『人間』アレイスターは、窓のないビルの一室にいた。
その四角いスペースの真ん中には円筒状の生命維持装置が鎮座していて、彼はそこで逆さまに浮かんでいる。
照明らしい照明はなく、広い部屋を埋め尽くす機械類のランプなどが星空のように照らしていた。
アレイスターは神父姿の男に、男か女か、子供か大人か聖人か囚人かも分からない声で話しかける。
「先の事件は危なかったのではないか?
死んだら台無しだろう。」
「アレくらいどうにか出来なくてどうする? まぁ今回はそちらの、一手に救われたようだが。」
神父姿の男は答える。
「お前も、計画は順調と言ったところか? 少しこちらは遅れ気味だが……」
夕方、もう時刻的には夜といってもいい頃だろう、太陽が沈み始めてはいるが、一向に暑さは消えそうにない。
上条当麻は銀髪シスターの説明から逃れるため外に出ていたのだが、時刻も時刻なので帰ることにしていた。
(姫神とセシリアはもう帰ったかな? インデックスのアレを全部聞いてたとしたらご愁傷様だよな)
そんなことを思いつつ上条は自分の部屋の扉を開ける。
「あ~……なんだこれ?」
上条の目の前には右から、ベッドでネコとお休みになっている銀髪シスター。
テーブルに怪しげなカードを散らかしたまま寝息をたてている黒髪魔女。
床でうつ伏せで寝ている巫女服と何処のハーレムマンガだ? と思うような状況になっていた。
「さっきは気づかなかったけど、こう集まると現実味がないメンバーだよな……ここにあと小萌先生をくわえて……いかん!なにを考えてるんだ!」
とりあえず気を取り直して、上条はみなを起こそうと思い、先ず巫女装束の姫神に声を掛ける。
「おい、姫神、朝ですよ」
すると彼女は頭をあげエアガンを取り出しながら眠そうな声で返した。
「私の背中に立つんじゃない」
「は~い、新型のステッキは危ないから人に向けないでね~」
「あ、上条君おかえりなさい。今まで何処に?」
「いや、散歩だよ、散歩」
ハハと言って上条は答える。
そうこうやっていると銀髪シスター、インデックスが起きたようだ。
彼女は瞼をこすりながら言った。
「ん~……とうま?帰ったの?……おなかすいた~……」
「起きていきなりかい!せめて夢でおなかいっぱいになって!」
「夢では豪華絢爛フルコースだったもん!」
インデックスは夢の中でもしっかりと食を楽しんでいるようだ。
それは羨ましい!などと上条は言っていたが、そこで気づく。
ここまで騒いでいるはずなのにもう一人が起きないことに。
「セシリア?もう起きろ~」
上条が起こす。
「……フフ……ゴミが人のようだ……」
セシリアは気持ちよさそうに寝言を発する。
「どんな寝言ですか! 何か逆! 無駄におしいよセシリアさん!」
上条は思わず叫ぶ。
それでも起きないセシリアを見かねて姫神が肩をゆする。
「セシリア。起きて。」
するとセシリアは一瞬ビクッとすると、そのまま口を開きだす。
「……ブルースリーお前もか……」
「オシイ!またしても微妙におしい! というかもうストーリーが知りたい!」
どうしたものかと上条は悩む。
上条が頭を抱えていると、もう目が覚めた様子のインデックスが一言。
「起きて」
ガバッ! とセシリアが顔を上げる。
「インデックスさん! 寝てませんよ! ちゃんと話聞いてますよ~!」
起きた早々手をパタパタさせ大きな声でそんなことを言い出す。
それを見た上条がつぶやく。
「俺がいない間に妙な上下関係が……」
一息つくとセシリアはようやく上条が居る事に気づいたようだ。
「か…上条さん! おかえりですか…」
「おう、さっきな。
ところでなぜに俺と話すとそんなに緊張してるんだ?セシリアが入院したときは結構普通だったのに」
(いや、それはなんかノリで話してましたけど、よく考えたら助けてもらっちゃいましたし、もう上条さん、あなたは救いの神です! そんな上条さんに緊張するなと言われても……)
そんなことを考えながらセシリアは姫神の後ろに下がっていく。
「セシリア、とうまに緊張なんかしてもしょうがないかも」
インデックスが言う。
「あ……でも……命の恩人ですし……」
(ホントはもっと話したいですよ~!ほら心の中ではこんなに話してるじゃないですか~)
モゴモゴとセシリアが答える。
インデックスは続けて言った。
「そんなに固まらなくても大丈夫だよ当麻は取って食ったりしないから」
(緊張するな…緊張するな……)
姫神が話しかける。
「緊張するなんて無駄」
(緊張無駄…緊張無駄…)
上条が言う。
「もっと普通でいいぞ?」
(緊張、無駄…普通…なんだかなんだかクラクラしてきました……上条さんと話す……話す……緊張なんかしてません…してません)
セシリアは暫くカクカクとあたまを揺らしている。
かと思っていたら急に上条の方を向いて口を開く。
「べ……べ……別に、緊張なんてしてないんだから!」
「「「ツンデレ!」」」
上条はともかく後の2人は何処で覚えたんだろうと思いながらも、恥ずかしさのあまり魔導書で顔を隠し続けるセシリアであった。