲斐ないと思いルナに話したら、
「堅を10分間延ばすだけでも一ヶ月はかかると言われてるんだよ。地道に伸ばすしかないさ。でも、ポンズには中々の才能があるとあたいは思ってるよ」
と言われた。ルナは嘘はつかない。でも私に才能があるとは思えない。そう考えていたのが顔に出ていたのだろう、いつものごとく扇子で額を小突かれた。
また、同時に凝を習慣づけるために、ルナが人差し指を立てたらすぐ凝で見て、指先から出ているオーラの数字を答えることも行われていた。隠という応用技でオーラの気配を絶つことが出来るらしく、対能力者においては凝が習慣付いていないといきなり隠の武器でブスリ、ドカンといったことがあり得るそうだ。指先の数字を一番に答えられた者以外が腕立てや腹筋、背筋などの体力トレーニングを課せられる。今のところ私は一番に答えられたことはなく、多くはルルが一番だった。ルナ曰く、
「念の修行も大事だけれど、それと同じくらい身体能力の向上も大事なのさ。念はある意味で武器と似通っていてねぇ。どんなにいい武器があっても扱い方はもちろんのこと、身体能力がなければ宝の持ち腐れだろう? だから念の修行だけをやったってどうしようもないんだ。特にポンズは二人に比べて身体能力が低いからねぇ。頑張って鍛えな」
とのことだった。確かに6歳位からこの樹海で遊びまわっていたという二人より身体能力が劣ることはわかっている。ゾルディック家での特訓でも、私は1の扉がぎりぎりだったにも関わらずあの二人は平然と3の扉を開けていたし、300キロの重りを着込んだままの体術も、何も着ていない私のそれより上だった。だから、私は努力を惜しむことはしない。ルルを守ってあげられるようになるのが目標だから。毎夜寝る前に樹海に繰り出して、ランニングがてら森の猛獣たちの相手をするのも出来るようになってきていた。修業中、ジャージの下に150キロの重りを着込んでいるのはルルもリリも知らない。それに、この森の中の家に住み出してから五感が鋭くなった気もする。それでも、比べる相手はルルとリリで、あの二人は化け物染みた強さを持っているから自分が強くなっているのかなんてわからなかった。
今日の夜中も森の中を走る。当所は全く方角もわからなかった森だけど、今は自分の居場所に見当もつくし、家の方角もわかっている。いつものように絶を使いながら走っていたら、森の端の近くで見慣れない人間達をみかけた。観察してみると、4人組の団体でそれぞれ猟銃などを持っていたが、オーラは垂れ流しで、能力者でないだろう事が一目でわかった。ルナはこうも言っていた。
「このウィクリの樹海には珍しい動植物が多いからね、それ狙いの密猟者が結構来るのさ。だから、あたいが来客をあんたらに言っていないのに誰かがこの森に入ってくるってことは、そいつらは密猟者ってことになる。だから、見かけたら丁重にお帰り願うようにね。ただ、念の使い手だったらすぐにあたいを呼ぶようにしてくれるかい?」
猟銃を手にした四人組は明らかに密猟者で能力者じゃない。そう判断した私は丁重にお帰り願うべく、動き出した。絶をしたまま素早く四人組の背後を取る形になると、まずは一番後ろにいる男の首元に手刀を一撃。あっけないほどに男の体は力を失って沈んだ。続けて二人、三人、ここでようやく私の存在に気付いたのか、慌てて猟銃を構える残った一人。構えられた猟銃を平手打ちにすると、男の手元から離れないようつけられたベルトを引きちぎって猟銃は吹き飛んでいった。私はその光景に唖然とした。男の方も急に仲間を倒され、あげく猟銃が吹き飛んだ様を見て唖然としている。念は使ってない。昔の私なら薬を嗅がせるなどで男達を眠らせるかして対処していたはずが、体術だけで四人を一瞬で武装解除させることが出来たのだ。半ば呆然としたまま最後の一人の後ろへ素早く周り首元へ手刀を落とす。あっけなく密猟者達を眠らせることが出来てしまった。同時に私が強くなってきていることが実感できた。私は、自分が成長出来ていることが嬉しくて、その四人組を担いで森の外へ放り出すと軽やかな足取りで家まで戻った。寝る前の堅の維持もいつも通り行ってその日は寝た。
私が成長を実感できてから数日後、私達にシャベルを渡したルナが、新しい修行メニューを言い放った。
「家の後ろに岩壁があるだろう? 一応森を回って行けば向こう側へ行くことも出来るんだがね、あんたらにトンネルを掘ってもらって近道を作ろうと思ったのさ。決してあたいが面倒がってるわけじゃないよ? あんたらの修行になるからこれを言い出したんだ。わかるだろう?」
ルナは嘘はつかない。それはわかっているので私達三人はトンネル掘りを始めた。各自一本トンネルを掘ることになったのだけど、掘る岩がとてつもなく固い。私の最初のシャベルの一撃は鈍い音とともに壁に防がれた。どうすればこれを掘れるのだろうか、そう思案に暮れていた私は今まで学んだことを思い出す。その時、脳裏に閃くものがあった。ルナの能力。確か、周というオーラを物質にとどめる技があるような事を言っていたはずだ。それに思い当った私は苦心しながらもシャベルをオーラで纏った。そして、岩壁に一撃。今度は砂に刃物を刺すような音とともにシャベルが見事に岩壁の一部を削った。――周の修行ってわけなんだね。そう思った私がルナの方を振り向くとこちらに笑顔を向けてくれていた。そういうことなら、と順調に掘り始める私。ルルとリリも気付いていたようでさくさくと岩壁を掘り進んでいく。しかし、60メートル程進んだところで力が上手く入らず、オーラも上手く出なくなってしまってきた。そして、掘った土を外へ運び出すと同時に私は仰向けに倒れてしまった。眼前にだだっぴろく広がる真っ青な空。と、ルナの姿がそこへ割り込んできた。
「周に気付いたようでなによりだ。ただ、応用技はけた違いに体力と気力と集中力を奪うからね、少しずつ慣れていくんだねぇ」
ルナはそう言って笑って包装紙に包まれたお菓子を横に置いた。私は座りなおすと、いただきますを忘れずにそのお菓子を食べ切り、ごちそうさまをした。同時に体力とオーラが回復したのがわかる。私は再びシャベルを持ってトンネルを掘り進めていった。
予想以上に長かったトンネルを開通させられたのはトンネルを掘り始めてから2ヵ月が経ってからだった。ルルとリリは一ヶ月でそれを済ませてしまったのだから、やはり自己嫌悪に陥らざるを得ない。トンネル掘りが順調に進むとともに新たな修行メニューが加えられた。それは、流という堅の状態で攻撃部位、防御部位に凝を行うもの。ルルとリリがトンネル掘りを終えた頃から始まったその修業は、予想以上につらいものだった。私はその頃ようやく堅が30分ちょっとは持たせられる位にはなったのだけれど、ルルとリリは既に2時間は維持できるようだった。私が凝による攻防力移動をなんとかこなし、へばっている間に、ルルとリリは流を用いた組み手を始めた。最初はとてもゆっくりとしたものだったけれど、私がトンネルを開通させた時にはもうすでに二人は全力の速さで流を用いた組み手を行えるようになっていた。私はルナに動きを合わせて貰って同じ修行をしていたけれど、全力で流を行いながら組み手を出来るようになるにはまだまだ時間がかかるだろう。それでも、ようやく堅を1時間維持出来るようになって、ルナに褒められた。
「あんたの成長速度はそりゃああの二人と比べたら遅くて、自分が不甲斐ないと思うこったろう? でもね、ポンズ、あんたの成長も十分に早いのさ。200万人に一人の才能と言っても過言じゃないよ」
――あの二人が1000万人に一人の才能以上のものを持ってるだけでね。そう最後に呟いたが、ルナなりの最高の賛辞に違いなかった。だから、私はあの二人を追いかけていく、そうしていつかはルルを守れるようになるんだ。そう誓った。
私のトンネル掘りが終わり、ルルとリリが全力で流を行いながら組み手を出来るようになった時、一緒の修行をしたいと言うルルの言葉を切り捨てて、二人へ先の修行へ進むよう言った。私に合わせていたら二人の成長を邪魔してしまうから。ルルの言葉はとても嬉しかった。でも、それじゃあ私はただの足手まといだ。そんなのは嫌だった。だから、私はルナに二人へ次の段階へ移ってもらうように言った。私の想いをわかってか、苦笑しながらルナは二人への修行をつけ始めた。それは系統別の修行らしい。私はそれに魅力を感じながらも、自身の底力を上げるべく、ひたすら堅と流の修行をしていた。
二人が系統別の修行を始めて一ヶ月、私が堅を1時間半維持できるようになり、流もそれなりに格好がついてきた時、ふと見るとぶんたが歩いていた。
~後書き~
今回はテンポ悪いですね;
修行内容はゴン達がビスケに受けたのと同じ。
最後の文の時でだいたい8月辺りです。
ポンズは別に受難受けてないなぁ、ってか成長早いなぁと思いながらもこんな感じに進んでます。
次回辺りで二章も終わりかな?
駄文ですが、読んで頂きありがとうございます。
感想頂けると飛び跳ねて喜びます。
では、また。