頑張れ、負けるな! ありふれた言葉を送るからもっと熱くなれよ!
『26話・闇の妖精-c』
前略、どこかの見知らぬ誰か様。後略、と続けてしまえば肝心の中身が謎に包まれたままなので、略しません。
などとアホな事を考えている僕は、現在ピンチです。
どのようなピンチかと云うと、僕の人間性のピンチです。人間性の窮地です。人間性の危機的状況です。
「さて、覚悟は出来ておるな?」
「…………」
恐るべき怒気を放つジジと、無言ながらも温度の無い瞳で僕を見るメア。その二人の前で正座をさせられ、冷や汗をダラダラと浮かべる僕。
なんという修羅場。近年稀に見る修羅場。空気が痛い!
「まさか、お主が本格的に犯罪へと手を染めるとはなぁ?」
「失望しました。元から何も望んでいませんでしたが、それでも失望しました」
身を切り裂きそうな冷たさを湛えた瞳で告げる二人。メアの言葉が辛辣過ぎて泣ける。嬉しさ反面悲しさ反面。性的興奮が半分と困惑が半分。
どうしてこうなった、どうしてこうなった!? と、思わずそんな事を叫びそうになる。僕が一体何をした。
「婦女子を拐してくるとは、恥を知れ」
「あまつさえ暴行を加えるなんて、人として最低です」
そう云いながら、二人は痛ましそうに横を見る。
二人が見詰める先には、先程僕が保護した女性が寝台に横たわっていた。
その女性には包帯が巻かれており、その身に刻まれた傷を隠した状態で眠りについている。ここに連れて来た時、僕から女性を引き剥がして二人が施した処置だ。
僕に背負われた女性を見た瞬間の二人の迅速な動きは見事の一言に尽きる。パネェ。
鬼の様な形相を浮かべて、まるで僕が女性を傷付けたと云わんばかりの行動だったけれども。
「さて、火炙り雷撃氷漬け鞭打ち斬り付けとあるが、どれが良い。選べ」
「他にも、断食断水監禁軟禁もありますよ?」
「フルコースで」
恐るべき所業を僕に受けさせようとする二人に震えが止まらない。くそぅ、負けないぞぉ! ふひひ!
「己から全てを欲するとは、どこまで変態なんじゃ……」
「よだれを垂らして恍惚とした表情を浮かべているんですけど……」
これから僕に襲い掛かるであろう行いに気を引き締め、心機一転とばかりの心持ちをしていたのに、何故だか二人がドン引きしている。
どうしたのだろうか?
「ジジ、私なんだかとっても遣る瀬無いよぅ……」
「なんかもう、怒りが急速に萎むのぉ……」
げんなりとしている二人。おやおや、お仕置きとやらはマダなのだろうか。僕は既に準備万端ですことよ?
「よくよく考えてみれば、こやつに斯様なことが出来る筈もないか」
「そう、だ、ね……? ……うん、そうだね。何気にヘタレだしね」
「ごふぅ!?」
メアがごく自然に云った言葉が臓腑を抉る。ヘタレって云っちゃ駄目だよ! それは禁断の言葉だ。云うのダメ絶対!
唐突に身体をくの字に折り曲げた僕を、二人が何事かと見遣る。
「……なんともまぁ」
「……器用ですね」
“九の字”に折り曲がった僕を唖然と見る。ふむぅ? 腹にダメージを受けた時のリアクションは、これがデフォルトじゃないのだろうか。
そんなことを頭の片隅で考えながら、身体を起こす。まさかお仕置きが精神的な物とは思わなかったけど。
「して、経緯を説明せい」
「あの妖精さんは、どうされたんですか?」
二人がチラリと件の女性を見て問う。
「その前に、僕に対する所業の謝罪を求める」
その問いに答える前に、先ずは謝罪を要求。在らぬ容疑を掛けられたのだ、謝罪の要求は妥当であろう。
「……お主、懐に入れている物を出してみよ」
「ななな、にゃにを、なにを云っているんだい? 僕の、ふふ、懐には愛と勇気と夢しか無いよっ!」
「てい」
「ああん!」
動けない僕の懐に尻尾を突っ込むジジ。がさごそと探られる感触が得も云われない。
「は、初めてだから、激しくしてぇん。ああん❤」
「き、気色の悪い声を出すなっ!!」
本気で気持ち悪そうに云うジジ。軽く傷つくからその顔は止めようねぇ。僕のガラスのハートに罅が入っちゃう。
くねくねと身体をよじる僕の懐を漁っていたジジだが、何かを見つけたのか勢いよく尻尾を引き抜いた。その感触、筆舌に尽くしがたし。
「ぁああ、ぶげらっ!?」
僕の顎を尻尾が撃ち抜き、嬌声ではなく変な声が出てしまった。
痛い顎をさすることさえ、この満足に動かない身体では出来ない。くぅ、これが緊縛プレイか。僕の股間がチョモランマ化しそうだ。
「で、これは何じゃ?」
冷ややかなジジの声に視線を上げれば、そこには二つの布切れ。
「……おおぅ」
さて、これからどのように言葉を紡げばいいものか。
「お主に謝罪をする前に、この下着が誰の物か云って貰おう」
「め、メアの」
「こんなに大きいのが私のですかそうですか。……嫌味と受け取っていいんですね?」
オワタ!
「下着を身に付けていなかったそこの妖精と、なにか関係があるのかのぅ?」
「まさか、破れていた服も貴方の仕業では、ないですよね?」
「ち、違う! 僕がやったのは脱がせただけで破いてはない……あ」
「白状したな、この女の敵めっ!」
「少し、反省しましょうね?」
「わぁ、素敵な笑顔」
最後に僕が見た光景は、壮絶な笑みを浮かべる二人と。
視界一面の氷雪だった。
*****
「……どういう状況?」
僕が氷雪とキャッキャッウフウフと戯れている時に、運が良いのか悪いのか目を覚ました女性。
眼前に広がる景色をぼんやりと眺め、スノーマンと化した僕を視界に収めて放った第一声である。
ぼんやりとした目つきから、瞬く間に強い意志を宿した瞳へと変貌。即座に寝台から飛び起き臨戦態勢へと移るに到るまでの動きは迅速を極めた。
「ふぉおおおおおお!!」
その際に激しく揺れた、たわわな果実を見取った僕は歓喜の声を上げる。息子が元気溌溂だ。その後、冷たい氷雪によってすぐさま鎮静化したが。
大事な息子が霜焼け、それによって発生した痛みと痒みに百面相を披露する僕。おおぅ、グレイトォ……。
そんな僕を見て、より一層の困惑を深める女性。まるで未知の生物と出逢ったような顔をする。
「落ち着くがよい。ワシ等はお主に危害を加える気はない」
「はい、ですから落ち着いて下さい。傷に触ります」
「冷静になれ。話はそれからだ」
諭すようにジジ、優しい口調のメア、雪だるまな僕。僕達の言葉を聞き殺気を僅かに収めたが、それでも警戒は些かも衰えずに口を開く。
「ここは何処、貴方達は何者、奴等の仲間か?」
射抜くような視線で僕達を睨みつける。ヤツラってなんぞ?
「ここはイエンベルの奥地にある古城、ワシ等はその住人、奴等というのが何を指しているのか分からぬ故、そこには的確な答えを返せぬ」
「……メア、イエンベルってなに?」
「私達が買い物をしている街の名前です。知らなかったんですか?」
「うん」
ひそひそと話す僕達を横目に、二人の言葉は続く。
「私がどういう存在かは分かるわね?」
「うむ」
「なら、昔ながらの事よ。その上で問う。奴等の仲間か?」
「なるほど、承知した。ならば、否と返そう」
「証拠は?」
「お主が未だ無事であることは証拠にはならぬか?」
「……証拠としては不十分。優しさを餌に獲物を釣るのは、狩人の常識でしょう」
「然りじゃ。しかし、ワシ等ならばそのような面倒はせぬ」
「それは何故?」
「ワシ等の方が、少なくともワシとメア、そこの少女じゃがな。ワシとメアはお主よりも強い。圧倒的に」
「……随分な自信ね。私が闇の妖精と知り、且つ今の状況を鑑みて、高を括っているのかしら?」
「違うな、厳然たる事実じゃ。耳にした事はないか、二尾の聖魔と腐滅の魔女の名を」
「……聖魔に、魔女……もしかして」
「うむ、お主が思い浮かべた通りじゃ」
「……いえ、まだそれだけでは信用出来ない。貴女達が彼の者の名を騙っている可能性もある」
「頑固、じゃな」
「お陰様でね」
怒涛の如く流れる言葉の応酬。非常に真面目な雰囲気です。
未だに言葉を重ねる二人を横目に留め、メアに尋ねる。
「ところで、僕はいつまでダルマで居なきゃならないのだろうか」
「二人の会話が終わるまでです」
そう云い視線を二人に向けるメア。ついでに僕も向く。
二人は白熱の真っ只中。これ、会話終えるの随分先になるんじゃね?
どうしたものかと天を仰ぐ。顔を上げた先には見慣れた天井。これが見知らぬ物ならば、かの名言の一つでも吐くというのに。
激論している二人の声をBGMに、溜め息一つ。
この霜焼けで腫れ上がったマイサンを、喜ぶべきか悲しむべきか。時間経過が進むと伴に、さらなる膨張を見せようとする我が愚息。
壊死しない内に、早く終わらないかなぁ。
*****
白熱を見せた舌戦も、気付けば終幕。ジジが云いくるめることに成功した模様。流石はジジ、惚れる。
そのジジと舌戦を繰り広げていた女性も落ち着いた様子。さりとて、警戒を完全に絶つことは無いが。
そんな妖精族の女性は、ユリアと名乗った。
どうして傷つき倒れていたのかを問えば、心無い輩に散々と追われていたと答える。
何故にユリアさんを追うのかと尋ねれば、闇の妖精だからと返す。なんのこっちゃ。意味が分からん。
意味不明と云った態を晒す僕に、ジジからの補足が入る。
「闇の妖精と云うのはな、希少種族なのじゃよ。特異な性質を身に宿したが故、一般的な妖精族とは一線を画すほどの」
「先生、希少種だからといって追われる物なのですか?」
「誰が先生じゃ」
「僕が」
「お主なのか!?」
ジジとの会話は幾度かの脱線を繰り返しつつも、闇の妖精の現状は理解した。要は、僕の元々の世界で中世時代に起きた、魔女狩りに於ける魔女の立場にいるらしい。
そのまま魔女狩りと同義ではないが、それに似たような物。他種族に追われ、迫害され、嬲られる対象。それが闇の妖精という存在らしい。
「種族としての総個体数は数十名と極小。その上、同族の個体に於ける性能差も激しい。人族よりも弱き者も居れば、竜族と渡り合う強者も存在する。夜にのみ愛された妖精、それが闇の妖精じゃ」
ジジの語りに続くように、ユリアさんが口を開く。
「元来、妖精とは精霊の具現化体を云うわ。精霊は自然そのものに溶ける形無き存在。その形無き存在が、世界の祝福を受けて実体化したもの。それが、一般的な妖精の定義よ」
「妖精は自然の結晶と云ってもいい存在じゃ。故に、自然美を生まれ持つ妖精は、美しい容姿をしている者が多い」
妖精族の皆さんが美形なのには理由があるという衝撃の事実。ファンタジーの王道だからって訳じゃないのか、美形なのって。
「結果、世界は妖精を生み出す。自然の寵児として。自然の守り人として」
「自然の荘厳なる美を、最も醸し出すのは明るき時間じゃ。だから、一般的な妖精には、肌が白く輝くような美しい金髪といった容姿の者が多い」
「けれど、夜は違う。夜闇に閉ざされた世界は、自然の美麗よりも自然の恐怖が最も極まる時間。付随するように、生物が畏れる物の一つとして、闇がある」
「自然の寵児は、一種族だけでも充分じゃ。なにせ世界の祝福を受けたのじゃから。それは即ち、昼も夜も関係なく祝福を受けているという事実に変わりない」
「昼夜を問わずに祝福された妖精が既に存在するのに、どうして、夜のみの祝福しか受けられない種族が誕生したのか。それも極小規模で。そこに、闇の妖精が他種族に狙われる理由が存在するわ」
ステレオの如く二人が流暢に紡いだ言葉が止まる。この間は、あれか。僕に考えろと云うのかな?
僕を無言で見つめる二人。答えを待っているのか、それとも僕に見惚れているのか。どちらかなのかは判然とはしない。僕的には後者だと思うが如何か。
「たぶん、それは無いと思います」
僕の心を読んだメアの発言。流石はメア、僕と以心伝心だ。
と、益体有ることを想いながらも、先の言葉の意味を考える。考える。考える。
「分かった! エロいからだ!」
「……雑な捉え方だと、それも正解ね」
おお、当たった。びっくり。適当に云ったのに。
「正解は、闇の妖精は生物の欲望から生み出されたからよ」
わーい当たった当たった、今日は赤飯だー! と喜んでいる僕の耳に、憂鬱とした響きが耳朶を打つ。思わず振り返りユリアさんを見れど、当の本人はどこか遠い目をしたまま、ぽつぽつと言葉を連ねる。
「気に入らないモノを迫害したい欲求、相手を否定して悦に浸りたい欲求、我武者羅に暴力を揮いたい欲求、誰かを無駄に虐げたい欲求、己の性衝動をぶつけたい欲求、何でもいいから傷つけたい欲求、他者を陥れて笑い飛ばしたい欲求、意味もなく何かを壊したい欲求、欲しい物を手に入れたいと思う願望、己の欲を満たしたいと思う願望、自由気侭に振る舞いたいと思う願望、誰かを己の都合で振り回したいと思う願望、自分を無条件で受け入れて欲しいと思う願望、暴力を揮っても誰かに側にいて欲しいと思う願望、自分の特殊な趣味を受け入れて欲しいと思う願望、努力せずに才能を欲しいと思う願望……そんな生物の黒い欲望は精霊に歪んだ影響を与え、世界の意志を無視して妖精を具現化させるに至った」
淡々とした声だけれど、形容のしようがない感情を湛えた響き。能面の様に無表情のユリアさんだが、その瞳には如何なる感情が渦巻いているのか。
「夜闇の時間ほど生物の欲望が高まる時間もない。生物の抱く願望の結晶である妖精は、正規の妖精とは姿を異なる物とした。それが黒い肌に銀の髪。容姿は正規の妖精と似通うけれど、正規の妖精は決して持ちえない不和の色。故に、その暗黒色を有す妖精は、同族の妖精から蔑称として闇の妖精と名付けられたわ」
とつとつと語る、闇の妖精の誕生過程。同族から疎まれた闇の妖精は、同族による迫害の憂き目を見る。純粋無垢にて誕生した妖精と、欲望汚辱にて誕生した妖精の間には、決して埋められない確執が生まれていた。
「そこから先は、更なる地獄だったらしいわね。生物の欲望の塊である闇の妖精は総ての生物に狙われた。理想の奴隷になる素質を秘めた者も居れば、脅威を退ける圧倒的な武威を誇る者も居た。至高の肉体美を持つ者も居れば、嗜虐心を湧きあがらせる者も居た。他種族の目には、闇の妖精は自身の趣向を満たす道具にしか見えなかった。だから、当然の如く……」
瞬間、憎悪をその瞳に宿し、憤怒を表情に貼り付け、慟哭。
「……闇の妖精は、最高級のモノとしか、見られなくなったっ!」
ギリリッと歯を噛み締める音が響く。
「確かに私達は、道具として産まれたのかもしれない。確かに私達は、全ての存在の最下層にいるのかもしれない。けれど、けれども! 私達にだって意思があるっ! 感情があるっ!! 生きているっ!!! 他人の勝手な都合で私達の自由をやるものかっ!!! 他人の勝手な都合で自由に扱われて堪るものかっ!!!」
声を張り上げ、吠える。
「私達は、ただ静かに平和に暮らしていたかっただけなのにっ! どうして私達は苦しまなければならないっ! 何故私達を傷付けるっ!」
泣いているように、吼える。
「仲の良かった友達も、優しかった叔母も、厳しかった叔父も、笑顔の似合っていた隣のオジサンも、綺麗だった近所のおばさんもっ」
心の絶叫が。
「母を、父を、みんなをっ――」
世界を揺るがせる。
「――お姉ちゃんを、返してよっ!!」
*****
しんとした空気が場を満たす。ユリアさんの痛々しい叫びが、まるで時間を止めたようにさえ思えるほど。
顔を俯かせたユリアさんに、なんと声をかけていいのか分からない僕達。なんというか、ユリアさんの壮絶な日々を垣間見た気がする。
「……ごめんなさい。ちょっと感情的になりすぎたわ。話の趣旨もズレちゃったわね。こうなるから、自分の事を、己の種族の事を語るのは苦手なのよね」
ふぅ、と息を吐いて俯いていた身体を起こすユリアさん。少々瞳が潤んでいるのは、果たして気分の昂りからか、過去の悲しみからか。
「要約すると、闇の妖精は欲望を満たす代物と云えるの。だから、私達は蹂躙されるし狩られるのよ。時には奴隷として、時には道具として。そういった背景があるのよ」
「……重い」
なんと重い話か。僕ってばシリアス苦手なんだけども。今ここで思いっきりおちゃらけたい気分だ。でもそれをすると酷いバッシングを喰らうのは確実。確定的に明らか。なので我慢。
「……そういうことじゃ、理解出来たか?」
「うん。痛いほど」
いやはや、とんでもないね。平和に満ちている世界だなと思ったけれど、そんなことはなかったか。やはり完全な平和というやつは、何処の世界にも存在しない物らしい。
「……御礼を云っておくわね、ありがとう。親切にされたのは、久しぶりだったわ」
そう云って、この場を辞そうとするユリアさん。
「何処へ行くんですか? トイレは反対ですよ、若しくは僕の口です」
「……貴方、今までの話聴いていた? 聴いていたのなら、流れで分かるでしょ?」
「確かにここのトイレは水洗式で流れがいいですけど、いつの間に確認を?」
「話が通じないっ!?」
驚愕に目を見開くユリアさん。その『未知の生物再び!?』な顔を止めましょう。開いた扉が壊れて二度と閉じられなくなるから。エクスタシーがそこまで迫るっ。
「ええいっ、もう、流れを読めないならハッキリと云うわ! 私を助けてくれたことには感謝するけど、それでも貴方達を信用することは出来ないの! だからお暇しますってことよ!」
「おひまします?」
「お・い・と・ま、しますよっ! 出て行くってこと!」
「なんと、ユリアさんには露出癖があったのか」
「はぁ? 何を……っ!!」
僕の言葉に自分の身体を見降ろして、瞬間的に身体を腕で覆う様に隠すユリアさん。
それもその筈で、今の状態は麻の服を一枚着ているだけなのだ。透けないネグリジェっぽいデザインの麻の服。いとエロし。
「まさか、そのような服装で外出しようとはね。ふふふ、これは天が僕に与えた公然と露出するチャンスか!!」
「それは違うと思います」
メアに間髪入れずに否定された。今まで黙っていたのに、ツッコミ所は的確に反応する。
メアの将来が少々不安になってきた。まさかお笑い芸人としてデビューはしないよ、ね?
そんな下らない会話をしながら、先程のシリアスな展開が霧散し、やっとのことで普段のほのぼのとした雰囲気に戻すことが出来たと思った、その時である。
『うおおおおおお! ジジ、メア、うおおおおおおお!!』
害敵を知らせる結界からの反応があったのは。
「むっ、敵か!」
「その前になんじゃこの声は!?」
「僕お手製の音声です。ただの警報音じゃ物足りないから……」
「……こいつ、もしかしなくても馬鹿よね?」
「いえ、それどころじゃないです」
こそこそと内緒話をしているメアとユリアさん。何を云っているのだろうね。
「それはともかく、悪意を持った輩が入って来たのは確実だね」
「何者かのぉ」
「決まっているじゃない、私を追いかけ回していた奴等でしょ」
そう云い、治療の際に外して壁に立て掛けていた剣をユリアさんが手にする。
「私の不始末よ、ケリは私が付けるわ」
「あいや待たれい」
意気込むユリアさんに待ったを掛ける。それに怪訝そうな表情を向けるユリアさん。
「もしかしたら、件の輩じゃないかも知れないでしょ。最近は見ないけど、昔はここら辺にも山賊がいたし、そういった輩かもしれないから、ユリアさんを一人で行かせる訳にはいかないなぁ」
「確かにそうじゃな」
「私達もお供します」
僕達の言にぽかんとするユリアさん。うむ、非常に愛らしい。ぐっと来るざます。
「とってつけた様な、幼稚な意見ね。そうかこつけて、私の手伝いをするつもりなら手出し無用。云ったわよね、私は貴方達を」
「幼稚だろうが何だろうが、結果は変わらないよ。少なくともこの土地は僕達の管理区域だ。不要な輩を処断するのに、貴女の意見は意味がない。同行する僕達を信用するしないは勝手にすればいいと思うし、なんなら隙を見て殺してもいい。それに対して、少なくとも僕に文句を云う権利はないからね。油断した僕が悪いってだけの話だ」
「何をっ」
「極論を云うと、貴女が僕達を信用していないように、僕達だって貴女を信用している訳ではない。褐色の肌も銀の髪も、魔法やら何やらで加工出来る範囲内だと思うからね。特に最近では、暗雲立ち込める様な事態が東方世界と西方世界の間で起きている。貴女が音に聞こえるメアやジジを狙った暗殺者である可能性だってある。暴論を云えば、さっきの感情の発露も演技の可能性は否めない」
「な!? 私はっ」
「違う違わないは問題じゃないよ。不利益に成り得る可能性があるならば、それを潰すのは当然の理。故に、結界に触れた輩と貴女が仲間である可能性もあるし、そもそも、その怪我もここに入りこむために負ったものかも知れない。偶然、僕が出向く畑に貴女が居た感じだったけど、そう見せている可能性もありますよね。ほら、これだけ貴女に対して疑惑を掛けられる。なら、貴女を監視するのは当然でしょう?」
矢継ぎ早に言葉を重ね、相手に言葉を発させないようにする。交渉の肝は、如何に自分の空気に相手を巻き込むかだ。
息を吐かせぬ言葉は、その実、曖昧だったり無理矢理だったり意味が通ってなくてもいい。なぜならば、人は雰囲気で抑え込むことができるから。ユリアさん妖精だけど。
云い募ろうとするユリアさんの言葉を全て意図的に遮る。人は己の言論を封じられると、得も言われぬ圧迫を感じ、それによって意志を弱らせる。押し売りとかでもよく使われる手。暴力的な言葉の弾丸は、相手の気勢を殺ぐに長ける。理知的な人ならば特に。ユリアさん人じゃないけど。
「……分かったわよ」
不承不承と頷かせることに成功。見たか、僕の舌先三寸口八丁の妙技。
「では私達も」
「いや、待って」
準備をしようとしていたメアとジジを止める。
「さっきも云ったように、僕達を狙っている輩の可能性もある。なら、この城にも留守を置くべきだ。それも万全を期すならメアとジジを。……何故かって? それは、もしも僕達を直接狙わないとすれば、狙われるのはきっとこの城の魔術的道具や魔法器具、その他にも様々な実験薬品に魔法書などと云った物が狙われることは難くない。確かに、二人ならそんなの無くても充分の武威を揮うだろうけど、それでも有事に備えるなら、あるに越したことはない。もしかしたら、結界に反応している奴等だけではなく、別同隊がいるかもしれないんだ。だったら、そちらにも備えるべきだろう?」
さらに言葉を重ねに重ねて、メアとジジを城に残らせる事に成功。流石は僕である。僕ってば格好良い!
そんな風な僕に、呆然とした顔を向ける二人。
「ん? なに?」
「いえ、普通の思考も出来るんだなと思って……」
なんと失礼な。
「そんな訳で、出撃兼迎撃は僕とユリアさん。防衛兼援護はメアとジジ。了解?」
「ええ」
「うむ」
「はい」
「じゃ、準備を始めようか」
三人から同意を得たので、それではと早速準備を開始。各々がそれぞれ散らばる。
そんな中、ユリアさんがジジに話しかけていた。
「ねぇ、えっと……」
「ジジで良いぞ」
「そう。ならジジさん、何か服を貸してくれないかしら。流石にこれだと、ね」
「良いのか?」
「毒を食らわば皿までよ。これに関しては諦めたわ」
「承知した」
「ああ、それと」
「なんじゃ?」
「その尻尾にある下着を返してくれないかしら? スースーして落ち着かないのだけど」
~~~~~~~~~~~~~~~
あとがき
今回なげぇ!? どうしてこうなった!? ほんとは10kbで終了の筈だったのに……。2倍とかどういうことなの。
とりあえず、書き上げるのに疲れました。
▼なぜ急に感想が増えたし!嬉しいけれども!ありがとうだけれど!ありがとう!
>まずは下着を脱がすなんてさすが紳士
そりゃあ、紳士ですもの。お召物を預かるのは当然ですよ。
>脱がした下着は上なのか、下なのか…当然両方かのぉ。
>しかもそこまでやりながら、その先には進まない辺り、ありとあらゆる意味で紳士ですね!
ありとあらゆる意味で紳士です!
>面白かったです。
>続きを楽しみにしています。
続きはガラリと印象が変わったりするかもしれませんが、精一杯頑張ります。
>下着を脱がしておんぶ……背負う以上、腕も使って体重を支える必要がある、つまり……
>生尻おんぶとはさすが紳士。
紳士ですもの、仕方ないですよ、ね?ね?
>紳士め!
紳士さ!
>ほのぼのレイ○ って言葉が脳裏に浮かんだ。
「ほのぼの」が一瞬「ぼのぼの」に見えてドキリとしました。
取り敢えず、作者的にはほのぼのだよ!と云っておこうと思います。タイトルつけた責任ですね。
>>だって、本当は炉心にしたかったけど、俺は融解も誘拐もしないから
>今回誘拐してんじゃんwww
ゆ、ゆゆゆ誘拐じゃないよよよぉ!ほほほ保護だよぉ!!
>あまりにも素晴らしいHEN☆TAI紳士SSに
>全俺がスタンディングオベーション(下半身的な意味で)
>最初からぶっ通しで読み続けてしまいましたが
>「ババァ、結婚してくれ」に5分ほど大爆笑してしまいました。
>母親が何事かと部屋を訪ねてくる程に。
この作品を最初からぶっ通しする猛者が居るとは思いませんでした。びっくりです。
>そして6話の内容に関して一つだけ不満が。
>留守番するなら室内探検という一大イベントがあるじゃないか!
>メアが居ない内にベットにダイブしてクンクンしたり、衣装箪笥(と書いて宝箱と読む)の下着の棚を調べてみたり!
>でも安心して!彼はHEN☆TAIという名の紳士だから
>邪ま気持ちなんてこれっぽっちもなくて、きっと留守番中に泥棒が入って下着を持って行っていないか確認して
>ついでとばかりに一年前のメアの成長記録差分を取ったり、
>下着がほつれていないか隅々まで調べてあげているだけなのに違いないよ!
>やったね!
>明日はホームランだ!(100万$の笑顔で)
ふふ、作者がその描写を全部書き切れるとは思わないことでございますよ?!
>べ、別にこの内容でSSを書いてほしいなんてこれっぽっちも思ってないんだからね!
>ただちょっとネタの足しにでもなればって思っただけなんだから!
>か、勘違いしないでよね!
ちゅんで……ノ―カンで……ツンデレ乙!
>おおおぉぉ持ち帰りぃぃぃぃ!!!!
>でも変態紳士だから嘗め回すように見ても、手は出さないと信じているww
「お持ち帰り」の発音が、ブリタニア皇帝とバルバトス殿で再生されてしまいました。なんてことだ。
紳士はあくまでも紳士ですよ。どうぞ不安になってください。