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No.9582の一覧
[0] ほのぼの異世界譚[炉真](2011/03/27 16:16)
[1] 1話・平和な異世界[炉真](2010/05/06 20:44)
[2] 2話・新ジャンル[炉真](2010/05/06 20:53)
[3] 3話・狩り[炉真](2010/05/06 20:58)
[4] 4話・悪魔[炉真](2010/05/06 21:04)
[5] 5話・マスター[炉真](2010/05/06 21:08)
[6] 6話・スイーツ[炉真](2010/05/06 21:16)
[7] 7話・夜[炉真](2010/05/06 21:22)
[8] 8話・幽霊[炉真](2010/05/06 21:31)
[9] 9話・夢[炉真](2010/05/06 21:37)
[10] 10話・懐かしき友人[炉真](2010/05/06 21:47)
[11] 11話・竜との対談[炉真](2010/05/06 22:44)
[12] 12話・ナデポの修行[炉真](2010/05/06 22:48)
[13] 13話・魔族[炉真](2010/05/06 22:54)
[14] 14話・神竜との邂逅[炉真](2010/05/06 22:59)
[15] 15話・混沌[炉真](2010/05/06 23:07)
[16] 16話・再会した結果が敵[炉真](2010/05/06 23:12)
[17] 17話・漢で乙女[炉真](2010/05/06 23:16)
[18] 18話・白翼美青年[炉真](2010/05/06 23:21)
[19] 19話・藍赤幼女[炉真](2010/05/06 23:45)
[20] 閑話01・穏やかに壊れた世界[炉真](2009/08/02 13:27)
[21] 20話・昔話[炉真](2010/05/07 00:00)
[22] 21話・帰還[炉真](2010/05/07 00:04)
[23] 22話・バハムート[炉真](2010/05/07 00:08)
[24] 閑話02・とある喫茶店の話[炉真](2009/10/31 21:38)
[25] 23話・異質の刀匠と誇りの鍛冶師[炉真](2010/05/07 00:12)
[26] 24話・50の音取り遊び[炉真](2010/05/07 00:18)
[27] 25話・王都の途上[炉真](2010/05/07 00:23)
[28] 26話・闇の妖精-a[炉真](2010/05/07 00:26)
[29] 26話・闇の妖精-b[炉真](2010/05/07 00:29)
[30] 26話・闇の妖精-c[炉真](2010/05/07 00:35)
[31] 26話・闇の妖精-d[炉真](2010/05/07 00:48)
[32] 27話・ユリア[炉真](2010/05/07 00:53)
[33] 28話・女王と癒しの魔女-a[炉真](2010/05/07 00:59)
[34] 28話・女王と癒しの魔女-b[炉真](2010/05/07 01:02)
[35] 29話・学園編でもしようかしら?[炉真](2010/05/07 01:33)
[36] 30話・全3話で終わればいいなぁ学園編[炉真](2011/01/21 19:26)
[37] 31話・定番といえば定番な異世界イベント[炉真](2011/01/21 23:11)
[38] 32話・決闘戦技祭[炉真](2011/03/27 16:15)
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[9582] 26話・闇の妖精-d
Name: 炉真◆769adf85 ID:e8f6ec84 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/05/07 00:48


 それは、きっと、奇跡の出逢い。





『26話・闇の妖精-d』





「しかし、あれだね! この状況はまるでデートのようだね! 僕ってば現在、猛烈に勝ち組状態! これで勝つる!」
「貴方とデートなんてありえないから安心して。それと何に勝つのよ」
「リア充から一気に喪男へと戻ってしまった! これは泣ける! 映画化決定だね!」
「……貴方、もしかしなくても、コミュニケーション不全? ……いえ、コミュニケーション不能なのかしら?」
「紳士ですから」
「答えになってない上に、紳士の意味を見事に履き違えているわね」
「照れるじゃないかぁ」
「……どうして照れる」

 そう云って、身体を気持ち悪くクネクネと動かしながら随伴する男を見る。こいつ、本気で面倒臭い。
 先の云い合いに負け、監視という名目で私に同行している男。あの時はそこそこに頭が回る奴かと思っていたのだが、蓋を開けてみればただの変態だった。鬱陶しいことこの上ない。

 この男と行動を伴にし、既に何度吐いたかも分からない溜息が出る。そもそも、どうしてこんな男が私の横にいるのだろうか?
 あの時は、つい空気に呑まれて同行を認めてしまった物の、それでも冷静になって見れば、色々と可笑しな節が多々ある。
 高名な幼き魔女殿と、数々の逸話を持つ九尾の――今は二尾のようだが――聖魔殿ならば、先に述べただけではない、どうしようもない我が種族の有する最悪な性質さえ、仔細に知り得ているだろうに。

 見ず知らずの不審な、それも闇の妖精を治療したくらいだ。恐らく、優しいのであろうということは想像に難くない。そんな気性をした御二方が、何故、よりによって異性を私に同伴させたのか。
 確かに、この男の云い分も尤もだったが、才知文武に優れると噂される御二方ならば、さらなる正論を以って先の云い分を打ち負かせた筈である。交渉事の場に慣れていないのならば納得もできるが、少なくとも聖魔殿に関しては、交渉の場に慣れぬ程に参加したことがないとは思えない。

 永永と語り継がれる程の伝説を残す御仁だ。この男のような若造の交渉事など、大した圧迫感も覚えぬだろうに。
 我が種族の性質を知りながら、この男を同伴させたことに、何か私の与り知らぬ程に深い思惑があるのだろうか。
 それとも、やはり本音の所、私の様な下賤な妖精など、どうでもいいと思っているのだろうか。
 ……まぁ、いい。御二方の考えなど、予測したところで埒もなし。この男が私の性質に因って不埒な真似をしようものなら、この男が発言通り、容赦なく首を切り落とすだけだ。

 腰に位置する剣柄を、そっと握る。
 この男も敵になるかもしれない。その時に、すぐさま剣を抜き放てる状態へと備える。この男が敵になる様は、何故か不思議と思い浮かばないけれど、それでも念には念を入れて。


『きっと大丈夫だと思いますよ』


 男の奇行に目を光らせている時に、ふと、魔女殿の言葉を思い出した。それは、出立の準備をしている最中のこと。
 出立の準備を整えている間も、私は落ち着いていなかった。
 なぜならば、異性の人族と行動を伴にすることに対して、激しい抵抗と不安が私の胸を締め上げていたからだ。そんな私に向けて、魔女殿が云った言葉が「大丈夫」。
 その言葉を聴いた時は、勝手な事をと、私の想いも知らぬ癖にと、なんと心無い言葉かと、そう思った。
 しかし、続いた言葉に、そんな激情の炎は鎮火する。


『私は【腐滅】の二つ名を冠す魔女です』


 その言葉に、押し黙った。

 嗚呼、この子も私と同等の、或いはそれ以上の苦しみを知っているのだな。

 聴いた瞬間にそう思ったから、黙った。“二つ名”を有すことが、どういった事なのか、私も理解している。それは、烙印であるが故。
 この幼子が大人びている理由に思い至ったことから来る同情か、それとも、悲劇を味わったであろうと勝手に予想したことによる仲間意識か。もしくは、己でも意識できぬ何某かの感情か。
 いづれにせよ、私がこの子に、この小さな魔女殿に、悪感情を抱く事は出来なくなっていた。

 そんな魔女殿が、どうにもこの男と不思議な信頼関係を築いているように思え、自然と疑問が湧き上がった。何故、この男を信じることが出来るのかと。
 そんな私の疑問に、幼い魔女殿は微笑んで。





『だって、私は――――』





*****





「敵影を補足。見付けたぜぇい」

 思考の海に埋没していた私は、はっと意識を覚醒させる。しまった、油断した。なんと不様な!
 このような状況に於いてさえ、意識を彼方へと飛ばした自分に苛立つ。なにをしているのかと、今は余計な事に煩わされる時ではないと。
 気分を鋭意一新。二度と不様を晒さぬと意気を高め、男が見遣る先に視線を走らせる。
 そこには、やはり私を追いまわしていた奴等。人数は二人、顔に見覚えがある。しかし、数があまりにも少ないことに眉をひそめる。

「さてはてやれとて、如何致しましょうか?」
「……その意味の分からない、最初に云った言葉の羅列は、なに?」
「いま適当に云ってみた。可愛いでしょ? うっふん」
「気持ち悪いから肉塊残さず滅んで頂戴」
「辛辣過ぎる!? 僕の周りにはキツイ事を云う人しかいないのか!?」
「静かにして、気取られるでしょ」

 イエスマム! と云って静かになる。誰がママだ。

「ねぇ、えっと……?」
「名前ならば、ジョンジョルノと御呼び下され」
「……本名?」
「まっさかぁ」

 こいつ今此処で殺してやろうかしら?

「……まぁ、いいわ。ねぇ、奴等が二人だけなのが気になるけど、どう思う?」
「ぶっちゃけ、どんくらいの人数が居たの?」
「私が確認した限りでは、十人以上は確実に居たわね」
「罠に嵌まったのかな? 暇な時に結構仕掛けたし」
「……あの罠、貴方が?」
「うん。日曜大工的なノリで」

 ニチヨウダイクが何なのかは知らないけど、あのエゲツない罠を張ったのがこの男だったなんて……。人は見かけに依らないって本当ね。
 若干、微妙なテンションになる。こんな変態の罠で死んだ奴等は、どんな思いなのかしら。
 そんな事を頭の片隅で思っていると、前方で草葉を掻き分けている二人の話し声が聞こえてきた。耳を澄ませる。

「……なっ、この森は! 罠だらけじゃねーかよ!」
「ああ、アレが仕掛けたとは考えづらい」
「てことは、やっぱ」
「うむ。ここに居を構える魔女の物だとするのが妥当か」
「はっ。薄気味悪い魔女は、やっぱ姑息なことしか出来ないんだろうな!」
「その姑息な罠に、俺達以外の同志が倒れたのだ。油断はするな」
「ははっ、同志か! 傑作だな! 罠に掛かりそうになった時、その同志を身代りにしたのは何処のドイツだよ!」
「身代わり? 違うな。あれは尊い犠牲と云うのだ」
「ひゃははっ、尊いってか! そりゃ傑作だわ!」

 聴こえた会話に、自然顔が厳しくなる。アイツ等、仲間を見捨てたのかっ!
 私にとっては願ってもないことだが、しかし、アイツ等の行為には沸々と怒りが込み上げる。正しく人でなしめ。

「あいつ……」

 ふと横から聴こえた声に振り向く。そこには険しい顔をした男……ジョンジョルノ。

「どうしたの?」
「……薄気味悪い? 姑息? ……あの野郎、もぎとって、自分のを喰わせてやるっ」
「ちょ、待ちな……っ!」

 怒り心頭といった具合で、勢いよく飛び出す。なんて無鉄砲な!
 草叢から飛び出し、叫びつつ、二人目掛けて走る。

「おおおい! そこの早漏野郎! てめぇ、今なんつ――っ!!」

 唐突に、姿が消えた。

「ぬわぁぁああ!! お、落とし穴だと! 一体誰がこんなもんをって、僕じゃねーかぁ!? なんてこったい!!」

 土の下から、正確には、地面に開いた空洞から、馬鹿の叫びが木霊する。こいつ、自分の罠に嵌まりやがった!!

「思いの外に深い! 僕ってばなんでこんなに深く掘ったんだ、不覚! あれ、今のって巧くない?!」
「な、なんだぁ?」
「……何者っ」

 喚く馬鹿の声に、二人が落とし穴へと近寄る。

「おおぅ? なんか紙が、って僕が書いたヤツじゃん。何々『下を見ろ』だって? 一体な……っ!? か、カリントウ!? カリントウだとぉ!? それも人間の!? なんちゅうもんを仕掛けてるんだ僕は!? レイドさんのタコ壺魔法かっ! ……はっ、し、しまっ、身体っ、身体は……!? よ、よし! 大丈夫、セーフッ! 付いてない、付いてないもんね!! ふ、ふははは! どうだ過去の僕、今の僕は過去に仕掛けた僕の罠に勝ったぞ!! 落ちた事は気にするな! 精神崩壊のエグイ罠に勝った方が重要なんだ!! 凄いぞ僕! やったね僕! 流石は僕! 素敵、抱いて!! ひゃっはぁー!!」
「……馬鹿がいる」
「……ああ、いるな」

 何だか意味不明なハイテンションになっている馬鹿。敵に馬鹿だと云われているが、もうその通りでしかない。だって馬鹿だし。
 というか、この男は馬鹿を越えた変態だ。私に時折、セクハラ行為やセクハラ発言を平然としてくるのが証拠。最初は私の性質がそうさせているのかと思っていたけど、話によれば常日頃からこの態度らしい。人間として終わっている。
 などと今の状況に関係なく、さりとて益すらもない思考を展開している私は、きっと混乱しているのだろう。

「むむっ? あっ、貴様はっ! おのれぇ、メアを侮辱しただけでは飽き足らず、僕を卑劣な罠に嵌めよって! 許さん! 許さんぞぉぉおおおおっ!!」
「ええ!? お、俺ぇ?」

 あまつさえ、自分で仕掛けた罠を敵のせいにし始めた。なんという責任転嫁。

「ああそうとも貴様だ貴様! さぁ、貴様をぶちのめして、もいで、それを喰らわせてやるから降りてこ……うわっ、やめろ! 砂を掛けるな! 石を投げるな! 唾を吐くな! 男からそんな行為されても嬉しくもなんともないわっ!!」
「……なぁ、兄貴」
「構わん。殺れ」

 ぎゃーぎゃー吠える馬鹿を尻目に、武器を構える敵二人! マズイッ!!
 思わず、草叢から飛び出す。本当はあの馬鹿を見捨てて隙をつくのが賢いやり方なのだろうが、私には無理だ。一方的な虐殺が繰り広げられるのを黙って見てはいられないっ。
 たとえ、それが私とは無関係だったとしても、我慢が出来ない。もう二度と、あんな光景は見たくないから。

「なっ、こいつ!?」
「ほぅ、獲物が自らを献上しに来たか」

 飛び出した私を捉えた二人に、凶悪な笑みが浮かぶ。その二人を相手に剣を抜き放ち、構える。

「へへっ、こりゃあ、今日は最高についてるぜぇ」
「くくくっ、普段の行いが善いが故の賜物か」

 じりじりと距離を詰めてくる。負傷したこの身で、二人を同時に相手取るのは流石にキツイかっ。
 大剣を構える長身の男と、鉄球を手に下げる男を見据える。
 そんな緊迫した空気の中、再び馬鹿が声を張り上げた。

「おーい、どうした!! 僕に恐れをなしてガクガクブルブルと震えて怯えて小便漏らして部屋の隅に体育座りしながら神様にお祈りでも捧げてんのかぁ!? このフニャフニャ野郎がっ! どこがとは云わないが、フニャフニャ野郎がっ! どうせ貴様の様な奴は彼女が出来ても本番で『下手糞は死んで良し、ぷぎゃー!』とでも云われてフラれるんだろう! はっ、負け犬めっ! いや、負け犬よりも酷い顔をしているんだから、負け犬に失礼だな! このド低能不能野郎っ!!」

 そんな罵倒の言葉を聞いた、敵の片割れが額に青筋を浮かべる。

「悪い兄貴。先にこいつぶっ殺すわ」
「冷静になれ、安い挑発だ」
「安い長髪? なんだ、貴様等ハゲなのか。やーいやーい、このハーゲ! ゲーハー! 安いカツラなんぞ付けても、貴様の魅力は一厘たりとも増さねぇよ! おめぇの髪ネェから!!」
「ぶっ殺す!」
「殺すぅ? はっ、出来ない事を口にするなよ、弱いくせに! 貴様なんぞ僕一人で十分過ぎるんだよ! だから、此処は任せて先に行くんだユリっち! あ、間違えた。ユリアさん!」
「喚いてんじゃねぇぞテメェエエ!!!」

 一番危機的状況に陥っているのは、そっちなのに。どうして、そこまで平然と啖呵を切れるのか。
 完全に私に対する敵意が逸れた一人。状況を見極めようとしているのか、動かないもう一人。
 逃げ出すならば今こそ最上。しかし、私もまた、どうしたものかと混迷する。
 そんな時、するりと耳に入った、声。

「大丈夫、僕は死なない。絶対に。だから、今は貴女が『生きる』ことを優先してください」

 その言葉に、身体が無条件で動く。

「ぬっ!?」
「兄貴は行ってくれ。俺もこいつ粉々にぶっ殺したら、すぐに追いつくからよぉ!」
「……分かった」

 振り返らずに、全力疾走。傷付いたこの身では、高が知れているだろうが、それでも走る。走り続ける。
 あの馬鹿が気になるけれど、あそこまで啖呵を切ったのだ。責任は負って貰う。

 そして、なによりもお姉ちゃんと同じ事を口にしたのだ。

 ならば。





 今だけは、信じよう。





*****




 どれほど走ったのか。一時間か十時間か、それとも未だ十分程度か。

 走り続けた私は、勢いよく大木に倒れ込んだ。倒れ伏す身体には傷が増えており、その傷口から血が流れる。目も霞がかってきた。意識も少々朦朧としている。
 ぜぇぜぇと乱れた息。喘ぐように酸素を求める。

「追い駆けっこは、終いか?」

 ゆらりと姿を現す敵。その手には、血に塗れた大剣。
 その大振りな剣を、この鬱蒼と茂る森の中で振るえる技量は驚愕の一言に尽きた。これでも、剣技には自信があったのだけど、敵のそれは私よりも遥かに上だった。
 走りながらの剣戟の応酬。私の身体は悲鳴を上げているのに、相手は息の乱れさえなし。こんな下衆の剣技に劣るのは、中々の屈辱。

 思わず、言葉を発する。

「下衆の癖に、強いじゃない……」
「下衆? この俺が? 戯けたことを」
「充分に、下衆でしょうがっ」
「何を以って、この俺を下衆と断ずるのか。皆目見当もつかないな」
「何を? 仲間を盾に罠を掻い潜り、私をモノとして見る。充分な下衆じゃないっ!」
「はっ!」

 私の言葉を一笑に付して、嘲る。

「あれは、仲間ではない。ただの道具だ。言葉を弄する道具、それをどう扱おうが俺の勝手だろう? それにな、この俺を守ったのだぞ。下らぬ道具共にとって名誉以外のなんだというのか」

 くつくつと笑いながら近付く男に向けて、渾身の力を込めた剣を揮う!
 されど、男が片手で軽く揮った大剣が、私の一撃を弾く。弾かれた衝撃で剣が手から放れた。
 衝撃で痛めた手を押さえていると、髪を掴まれ、顔を強制的に上げさせられる。

「ぐぅ……っ!」
「それにな、闇の妖精をモノと見ぬ虚けが何処にいる? これ程の上物、これ程の上級、これ程の高価な道具を、商品を、モノと見ぬなど有り得ん」

 服を片腕で、引き破られる。そうして露わになった肌に、舌が這う。気持ち悪い。

「そも、闇の妖精など慰み物が常道であろうに。貴様ら闇の妖精の特質もまた、然り。……なぁ?」
「う……っ!」

 掴まれた髪を引っ張られ、痛みに呻く。

「願望成就玩具たる貴様らが有す、特異な性質。いや、体質か? まぁどちらでもいいことか。その体質が、既に貴様らの価値を知らしめる証左であろうよ」
「うる、さいっ、触るな……っ!」
「吠えるな」
「がはっ!?」

 どすりと腹部を蹴られて息が詰まり、顔を掴まれて頭を背後の木に叩きつけられる。

「うぁっ」
「話しを続けよう。貴様らの奇異な体質は、その実、己と性別を異なる生物に働く。生物全般に。その肝要なる体質とは、即ち、異性を魅了する特殊なフェロモン」

 言葉を続けながら、何度も何度も頭を木に叩きつけられる。

「そのフェロモンは否応なく異性を発情させるもの。獣であろうが人間であろうが獣人であろうが魔獣であろうが魔族であろうが竜族であろうが、生物の範疇を超える同族の、一般的な妖精以外、その全てを」

 何度も。

「発情させ、己が身を捧げることによる自己保身なのかどうなのかは知らん。しかし、その有り様は娼婦にも劣り、売女よりもなお低俗! 性欲にかこつける特異な性質を有すと云う事実に加え、そもそもの貴様らの成り立ち。そこから推察出来ることなど、限られる!」

 何度も。

「貴様らは下卑た存在だと自らを声高に主張している! ならば、相応の扱いをしてなにが悪い! 当然の扱いをすることが下衆? 違うな。当然の扱いをせぬやつこそ下衆よ!」

 何度も、叩きつけられる。

「故に、安心して貴様は道具としての役割を全うせよ! 犯され、嬲られ、痛めつけられ、傷つけられ、弄ばれろ! 存分に!」

 がんっと勢いよく叩きつけられて、ドロリと血が流れる感触。

「壊れて道具として使い物にならなくとも、それもまた安心しろ。壊れた貴様を解体すれば、その臓腑は高価な材料となる。秘薬の基となり、魔術的価値の高い材料となる。捨てるところがない程に、実に生物の願望を満たしてくれるな! 実に、実によい商品だ!」

 哄笑しながら、無理矢理に目を合わせさせられる。

「貴様が生物としての『生』を望むなぞ、不敬に尽きる。貴様はただ、道具として『存在』せよ。貴様とて、そのことを心底理解しているのだろう?」

 そう云って、私を薙ぎ倒す。地面に私の身体が倒れる。
 痛い。痛い。身体が痛い。心が痛い。なにもかもが痛い。
 瞳から流れる液体は、果たして涙か、それとも血流か。
 意識が朦朧とし、視界は既に暗闇へと沈んでいく。

(ごめんね、おねえちゃん)

 不様に泣く体力も気力も尽きた。生への渇望すらも枯渇した。

(私が生きられるのは、ここまでみたい)

 がらんどうの心を空虚が占める。投げ出した身体は肉塊へ変わる。

「さて、では回収して弟と供に、この肉人形を楽しむとしよう」

 元より、心の何処かで漠然と諦観していたことは事実。己で己を卑下していたのも、また事実。自身で既に幸福など有り得ないと思っていた。ならば、たとえ必死に生きていたのだとしても、こんな結末を迎えるのは、運命だったのだろう。
 己が宿命に、抗おうともしない弱者如きを救うほど、運命は優しくなんてないのだから。




 絶望が、私を捉えようと手を伸ばし――















「へぇ、地獄にも空気嫁ってあるのかい?」















 ――止まる。





*****





 唐突に私から離れる絶望の気配。
 暗闇へと沈みかけた意識が浮上する。いま、有り得ない響きを耳にした。
 満身創痍の身体に最後の活力。半ば閉じていた目蓋を上げる。

「ふっ、この危機的状況に駆けつける。僕ってば主人公してるじゃないか!」
「……貴様はっ!?」

 そこには、どうしようもない馬鹿がいた。服の乱れこそ目立つ物の、その身には大した傷を負った様には見受けられない。
 その馬鹿が、ジョンジョルノなんて名乗った馬鹿が、まるで私を庇う様に前に出て、悠然と敵と向かい合う。

「貴様がユリアさんをこんな魅力的な姿にしたのか? それには礼を云っておこう。惜しむらくは、このユリアさんの艶姿を納めるキャメラがないことか……。やっぱり、ジジとメアにお願いして買って貰おうかなぁ……」
「……貴様、弟はどうした?」
「ん、弟? 誰……ってそうか、さっきの鉄球使いか」
「どうしたのかと尋ねている」
「眠たそうだったので寝かしつけてきた。永遠に夢の中だろうさ」
「弟を打倒したか」
「雑魚だったから、楽過ぎた」
「ただの馬鹿な優男と思ってみれば、どうやら違ったようだな」

 霞がかった瞳で、二人の姿を映す。

「僕は馬鹿じゃない、紳士だ」
「そうか、紳士か。ならば、そんな紳士にひとつ提案がある」
「あん?」
「俺の仲間になれ」

 唐突に発せられた言葉に、きょとんとする馬鹿。

「なんで?」
「使えぬクズよりも、それを打ち倒した貴様の方こそ価値がある。俺は高価な物が好きなのだよ」
「クズ、ねぇ。弟にあんまりな言葉だな」
「血の繋がりはない。クズの中では最も有能であったが故に、俺の弟分であっただけのことよ」
「……うわぁ。お前、自分至上主義だろ?」
「至上主義? 違うな。事実、俺は至上の存在というだけだ」
「自意識過剰な奴め」
「そんなことはどうでもいい。返答を寄こせ。もしも色の良い返答ならば、褒美を与えても良い」
「褒美?」
「そこの玩具を、貴様にやろう」


 私の身体が、強張る。


「それを好きに扱うことを許す。嬲るなり甚振いたぶるなり弄ぶなり、随意にしろ」
「……何を、云ってる」
「所詮は下賤な雌。貴様の玩具として壊れるまで扱っても構わん。飽きたら商品として売り出すだけ。俺は金銭の方がより欲しいのでな、売り物になるのならば、その所有には拘らぬ」
「…………」
「どうだ、悪い話でもあるまい。元より、貴様もそこな道具に劣情を催している筈。安易にそれが手に入るのだ、迷う事などあるまい?」

 身体が、震える。私を庇うように立つため、馬鹿の、彼の背中しか見えないから表情など見えないし、今は、見たくもない。
 ガタガタと、不安と恐怖が私の身体を支配する。

「…………」
「我が配下となるならば、易くそれを所有できるのだ。何を迷う。それとも、俺に挑み無駄に命を捨てるか?」

 まあ、有り得んことか。そんな呟きが耳に入り、言葉は続く。

「どうする? 言葉にするのが億劫ならば、態度で示しても良いのだぞ? 我が言に従うならば、それをこの場で犯し嬲ることを許す」

 その言葉に、くるりと振り返り私へと歩みを進める、彼。

「それで良い。いや、当然のことか」

 嗚呼、やはり、私はこんな結末か。もう顔を上げているのも億劫だ。
 俯き、目蓋を閉じて闇へと埋没する。そして、訪れるであろう絶望に、諦観のみを抱く。

(もう、いい。もう、諦めた)

 総ての思考を放棄。これからのことなど、考えたくなかった。
 しかして、私の身体を包み込む暖かな感触。

「え……?」

 思いがけない感触に、目を見開く。そこには、想像もしていなかった、優しい微笑み。
 羽織っていた上着を私に掛け、ぽんぽんと頭を撫でて立ち上がる。
 そして、再び、前に立つ。

「……なんのつもりだ?」

 凍える様な殺意をのせた敵の声。呆然と見上げる私の視線。
 その全てを受け止めて、不敵に笑う、その男。

「こんな可愛い女の子を道具と称した貴様如きに、従う筈もない」
「……道具を人並みに扱うだと。正気か」
「いたって正気。女の子を女の子扱いして、何が悪い」
「貴様はそれの体質を、特有のフェロモンを感じていないのか?」
「近くにいると気分が昂ることか? そんなもん、美人のそばに居れば、当然の現象だろうが」
「……失望した。貴様には失望したぞ。よもやモノをモノと思えぬ愚物だったとは」
「愚物じゃねぇ。紳士だ」
さえずるな。耳障りだ」
「貴様こそ語るな。空気が汚れる」

 びりびりと大気が震える程の殺意。それを真っ向から浴びてなお、不敵に笑い続ける、その男。
 私へと振り返り、云う。

「すぐに終わらせるから、眠って待ってて」

 優しさを湛えた声に、瞳が自然と潤む。
 生涯で、唯一、家族にしか感じたことのない、云いようのない安心感。知らず、胸中に安堵が広がる。
 今まで張り詰めていた糸が、ぷつりと切れる感覚。

 その男から感じる優しさからか、緊張が途切れる。それに伴い感じる身体のダルさ。眠気が襲う。
 有り得ないことだ。誰も信じられない、信じ切れない私が、この男を信じている。こんなこと、今まで無かったのに。
 意識が、暗闇へと沈み込む。先程より、遥かに恐怖の薄れた暗闇へ。

 目蓋が、降りる。

「さて、お姫様は眠りについた。これで凄惨な光景を見ることはないし、一安心」
「ふん、貴様が不様に惨たらしく死ぬ様を見せぬ為の気遣いか。流石は紳士だな」
「姫は健やかにお眠り下さい。貴女が目を覚ます頃には、なにもかもに決着がついていますでしょう」
「随分と余裕だな。武器も持たぬ癖に」
「確かに僕は武器を持っていない。だが、地の利ってやつがある。ところでさぁ」
「なんだ。命乞いか?」

 意識が落ちる、その寸前。

「貴様は、『鳥』って映画を知ってるかい?」





 あまりにも冷たい声を聴いた。





*****




 揺れている。その感覚に意識が浮上する。
 次いで、暖かい感触。久しく感じていなかった、人肌の温もり。
 まどろむ意識の中、それを手放さぬように、強く抱きしめる。

「いきなりの熱い抱擁。ついに僕にも春が来た。青い春が。それにしても、たわわな果実がたまらぬ。ふひひっ」

 その声を耳にして、まどろんでいた意識が覚醒。
 勢いよく身を起こす。

「よく眠れた?」
「え、ええ」

 眼前には人の後頭部らしき物。その向こう側から聴こえる、聞き覚えのある声。
 どうやら、私は背負われているようだ。
 まさか本当に、あの敵を打倒したのだろうか。俄かには信じられない。いや、こうして無事にいることが、全てを物語っているのだけど。もしや夢なのか。そんな事を考える。

 ……まぁ、いい。今は、この奇跡のような事実を受け入れよう。
 ただ、少し気になるのは、この男がボロボロで、体中に鳥の羽毛を被っていることだけど。

「お、降ろし、痛っ」
「無理をしなさんな。結構傷が深いんだから」
「……そういう貴方も、ボロボロじゃない」
「僕は大丈夫。なぜならば、紳士だから」
「……意味分かんない」

 自分こそボロボロなくせに、大丈夫と云う、目の前の馬鹿。……ホントに、バカ。
 ただ、その言葉に甘えようと、自然に思えた。
 ぽすりと頭を背中にうずめる。その行為に奇声を発するバカ。格好のつかないやつだ。そこは黙っているものだろうに。

「……ねぇ」
「うん?」

 ふと、言葉が口から出る。

「あれは、本音?」
「なにが?」
「私は道具じゃなくて、女の子だってこと……」

 言葉が、溢れる。意識を失う前に聴いた言葉を確かめたかった。もしも、夢だったらどうしよう。もしも、私のただの妄想だったらどうしよう。

 私を認めて欲しいと、心が勝手に生み出した幻想だったらどうしよう。

 そんな想いが胸を締め付ける。心拍数も上昇。怖い。こんなことを聴くのは怖い。他種族の、それも異性に、こんなことを尋ねるのは怖い。
 ここで、私はやはり道具だと、モノだと云われたら。私は壊れるかもしれない。初めて、『私』を認めてくれた、同等に扱ってくれた、女の子として見てくれた、この人に、『私』を否定されたら、きっと壊れる。拾った希望が絶望に戻ったら、私はもう立ち直れないだろう。
 そして、そんな思いは杞憂だと、知る。

「当たり前でしょ。ユリアさんは綺麗で可愛い女の子じゃないかぁ」
「……でも、私は闇の妖精よ?」
「それがなに? ユリアさんはユリアさんでしょ? 闇の妖精だからといって、ユリアさんが道具扱いを受ける謂われは微塵もないじゃん」
「……それでも、闇の妖精の誕生理由を考えれば、きっと、貴方の考えの方が異端。……それでも?」
「僕ってば、三歩歩くと何でも忘れちゃうので、闇の妖精の誕生理由とか覚えてないや。だから、知ったことじゃない」
「……鳥頭」
「いえ、鶏頭です」

 下らないことを云うバカに、知らず笑みがこぼれる。
 よくもまぁ、闇の妖精である私を、笑いながら受け入れられる物だ。

「そういえば、不思議なんだけど、貴方は私に対して欲情したり、しないの?」
「はっはっはっ、僕は全ての女性に対していつも欲情しているよ!」

 誇るなそんなこと。

「今なら、簡単に私を組伏せるけど、そうしないのは何故?」
「ふふふっ、反撃されないとマニア心は響かないのさ!」

 …………やっぱり変態ね。

「それに」
「それに?」
「僕ってば、紳士だからね」

 そう云って笑うバカからは、全くの劣情を感じなかった。不思議な人間だ。
 だからという訳でもないけれど。
 なんとなく、なんとなくだが、幼い魔女殿が云っていた言葉が理解できた。



『だって、私は――――』



 私を背負って歩くバカに、身体を預ける。「うひょー!!」と奇声を上げるバカ。
 色々と思う事はある。私を個として認めてくれた。私を同等に扱ってくれた。私を女の子として見てくれた。蔑むことなく、見下すことなく、嘲ることなく。
 初めてだ。初めてだった。他種族の、それも異性にそんな風に接して貰ったのは。
 今まで出逢った、どの男とも違う男。不思議な男。興味深い男。

 変態の癖に紳士と云い張る男、恐ろしい敵を撃退して見せた底知れない男。
 何故か、心地よい雰囲気を持つ男。この人は裏切らないと、根拠なく思わせる男。
 魔女殿が信じている男。

「…………」

 顔を背中に再びうずめ、そっと呟く。聴こえない様に、小さい小さい声で、呟く。
 今の私には、これが限界。







「ありがとう」







 認めてくれてありがとう。助けてくれてありがとう。他にも様々な意味を込めて、ありがとう。



 私の呟きは、やはり聴こえなかったのだろう。依然、変わりなく歩く。





『だって、私は――――』






 魔女殿、貴女の云った事が、私にも少しだけ、ほんの少しだけ、理解できました。















『――――救われたから』















 私も、救われた。







~~~~~~~~~~~~~~~
あとがき

**********この文章はこっ恥ずかしい為隙間送りになりました**************


▼声援ありがとうございます!感謝感謝の大感謝!

>妖精族編が見たいです。あの『ババア、結婚してくれ』の後はどうなったのか非常に気になります。

気が向けば書くかも知れません。


>キャラが立ってていいなぁ主人公、再開に気付かなかった私より人生謳歌されてる気がする。つまり作者さんとの再会バンザイ。

お久しぶりです。またふらりと姿を消すかも知れませんがその時は、きっと、作者は桃源郷を目指す旅に出たのだと、そう御思い下さい。

>なまじ致死率高い罠を張れて交渉上手な主人公のスペックは流石。おまけに紳士なんてどこまで予想をこえていくのでしょうか。
>最後にジジの尻尾は不意打ちすぎです。

あの後、ジジが必死で弁明する姿をニヨニヨと笑いながら見る主人公が居たとか居ないとか。


>ジジが下着泥棒だなんて…

萌えますね!


>疑いは全てジジにwwwwwwwwwwwwwwwwwww

主人公はそれを見越していた可能性が…っ!?
なーんてことはありませんが。



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