十話以内だ! あと、十話以内で……っ!
『30話・全3話で終わればいいなぁ学園編』
僕の眼前に存在するモノ、それは、お尻。
それも、見るからに柔らかいと予想されるムッチリとした肉付き。しかもムッチリという感想を抱かせるにも関わらず、決して太っているとは感じさせない。そうむしろ、妖しくも艶やかといった言葉が脳裏に浮かぶ。妖艶、まさに妖艶。そう評するに相応しい、素晴らしき臀部。
その美しき桃に、今すぐにでもかぶりつきたくなる。目に眩しい白桃を前に、恥も外聞もかなぐり捨てて舐め回したくなる。まるでカンバスのような白磁を、叩いて赤い紅葉を、蚯蚓を這わせたくなる。溢れる魅力が情欲を、獣欲を、穢れ無きモノを汚したくなるような卑しさを、雄として持ち得る、屈服させたいという本能を、これでもかと刺激する。
いつまでも見つめていたい。この身が朽ちて腐り滅ぶまで視界に収めておきたい。それほどのモノ。それほどの一品。まさに奇跡と誇称するに相応しい代物。
それは芸術だ。それは美術品だ。それは奇跡の代替物だ。それは素晴らしき物だ。それは賞讃されるべき物だ。それは崇高なる物だ。それは高尚なる物だ。それは奉ずるべき物だ。それは讃嘆して当然の物だ。それは希望だ。それは一つの到達点だ。それは神々しき物だ。
ムチムチとした触感を容易に想起させる肉付きがたまらない。今にもたぽたぽとした音が聞こえそうな脂肪の付き方。それでいて、キュッと引き締まり、見苦しい垂れを感じさせない張り。あたかも発光しているのかと見紛うばかりの白磁の肌。生まれたばかりの赤子のような瑞々しさを感じさせる艶。それでいて程良く熟れている印象を与える形。小さく無く、かといって不快な程に大きくもない。
全く異なる情動を綯い交ぜにしてしまうほどの破壊力。矛盾した感情が、しかし矛盾なく適応される既成力。
嗚呼……(居るのか知らないけど)神よ、(基本的によく知らないけど)仏よ、(特に意味はないけど)世界よ! 僕を今この瞬間に存在させてくれたことに、莫大な感謝を! 膨大な謝意を!
僕は、いま猛烈に感動している。溢れ出るパトスが体内を駆け巡る。生み出される活力が生命を燃え上がらせる。そう、僕は今、心から感動しているのだ。興奮していると置き換えてもいい。それほどまでに、荘厳なる代物だったのだ。
しかし、元来それほど尻にフェティシズムを抱いていない僕には、たったの707文字しか語れない。語れないのだ。語れなかったのだ!
この恐るべき至高の尻を前に、なんたる屈辱。原稿用紙2枚分にも及ばない感想など、読書感想文としても落第であろう。……いや、まあ、落第は言い過ぎかも知れない。ごめんなさい。ついでに云えば、お尻の感想も、もう少し語れるかも知れない。……うん、果てしなくどうでもいいね。
兎にも角にも、今僕が抱いている感情は、嫉妬と憧憬である。そう、僕はたったの707文字しか述べられなかった感想を、きっと尻フェチという人種は、遥かに多くの言葉と語彙を駆使して雄弁に語るのであろう。一時間と云わず二時間と云わず、語ってくれるのであろう。きっと原稿用紙2枚未満など鼻で笑って、その魅力を原稿用紙千枚、否、二千枚。ともすれば、二千枚を超えるかも知れぬ。
そのことを想像するだけで、どうしようもない妬み嫉みを駆り立てられる。そのことを想像するだけで、心胆からの羨みが憧れが胸に去来する。
くそぅ。僕も、もう少し早く手広く、臀部にフェティシズムを抱いていれば、もっと語れたのにっ、この素晴らしさを伝えられたのにっ。悔しい! しかも感じない!
自分自身でも、どんな心の動きが働いたのか。なんとなく悔しいので、身体をくねりくねりとくねらせてみた。まるで軟体生物の如き柔軟さを醸し出す動きに、きっと世界が嫉妬することだろう。
そんなことを考え始めたら、なんだか楽しくなってきた。うねうねうねうねと、驚きの柔らかさを極めに掛かる。そう、今の僕は柔軟の権化と化しているのだ!
「なにをやっている莫迦者め」
脅威のうにゃり具合を体現している僕へと、ふいに声が掛かる。
耳に優しく心地よいアルトを聴覚にて認識すると同時に、頭へと軽い衝撃。ジジとメアとその他から受けるハードな衝撃とは違う、人を思い遣っていることが分かる衝撃だ。
「あふんっ」
「変な声を出すな、莫迦者」
もはや優しさしか感じない衝撃に、思わず快楽の声が漏れた。そんな僕に再度、声を投げ掛ける女性。
そちらに目を向ける。そこには細い首。
おおっ、素晴らしく綺麗な首だ。その綺麗な肌に、瑞々しい艶と張り。首の魅力は、それこそうなじに多分を占めると思っていた。しかし、どうやらその考えは改めねばなるまい。よもや正面から見た首にさえ、ここまでの色気があろうとはっ!
その首筋の綺麗な線に……と、これからと云う時に目の前を何かが遮った。そして、三度の美声。
「卑しい目で人の首を見るな。趣向が特殊すぎるぞ」
「ち、違うんです! 卑しい目じゃなくて厭らしい目で見ていたんです!」
「意味的には一緒だが、云い方はそっちの方が悪印象だと分かっているのか?」
思わず正直に自分の有り様を云ってしまった。なんてこったい。
されども僕より少し背の高い女性は、相も変わらぬ淡白な様相を崩さずに、無表情である。
出席簿で肩をトントンと叩きながら、口を開く。
「そろそろ授業が始まる。早く教室に行きなさい」
「いえっさー」
僕の返事を聴いたかどうか。クールビューティと呼びたくなる(というか普段から個人的に呼んでいたりする)女性は、颯爽と踵を返していた。
もう少々、会話のキャッチボールをしていたかったのだけれど仕方ない。そろそろ教室へと戻るとしよう。
最後に、僕へ驚愕と衝撃と感動を与えてくれた尻へと目を向ける。うむ、これは良い物だ。
壁に掛けられていた、赤と青でグチャグチャに描かれた抽象画に後ろ髪を引かれつつも、僕は教室へと足を向けた。
*****
戻って来た教室内は、実に騒がしい。ガヤガヤとかザワザワなんてものじゃない。ギョエーギョエー、ドゴンドゴンみたいな感じで、我が親愛なるクラスメイト達が騒いでいる。
普通に五月蠅いんだぜ。少しは落ち着けと云いたいんだぜ。
この騒音問題に匹敵しそうな五月蠅さ、実に迷惑極まりない。
お隣の教室に文句を云われる前に、少々釘を刺すべきか。お隣が500m程離れているのは公然の秘密だ。決してこのクラスが隔離されている訳ではない。ええ、違いますとも。
兎にも角にも、そうと決まれば即実行である。教壇の前に立ち、黒板を思いっきり叩く。すると黒板が落ちた。びっくり、僕びっくり。
いそいそと黒板を元の状態に戻そうと試みるも、上手く戻せない。仕方ないので放置しよう、そうしよう。
気付けば、級友諸兄がこちらに注目していた。まあ、すんげぇ音を立てて黒板が落ちたのだから、当然の反応だ。
しかし、この状況は願ったり叶ったりである。想像していた過程とは違うが、注目を集めることに成功した。咳払いをひとつ。
「諸君、なんと落ち着きのないことか。僕を見習って、少しは上品にしたまえよ」
云い終わった直後、大量の文房具及び教科書類が飛んできた。何故だ。
取り敢えず、飛来するその全てを避ける。そして避けながら想う。どこのどいつだ、コンパスや鋏や机や椅子を投擲した奴は。当たったら怪我をするじゃないか。投げても許されるのは、教科書程度だろう。加減を知れ加減を。
胸中で文句を垂れながらも、なんなく全ての飛来物を避けきる。教室中から舌打ちが聞こえた。なんて奴等だ。女子は許すが男子はくたばれこの野郎。
まったくもって酷い目にあった。
だがしかし、為すべき事を為したので達成感が胸を占める。
うむ、なんという善人なんだ僕は。クラスの女子が総じて惚れるかも知れない。ふふふ、酒池肉林の宴だぜぇ。
ニヤニヤと抑えることのできない笑みを浮かべつつ、己の席に座る。
その際に髪を掻き上げることを忘れてはいけない。イケメンは皆この動作をしているのだから、イケメンな僕は当然しなければならない。
ふっ、格好良い男も辛いものだ。
「いや、君は特段格好良くはない。男前でもない。即ち、イケメンではありえない」
「誰だ、いきなり僕の心を読んだ挙句に心を抉る言葉を放り投げる輩は!」
「私だよ」
「なんだ、りっちゃんか。りっちゃんなら仕方ない。もっと罵ってくれ」
「死ね」
「くっ、その軽蔑した眼差しにゾクゾクするっ」
快感に身が震える。ああ、たまらない。
ドキドキと心臓が高鳴る。そうか、これが、恋なのか。
「結婚して下さい」
「悪いね、私は聖人君子並に心が清らかな人しか恋愛対象にならないんだよ」
「まさに僕の事じゃないか」
「ははは、脳味噌を取り出して地面に叩きつけたまえ」
「ひどい云われ様だ。だが、ツン期だと考えれば興奮する不思議。早くデレ期が来ないものか。わくわく」
「キモい」
ふふっ、照れ屋さんめ。
照れ隠しに、まるで僕を汚物みたく見るなんて、可愛いじゃないか。
嗚呼まったく、男装女子のツンツン具合は癖になる。それも男装しているのが美少女だから最高だ。しかも、その男装が単に男物の衣服を着ているだけというのがそそる。髪も腰辺りまで伸ばしているし、胸もさらしとかで押さえつけていない。なんという混淆の黄金比。たまらんね。
まだ養成期間だから本格的な格好をしていないだけだろうという事実は秘密である。誰との秘密なのかは知らないが。
「……なんかまた邪なことを考えているでしょ?」
と、その時。男装美少女ことリーゼリアが腰に提げている鎌から声が上がる。見た目はキーホルダーだが、戦闘時には手鎌から大鎌まで変幻自在に大きさを変える優れもの。
話せて大きさも変更可能な自在鎌、しかしてその正体は!
と思ったところで、サクリッと額に突き刺さる刃の切っ先が冷たいとか鋭い痛みが後から脳へ響くようにやってくるとかこれ致命傷なんじゃねという疑問が湧きあがることとか何かそれ以外にも胸中に色々なことがががががが!
「痛い! まるで刃物で刺されたように痛い!」
「刺したからね」
「さらりと酷いことを云う少女めっ! 好き! 抱かせて!」
「108回死んだ後に自分の脳髄をバケツに詰めて下水道に流し込んだ後に煮沸消毒したら隣に居る人に張り手を喰らわせてあげる」
「凄まじく酷いことをワンブレスで!? 笑顔で云っていいことじゃないよ!?」
思い遣りが皆無な上に、何気に他人を巻き込んでいる所が恐ろしい。
将来を感じさせる末恐ろしい台詞に慄く僕を尻目に、鎌から人型へと変化を遂げた少女はリーゼリアの傍へと立つ。
鴉の濡れ羽色のように艶やかな黒髪を腰まで伸ばした少女。その身に纏う衣服は黒色のワンピースとかいうやつ。僕ってば服の名称分からないから確信は持てないけれど。そして整った顔立ちに紺碧色の瞳。唇とか程良い桜色でマジぷりてぃー。
その容貌は、もうここまできたらお約束通りに整っている。なんなんだろうね。この世界には美女美少女美幼女しかいないのだろうか。僕が逢う人逢う人は皆美しい方々ばかりである。眼福ここに極まれり。野郎の事などは知らぬ。興味皆無なり。
などと云う事を、この鎌少女ことレリーアの蔑む視線に見つめられながら考える僕ってば、意外と余裕があるのです。興奮しているけどね!
ハァハァと熱い吐息を漏らす僕を無視して、リーゼリアとレリーアは会話を続行。いつもの光景である。
「そんなことをしちゃ駄目だよ、レリーア」
「あら、どうしてかしらリーゼリア?」
「とどめを刺さない暴力は、禍根の元になるだろう?」
「そうね。じゃあ軽く首を刎ねなきゃ」
そう云って両腕を刃化したレリーアが僕に迫ってくる。命の危機を感じざるを得ない。レリーアの眼が本気っぽいので全力で逃げる。
教室を縦横無尽に走る。前に存在する障害と云う名の級友達を薙ぎ倒しながら走る。すると、どうしたことか追ってくる人数が一気に増えた。何故だ。理不尽過ぎる。僕が一体なにをしたというのか。
「貴様の行動を顧みれば分かるだろうがあああああ!」
暴力の塊から級友その1の怒声が上がる。なにをそんなに怒っているのだろうか。きっとカルシウム不足だろう。にぼしを砕いて牛乳と一緒に飲め。
胸の裡で呟きながら廊下へと逃げ出す。一拍遅れて雪崩出る数の暴力。長い長い一直線の廊下を全力で走る僕と野蛮人の塊。正にハリウッド並のデッドヒートである。どうせならバイクとか自動車でやりたかったよ、と小声で零した瞬間に前方の廊下奥でキラリとなにかが光る。
瞬間的に感じた悪寒に従いスライディング。ほぼ同時に頭をナニかが掠めた。直後、後方で爆発音。
顔が廊下にガリガリと削られ終わったので即座に振り返る。
暴力で犇めいていた筈の場所は、クレーターが出来て木っ端微塵となっていた。
されど、そのような大破壊にも関わらず、我が級友勢は一瞬にしてその爆発地点よりも奥へと逃げおおせていた。なんて奴等だ。無駄に高性能過ぎる。流石は変人の巣窟にして人外魔境の2年0級生徒。油断ならない。
まったく、僕の様な一般人がこのような輩共と同じクラスになるとは夢にも思わなかった。よくぞ2週間も無事に過ごせたものだ。僕偉い。よくやった。
自己の世界にて拍手喝采が鳴り響く中、我が親愛なる級友共はクラスへと戻って行った。
おそらく先程の破壊で熱が下がったのだろう。皆が素直に戻るのを見て助かったと安堵。
そして後頭部に衝撃。目玉が飛び出そうな威力である。痛い痛い。
何事と後ろを振り向いた瞬間に、今度は顔面に衝撃。吹き飛ぶ僕。鼻血の大噴水が巻き起こる。出血大サービスなりぃ。
「なにをギャーギャー騒いでいるのかと思えば、テメェか。またテメェか。一発死んでみるか? ああ?」
ドスの利いた声に振り返れば、そこにはMY副ティーチャーの姿があった。その汚物を見る目を止めて下さい。興奮しちゃいます。
「らめええ! 興奮が止まらないのおおおほぐっ!?」
「騒ぐな喋るな猛るな吼えるな囀るな。黙って死ね」
背中を踏み付けられた。どうしよう、このままだとあまりの快感に公衆の面前で云うには憚られる物が発射されてしまう。
「副ティーチャーが可愛い生徒に云う台詞では無いと思います。あと、どうせ踏むならズボンじゃなくてミニスカートの方ががはっ!?」
「圧死と爆死と轢死の三択から選ばせてやる」
「腹上死で」
「ハラワタ出されたいのかテメェ」
手を輝かせるMY副ティーチャー。背中を再度踏んだ上に僕を爆殺しようとする。選ばせてやるとか云ったのに勝手に選ぶと云う暴挙。なんという残虐志向。戦慄せざるを得ない。ドキドキ。
「なにをやっている」
今まさに振り下ろされんとするエクスプロージョンに僕のパッションがマグナカルタしてフォーリングアウトする寸前、冷やかな声が耳朶を打った。
「お、お姉ちゃ」
「なにを、やっている」
びくりと身体を震わせる副ティーチャー。表情は見えないが、きっと怯えているのだろう。声がめっさ震えているでござる。
踏み付ける力が弱まったので、よじよじと抜け出す。抜け出して後方を振り返れば、クールビューティーこと我らが担任が副ティーチャーを叱っていた。
「この爆発跡はなんだ、お前がやったのか」
「あ、あの、それは、ここ、こいつが」
「確か、私は云ったよな。爆発系統の魔術法は禁止だと」
「でで、でも、でもっ」
「云ったよな」
その言葉にしゅんとする副ティーチャー。あらやだ可愛い。さっきのような暴力染みた姿も好きだけど、今の様にしおらしい姿も好きです。
「貴様もだ」
ニヤニヤと眺めていたら、冷厳とした担任が僕へと目を向ける。
二人して叱られました。超叱られました。興奮しました。とても興奮しました。まるで小学生が無理矢理書かされたような読書感想文の様な感じになるほど興奮しました。
お叱りが終わり副ティーチャーがしょんぼりと、僕が恍惚と云う感じで教室に戻ろうとして、僕だけ呼び止められた。
なんだろう、生徒と教師の禁断の愛的ななにかだろうか。告白されるのだろうか。ドキドキワクワクが止まらない。
とかなんとか期待に胸を膨らませていたら、予想外な言葉を投げかけられた。
「貴様、頭から垂れ流している血をどうにかしなさい」
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あとがき
久方ぶりの更新でございます。新年明けましておめでとうございますです。まさか、2回続けて新年の挨拶から始まるとは思ってもみませんでしたぜ。
▼「それはボブですか?」「いいえ、ボブです」
>久しぶりに更新だー!!
>城から追い出される=この危険人物が野放し、ってヤバいでしょ!!(笑)
大丈夫です。世間は思いのほかご都合主義で出来ているのです。
>おぉ、更新だ
>本気で二年に一話のペースになるのかと思っちまったぜ
今度こそ、今度こそ宣言通りに2年に1話を守りますっ!きっとおそらくたぶん!
>何度目かの読みなおし。
>場面がコロコロ転がる物語はテンポよく読めるので読み直しが快適でした!
>これから感想は落ち着いて書きます!!
読み直しをして頂いているとは恐悦至極で御座います。
基本的に立ち読み感覚推奨の物語ですので、この作品に関しての感想は思うがままに書けばいいと思いまする。
>はあ~さっぱりさっぱり~
>とりあえず6話目に答えてみた。
>更新まってます。
更新待たせました。
6話目とか凄い懐かしいです。
>こんなに面白い作品があったのに何故気が付かなかった!
>主人公にはぜひ某雷電さんのように学園の女子寮を裸でスニーキングして頂きたい。
女子寮はしていませんが、女子更衣室はしておりまする。