こんなに月が蒼い夜と紅い夜は、不思議な事が起こるといいなぁ。
『8話・幽霊』
「ふむ。これ位で良いじゃろ」
「そうですね」
メアとジジがごそごそと何かをしている。
「あれ? 何やってんの?」
僕がメア達に何をしているのか尋ねる。
「準備をしているんです」
「……準備?」
なんの準備だろうか?
「ちと所用で出掛けるんじゃよ」
「うん? どんな用事?」
「まぁ、ちと……な」
言葉を濁すジジ。
むぅ、気になる。
「まあ、いいや」
無闇に詮索をして欲しくないこともあるだろう。
「ごめんなさい」
「いいよ。気にしないで」
「うむ、済まんな」
メアもジジも、若干申し訳なさそうに僕に謝ってくる。
「じゃあ、準備を進めようか」
「はい」
「そうじゃな」
さてさて、どんなものが必要かな。
「む? 何故、お主まで準備をしとるんじゃ?」
「僕も行くからだよ?」
当然じゃないか。
「……お主は留守番じゃ」
「そんな!?」
またあの退屈な時間を過ごせと云うのか!?
「メア~」
「……残念ですが」
メアが困ったような表情を浮かべながらも、僕の懇願を却下する。
うぅ、メアまで……。
「……仕方ない。今回は諦めるよ」
「ごめんなさい」
「悪いのぉ」
メアとジジが再度僕に謝る。
「いいよ。ただし……」
「ただし?」
「むぅ? なんじゃ?」
僕はメアとジジをしっかり見据え、真面目な顔ではっきりと云った。
「二人のセクシーポーズを見せてくれればうがぁ!?」
「お主は脳を取り替えて来い!!」
ジジの2本の尻尾が、僕の顔面を強かに打ちつけた。
僕は痛みにのた打ち回る。
た、たまらねぇ……。
*****
今日はメアとジジはお出掛けである。
なので僕はお留守番。うなー。
ゴロゴロと自室のベッドの下で転がる。あっちへゴロゴロこっちへゴロゴロ。
何度も何度も転がり続ける。ゴロゴログラコロ。
ふと、転がるのを止めベッドの下からのそりと出てくる。
最初は大人しく留守番でもしていようかと思った。
しかし、やっぱり暇なのです。
こうなれば、外出するしかあるまい。
よーし、散策するぞー!
先日、迷子になったことをすっかり忘れて、意気揚々と正門に手をかける。
そこで、違和感。
門を触って押したり引いたり、叩いたり蹴ったり舐めたりしてみる。
そこまでして違和感の正体を知る。
門が開かない!?
ぴくりともしない門扉を前に、呆然とする僕。
しばし呆けていたが、すぐに我に返る。
おそらく、ジジかメアが魔法だの何だので門扉を閉じているのだろう。
ならば、正門が駄目なら他の所ならばどうか。
そう思い立ち、城中を駆け回る。
裏門に行き、城中の窓を調べ、使用人通路に赴き、空気孔を覗き、メアの部屋のタンスを漁り、風呂場に行って汗を流し、用意されていた昼食を居間で食べ、再び正門に戻る。
そこで膝をつき絶望する。
「ど、どこからも外に出られない……っ!?」
裏門は正門と同じように閉じられていた。ま、当り前か。
全ての窓から外に飛び出してみても、気付けば部屋の中に戻っている。無限ループ怖い。
使用人通路は埃っぽかったので諦めた。掃除はこまめにしなきゃね。
空気孔は穴が小さすぎた。お蔭で身体が嵌まってしまった。
メアの部屋にはこれといった物は何もなかった。入手品は下着だけである。
風呂場ではお湯が気持ち良かったし、食事も美味しかった。
結論。僕は閉じ込められた様だ。
「くっ、どうあっても僕を外に出さない気か!?」
思わず歯軋りをする。……あ、歯が痛い。止めよう。
それにしてもである。ここまで異常に僕を閉じ込めるなんて、どういうつもりなのか?
「くそぅ。監禁されちゃったよ~」
どちらかと云えば軟禁かもしれないが。
「まったく、僕が何をしたというのか」
ぷりぷり怒ってみる。
監禁が似合うのは僕のような男性ではなく、美幼女とか美少女とか美人なお姉さまとか、そういう可愛かったり綺麗だったりする女性の方だろうに。
但し、現実でそのような行為に到れば、鬼畜の称号と社会からの制裁がもれなく付いてくること請け合いだ。
「暇だよ~暇だよ~」
呟きながら、キタキタ踊りでも踊ってみる。
踊っていたら、なんだか気分がノッテ来て、キタキタ踊りの切れのある動きから阿波踊りへと繋げる。
まったく以って人生に於いて無駄な技術を練磨している最中に、何かの気配を感じた。
その気配のする方向へと振り返る。
そこに、クスクスと笑う可憐な幼女がいた。
*****
「おにーちゃん、可哀相なんだねぇ」
「そうだよ~。お兄ちゃん可哀相なの~」
いつの間に此処に居たのか分からない幼女と、一緒に広間へと移動して会話をする。
幼女は現在、僕の膝の上である。
年頃は、おそらく5歳程度だろう。ふんわりとしたブラウンの長い髪からは良い匂いがする。
ふりふりの沢山付いたドレスを着ている。肌は雪の様に白く、唇は鮮やかな赤色。瞳は青く、まるで人形のように可愛らしい。
「おにーちゃんは、これから何をするの?」
「うん。もうね~、ナニとかそんなことをしたい気分だよ~」
「ん~? けっきょく、何をするの?」
「ふへへへへ。今は何もしないよぉ~?」
"今"はね。
「そっかぁ~」
えへへぇ~、と朗らかに笑う幼女。笑顔が眩しいぜ!
膝の上にいる幼女が、さらに体重を僕に預け、胸に頭をこつんと乗せる。
そして僕の顔を見上げ、再びえへへぇ~とにっこり笑う。
細められる瞳は優しく、微かに赤みがかったぷっくり膨れた頬、ぷりぷりとした唇から漏れる吐息。
「どうして、そっぽ向いてるの?」
「いや、なに。少々血が溢れてね」
主に鼻から。
「だいじょーぶ? お鼻痛いの?」
幼女が完全に僕の方を振り向き、その小さな手で僕の頭をぽんぽんと撫でる。
そして、極上の笑みを浮かべて云う。
「痛いの痛いの、とんでけ~!」
ぷっしゃあああああああああ!!!!
「ええ!? おにーちゃん!! だいじょーぶ!?」
「……お、オーケーオーケー、も、問題、ない」
噴水のように溢れ出た鼻血が、辺り一面に赤い水溜りを作る。
漫画などでよくある場面を、まさかこの身で実際に味わう事になろうとは。
ダクダクと鼻血が流れる。
それでも僕は凄く良い笑顔をしている筈だ。
いやはや、可愛い幼女は核兵器に匹敵するね。
「ほんとうに、だいじょーぶ?」
「ああ、大丈夫大丈夫」
「ホント? よかったぁ」
「ところで、ひとつお願いがあるんだけど……。いいかな?」
「ほぇ? なぁに?」
不思議そうな顔で尋ねる幼女。つぶらな瞳がきらきらしている。
その姿は、超可愛い。鼻血の流れる勢いが増した。
僕は出血多量で死ぬかもしれない。
死ぬにしても、これをやってから死ぬべきだ。
僕は、若干前屈みになりながらも、こちらの言葉を待っている幼女を見る。
その幼女に後光が射している気がする。なんと神々しい。
「ねぇ~、なぁにぃ?」
幼女が僕の手を引っ張りながら催促する。
「あ、ああ。そうだね」
心臓がどきどきしている。
生涯の中で最高峰の緊張感が僕を支配する。
僕が、緊張している、だと!?
久方ぶりの感情に僕は戸惑う。
まさか、お願いを云うだけでここまで緊張するとは思わなかった。
相手は年端も行かない幼女だというのに。
「ねぇってばぁ、なぁにぃ?」
再三の言葉に、意を決して言葉を出す。
ゴクリと、唾を飲み込む。
「せ、セクシーポーズを、見せて、くれないかい?」
「こう?」
パンッ!!
「お、おにーちゃん!?」
僕の鼻が破裂した。
「だいじょーぶ!? ねぇ! だいじょ…うわぁ!? おにーちゃんがみるみると真っ赤な物体にぃ!?」
薄れてゆく意識の中、僕は幼女のとった過激なセクシーポーズを思い出しながら、親指を突き立てた。
グッジョブ!
幼女の悲痛な叫びが聞こえた気がした。
僕の意識が闇に堕ちる。ばたんきゅー。
*****
目が覚めると、既に暗闇が迫る時間帯だった。
しばしの間ぼーっとして、そこで「はっ!」と意識が覚める。
「幼女は!?」
周囲をきょろきょろと見回し、ひとつの手紙が目に入る。
『 おにーちゃん。目は覚めましたか?
あの後、おにーちゃんは眠ってしまいました。
どうすることも出来なかったのでそのままにしておきました。
ごめんなさい。
とりあえず、お部屋は片付けておきました。
おにーちゃんと過ごした時間は、とても楽しかったです。
また、一緒にお話しようね!
コルディーナより 』
部屋を見渡してみる。
なるほど、血の一滴も付いていない。
どうやらコルディーナというのが、あの幼女の名前らしい。
「ぐふふふふふ」
思わず笑みが洩れる。
僕が幼女のセクシーポーズを思い出し、危うく鼻血を出す所でチャイムが鳴り響いた。
「いま帰りましたー」
「帰ったぞー」
メアとジジの声が次いで聴こえて来た。
僕は出迎える為に玄関に行く。
そこで、眉根を寄せて周囲を見回しているジジとメアがいた。
「お帰り。何やってんの?」
「あ、はい。ただいまです」
「うむ。ただいま」
「はいはい。それで、何やってんの?」
再び訊いてみた。
ジジは難しそうな顔をしながら僕を見る。
なんだろう?
「ワシらが出ている間、誰か来たか?」
ジジが神妙な顔付きで僕に尋ねて来た。
誰か? と首を傾げ様として、コルディーナちゃんのことを思い出した。
「そういえばね、すんごい可愛いコルディーナちゃんっていう幼女が来たよ」
「やはりか……」
「やっぱり、コルディーナさんでしたね」
メアとジジが微妙そうな顔で呟いた。
なんなのだろうか。
「あー、お主には云っておらんかったんじゃがな」
「うん?」
「実はのぉ、この城出るんじゃよ」
「露出狂のお姉様が?」
「違います」
メアに否定された。
なんだ違うのか。ちょっとがっかり。
「出ると云ったら、アレじゃよ」
「あれ?」
「幽霊じゃよ」
「……幽霊?」
メアとジジがうんうんと頷く。
「大昔じゃが、この城の元々の主を快く思っていなかった輩がおってな、そやつが城の主の息子を殺したんじゃよ」
ああ、そう云えばこの城は安く売られていたと以前に聞いたな。
それが原因なのだろうか。
「その不逞の輩は始末されたんじゃが、どうやら息子は心残りがあったらしくてな? 時たま姿を現すんじゃよ」
「…………」
「その息子は、女子の様に可愛らしくてなぁ。いつも女物の服を着ておったそうじゃ。年は15じゃというのに、年齢よりも遥かに身体も精神も幼くてのぅ、まるで童女みたいじゃったらしい」
「そして、その息子さんの名前をコルディーナと云うんです」
「…………」
ジジの言葉を、メアが引き継いで話した。
うん。わりとよくあるはなしだね。でもね? すこしきになることがあるんだ。
「……コルディーナちゃんが、幽霊?」
「そうじゃ」
「……コルディーナちゃんは、男の子?」
「そうです」
「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
間髪入れずに絶叫する僕。
「うお!? なんじゃ!?」
「あ、あの、落ち着いて下さい……」
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
床の上をゴロゴロと転がる僕である。
あまりにもショックな出来事に半狂乱に陥ってしまった。
「おやおやぁ? お主幽霊とかが苦手なのか?」
「……意外ですね」
ニヤニヤと笑いながら、からかう様に云うジジ。
ちょっぴり驚いた顔をしているメア。
僕はがばっと立ち上がると、二人に声を荒げた。
「当たり前だろ! まさか男だったなんてっ!!」
「そっちか!? お主にとって重要なのはそっちか!?」
当然だろうに。
「やっぱり、この人は普通じゃないんですね……」
「こやつに常識を求める方が、バカなのかもなぁ……」
二人が何か云っているが、僕はそれどころではなかった。
「せめて、せめて10歳以下だったら……! 15歳であの容姿は有りなのかよ!? すんごい可愛い男って有りかよ!? ……ハッ! そうか分かったぞ! 実は息子と云うのが嘘で、本当は娘なんだな! コルディーナくんじゃなくてコルディーナちゃんであってるんだな!!」
「現実を受け入れんか」
「現実を受け入れましょうよ」
メアとジジが僕を諭そうとしてくる。
「あんなに可愛い子が男の子のはずないんだーーー!!!」
僕の絶叫が夜空を駆け抜けた。
「クスクス、おにーちゃんはやっぱり面白いね」
どこかで、そんな声が聴こえた気がした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あとがき
文体が安定しないのですにゃ! 物書きとして致命的な気がするのにゃ! でも書かなきゃ文章書くの上達しないのにゃ! なんだか最近激しくだれている作者なのだにゃ!
語尾に、にゃ! を付けて見たけど思いのほかキモイ自分に気づいた作者です。
無理矢理な個性は駄目ですね。作者は平均人間として生きていくしかないのですよー。
▼いつも感想ありがとうございます。
>>「この人を、社会に解き放つんですか……?」
>メアも分かってるじゃないか。
>そして解き放たれてしまった紳士……もとい変態。
>きっと働いている間は不安で仕方ないはずだ!
変態じゃないよ!紳士だよ!…これ何回目だろう?
主人公が働いている間は、子供の心配をする母親な気分だったのでしょう。10歳児が母性本能を働かせるって、いいよ、ね?
>ほのぼのじゃない!全然ほのぼのじゃないっすよ!?
>だが、それがいいw
いえいえ、ほのぼのですよ。
仮に、この話がほのぼのでないとすれば、作者は何のジャンルをを書いているんだってことになっちゃうのです。
そう、この話はほのぼのです。ほのぼのなんです。立派にほのぼのなんだから!ほのぼのだっていってるじゃない!!
ふぅ。これだけ云えば、この話がほのぼのだということを分かってくれたことでしょう。