~三人の進む道~
【リリ】
自分の能力をどういったものにするか、それは案外簡単に決まった。変化系だから最初はオーラを毒に変えてナイフで切りつけようかと思ったけれど、それならば毒を塗ったナイフの毒を強化した方がいいし、毒の効かない相手もいるだろうからすぐに却下した。そして、考えた能力は、オーラを斬撃に変化させるもの。ナイフなどで切りつけた空間に斬撃に変化させたオーラを待機させておく。アタシはスピードと動体視力には自信がある。だから、この能力を覚えることが出来れば相手の動きを制限しながら上手く戦うことが出来るだろう。それに変化系は強化系との相性がいいから、ナイフの斬る力を強めることもできるだろう。アタシは修行の合間に密かにこの念を完成させるべく、練習してきた。そして、形になったところで少し問題が出た。自分より離れたところの斬撃のオーラが威力が低いのだ。これをどうすべきか考え始めた時に、制約と誓約という言葉を思い出したのでルナに相談しに行った。
「ルナ、夜遅くにごめん。ちょっと相談があるんだけど?」
「リリかい。相談て一体何だい? ……女の子同士で、とかそういう類ならあたいは知らないよ?」
ニヤリと笑って冗談を言うルナにアタシは至って冷静に聞き始めた。
「アタシは別に男にも女にも今は興味ないね。相談ってのは念のことなんだけどさ。制約と誓約ってなんなの?」
「年頃の女なのに男にも興味がないなんて悲しいねぇ。でも、もう念能力を考えてたのかい。制約と誓約ってのはね、ルールを決めてそれを「遵守する」と心に誓うことさ。そのルールが厳しいほど使う技の威力が大きく上がるんだよ。ただ、そのルールを破った場合には念能力を失う危険があるよ?」
「ルールを決める、か。アタシが考えてる能力はオーラを斬撃に変える能力。ナイフとかで切りつけた空間に斬撃を待機させて触れたものを斬るってもんなんだけど、あんまり数を増やしたり、距離が2メートルも離れちゃうと威力がガタ落ちなんだ。それをどうにかしたいんだけどどうすればいいと思う?」
ルナは瞼を閉じて少し思案に暮れている。森の獣の鳴き声が聞こえる。木々が風に揺られて葉の擦れ合う音が聞こえる。と、閉じた瞼はそのままにルナが口を開いた。
「まずは系統別修行で放出系の威力を上げることだね。それと、リリ、あんた確か愛用のコンバットナイフがあったろう?」
「うん、あるよ」
「愛着のある物を使うことで念の威力も上がるんだ。無理に制約をつけなくても、今は愛用のコンバットナイフで斬りつけた場所に斬撃を待機させる、で十分じゃないかい?」
「それでも、空間を有利に使うには威力が足りない気がする。他にない?」
アタシの答えを聞いて再び思考にはいるルナ。短く息を吐き出すとゆっくりと口を開いた。
「じゃあこういうのはどうだい? 硬を行った愛用のコンバットナイフで斬りつける。硬はもう教えたから危険性はわかってるだろう? 戦闘態勢に入った状態で硬を行うのはリスクが高いから、威力は断然増すだろう。ただ、あまり勧められたものじゃないね。戦闘では1秒すら命取りになるからね」
「硬か……確かにそれなら威力が上がりそうだ。危険性についてはちゃんと考えておくよ。それじゃあ後は系統別の修行をするだけだね」
「そうさね。ただ、出来ることならオーラの絶対量と系統別の修行でなんとかしておくれよ?」
「わかった。ありがとう、ルナ」
「こんなでも一応あんたらの姉で師匠になるわけだからなんでもないことさ。それじゃあ今日も堅を限界までやってから休むようにね」
わかった。そう言ってアタシはルナの部屋を出て、自分の部屋へ戻った。
【ルル】
ボクは自分の系統が操作系ってことを知って喜んだ。だって、これならぶんたが動けるってことだから。そう思ったボクは、ぶんたにオーラを纏わせる。「右手上げてー」とぶんたに言うとぶんたの右手が上がった。おぉ。続けて左手。こっちも上がった。……でも、これじゃあ自分の手で動かしてるのと変わらないじゃんかぁ。ボクはぶんたに自由に動いて欲しいんだ。そーだ、ルナ姉ちゃならわかるかもしれない。そう思ってすぐにボクはルナ姉ちゃの部屋に行った。
「ルナ姉ちゃー、こんばんわなのー」
「あぁ、ルル。こんばんは。どうかしたのかい?」
ルナ姉ちゃは生物図鑑を読んでいる最中だったけど、いやな顔一つしないでボクを迎え入れてくれた。
「あのねー、ボク、ぶんたに自由に動いてもらいたいのー。どーすれば出来るのぉ?」
ボクがそう聞くとルナ姉ちゃは少し難しい顔をした。
「あたいは操作系に関してはさっぱりだからねぇ。……自由にって例えばどんなふうに動いて欲しいんだい?」
「えとねー、ボクが何かお願いしなくても自由に動いて欲しいのー」
「自由に、ねぇ。いいかい、ルル。操作系っていうのは『操作』する力なんだ。だから完全に自由に動くようにとはいかないと思うよ? 例えば、ルルが誰かに襲われた時に自動的にソイツを攻撃する、とかそんな感じになるんじゃないかねぇ」
「うーん、ってことはぶんたが心を持つのは無理ってことなのぉ?」
ボクは涙を浮かべて聞いた。
「心を持たせるのは無理、さ。最初に言ったけど、あたいは操作系に関してはさっぱりなんだよ。力になれなくてすまないねぇ」
ぶんたはどうやら心は持てないみたいだ。がっかりした。すまなそうにしているルナ姉ちゃの姿を見て、ボクもちょっと悪いこと聞いたかもしれないと思って謝った。
「ルナ姉ちゃ、無理言ってごめんなさいなのー。自分でなんとか考えてみるねー」
そう言ってボクは部屋を出ようとした、その時にルナ姉ちゃから声をかけられた。
「ルル。これは可能性の一つで、成功するとは言い切れない……むしろ失敗する可能性の方が高いだろうけど試してみるかい?」
可能性があるってことは無理じゃないってことだ。迷わずボクはルナ姉ちゃに向かって頷いた。
「ルル、あんたには特別な癒しの力があると言ったことは覚えているかい?」
「うん、覚えてるよー」
「その癒しの力を使えばどうにかなるかもしれない。ぶんたを作った時に使った布はね、ジルベルヴォルフっていう最も強靭な表皮を持った狼の毛皮なんだよ。そして、ぶんたを作った時に使ったのは丸々一頭分さ。だから、あんたの血の癒しの力に操作の念を加えればぶんたは命に近いものを持てるかもしれない」
ルナ姉ちゃの言った言葉を頑張って理解する。ぶんたはもとは狼の毛皮で、ボクの癒しの力を使って毛皮に命を吹き込ませる。それで、あまりにも勝手な行動をしないように念で操作する……なんかできそうな気がする。ってゆーか出来るって確信めいた気持ちがある。
「ルナ姉ちゃ、ナイフ貸してー」
そう言ってナイフを借りると、手首を切り、血を流し、それをぶんたにかける。ぶんたにオーラを送ってないのに、ぶんたにオーラが溢れているのがわかった。切ったところはもう塞がっている。と、ぶんたがぷるぷると動き出した。すかさず、ボクの後をついて来るよう操作の念を送って、歩いてみると、ぶんたが着いて来た。ルナ姉ちゃは呆然と見ている。
「ルナ姉ちゃ、出来たー!」
「……まさか本当に出来るとはねぇ。あんたの血の力、なるべく人にばれない様にするんだよ?」
「うん! ルナ姉ちゃとリク兄ちゃとリリとポンポンの中の内緒にするー。あ、でもゴンちゃとかには言うかもしれないやぁ」
「ゴンちゃっていうのは、確か同期のハンター合格者で友達だったかな?」
「そうなのー。9月1日にヨークシン?で集まる約束してるんだー」
「……そう。気をつけるようにね」
「? うん、わかったー。じゃあぶんたついておいでー」
ボクがそう言って歩くと、ぶんたも四足で歩いてついて来る。ぶんたが動くなんてとっても嬉しい! あ、でもボクどうやって戦おう……ぶんたがやってくれるかなぁ? まぁいいや、今日はとりあえず堅をして寝よーっと。
【ポンズ】
流に格好がつき、最近やっと系統別の修行も始めた。私の考えている能力は蜂を弾丸のように撃ち出すのと、蜂の毒の毒性を高めて蜂を相手を追尾するようにして刺す能力。どことなくはできているけれど、まだ威力が足りない。まだまだ系統別の修行を積む必要がある、そう思った。
そして今、私はリリとルルの戦闘を目を丸くして見ていた。いつもの組み手ではなく、互いに念能力を使った戦い。ルルはぶんたとコンビネーションを組むようにして戦っている。ぶんたの動きはとても速く、さらに速さだけでなく、爪を伸ばして攻撃したり、口を広げ牙で相手にかみつくようにしたりと多彩な攻撃方を持っている。ルルの動きも速く、ぶんたの攻撃をかわすか防御した隙をついて流を使って強力な攻撃を当てようとしている。しかし、リリが押されているわけでもなかった。それらの攻撃の一切をかわし、ぶんたやルル以上の速さで動き、ナイフを振るったり、殴ったり、蹴ったりを見事に流を使って行っていた。時折何もないところでナイフを振るっているのが最初は訳がわからなかったが、ナイフを振るった位置にぶんたやルルが着いた瞬間、斬撃が起きていた。恐らくそういう能力なのだろう。ぶんたは防御力が高いのか吹き飛ぶ程度だったが、ルルがそれに当たると血飛沫が舞う。完全に組み手や試合と違う、戦いだった。私がどちらかの相手をしてもすぐにやられているだろう。と、リリが爪で斬りかかろうとするぶんたに鋭い蹴りを浴びせ吹き飛ばし、私の眼で追い切れない速さでルルの元に現れ首元にナイフを当てていた。――リリの勝ちだ。私がそう思ったのと同時にルナが手合わせの終了を告げた。
「リリ、ルル、あんたら二人とも想像以上に強くなってるねぇ。あたいがやっても勝負はわからなそうだよ。免許皆伝ってところだね。あんたらは後は他の念能力者達と戦ったりして実戦経験を積むだけさね」
「ルナ、修行あんがと。アタシだいぶ強くなれた気がするよ」
「ルナ姉ちゃ修行ありがとなのー」
そう今までの修行の礼を言う二人の頭を撫でるルナ。
「9月1日にヨークシンなんだろう? ならさっさと支度して行っておいで。あんまり危ないことはするんじゃないよ。あぁ、そういえばポンズはどうするんだい?」
そう私にルナが聞いて来た。ルルとリリは強い。滅多な事が起きない限り死ぬことはないだろうし、滅多な事があったとしても私がいた方が邪魔だ。そう思った私は口を開いた。
「私はもう少しルナに修行をつけてもらっていい? 能力も完成してないし、これでも一応幻獣ハンター志望なのに、この樹海をちゃんと見て回らないのも気分が悪いしからね」
「そうかい。ならこれまで以上に厳しい修行を覚悟しとくんだねぇ」
そう言ってルナが妖艶に笑った。ルルが少しごねたけど、なんとか強引に説得した。
そして8月の終わり、ルルとリリはヨークシンへ旅立っていった。それを見送った私にルナが言った。
「それじゃあ食材集めにもちゃんと協力してもらうからねぇ? 楽が出来ると思わないことさね」
その一言でなぜか全身に鳥肌が立った。
~後書き~
すこし強引かもしれませんが修行編終了です。
ルル、リリの能力名はまだちゃんと考えてないんですよね……
ぶんたはオートの操作系になります。
強引ですが血の力でぬいぐるみに命(?)が宿りました。
これでヨークシン編ちょっと楽になるんです。
ってか、リリの能力ホントにこれで良かったのかなぁと悩んでる作者です。
ポンズの受難編は終了ですが、実際のポンズの受難はリリルルがいなくなってからです。
メンチさんも言っていたように食材探しはやわな仕事じゃないので。
ジルベルヴォルフは適当に考えた狼の一種です。
ドイツ語とかを適当に弄ってつけた名前。
白銀の毛皮を持った、世界で最も美しく強いオオカミと言われている、設定です。
リクの白コートもこの毛皮で作ってあります。
感想頂けると嬉しいです。
それでは、今度はヨークシンで会いましょう。