いまの僕には理解できない。
………云ってみたかっただけだよ?
『5話・マスター』
今日は街に出掛けた。
月に一度の買い物です。僕達の住居は、けっこう人里から離れているので買い溜めが基本である。
いちいち街に繰り出して買い物するのはしんどいもの。
余談だけど、こちらの世界では一週間が10日で、月は2週の20日構成である。週末2日間は休日で、8日間は平日である。
一年は18月と年末の星辰祭という5日間の祝日から成っている。合計して一年は365日という訳だ。僕が元居た世界との、まさかのシンクロである。
ついでに云えば、一週にも呼び方があり、一週の始まりから順に、【火】【水】【木】【金】【土】【雷】【風】【彗】【日】【月】となっている。
語ってみて思った。普通に余談である。いらないよね、こんな情報。ごめんね! うへっ☆
「ぼーっとしとるでない」
子猫から声が飛ぶ。我らがネコドル、ジジである。ところで、アイドルって愛をお金で売ってるみたいだよね? 愛$みたいな。……なんだろう、微妙に世間の真理に迫った気がする。
そんなジジは今現在、僕の半歩先を歩くメアの肩に乗っかっているのである。メアとジジのこのコラボは実に素晴らしい。
ジジを肩に乗せるメアの衣装は、鍔広の帽子を被り黒を基調とした服を着込み、夜色の外套を羽織っている。
なんだろうね。微笑ましい光景だけど、何処かで見た記憶がある。魔女然とした衣装の少女に、肩に乗る三毛の子猫。
あれー? 何処で見たっけー?
うぅむ、と唸る僕にメアが不思議そうに首を傾げる。その姿は是非とも写真に収めたいのだが、この世界ではカメラは高い。むちゃくちゃ高い。
なので、この光景は脳に焼き付ける。ガン見である。
メアが僅かに怯えた。
ジジが僕を怒った。
僕は鼻を押さえた。
メアの怯える顔も可愛い。ツボである。鼻血が出そうだ。
その後も色々となんやかんやあったが、無事に街に辿り着いた。
*****
「マスター、カミュをロックで頼む」
開口一番に告げてみる。
「ねーよ。ここは八百屋だ」
マスターがすぐさま言葉を返す。
もはや定例の挨拶と化しているこの遣り取り。
当初は戸惑っていたマスターも今では慣れた物である。
慣れって素晴らしいね。
「バカは放っといて、いらっしゃい。何にしますか?」
「ふむ。ヤツカの実とレオリブを頼む」
「それと、ユーチャギの根もお願いします」
「僕はチョコロール」
「ヤツカの実とレオリブにユーチャギの根ですね。チョコロールなんぞ知らん」
しどい。
「量はどの位にしますか?」
「いつも通りで頼む」
「いつも通りでお願いします」
「いつも貴方を見ていたわ。好き! だからお金頂戴!」
「はいはい、毎度ありがとうございます」
僕の発言が無視された。
少しばかり僕に対する態度が酷くないだろうか。
「うむ。また頼む」
「ありがとうございました」
「もぉ~、マジでチョーあんがと~。みたいなぁ~?」
「またのお越しをお待ちしております」
その後も終始、僕の発言は無視されたのであった。
悲しいね!
*****
「ソロモンよ! 貴方は帰って来たっ!!」
「テメェも帰れ」
つれない反応だ。
かくいう僕も元ネタ知らない訳だが。うろ覚え万歳。
面白そうだから使っているだけだし。
「魔女様、聖魔様、今日は何をお求めで?」
「そうじゃなぁ、メア」
「はい。では、リーガントのお肉とプロテスの腿肉、あとブロイヤーの胸肉をお願いします」
「僕からは得体の知れない何かを上げよう」
「はい、畏まりました。少々お待ち下さい」
ここでも僕は無視された。
「ああ、そう云えば中々の珍品を仕入れましたよ」
「ほぅ。どんなものじゃ?」
「実は卑猥な物だったりするんだな。この変態が」
「レートの肉ですよ。あと、変態はテメェだ」
やっと言葉を返したと思ったら、僕を罵倒する言葉だった。
なんと失礼な。それが客に対する態度かっ!
「何も買わない奴は客じゃない。だからテメェは客じゃない」
どうしよう、反論できない。
*****
「お嫁にしなさい!」
「性別変えて出直してきなさい」
綺麗なお姉さんに告白してみた。
いいよね、綺麗なお姉さん。人類の宝だよね。
性別変えたら本当に嫁に貰ってくれるのだろうか?
「ようこそ、メア様、ジジ様」
「うむ」
「……はい」
ここは薬屋である。
店主は目の前に居るお姉さん。名前はイリーヤさん。
とても美人で器量も良く、皆から慕われる人である。
この店のリピータはかなりの数がいる。薬効がとても良く、品質も上等なのだから当たり前と云えば当たり前である。
一般的な風邪薬から、冒険者用の各種様々な効果を持つ薬品まで手広く扱っている。
リピータの7割が男性なのは、きっと冒険者は男性の方が多いからだろう。もしも、イリーヤさんを狙っての来店ならば、僕は闘わなくてはならない。容赦しないぞこら。
残り3割の女性については不問である。イリーヤさん狙いならば、僕は寧ろ応援する。ついでに僕もその仲に入れてくれれば最高である。僕は百合の花大好きです。百合の花ってどんな花か分からないけど。
イリーヤさんは人望も厚く、頭脳も明晰で冷静沈着なので皆の相談役になることが多い。
そんなイリーヤさんの薬品店であるが、何故かメアはここに来ると少し不機嫌になる。
僕が最初にメアと訪れた時は、寧ろ喜びの感情の方が強かった筈なのだが。
なんでだろうね?
「何をご入用ですか?」
「傷薬と痛み止め、それと風邪薬をそれぞれ3箱程度頼む」
「はい、かしこまりました」
「僕には無限の愛情を下さい」
「あいにく、当店ではバカに付ける薬は扱っておりませんの」
「酷いっ!?」
僕の扱いが酷いと思う。
そんな扱いにさえ悦びを感じる。僕を笑いたければ笑うがいい。
ただし、綺麗なお姉さん限定である。
「メア様。どうか致しましたか?」
「……別に、なんでもありません」
イリーヤさんがメアに声をかける。
声をかけられたメアは、なんだろう、どことなく拗ねているように見えた。
そんなメアも可愛らしい。萌えだね。
「そうですか。ところで、もう少し甘えても良いと思いますよ?」
「え?」
「それくらい、受け止めてくれますよ」
「でも……」
「大丈夫、その程度で嫌われたりしませんわ。むしろ、好感度が鰻昇りだと思いますよ?」
「……そうでしょうか?」
「ええ。心配になるくらいなら、駄々をこねて気を惹くのも、淑女の嗜みでしてよ?」
僕にはよく分からない会話だ。
しかし、こうして見るとあれだね。イリーヤさんに諭されているメアの姿が、教師と生徒を思わせる。
イリーヤさん似合いそうだな、教師。その時は眼鏡とか掛けてるのだろうか?
イリーヤさんは教えるの上手なので、教師になっても違和感がない。なによりエロイ。女教師。いい響きだ。
「……考えてみます」
「焦らなくていいのよ。その気持ちも大事な物だから」
うふふと微笑むイリーヤさんは大人の余裕を感じさせる。
僕にはよく理解できない会話だったが、どうやら話は纏まった様だ。
空気感を醸し出していたジジの穏やかな、我が子を見守る親猫の様な目も印象的だった。子猫なのに。
しかし、まぁ、あれだ。
流石はイリーヤさん。大人の女。
愛の伝道師。ラブ師匠。もはや、恋愛マスターだ。
僕にはメアが何故に拗ねていたのか理解できないのに、イリーヤさんはすぐに看破したようだ。
年齢的な人生経験の差だろうか?
「失礼な事を考えちゃ駄目よ? もぐわよ」
何を、とは訊いてはいけない。
あれは本気の目だ。
「まぁいいわ。どうぞ、ジジ様」
「うむ。済まんな」
いつの間にか薬を用意し終わっていたイリーヤさん。
それを受け取るジジ。
「世話になった」
「ありがとうございました」
「ラ・ヨダソウ・スティアーナ」
「またのお越しをお待ちしております」
イリーヤさんの店を出る。
これで僕達の買い物は終了である。
*****
追記。
帰りにメアが手を繋いできた。
突然の事に驚き、思わず襲い掛かろうとして、ジジの魔法で吹き飛ばされた。
メアの浮かべる何とも云えない表情が印象的だった。
「お主は本能をすぐさま行動に反映するのを自重せい!! 人の気も知らんで、愚鈍にもほどがあるわっ!!」
なんのこっちゃ。
というか、グドンって何? 怪獣? 帰って来た光の巨人と闘うのだろうか?
どちらにせよ、今の僕には理解できない。
▼貴方達の感想が、作者の心に沁みました。感想ありがとうございます。
>おもしろーい!!続きに期待!
ありがとうございます。
続き……頑張ります。
>これは面白いww
>とりあえず主人公自重ww
>いや、むしろもっとやれwww
楽しんで頂けたようで、なによりです。
そうですね、主人公は自重した方がいいですね。
(……自重ってなに?なんて、訊けないっ……)
>面白い。初投稿でこれとは末恐ろしいな。
お褒め頂き恐悦です。
>これは良い紳士!
>続きを希望します。
主人公は紳士ですもの。当然ですよ。
続き……が、がんばります!
>ヒロインは子猫のほうだよね? 猫かわいいよ!
わんこがにゃんこと戯れている映像が脳裏に浮かびました。
子猫いいですよね子猫。
ヒロインは……さぁ?
どうなるんでしょうね……。
>面白いですwww
ありがとうございます。
これからもがんばります。