今日もお腹いっぱい遊びたい! …え、駄目?
『17話・漢で乙女』
「んもぉ~! だからねぇ、あの人ってばっ──!!」
「はいはい、そうですねー」
月一でのバイトの最中。
きゃんきゃんと高音かつ大声で愚痴を喚くクルーノさんの相手をする。
この状態を既に小一時間も継続している。いい加減にげんなり気分の僕である。
「ちょっとぉ、聴いてるのぉ!?」
「聴いてるんじゃないですか~?」
キンキン声が右耳から入ってくるので、それを左耳から受け流す。
その際に脳味噌が震える。かき氷を一気喰いした時のように、頭がキーンとする。頭がキーンとする。
別に大事なことではないが2回云ってみた。
「それでぇ、もうホントにあいつったらね!?」
「そー」
超音波ボイスに顔を顰めながらも、僕はガラスのコップを磨きつつ愚痴を聴く。聴いて上げる。僕の優しさに咽び泣け。
コップをキュッキュッと磨く。クルーノさんは未だに超音波を乱射している。その超音波で怪音波な声から逃げる様に、半径5m圏内には他のお客さんの姿はない。その迷惑ボイスの圏内に居るのは僕だけである。そんな苦行に耐える僕に対して、皆さん知らん顔である。女性客以外全員地獄に堕ちろ。
それよりも、エリーナさん。貴女はこの酒場の店主でしょ。何故にバイトの僕に、こんな面倒臭い客を任せて、自分は悠々とお酒を他の客に晩酌させているのでしょうか? 本来は店主の貴女が相手をするべきなのではないのかと疑問に思います。
「ちょっとおおおお! 聴いてるのおおお!!」
ガシャン。
「痛っ!?」
僕が磨いている最中のコップが割れた。手で持っていたので、割れた破片が手に刺さり鋭い痛みが身体を駆け抜ける。
というかこの人、声でガラスコップを割りやがった。本当に超音波出してやがったのか。あな恐ろしや。この人体兵器め。
どうでもいいがエリーナさん。僕の痛がっている姿を酒の肴にしないで下さい。そんな面白そうに微笑まないで、このサディストめ。いつもは無表情の癖に。今すぐにでも、その綺麗なおみ足を僕の舌で舐め回してやろうか!!
僕はその行為だけでも興奮出来るのだ。僕の息子の溌溂っぷりを舐めるなよ。いや、むしろ舐めて欲しいです。こう、レロレロと。
若干、僕の思考が危ない方向に全力で走っている時でさえ、クルーノさんは轟々とした声で囂々と喋り続けている。怪音波大発生である。後ろの棚にある皿までもが被害に遭おうとしている。
「───ねぇ!? 貴方はどう思うぅうううう!!!」
ガシャアアアアアアアン!!!!!
「ぎゃああああああああ!?」
とんでもないビブラートのかかった超音波が僕の耳を直撃した。いつの間にか至近に居たので、破壊力は尋常ではない。
その超音波は僕の鼓膜に甚大なダメージを与えるだけでは留まらず、背後の食器を結構な数粉々にしたのである。
そんな一撃を僕の耳元で叫ぶなんて、正気の沙汰じゃない。
目眩にも似た感覚が僕を襲う。脳が揺れているっ、気持ち悪いっ。
「どうなのよぉおおおおおおお!!! 答えなさいよぉおおおおおお!!!」
「やめれええええええええ!?!?!?!?」
僕を思いっきり前後に揺らすクルーノさん。
ははは、分かった。僕を殺す気だなぁ?
「云いなさいよおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「あははははははははは!!!!!」
僕の自我が崩れていく気がする。
ここまで一方的に僕が攻められるなど珍しい。こんな弄られキャラは僕では無い。
はっ!? もしや、これが件のキャラ崩壊かっ!!
なるほど。キャラ崩壊ならば、僕の現状が自分のキャラに合っていないのも頷ける。
そう考えるとキャラ崩壊が顕著になっている。目の前に綺麗なお花畑が見えるもの。一面が菊の花で埋め尽くされているのは、流石に如何かと思うが。
それは脇に箱詰めして放置するとして、このまま行けば僕は新たなキャラクターを確立して華々しいデビューを飾ることだろう。
揺れる脳味噌で、僕は益体もない事を脳裏に思い浮かべていた。
*****
閑話をひとつ。
結論から云えば、僕は三途の河に行った。行っちゃった。
彼岸とは実に美しい所だった。流れる河を挟んだ向こう側、綺麗な菊の花畑が一面に咲き誇り、流水湛える河の水は透き通っていた。
僕はそこでバタフライやクロールで泳ぎまくり、彼岸と此岸を20回程往復した。僕が気持ちよく泳いでいると、綺麗な花畑の方から声が聴こえて来た。背泳ぎで向かうと、見知らぬお婆さんがニコニコと微笑んでいた。傍らにはお爺さんも立っており、二人とも並んで僕を見ていた。
なんだろうと思い陸に上がると、二人の姿がいきなり変貌したのである。軽くホラーでした。
老夫婦然としていた二人は、その身を鬼のそれに変えていた。そして、おもむろに僕の衣服を脱がそうとしてきたのだ。なんてアグレッシブな爺婆だと感心したものである。
しかし、流石の僕も老人は守備範囲外であるため、必死で抵抗した。これが綺麗なお姉さんだったら流れに身を任せるところである。
取り敢えず、鬼化したお婆さんの顎を蹴り上げ、さらにジャーマンスープレックスをかまして地面に頭から埋めてあげた。
その後、襲い来る鬼化したお爺さんの角を掴み、ジャイアントスイングをかけて思いっきり地面に叩きつけた後、伸びていた髪を引っ張りながら、引き摺って河の方に連れて行きリアル犬神家を敢行した。
額に浮かぶ汗をいい笑顔で拭い、ふと、これは老人虐待になるのかしらと思った。
でも、相手は鬼だしどうでもいいか。鬼には人権なんて無いから無問題だ。そう結論付けて、そろそろ戻るかと三途の河を泳いで向こう岸に、つまりは此岸に渡った。
渡ったら、川岸で石を積み上げている少年が居た。なにをしているのか気になって声をかけたら、「うるさい。あっち行け」と云われた。中々に肝の据わった少年だ。
取り敢えず、その積んでた石を蹴り崩して、さらに川岸の石を含む全ての石を河の中に投げ込んであげた。そうしたら少年が感激のあまりに号泣した。僕は素直な子供が好きなのです。生意気が赦されるのは少女だけなのです。
自分の行為に満足して振り返ると、そこには牛の様な鬼の様な奴が困った顔をしていた。どうにも僕がこいつの役割を奪っちゃったのでどうしたものかと戸惑っていたらしい。
しかしながら、そんなの僕の知る所では無いので無視した。これが可愛い鬼娘だったのならば、謝罪の一つでもして押し倒していたかもしれない。
そんな感じで三途の河ライフを満喫していたら、急速に意識が浮上する感覚が僕を襲った。
導かれるままに、意識の覚醒。眼前には知っている天井。お決まりの台詞が云えないことが、これ程に悔しいということを身を以って知った僕である。
なにはともあれ、意識の覚醒を起こした僕はエリーナさんに叱咤された。曰く、サボるなだそうだ。サボっていた訳ではないのだが、その傍若無人っぷりに胸がキュンとする。
兎に角が生えたら、竜の探究に出てきそうなモンスターの出来上がりであると云う事は兎も角として。
閑話休題。
*****
「大丈夫ぅ?」
「ギリギリで……」
未だに痛む頭を押さえて返答する。痛みを堪えてでも接客をする僕はバイトの鏡だと思う。
「それでね、話の続き何だけどぉ」
「まだ話すのか!?」
こちとら貴様の超音波で三途の河を遊泳してきたというのに。
「それでねぇ、私の事をどう思うぅ?」
「僕の発言は無視かよ畜生」
身体をくねくねとさせながら言葉を紡ぐクルーノさんに軽く殺意が湧き起る。この野郎、頸動脈をざっくり切ってやろうか。
今度は銀製のナイフを磨きながら、そんなことを考える。
「そんな事はどうでもいいじゃない。それで、私の事どう思う?」
「どうでもよくねぇよ」
そう答える僕。
半ば僕の意志を貫き通すのを諦めて、取り敢えず先の問いに答えるべく、クルーノさんをきちんと視界に納める。
錦糸のようにさらさらとした金色の髪。
深く静謐な色を湛えた碧色の瞳。
綺麗に整った顔は線が細く、顔のパーツがそれぞれ理想的に配置されている。
唇はぷるぷるとしていて、鮮やかな紅色。
とても綺麗なご尊顔。
視線を下方向に下げる。
逞しい二の腕。盛り上がった筋肉が素敵である。
厚い胸板。きっと女性ならば黄色い歓声を上げるだろう。
割れた腹筋に、カモシカの様な脚。どれだけ鍛えればここまで筋肉が付くのだろうか。
傷で埋め尽くされた身体は、屈強さを伝えてくる。
理想的なボディビルダーの身体。
視線を上方向に戻す。
綺麗な顔はまるで美女。鍛え上げられた身体は歴戦の戦士。
当年とって26歳の冒険者。性別雄の既婚者でオネェ口調の筋肉バカ。漢の中の漢でありながら、心は純粋無垢の乙女と自称する男。
それが、クルーノ・ダンティーノ、その人である。
常々思うが、よくぞこの人と結婚した人がいるもんだ。その人は、果たしてまともな神経しているのだろうか。実は、現実には嫁などおらず、妄想の世界だけに存在する疑似嫁なのかもしれない。
そんな事を考えてしまう程に、この人が妻帯者であることに違和感を覚える。
「それで、どうかしら?」
僕が極めてどうでもいいことに思考を割いていると、クルーノさんが尋ねてきた。
なので、率直に答える。
「相も変わらずキモイです」
「んだとゴルゥアア!!!」
「ぬおっ!?」
ゴガン!
咄嗟にカウンター席に置いてあったトレイでガードする。
クルーノさんは腐っても冒険者なので、その一撃は凄まじい。
拳が銀製のトレイを貫通しちゃったよ……。
この野郎、殺す気か。
そもそも、店の備品を壊すな。怒られるのは何故か僕なのだぞ。エリーナさんの理不尽な責苦は何気に辛いのである。
美女の行為全般に興奮出来る僕でさえ、苦悶の表情で一昼夜を過ごした程に過激である。サデスティックの極みだ。
「もう! 失礼しちゃうわ!」
ぷんぷんと云った様子でドカリと椅子に腰かけるクルーノさん。てめぇ、顔が綺麗じゃ無かったらボコボコにしてるところだぞ。
男の癖に美女然とした顔のせいで、僕はクルーノさんに強く出られないのだ。性別は男だと分かり切っているのに、いざ暴力を揮おうとすると、どうしてもその顔で躊躇してしまうのだ。
そんな訳で、僕はクルーノさんが苦手である。いつもの調子で接することが出来ないのだ。
「それでねそれでね────」
またもや話を再開したクルーノさん。
僕はそれを聞き流しながら相手を続ける。
終業時間まで、あと4時間。
夜の帳は深まるばかり。
*****
「疲れた……」
ようやく終業となり、閉店した酒場。
あの後も延々と無駄な生産性の無い話に付き合わされた。
僕の精神力は削られまくって、悟りでも開きそうな心境である。
「うなー」
後片付けをして、店を掃除して、翌日の備えをする。
全ての作業が完了する頃には、既に空は白み始めていた。
「おつかれさま」
「はいさー」
後ろから声をかけられ、振り向きながら返事を返す。
相も変わらぬ、無表情のエリーナさんがいらしゃった。
「よく我慢した。褒めてあげる」
「はっはっはっ、そうでしょうそうでしょう」
クルーノさんの相手をしている時、何度手に持ったナイフで頸動脈を切り裂こうと思ったことか。
その度にナイフをエリーナさんから投擲されて、実行には移せなかった訳だが。
「何かご褒美をあげるわ。何が良い?」
唐突にエリーナさんが云ってきた。
何だか、物凄く珍しい事を仰られている。
明日、もはや今日な時刻だが、槍が降るかもしれない。それも僕の頭上にピンポイントで。
とても不吉な気もするのだが、しかし、千載一遇の好機。駄目元で提案してみる。
「キス! キスして欲しいです! 頬ではなく唇に!」
「……いいわ」
「マジで!?」
しまった! 今日が世界最後の日かっ!!
「目を閉じなさい」
エリーナさんの言葉に従い、即座に目を閉じる僕。
なんという展開。ついにエリーナさんも僕の魅力に堕ちたか。
素晴らしい胸のドキドキを感じながら、今か今かと唇と唇が触れ合う感触を待つ。
そして、それは来た。
ぶちゅり、と唇に押し当てられる湿った感触。
とても良く香る、獣の匂い。
歯の中まで入り込んでくる、巨大な舌。
口腔内を蹂躙される感触。
酸っぱい様で、とても苦い、吐き気を催す様な味。
たまらず、目を開けた。
そして見えた、のっぺりとした細長い獣の顔。
この酒場のペット、ジャンギー(雄、3歳、まんま駱駝)が、鼻息を荒げて僕を見ていた。
僕は聡いので、現状を即座に理解してしまった。
「うおぇえええええええええええ!!!!」
手を口に突っ込んで、思いっきりリバース。
「じゃあ、ご褒美は上げたわよ」
「何がご褒美か!? 罰だろこれ!?」
「キスしたかったのでしょう?」
「エリーナさんしてくれてないじゃん!」
「代わりにジャンギーがしたわ」
「何故、ジャンギーなんですかぁ!!」
「誰と、なんて云わなかったじゃない」
「屁理屈だ!!」
「そうね」
認めやがった。
「じゃあ、ご褒美はあげたから」
そう云い残し、去って行くエリーナさんとジャンギー。
「う、うぅぅ……」
僕は崩れ落ちて咽び泣く。嗚呼、いと哀れ。
ファーストキスは、野生の味がした。
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あとがき
このお話は「ほのぼの」なのです。けれども最近「ほのぼの」が書けなくなってきているのです。由々しき事態です。にゃー。基本的に作者は本格シリアス作品の方が得意なので、「ほのぼの」って書くの難しいのです。どうしたものかしら。
それはさておき、一先ず安心安堵な心境です。オリジナル板で叩かれると覚悟していましたが、特にそう云う事もなかったので一安心。単純に「感想書くまでもないなこれ」的なことかもしれませんが。
それでも喜んでおく作者です。鈍感はひとつの武器なのさっ!
▼ワイール!感想嬉しいよー!ありがとなー!
>ついにオリジナル版に進出してしまったか
してしまったよ……。無謀な気がしないでもない。
>ついにオリジナル版進出ですか、おめでとうございます。
>とりあえず、ダイナブレイドがゴッドバード使うなんて反則だと思うんだ。
ありがとうございます。
作者はダイナブレイド大好きです。何度、その雄姿をみたくてコンテニューしたことか。
>更新きてた
>ダイナブレイドは画面端でのホイールハメが出来ないから嫌いです
ダイナブレイド大好きな作者は、ホイールハメなんて非道出来ないのさ。
>男の娘は(・∀・*)マーダー?
(*・∀・)マーダー。
>すんばらしいです!
>メチャストライクゾーンど真ん中!
>これからも更新頑張って下さい!!
ありがとうございます。
そこまで気にいって下さり、作者冥利に尽きます。
更新は頑張りたいですが、もしかしたら打ち切る可能性が無きにしも非ずな感じです。
>あえて多くは語るまい…
>ぐっじょぶ!!
せんきゅー。
>15話はどこがシリアス?って思ったけど
>そうかっ尻ASSだったんですね。
(´・ω・)君で二人目か…。いいかい?別に作者は「そういえば尻って英語でどう言うんだろう?…へ~、『ASS』って尻なのか~。ん?これは尻ASSでシリアスじゃないか!?」などと言う考えは抱いていないから、君達の言っていることが理解できないよ…。
>オリ板移動オメ!
>ダイナブレードにはレックウィリーで突っ込むのが通ってもんでしょう。
>じゃなくて、
>不死鳥とタイマンを張って(手加減された?と言っても)生き延びた主人公はタダモノではないな。
>…さすがは紳士。
ありがとう!
ダイナブレード大好き作者は何度もダイナブレードで死にました。ダイナブレード格好良い!
じゃなくて、
主人公は基本的にタダモノじゃないです。あんな破天荒な奇天烈行動取れる奴がタダモノの筈がない的な感じです。
でも、最終的には紳士ゆえの生命力が物を言うのです。
>オリ板移動おめでとうございます。
>主人公がここでどんな活躍をしてくれるか今から不安で胸がいっぱいです。
ありがとうございます。
不安で胸がいっぱいですか。そんな貴方は常識人。
>PS:出てきて一撃でジェットにやられるダイナブレイドカワイソス(´・ω・)
(´;ω;)カワイソス
>まじ、おもろ
あり、がとう。
>ちくしょう!この僕としたことが声を上げて笑っちまったぜ!
>素晴らし過ぎる紳士に完敗だ!
楽しんで頂けたようでなによりです。
そんな紳士に乾杯しましょう。