直径170cmが僕の手の届く距離!
『7話・夜』
闇が街を包みこむ。
昼間の賑やかな喧騒はなりを潜め、物静かな夜の雰囲気が街中を満たす。
日中に商売していた商店は営業を終える。
外で遊んでいた子供も、働きに出ていた大人も自らの家に帰宅する。
夜の街にポツポツと優しい光が灯る。
そんな中、これから営業を開始する夜の店が口を開く。
ここは、そんな夜の店のひとつ。
僕は現在、酒場でアルバイトをしています。
*****
そもそもの発端は僕の現状にあった。
当初は畑を耕して家庭菜園にでも精を出そうと思っていた。
種を蒔き、肥料の仕入れや水やりなどで、これから忙しくなるぞーと想っていた。
しかし、流石は異世界。植物の生命力が尋常ではありません。
僕が畑のこれからについて思案していると、いつの間にかやって来ていたジジに声をかけられた。
曰く、こちらの植物は、種を蒔けば何もしなくても勝手に育つ。
すごいぜ異世界。やったね異世界。
植物の管理が楽なんて、農業を生業としている農家の人達は大助かりだね。
しかし、それでは僕は困るのである。
今迄は畑仕事という役目があったが、これからは、そのほとんどをすることが無くなるのである。
するとどうなるか。
暇になります。すっごい暇です。
畑仕事のなくなった僕の生活を、ちょっと想像してみました。
朝、起床。メアの手料理を食べる。
昼までごろごろ過ごす。
昼、メアの手料理を食べる。
夜まで悠々自適に過ごす。
夜、メアの手料理を食べる。
その後、風呂を覗きに行き、ジジとの死闘が勃発。
就寝。
うん。これなんてニート?
ぶっちゃけて云えば、僕が働かなくても十分にやっていけるだけの貯蓄はあるらしい。
何気にメア達は金持ちなのである。
しかし、時々ではあるがメアもジジも働いている。
その内容は主に、メアやジジの力を当てにした物であり、一般からの依頼や国家からの直々の要請であったりする。
そんな年端もいかない少女と子猫を働かせて、一人だらだらと毎日を過ごす僕を、世間はどう見るだろうか。
少女に働かせて、その少女に寄生する僕。
あれ? 僕ってば社会のクズじゃね?
どう見ても駄目人間です。本当にありがとうございます。
そんな訳で、僕も働きに出ようと思った。
そのことをメアとジジに相談した。
ジジは賛成してくれたのだが、メアは渋っていた。
どうにも僕が働くことを快く思っていないようだ。
そんなに僕と離れ離れになるのが嫌なのだろうか? 愛されているなぁ、僕。
そんなことを思っている僕の横で、ジジがメアに僕が働きに出るのを渋る理由を尋ねていた。
メアが答えた。
「この人を、社会に解き放つんですか……?」
どーゆー意味だ。
さらに、その言葉を聴いたジジが黙り込んだ。
何故に沈黙する。その沈黙はどういう意味だこのヤロー。
それと、メアとはじっくりと話し合う必要があるかも知れない。今晩メアのベッドに忍び込んで話し合ってみよう。
その後も紆余曲折を経て、ジジが紹介する店で働くことになった。
条件は月一勤務で、時間帯は夜間のみ。
何故この様な条件なのか。少し過保護過ぎじゃないか。僕は子供では無いのだから、もう少し働く時間が多くても良くはないか。
その旨をジジに伝えたら、なんでも被害を最小限に抑えるためだとかなんとか。
もう少し僕を信用してくれても良いと思う。
「無理じゃ」
「無理です」
即答だった。
僕は目頭を押さえて上を向く。
あれ? 目から汗が滝のようにこぼれてくるよ?
言葉は心を抉るって、知ってるかい?
*****
酒場のカウンターでコップを磨く。
きゅっきゅっとコップをこする音が堪らない。
一片の曇りもないように一心不乱にガラスを磨く。
きゅっきゅっきゅっ。
ビシッ。
「あ」
コップに亀裂が入った。
どうやら力を入れ過ぎたようだ。
「むぅ、脆い」
割れたコップを片付けながら愚痴る。最近のコップは根性がない。
コップの破片を塵取りに集めて振り返る。
ガシャン! ガシャン! ガシャン!
背後に積み重ねていた皿が全部床に落ちて割れた。
……えー。
「何だよお前ら! もっと頑張れよ! もっと耐えろよ! 怒られるのは僕なんだぞ! ちょっと力を入れても割れないぐらいの根性を見せろよ! 落ちても割れないぐらいのど根性を見せてみろよ!!」
軽くテンパった僕は、割れた皿に檄を飛ばしてみた。
無機物に叱咤激励をする僕は、傍目から見てどう映るのだろうか?
きっと、とても心優しい青年に見えることだろう。
若しくは、無機物に語りかける僕のピュアさにお姉様方が惚れるかもしれない。
まったく、罪作りな奴だな、僕ってば。
HAHAHAHAHA!!
……少しテンションがおかしい気がする。
おそらく酒の匂いにあてられたのだろう。
でなければ、クールボーイな僕がこんなバカみたいなことを考えるはずがないのである。
そう、僕はクール。ソウクール。若しくはスクール。
「おい、そこのバカ。ちょっとこっち来い」
誰かを呼ぶ声が聴こえる。
なんとまぁ、バカが名前の代わりになっているとは、可哀相なことである。
「おい、聴いてるのか。このバカ」
どうやら、件の人物は返事をしないようだ。 まぁ、バカなんて不名誉な呼ばれ方をされれば返事をしたくないのも分かるというものだ。
「聴いてるのかと云ってるんだ、バカ」
僕の頭がぽかりと殴られた。
振り向けば、胸元を開いた服装の麗人がいた。
長身でスタイル抜群、出る所はしっかりきっかり出ている美しい女性だ。その豊満な胸が実に魅力的である。
胸元が開けた服装のおかげで、谷間がしっかりと拝見出来ちゃう所なんて素晴らしいの一言だ。
それに加え、麗人は大人びた雰囲気を身に纏っているので、色気が半端無い。
しかし僕は紳士であるので、色気に釣られて開けた胸元をチラチラと覗き見る様な真似はしない。
紳士ならば、ガン見するのが当然である。
「このバカ、どこを見ているんだ」
ぽかりと頭を殴られた。
そこで気付く、バカとは僕のことだったのか。
さらに気付く、自分のことを可哀相とか云っちゃったよ。
なんと失礼な。
「はいはい。取り敢えず、店の備品を破壊してないで注文くらいはとってきなさい」
そう云って颯爽と去って行く麗人。
あの麗人がこの酒場の店主である。名をエリーナさん。
エリーナさんはこの街でも屈指の美人さんである。
その美貌を見る為だけに、この酒場を訪れる男の多いこと多いこと。男って単純だね。
酒場を見渡せば、客はそこそこに入っている。
全体的に男性客が多いが、女性客もそれなりに入っている。心地よい賑やかさがこの酒場を満たしている。
従来の酒場の、荒々しい賑やかさを出さないのがここの良いところだと思う。
おそらく、この酒場の独特の雰囲気はエリーナさんの人徳とかそんなもののおかげだろう。
そんな事を考えつつ、云われた通りに仕事をしなければと、持っていたガラス片や皿の残骸をそこら辺に捨てる。ぽいっ。
そして店内を見回す。
ここの酒場は、比較的に落ち着いた雰囲気を出している。
しかし、ここが酒場である以上、性質の悪い酔っ払いは存在するものである。
個人的にそういった客とは絡みたくないので、なるたけ穏やかそうな人物に当たろうと思っていた。
そこで、ふと一人の客が目に留まる。
カウンター席で俯きながら、チビチビと酒を飲んでいる客がいる。
その人の周囲には、何故か誰もいない。
……ふむ。あの人物ならば、中々に穏やかそうだ。よし、注文でも訊こう。
そう思い立ち、その客に近付いて行く。
何故か店内がざわついた気がした。
「お客様、追加注文などはいかがでしょうか? 当店お勧めの、地中海風杏仁麻婆豆腐IN雑草の和え物など、どうでしょうか?」
「……へへっ、みんな死んじまえばいいんだ……。どうせ、どうせ俺なんてよぉ……俺なんてよぉ……」
しまった。地雷を踏んだ。
僕はこういったネガティブな人が苦手なのだ。
ぶつぶつぶつぶつと呟いているお客さんを前に、僕は途方にくれる。
どうしよう……。
困った僕はエリーナさんに救いの目を向ける。
エリーナさんが僕の方を見て、口をパクパクと動かしていた。
え? なになに、あ・い・し・て・る?
そ、そんな、エリーナさん。今は就業中ですよ、何を云ってるんですか。ま、まぁ、どうしてもと云うなら……え? 違う? そうじゃない?
えっと、なになに、お・む・こ・に・こ・い?
やだなぁ、どちらにしろ告白じゃ……え? これも違う? じゃあ何だって云うのよ、もう!
ん~と、ど・う・に・か・し・ろ?
おっ、当たり?
つまり、僕にこの客をどうにかしろって? マジで?
そんな無茶な……出来なかったら給料下げる?
横暴だ!
エリーナさんの権力に屈した僕であった。
*****
仕方ないので、お客さんに付き合う事にした。
「お客様、どうされましたか? そんなにネガティブなことを仰って。僕の気分が滅入るので、早々にご帰宅された方がよろしいと存じ上げますが」
「……へへっ、世界はよぉ、俺を嫌ってんだよ。……なんだってんだよ、なぁおい。俺がなにかしたのかってんだ……」
「お客様、お客様はどうにもお疲れみたいですね。こんな所で酒に入り浸ってないで、とっとと家に帰りやがった方がよろしいのではないでしょうか?」
「……たくよぉ、俺をバカにしやがってよぉ。……無駄に歳喰ってりゃあ、偉いのかってんだ……」
駄目だ、全然人の話を聞いてない。
もう! だから酔っ払いは嫌いなんだ!
「お客様、そんなに落ち込まないで、ね? どうぞ、家に帰りやがれってんだ……ですよ」
「どうせ……どーせよぉ、俺は駄目なんだよぉ……」
……………鬱陶しい。
「自分の事を駄目なんて云うなよ! もっと自信持てよ!」
「ぁあ? はっ、俺にはどうせ無理なんだよぉ……」
「無理なんて決めつけるなよ! 諦めんなよ! もっと熱くなれよ!」
「……いいんだよ。たくっ、うるせぇなぁ……」
ええい! この鬱々男爵めっ!
僕はカウンターに積んでいた小麦粉の袋を手にとる。
そして袋の口を開ける。
「お米食べろよ!」
「もがぁああ!?」
小麦粉を男の口に流し込む。
米が無かったので小麦粉で代用だ。
どちらもタンパク質だし、大丈夫だろう。
あれ? 小麦粉ってタンパク質だっけ? ……どうでもいっか!
「ごほっ! げほっ! がぼぉおお!?」
「エンディングまで吐くんじゃない!」
咽て小麦粉を吐き出す男に、さらに小麦粉を流し込む。
「ごはぁ! じ、じぬ!? がぼごぉおおお!?」
「マンマミーア! マンマミーア!」
自分でも意味不明な叫び声を上げながら、男に小麦粉を延々と流し込む。
……なんだろう。この苦しむ顔を見ると、胸の奥底から得体の知れない感情が湧きあがってくる。
「ふははははっ! 苦しむがいい! 存分に苦しむがいい!」
「なにをやっている、このバカが」
頭をガツンと殴られた。
僕の視界が揺れる。エリーナさんの胸も揺れる。ゆっさゆっさ。
眼福なり眼福なり。
「お客さん、大丈夫ですか?」
目を回している僕を無視して、エリーナさんが咳きこんでいる男に声をかける。
「げほっ、がほっ! あ、ああ、大丈夫だ……です」
あ、こいつエリーナさんの胸を見て言葉を改めやがった。
やーらしー。エロ助めっ!
「あ、あの、エリーナさん!」
「なんですか?」
男がエリーナさんに声をかける。
それに答えるエリーナさん。
……エリーナさん……せめて笑顔で接客しようよ。……無表情は流石にどうかと思いますよ?
つくづく接客業に向いていない人だ。
よく店が保つものである。美人ってお得だね。
「そ、その、俺と……」
「俺と?」
男の言葉が途切れる。
そして、なんだか覚悟を決めた顔でエリーナさんを見る。
どうでもいいが、口の周りにべっとりと付いている小麦粉のせいで男が滑稽に見える。
「俺と、付き合って下さい!」
「寝言は寝て云って下さい」
エリーナさんがばっさりと切り捨てた。
よ、容赦ねぇ……。
流石は氷の美女と呼ばれるお方だ……。
崩れ落ちる男。
もう興味がないと云わんばかりに去っていくエリーナさん。
しくしくと床に伏せて泣く男。
……こいつ何がしたかったんだろう?
僕には、男にかける言葉がなかったのでエリーナさんの胸を凝視していた。
ぐふふ、眼福じゃ眼福じゃ。
……ふぅ。
瞬間、僕の横をナイフが通り過ぎた。発射元はエリーナさんである。
その行為にときめきを感じた僕は、もう普通には戻れないかもしれない。
▼感想に多大な感謝を
>爽快だなぁw ほんと抱腹絶倒、笑いすぎて苦しいけど、読後感すっきりw
>特に主人公一人で笑いが取れるとか凄すぎるww>アワレにも粉々になる鏡
なんだか好評のようで一安心です。文体が安定しないので、書き手としては致命的かも知れません。
それでも暇潰し程度の作品になるように頑張って行こうと思います。
>でも感想返しやあとがき読んで一番魅力的なのは作者かもしれないと思った。リアル話
そ れ は な い。
作者はこの世界で一番つまらない奴と自称しているので、リアルにがっかりです。きっと作者に魅力があればハーレムを築k……ぬわぁ!き、貴様、なにを!?や、やめ……(以下作者が睡魔に負けたため無言タイム
>え? 主人公って意外と強いの? オリーシュ(笑)パワーとか持ってんの?
>いえ、紳士の嗜みですね。わかります。
主人公ってば、元の世界では悪の組織とかに属していたびっくり人間なので、そこそこの戦闘力は保有しているんですよ~。
将来の夢が借金を肩代わりしてくれる年下の女の子の執事としてあんなことやこんなことをするのが夢だったのも関係しているかも知れませんが。
>なんという紳士もとい変態w
紳士じゃないよ!変た……∑( ̄口 ̄)ハッ!
ゴホンッ。
変態じゃないよ!紳士だよ!
>ちょくちょく知ってるネタがでるなぁ。
>グルグル好きでした。
作者も好きでしたグルグル。
盗賊の頭の衝撃的な変身が未だに忘れられません。