今こそ立ち上がれ、運命の紳士よ!
『22話・バハムート』
「釣りに行こうと思います」
「……はぁ」
「うむ?」
僕の発言にメアが意図を計りかねたように首を傾げ、ジジが怪訝な表情で顔を顰める。
むぅ。なにか可笑しな事でも云っただろうか?
「釣りに行こうと思います」
「……はぁ」
「うむ?」
大事な事だから二回云ってみたのだけれど、返事は変わらず。なんだろうか。こっちには釣りという概念がないのだろうか?
「いいかい、釣りという物はだね……」
「いえ、それは分かります」
「いきなり何を云うかと思えば、釣りがどうしたんじゃ」
おお。どうやら釣りという概念を根本から教える必要はない様だ。
そも思い出してみれば、人里の街でも魚のような生物を売っていたので、それを入手する為の手段があることは明白なのだから、無駄に心配することは無かったか。
「釣りに行こうと思います」
「……はぁ。えっと、その」
「行けばよかろう」
「一緒に行こうよ」
「釣りにですか?」
「うん」
僕の肯定する言に渋い顔をするメアとジジ。どうにも反応が芳しくない。一体これはどういうことか。
少なくともジジは子猫なので「お魚大好きなのにゃ!」とか云って喜び勇んで同意してくれるものだとばかり思っていたのだが。
メアにしてもそうだ。てっきり「素晴らしい考えだと思います!」とか云って僕の意見を後押ししてくれるものだとばかり思っていたのに。
「人生ままならないものだなぁ」
「お主はこれまでままなったことがあるのか?」
「計画性とかとは無縁そうですよね」
メアが僕を傷付ける。
いつからメアは僕を酷評するようになったのだろうか。
「ガラスのハートを持つ僕に余りキツイ言葉をぶつけない方がいい」
「割れるんですか?」
「むしろ砕けてしまえ」
ジジが僕のハートをブロークンしようとしている。これには脅威を感じずにはいられない。
「物理的にも精神的にも砕けてしまえ」
僕の心臓まで標的対象のようだ。どこまで僕に悪意をぶつけるつもりなのだろうか。
しかし、である。
「ジジが僕の心臓を狙っている。大変だ、子猫ちゃんに僕の心が盗まれる予感」
まさか魔女ではなく、子猫に大変な物を盗まれそうになるとは思わなんだ。この場合の魔女は黒白ではないが。
「それは絶対にないと思います」
メアが僕を酷評します。
あの素直なメアはどこに行ってしまったんだ。流石に泣いちゃうよ僕も。
いや、でも、あれか。考えようによっては、メアはツンデレとして育っているのかもしれない。純真無垢な少女が、素直な気持ちを表に出せない少女に変わる。そうか、僕はメアをツンデレにしようとしているのか。
ツンデレ少女育成とか、史上初かも知れないな。なんということだ。僕は伝説になるかも知れない。僕が為すかもしれない余りにも凄まじい偉業に震えが止まりません。
どうやら僕は次世代の萌えを担うに足る頭脳をしているようだ。
「僕の脳内は宇宙だ」
「いきなり何を云っとるんじゃ」
「意味が分かりません」
「……なんだか釣りの事からズレてる気がする。どうしてだろうか?」
「お主のせいじゃ、お主の」
「貴方のせいです」
「メアがアナタって云ってくれた! これはもう攻略まであと一歩!」
「ないです」
相も変わらずメアがツンデレです。
*****
「結局は釣りに来た僕達なのであった」
なんやかんやと色々と話し合ったけれど、最終的には一緒に釣りに行くという事で落ち着いたのです。
やはりあれだね。僕が滅茶苦茶に駄々を捏ねたのが効いたのだろう。床に転がって手足をバタバタさせたり、地団駄踏んでみたり、吐きそうな感じで泣き落してみたり。
子供心を彷彿とさせる僕の姿に、メアとジジが心を打たれたであろうことは想像に難くない。仕方ねぇなぁ、みたいな表情を浮かべていたのが印象的ではあったが。
「そんな訳で、ほらメアもジジもしっかりと釣竿を持ってないと魚に持っていかれるよ」
「は、はい!」
「……持ちにくい」
現在は森の中にある湖で釣りをしているのだが、どうやらメアは初めてらしくぎこちない手つきで釣竿をえっちらおっちらフラフラさせている。
ジジはジジで、子猫の身体に対して釣竿が持ちにくい様子。二又の尻尾を器用に使って支えているが、それでもやりにくそうにしている。
「メア、もっとしっかりと釣竿を握るんだ。もっと強く、しっかりと釣竿を、竿を掴んで握るんだ!」
「は、はい……っ!」
ぎゅっと釣竿を握りこむメア。真剣な表情で釣竿を、竿を握っている。必死に竿を握る姿に、目が釘付けな僕。
「ジジも。ほら、こう、尻尾で掴むだけじゃなく上下に動かしながら持つんだ。釣竿をこすりながら、竿を振る様に!」
「う、うむ」
釣竿を二本の尻尾で器用に持っていたジジは、僕の指示通りに尻尾を上下に動かし始める。その姿は色々と目が離せない。
「……感動物だ」
竿を持つ二人を眺めながら、若干前傾姿勢になる僕。
そんな僕の姿には目もくれず二人は自分の事に夢中である。釣りが初めてのメアは当然として、ジジも何気に好物の魚が獲れるかもと期待しているのかもしれない。
なんとも愛らしい事である。
そんな二人の姿をほのぼのと見ている最中に、それは来た。
「むっ!」
僕の釣竿が勢いよくしなる。どうやら魚がかかったようである。
全力で引っ張るが、それでも釣竿ごと湖に持っていかれそうになる。これは大物だ。
「負けるかぁっ!!」
乾坤一擲とばかりに力の限り引っ張る。
しかし、それでも依然優勢は変わらず、僕の身体がじりじりと湖に引っ張られていく。手に持っている釣竿でさえ、ミシミシと悲鳴を上げている。
一体全体どれほどの大物を引き当てたのか。
「ぐぬぬぬぬぅ!」
身体中を引き締めて釣竿を引っ張るが、それがどうしたと云わんばかりである。
もしや世界を釣っているのだろうか。そう思えるほどの力がぐいぐいと僕を引っ張る。
冷静に考えれば、これだけの死闘に耐える得る釣竿も糸もとんでもない耐久力だ。
そんな、一種の現実逃避気味な思考をしていると、急激に引く力が弱まった。
何事かと思っていると、湖の水面が盛り上がり、莫大な水飛沫が巻き上がる。
その中心から巨大な怪魚が姿を見せる。
全長100メートルはあるのではなかろうかと云う巨体を誇る龍顔の魚。頑強そうな鱗は、あらゆる攻撃を弾きそうだと想像させるほどに流麗かつ剛毅さを感じさせる。
その姿は神秘を孕んでいると云っても過言ではないだろう。
一瞬の内にそう思考した僕の眼前で、怪魚は再び湖に舞い戻った。
どうやらこの魚は跳ねたらしいと理解しながら、僕は湖へと身体を引き摺られる。
どうにも、僕はこの怪魚を釣ったらしい。
自分が釣った物に理解が及ぶと同時、僕の身体を刺すような冷たさが襲った。
*****
「まさかバハムートの幼生を釣り上げるとはなぁ……」
湖から這い上がり、濡れた身体を日差しで乾かしている僕にジジが呆然とした口調で告げた。
「釣り損ねた。悔しいです」
「いえ、世界の支柱と謳われる神魚を釣っちゃ駄目です」
「というか、この湖に居たのじゃな。バハムート」
僕の発言を諫めるメアに感慨深げに呟くジジ。
しかし、あの巨大さで幼生とか成体はどれほど大きいんだって話しである。
刺身にしたら何人分だろうか。
「ヤツを釣り上げることは出来なかったけど、収穫は上々だから、まぁいいか」
あの怪魚が跳ねた時に、湖に居た魚たちが数十匹と陸に打ち上げられている。
釣竿一本の犠牲にしては最高の収穫ではなかろうか。
因みに、水飛沫が降り注いだ時、メアもジジも魔法だか魔術だかの障壁みたいなので防いだので濡れてはいない。
「実に惜しい限りだ」
「何がですか?」
メアが僕の呟きに疑問を抱くが、答えは返さない。「濡れて服が透ければ良かったのに」なんて答えを返したら、ジジにまたもや湖に沈められるかもしれない。
そんなことをされると、流石に僕の体力が保たないだろう。
「今日は豪勢な魚料理ですね」
「やったぁ!」
心底嬉しそうな声を上げるジジが可愛いかったです。
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あとがき
短くてもいいじゃない。すべては作者次第だもの。
▼御感想謝謝
>久々の更新お疲れ様です
ちゅかれました。
>更新来た!
>ひゃっほぅーぃ!!
ひゃっほぅーぃ!!
>作者は俺の嫁
就職難が叫ばれる昨今でまさかの永久就職。魅力的ですね。
だが、断る。
>一言一行あけ改行は日記でも読んでるような気分になります
全く意識していなかったのですけど、そう云われれば、なるほど、確かに。
スピーディーかつ読みやすい形にしていたらこうなりました。
元々が暇潰し的な感覚で読んで貰うために始めた物なので、格式ばった書き方をしていないのも理由かも知れませんが。
一人称って、要は具体的に描写が書かれた日記だよなぁ、という思いが作者にあるのも原因の一つかも知れませんね。あとは行稼ぎとか。
まぁ、気に入らなかったら気に入らなかったで「なんだよこの駄作は!」とでも思ってくれたら幸いです。
御意見感謝致します。ありがとうございました。