僕らはあいに慣れることはないのさ、アンパンお化け以外。愛と勇気だけが友達なんて悲しすぎる。
『16話・再会した結果が敵』
久方ぶりに畑に赴く。肩に鍬を背負って畑に歩みを進める。
種を撒いてから、結構な月日が経った。具体的には3ヶ月弱だけど。
こちらの異世界の植物は、実に素晴らしい生命力を持っているので世話をしなくていい。とても楽だ。楽なのは良いことだ。
そんな事を思いつつ、実に約60日ぶりの畑を見ることにしたのである。
ここで注意すべき点は、月日に関する具体的な数字を2つ出しているが、それが全部嘘であるということだ。この嘘が僕自身のクオリティーの高さを物語っている。空気を吸うように嘘を吐く僕って、とても素敵だと思う。
そんな事は脇に置いておいて、若干の高揚感を感じながら、僅かばかり早足で畑に向かう。どんな風になっているのかしら。
ワクワクドキドキとしながら畑に到着。
久しぶりの畑なので、やはり感慨深いものがあるだろうと予想していた。
しかし、僕が感慨に耽ることは、無かった。
目前に広がる光景。
巨大な怪鳥が畑をほじくり返している。
荒らされた畑。
散乱する野菜だった物の残骸。
どうしようもなく、壊滅的な、僕の畑。
その成れの果て。
愕然とそれを見る。
僕は呆けてそれを見る。
意味が分からない。予想もしていなかった事態に、僕は思考するという行為を放棄していた。
ただただ呆然と、眼前に広がる荒涼の土地を瞳に映す。
思考は空白、動作は皆無。心は絶無の虚無が広がるのみ。
その時、全長50mをゆうに超える怪鳥が鳴いた。
「アー! アー!」
天に向かって吼える様に鳴く、巨大な鳥。
その巨躯を震わせ、広大な翼を羽ばたかせる。
豪風。強風。突風。害風。光風。春一番。
生じる風は、即ち全ての【風】と云う概念を孕む物。
それは神秘的で、魔性的で、神聖で、邪悪で、光を宿し、闇を宿した様な、この世の全ての【風】が纏う概念を宿す物。
「アアー!!」
一際高く吼え鳴いて、その巨体は宙を舞う。
その姿を瞳に映す僕は───
「待ったらんかい! このボケがぁあああ!!」
「クアッ!?」
───容赦なく手に持っていた鍬を投擲した。
力一杯に、感情に任せてぶん投げたので、鍬はクルクルと回りながら飛んだ。その飛んだ鍬の持ち手部分が、怪鳥の頭に見事に命中。
怪鳥が唐突な衝撃に怯んだ鳴き声を上げて地に落ちた。
僕は怒りに肩を震わせながら、怪鳥を睨みつける。
「てめぇ、このダイナブレイド! よくも僕の畑を荒らしやがったなぁ!! 思わぬ事態に流石の僕も平静じゃ無かったぞ!!!」
平静じゃなかったけど、冷静ではあった。
畑を荒らしている最中の光景を、荒らし終わるまで待ってしまったのだから。
あまつさえ、その光景を解説してしまった。
こいつの巻き起こした風に、そこまでの荘厳さなんてないっての。
普段の僕なら、迷わず吶喊していただろうに。あまりの事態に特攻もかけずに行為が終了するまで待ってしまったよ、おい。
「クァアアアア!!!」
大地に伏していた怪鳥が、体勢を立て直し激昂の鬨を上げる。
その目に殺意を浮かべて、己の敵を、つまりは僕を睨んでいる。
「この野郎! 人様の、僕様の畑を荒らしておいて逆ギレか!? これだから最近の若い者はカルシウムが不足しているのよ!!」
「クアアアア! アーーーー! アーーーー!!! カアーーー!?」
「なんだと、この野郎!? 悪いのは貴様の方だろうが!!」
「キャオオオオ!! クルアアアアーーー!? キュウウウ!!!」
「僕の責任だとぅ!? 責任を転嫁するんじゃない! 僕には、まだ舌先をとある突起に転がさせてくれる嫁さんなんて居ないんだよ!!!」
「カアアアアアアア!!! グア! ギャアアアアアアアーーーーー!!! クルクルアアアーーーー!! アー?! ギャオオーーー!!」
「何が卑猥か! 具体的な部位の名称を僕は云っていないぞ!! 上か下かも分からないのに卑猥だと何故鳴ける!!」
「ギャウアアアアーーーー!!! アアーー!? クルオオオオオ!!! ガアアアアーー!!!」
「ちぃっ! 反論出来ないっ!! 鳥の癖に正論を鳴きやがって! 鳥の癖に鳥頭じゃないのか?!」
「クア!」
「なんだって!?」
「コウアアアーーー!! コッコッ、クケーーー!! キエエエエエーーー!!!」
「畜生!! そこまで鳴かなくたって良いじゃないか!! それは鳴き過ぎだ!!!」
「クッケー!!」
「こんにゃろう! 僕をバカにしやがって!! ダイナブレイドの癖にぃ!!!」
「クアッアーーー!!!!」
「望むところだぁあああああ!!!!」
ところで、この鳥は何を云っているんだろうね?
僕は鳥語とか分からないので一切合切意味不明だ。
なんか勢いで言葉を返してしまった。
意思疎通って重要だね。
*****
ボロボロになった畑が広がる。
そのど真ん中で、僕も負けじと襤褸切れの様な姿を晒していた。
少し距離を置いた真向かいには、同じく羽根を散らした怪鳥ことダイナブレイドが鎮座していた。
お互いにボロッボロになりながらも、しかし、それでも僕もダイナブレイドも眼光は鋭く相手を見つめている。
中々の死闘を演じた僕とダイナブレイド。歴史に残っても可笑しくない、壮絶な戦いだった。
既にお互いは満身創痍。次の一撃が、全身全霊にして全力全開の最後の一撃になるだろう。
はぁはぁ。
クェェクェェ。
吐く息も荒く、肩を揺らす。ダイナブレイドも、熱い息を吐きながら気勢を整える。
どうでもいいが、僕の中ではこの怪鳥が完全にダイナブレイドで固定されてしまった。どうしたものか。……どうもしなくていいか。
ところで、殺し合いという物は本当に疲れる物である。
しかし、互いの熱きパトスをぶつけ合い、互いのパッションを殺し合いという手段で相互に確かめ合う事が出来る。
今まで、今の今まで、お互いを単純な害悪な存在であると、邪魔な存在であると、排除すべき存在であると認識していたが、殺し合いという手法により若干ながらも相手の事を理解出来てしまう状態に陥った、僕と奴。
それは、その状態は、まるで親友のように、恋人のように、宿敵のように、とても心安らぐ関係を意識させるのだ。
そうなると、なんだか相手の事を分かった気がして、先程までの憎悪等と云った感情が薄れていく。ある意味で賢者タイム。
僕がそんな思考をしていると、ダイナブレイドが立ち上がろうとしていた。真っ直ぐに、僕を見据えて。
それに僕も応える。奴を見据えて、全気力を以って立ち上がる。
互いに互いを見据え、僕は、ふと笑みを零す。
「ふっ、中々楽しかったぜ、ダイナブレイド。少し、お前の事が分かった気がするよ。次が、事実上最後の一撃になるだろうが、不思議なものだな。僕は、少しの寂寥感を覚えているよ。結果が、勝利であれ敗北であれ、終わりが来るという事実が、僅かながらに寂しさを僕に与える。お前はどうだい?」
「ケッ」
「………………」
唾を吐かれた。
どうやら、お互いを分かりあえたと思っていたのは僕だけらしい。
何だろうね、この気持ち。なんだか、とっても泣きたいんだ……。
やるせねぇ……。
「ええい! 僕の一方的な気持ちを踏み躙ったことを、後悔させてやるぅあああ!!!」
「グエエエエエーーーー!!!!」
ダイナブレイド目掛けて、僕は突っ込む。思いっきり右腕を振りかぶり、渾身の一撃をお見舞いしようと疾走する。
それを躱そうとするダイナブレイド。巨大な羽根で突風を巻き起こし、僕を吹き飛ばそうとする。
だが、甘いっ!
既に我が身は、この一撃に全霊を掛けるのみ。振り絞った気力は並大抵の艱難辛苦如きに屈しはしないっ。
僕の疾駆を、その程度のそよ風で阻めるものかぁぁぁあああああ!!!
「焼き鳥にして喰ってやるぅぅうああああああ!!!!」
全身全霊全力全開本領発揮で渾身無双の一撃を、解き放つ!!!
踏み込みによる大地の反動、筋肉収縮による極限値での力の流動、身体運用による理想的な血流の伝搬、迅速な脳内情報処理による、最適な一撃。
秘伝之参・弾拳。
別名、渾身の右ストレートだ!
さあ血飛沫を撒き散らせぇぇ!!!
が。
なんと、僕の一撃をダイナブレイドは消失することにより回避したのだ。
否、それは消失ではなく、焼失。
ダイナブレイドは、その身を灼熱の炎に変質させて、僕の一撃を見事に躱したのである。
そして、炎の塊と化したダイナブレイドが天空へと舞い上がる。
その光景に僕は、思わず声を荒げた。
「自ら焼き鳥になっただと!?」
なんてことだ。正真正銘の焼き鳥だ。
鳥の形をした炎の塊なんて、流石に喰えないよっ!!
「ギョアアアアアアアッ!!!」
どこから声を出しているのか不明だが、ダイナブレイドが咆哮を高らかに上げて僕に突進してきた。
その様は、さながら紅蓮の大瀑布。
「にょあああああああああああああああああ!?!?!?」
僕は、その瀑布に為す術なく呑み込まれた。
火柱が、天を灼く。
*****
「…………何があったんですか?」
僕がこんがりと焼きあがって、とても食欲をそそる匂いを醸し出しながら荒廃した畑に倒れ伏している時、様子を見にきたメアが唖然とした口調で言葉を漏らした。
プスプスと黒煙を昇らせながら、僕はメアに答える。
「だ、ダイナブレイドが、焼き鳥、にぃ……っ!!」
「……意味が分かりません……」
メアはますます困惑していた。
困惑していたが、取り敢えず、この惨状は後回しにして僕を介抱してくれるメア。
普段ならば、あからさまなボディタッチを敢行する所であるのだが、如何せんこの重症である。身体が動かない。実に惜しい。
メアは懇切丁寧に、とても優しい治療を施してくれた。
そのメアの治療行為に、下半身にある僕の分身がはっちゃけていた。
この状態でも元気な息子に惚れ惚れする。流石は僕の自慢の息子だ。
治療が終わり、僕の身体が動くまでに回復し、僕の息子が鎮まるまで待って、この惨状の説明をした。
かくかくしかじか。
この一文で意思疎通を行える世界が大好きである。
実に合理的な端折り技。楽が出来ていいね!
「きちんと説明してください」
……かくかくしかじか、だけでは伝わらなかったらしい。
仕方なく、慇懃に説明をする僕。
僕の説明を聴いて、メアは表情を驚愕に彩った。
どうしたのだろうか。
「始祖鳥と闘ったんですか!?」
「ん? あいつシソチョウって云うの? 酸っぱそうだね」
梅干しでも漬けるのかしら。
「この森の世界樹に棲み、この世界が誕生した時に生まれたとされる神鳥になんて事を云うんですか!?」
「ああ、その始祖か」
紫蘇かと思った。
「しかし、よく無事でしたね……」
「無事とは云い難いけどね」
火傷しまくったもの。
危うく木乃伊男になるところだった。
「その程度で済んだのだから、僥倖ですよ」
「どういう意味?」
「本来の始祖鳥は、聖炎に聖風の属性を身に宿す存在。その炎熱は総てを焼き尽くし、その颶風は総てを薙ぎ払うと云われています」
「……強いの?」
「神竜様と同等以上の実力らしいですよ?」
「レヴァンお姉様と!?」
とんでもない強さじゃないか!?
「一般的には、不死鳥と呼ばれています」
「なるほど、だから炎か」
炎の属性を宿した鳥と云えば不死鳥がメジャーだものね。安易な発想であると云わざるを得ない。
しかし、何気に凄い鳥だったんだな、ダイナブレイド。
「……ともかく、無事で良かったです」
「そうだねぇ」
いやはや、気付かない内に死亡フラグが立つところだった。
……ん?
「あれ? そんなに凄いなら、どうして僕は無事だったんだろう?」
「基本的に穏やかな性格なので、よほどの事をしない限り本気にはなりませんよ」
あいつ、あれで手加減してたのか。人を丸焼きにする行為でさえ、あいつにとっては本気ではないと云うのか。
……恐ろしい。
「ともかくとして、今日はもう戻りましょう」
「はーい」
メアの言葉に従い、僕はメアと連れ立って城へと帰る。
中々に波乱万丈な一日だったなぁ、と想いながらメアの臀部に手を伸ばし、しかし直前で叩き落とされた。
メアに叩かれた手を抱え、きらりと涙を零す。
いいじゃない、ちょっとくらい。
「燃やしますよ?」
にこりと笑みを浮かべてメアに云われた。
「…………」
…………嗚呼、今日の晩御飯は焼き鳥が食べたいなぁ。
現実から、逃避を試みる僕であった。
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あとがき
本板での初投稿です。どのような反応が来るのかドキドキです。叩かれる予感しかしないっ!
これが、プレッシャー、か……。
▼貴方達の温かい言葉が、作者の緊張を和らげます……。
>なんというハイレベルな変態w
>いいぞ、もっとやれ!
変態じゃないよ!紳士だよ!
ところで何をやればいいのか。作者にはさっぱりだ。
>Tさんひさびさに聞いた
>再登場希望デス
……無茶な。
今の作者の力量では、それは無茶なのさ。ごめんね!
>おい酔っ払い。いい加減にしろwwwww
>ちなみに、主人公に言ってる訳じゃないぞ。
(′・ω・)じゃあ誰に言っているのかしら?
(*′∀`*)さっぱり分かんない!ヒック!うぃ~。
>これは良作を発見したものだと感動しております。
>主人公ほどの紳士になると、きっと世界が余人とは違った色に見えるのでしょうね。
>本板に進出されるとのことですが、頑張ってください。
>ちなみにスクールヘブンは私も大好きです。
>応援しております。
ご丁寧な感想をどうもありがとうございます。
この作品を良作と思って頂き嬉しい限りです。
主人公については、作者にもさっぱり分からないので何とも言えません。怖いですね、己の力量で動かしづらいキャラクターって。
作者はスクールヘブンで真っ先にハーレムを目指しました。面白いですよね。賛否両論あるようですが、作者も大好きです。
これからも頑張って行きますので、どうぞよろしくお願いいたします。
>シリアスではなくて尻assだったんですね。
>いやあ、最初はどういう意味か良くわかりませんでした。ウヘヘヘヘ
(′・ω・)君が何を言っているのか分からないよ……。
>なんというカオスw
>言いたいことは色々あるけど、感想までカオスになりそうなので一つだけ
>クイーンナイトはもっと続いても良かったと思うんだ。
その色々な部分が気になるけれど、藪蛇そうだから訊かないヘタレな作者さ!
作者もクイーンナイトは続いて欲しかったです。できれば普通の終わり方をして欲しかったですよ。
あの終わり方は、衝撃でした。
>とりあえずあとがきの通訳を誰か頼む。
>話はそこからだ!
つまり話をする気はないということだな!