村が焼ける。焦げた臭いが鼻をつく。
みんなの悲鳴が木霊する。血の臭いが鼻をつく。
ガタガタと震える私達に、「逃げて!」「逃げろ!」と云い放つ大好きな家族。血塗れにも関わらず、私達を心配する大好きな両親。
みっともなく泣く私達の目の前に、凶悪な顔をしたヤツラがやってくる。凶悪な武器を手してやってくる。
お父さんが飛びかかる。お母さんが身を盾に私達を守る。
私が両親に駆け寄ろうとした時、腕がぐいっと力強く引っ張られる。
思わず叫び声をあげる私の腕を引っ張って、お姉ちゃんが走り出す。逃げるよと、お父さんとお母さんの行為を無駄にしちゃダメと。
二人で懸命に走る。文字通り一生懸命に。けれど、両親の血を付けたヤツラが追って来た。
お姉ちゃんがそれを見ると、一人立ち止まる。
叫ぶ私に振り返って、「逃げなさい」と云うお姉ちゃん。「お姉ちゃんは!?」と問いかける私に、微笑みを浮かべて「私が魔法で時間を稼ぐから」と返す。
その答えに駄々を捏ねる私の頬を叩き、そして抱きしめ「お願いだから」とお姉ちゃん。その声は震えていた。
もうそこまで迫って来たヤツラを見て、行きなさいと云われる。
それでも、ぐずって動こうとしない私を「行きなさい!」と怒鳴る。
その気迫に、びくりと身体を震わせ逡巡するも、お姉ちゃんの表情を見て、踵を返して走り出す。
涙を流しながら駆ける私に、一つの言葉が聴こえた。大好きな、お姉ちゃんの言葉が。
『生きなさい』と。
泣きながら力いっぱい走る私。視界はぼやけて、胸は苦しくて、泣いても泣いても涙は尽きなくて。
背後に在るべき大好きな私達の村は炎に変わり、大好きなみんなの悲鳴が天に昇り、たくさんの死体が地に伏して。
その全てを振り切るように、私は逃げ出した。
『26話・闇の妖精-a』
一つの人影が闇夜の世界を全力で疾走していた。
息を乱しながらも、速度を一切緩めることなく駆ける。
(……しつ、こいっ!)
後ろから追いすがって来ている存在に内心で苛立ちの言葉を紡ぎながらも、人影の足に停滞は見られない。
「ちっ、逃げ足の早いっ! いい加減に諦めやがれっ!!」
(誰がっ!!)
人影を追走する集団から怒鳴り声が飛ぶ。それに胸中で反発の言葉を発する。
空は曇天。光射さぬ暗闇をひたすらに走る。後ろを振り向きもせずに前を見て。
一心不乱に駆けている最中、ふいに背筋を襲う寒気。
己の直感に従い身を前に倒す。その急な動作により、身体が地面に転げた。
次瞬、後方より飛来した火矢が転げた人影の前方に突き刺さる。その矢に付着した札を視認した人影が、息を呑む。
(爆裂符ですって!?)
矢に貼り付いた札を認識した人影は、即座にその身を起こし回避を試みる。
しかし、回避動作を取ろうとしたその瞬間、札が爆発。その膨大な熱量が周囲を閃光のように照らし出す。
「うあ……っ!」
爆発の衝撃で吹き飛ぶ人影は、吹き飛んだ先にある木に強かにぶつかった。
「ぎっ、あっ……」
人影から苦悶の声が上がる。
爆風は周囲に存在していた木々を薙ぎ払い、炎熱は草木を轟々と燃やし、さらに人影の姿を照らし出す。
艶やかな浅黒い肌に、肩まで伸ばされ、それ単体で輝いて見える程の銀髪。
瞳は蒼穹の様に青く、耳は人族のそれよりもやや長い。
顔立ちは整っており、女性らしい肉付きの身体で、腰には一振りの剣が差してある。
所々に見られる傷口から血が流れる様が実に痛々しい。
十人のうち八人は確実に振り返るであろう美貌を湛えた女は、しかし、その端麗な顔を苦痛に歪めていた。
苦痛に苛まれながらも、それを気力で押し込んでその身を草葉に隠す。
身を隠したそのすぐ後、幾つもの足音が、爆発した場所へと集まって来る。
「はぁー、こりゃまた派手に吹っ飛んだなぁ、おい」
「だから爆裂符は使うなと云ったんだ!」
「悪い悪い、あんまりにも苛々したもんでよ、つい」
「『つい』じゃねーよ。あーあ、どうすんだよ。アレ消し飛んだじゃねぇの?」
「いや、それは大丈夫だろう。アレは夜の寵児、この程度じゃ死なんだろうよ」
「それでもあの爆発だ。無傷とはいかんだろうぜ」
「てーことは、どういうこった?」
「恐らく、そう遠くには逃げていない。若しくは、この近辺に隠れているということだ」
「んじゃ、どのみちアレを探す事には変わりなし、と?」
「そういうことだ」
「めんどくせぇなぁ」
「ぼやくな。超一級の商品である闇の妖精を、そう易々と逃してたまるか」
「へいへい、分かってますよっと」
「そこそこの深手は負っている筈だ。お前達は先を行け、逃げているようなら直ぐに追いつくだろう。俺達はこの近辺を捜索だ」
「かーっ! めんどくせぇ! ただでさえめんどくせぇってのに、よりにもよってこんな薄気味悪い森に逃げ込むなんてよ! 見つけたら壊れるまで嬲り犯してやらぁ!」
「おいおい、大事な商品を壊そうとするなよ」
下卑た笑いを上げる男達の声を耳にしながら、闇の妖精と呼ばれた彼女はじっと息を殺す。恐怖で震えそうになる身体を意志で抑え込み、物音を立てぬ様に気配を絶つ。
幾人かの男が遠ざかり、少数の気配が動きだす。
ガサガサと草葉を掻き分ける音が暗闇の森に響く。その音が近づいてくるに従って、女の心拍が高鳴る。
近くで、男達がガサリと草葉を揺らす度に、出そうになる悲鳴を唇を噛みしめて我慢する。
「くそっ! 見にくいったらありゃしねぇ!」
「お前は俺達よりも僅かに夜目が効くんだから我慢しろ。松明にも限りがある」
「それでも限度ってもんがあるだろうがよぉ、ケチってねぇで松明ぐれぇ人数分用意しとけよなぁ」
見にきぃなぁ! と文句を口に出しながら、女のすぐ近くまで近寄る。
それを視界に収めながら、女は静かに手を腰の剣柄へと持って行く。いざとなったら、先手必殺で飛びかかるしかないと決意を固め。
既に目と鼻の先の距離に男が近づき、意を決して女が飛び出そうとした瞬間。
「ぎゃあああああああああああっ!!」
周囲を捜索していた一人の男の絶叫が、その場にいた全員の耳朶を打った。
「な、なんだ!? どうしたんだ!?」
「なにがあったっ!!」
「なぁっ!? お、おい! 気をつけろ、罠だ!」
「なっ、ほんとぎゃあああああああああっ!?」
「どうした!? おい!?」
男達が怒号を交わし、それにつられて女の近くにいた男も離れて行く。
(……掛かった。チャンスは今しかないわっ)
夜目に優れる女は既に罠に気付いていた。罠が上手く男達に発動したのを認め、胸の裡でぐっと拳を握る。
ふぅと静かに息を吐き、男達の気がこちら側から逸れたのを確認。ゆっくりと物音を立てぬように森の奥へと移動する。
「どうなってんだこの森は?!」
「な、なんか書いてあるぞ、松明持ってこい!」
「『赤い人には三倍の効果があります』……な、なんだこがぁああああああああ!!」
「や、矢だ! 矢が飛んで来やがった!? 伏せろぉおお!!」
「なんか紙が付いてんぞ!」
「『油は落ちにくいから困る』って何書いてんだこれ?!」
「こっちのには『出会いが欲しい……エロイ出会いが……』って書いてんぞ!」
「意味ワカンネぇよ!? なんだよそれ!?」
「知らねぇよ! 俺に訊くなよ!」
「と、とにかく一旦引き揚げるぞ! なんだか知らんがここは不味い!」
『お、おうっ!!』
背後から聴こえる戸惑いを多く含んだ声を聞きながら、女はさらに暗い闇へと進んでいく。
相当の距離を草木を掻き分け進む。おそらく、既に男達とはかなりの距離を取れたであろう。
尚も満身創痍の身を引き摺るように動かし歩いて行くと、開けた場所へと出た。耕された土が一面に広がっている場所である。
その場所へと足を踏み出すが、急に柔らかくなった地面に足を取られ、その身を横たえた。
「……ぐうっ」
呻きの声を上げ、身体を仰向けにする。曇天に覆われていた空は、いつの間にか晴れ、綺麗な満月が姿を見せていた。
身体に蓄積した疲労と恐怖で溜まった心労を抱えた女は、男達から逃げ切ったことによる安堵から急激な眠気に襲われる。
目蓋が徐々に重みを増し、意識も朦朧。
満月を背に巨大な怪鳥の影が飛んでいるのを、半開きの瞳が映す。
その光景を最後に、女の意識は闇へと落ちた。
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短いけれど、気にすんな!
二次創作を書きたい病に罹った昨今、世間の目も季節の風も冷たいことこのうえないです。誰か、温かい愛をくれぇ。
さて、話を戻しますが、最近すごく二次的な作品を書きたくなってきました。
一例をあげると、「ネギま!」でネギアンチが多いので逆にネギマンセー物とか、「なのは」で最低系物とか、「ヴァンドレッド(アニメver)」でヒビキチート物とか、「バハムートラグーン」で主人公の性格改悪物とか。
そんなこんなもあって、筆が進まない進まない。決してメンドクサイ訳ではない筈です。妄想世界に存在するチート作者がそう言ってましたから、きっと間違いないです。
▼コメント変身!じゃなく、返信!
>これは絶対にシリアスじゃないです。尻明日って感じかも。
尻を明日へ向かって突き出すのですか。そうですか。
そんな評価を受けるこの作品は一体なんなんでしょうね?
>おお更新してる。またあの尻assが読めるのは嬉しいです。
>それにしても、悪の組織所属の設定とかすっかり忘れてた。
>やっぱあれか、覗きセクハラ痴漢盗撮で世界を支配しようとする紳士たちの秘密結社か
尻assの言葉が定着してきたことに、若干の不安を禁じえない作者がここにいる。
悪の組織に主人公が在籍していた時代の話は、構想もストーリーもあるのですけど、それ書くとこの作品際限なく続きそうなので、どうしたものかと思案中だったり。