~人間やれば出来るものだと知った~
【リリ】
ルルの「しゅぎょー」発言から5年程たった。
「しゅぎょー」の始まりは、最も身近にありながら足を踏み入れたことのない森での追いかけっこから始まった。リクをひたすら追いかけるだけ、という単純なものであったが、その際にこの森がどれだけ危険であるかを知った。
重い体を跳ねさせるように動き回るウサギガメは実害がなかったのでまだ良かった。しかし、2メートル程ある巨躯のベアウルフや、いつかリク達が捕えてきたオオキバウリなどに初めて出会った時には、もう本当に殺されると思った。と言っても、それらはアタシやルルの視界に入るや否やリクかルナかがすぐさま追っ払っていたので安全ではあった。
それに、初期に追いかけっこをしていた場所はこの森の中で最も安全な場所でもあったらしい。追いかけっこの時はいつもリクはただ歩いているようにしか見えないのに、アタシ達が必死で走らなければ置いて行かれそうな速さだった。ただ、リクにはアタシとルルの限界がわかっているようで、決して見失うことはないし、後ろからはバスケット片手のルナが着いてきていた。
いつも決まって、体力の限界になる頃にはちょうど昼で、ルナお手製のお弁当を皆で食べる。ルナ手製のお弁当を食べると不思議と体力が回復する。何か秘密があるのかと聞いた事もあったが、「今は内緒」としか答えてくれなかった。
お弁当を食べ終わると追いかけっこの再開だ。ここへ着くまでと同じようにリクが前を進み、その後ろにアタシとルルが走っていき、後ろからルナが追いかけてくる。そうして追いかけっこをしていると、いつも決まって陽が落ちるちょっと前に家に辿り着く。アタシとルルは汗が止めどなく流れ出るし、息も上がっているというのに、化け物を追い払いながら走って(歩いて)いたリクとルナは何ともない様子で、風呂の用意と夕飯の支度をするのだ。
そんな追いかけっこはペースや距離の差はあれど、リクに仕事がある日以外は毎日やっていた。
それと合わせて、リクが一時期習っていたという「心源流」とやらの型の練習、手合わせなども行われた。ルルは最初人を殴ることに抵抗を感じていたようだが、ルナの必死の説得のかいが合って、なんとかあたしと手合わせ出来るようになった。ルルに体術の心得はなかったが、アタシも頸動脈を掻き切る位の技術しか持ち合わせていなかったので、ルルが最初に遠慮していた分を抜いたら、ルルとアタシはほぼ互角にやり合っていた。
体術の向上に合わせてか、そこらにいるベアウルフやオオキバウリにも後れを取らなくなった頃からは、「かくれんぼ」もするようになった。風で木々が揺すられ葉の擦れる音とは別に、人や動物の気配のようなものを感じ取る目的だったらしい。悔しいことに、アタシは「かくれんぼ」では一度もルルに勝つことが出来なかった。足音も気配も殺していたはずなのに、気づかぬ内に背中からぽんと肩を叩かれる事が多かった。その度心臓が破裂しそうな程驚いてしまうので、手合わせの時に何度か本気でぶっ飛ばしたりもしてしまった。やってしまってからハッとしたが、ぶっ飛ばされたルルはというと「イテテ」と言うだけでいたって元気ではあった。
そんなこんなで、難度を上げながらも修行をこなしていき、この森、というか所謂樹海であるこの森も踏破した現在、アタシとルルの目の前にはハンター試験の応募用紙が置かれていて、ようやく当初の目的を思い出したのだった。
「っていうか、こんなんで本当に受かんのかよ!」
アタシが最もだと思うことを言うと、ルルも熊の人形を抱いたまま微かに頷いている。しかし、リクは微笑んだままで、大丈夫だよ、と軽く言ってのけた。
「ルナも何とか言ってよ!」
そうルナに振ると、ルナもニコニコしながら、大丈夫よ、と言うだけだった。
思わず長い溜息が出る。
「逆に受からないなら試験管が悪いってことだと思うよ」
微笑みながらリクは続ける。
「だって、この森は本来プロハンターしか入ってはいけない位の危険度なんだ。この森を自由に歩けるルルとリリなら絶対に大丈夫だよ」
リクは嘘を吐くことがない。ということは……
「そんな危険な森で遊ばせるんじゃねぇ!」
アタシは声を大にして怒ったが、リクは微笑んだまま、申込用紙をついっと押しだしてきた。そして、ちなみに……とリクは続ける。
「これから暫くはここを離れなきゃならなくなったんだ。ルナは美食ハンターだから、美味しい食材の宝庫の此処にまだ留まるけどね」
だから……
「俺にまた会いたいと思うなら、ハンターになって探しに来てくれ」
そう言ってリクは出て行った。ドアを閉める時に「またな」と聞こえたのは幻聴じゃないはずだ。
アタシがルルへ眼を向けると、ルルもこちらに目を向けていた。琥珀色の瞳に決意の色が混じっているのがわかる。
「わかった、受けてやろうじゃないかハンター試験!」
アタシとルルが指紋認証にタッチすると、後は出すだけの申込用紙。アタシとルルはそれを持って森を駆けて行った。とりあえず、ポストのある街へ向かって。
~あとがき~
エピソード終了です。
結構やっつけ仕事になっちゃってるなぁと自分でも思ってます。
とりあえず、受ける試験はゴン達と同期です。
ここからやっと自分の妄想を文章に出来る、と思うと結構嬉しいものがありますね^^
とりあえず、こんな感じのエピソード:1~5でした。
感想頂けると嬉しいです。
それでは失礼します。