セシリア・アロウにとって禁書目録の世界は幸運なのだろうか、それとも不幸なのか、しいて言うなら幸運な方の不幸といったところだろうか。
この世界に来てからというもの、状況にしては幸運だったろう、住む所にも困らずセシリアを憎む魔女ナイルの襲撃はあったが上条当麻という安全地帯を手に入れた。
だがそれは、はたして元セシリアの用意した生きていくためのものだっただろうか……
結局のところ人頼みが今までのセシリアであることには違いない。
けれどもそれだけで生きていける程この世界が甘くはないのもたしかだ。
「今日もある程度は出来てるかな?って感じですね」
成果が分からない……と呟きながら黒髪碧眼の美少女はブラブラと太陽の日差しが強い中、辞書の倍はあろうかという大きな漆黒の魔導書を右手に抱え歩いていた。
ここ数日は魔術の練習、練習と言ってもタロット・カードを様々な方法で取り出しそこから意味の解釈をしていくという、占いみたいなことを延々と繰り返していた。
成果が分からないというのはその解釈に答えはないからだ、実際に術式として発動させれば何かしら結果はでるのだろうが、部屋で使うわけにもいかない、ましてや使ったとして暴発などすればそれは練習の域を超えているだろう。
とにかく今は解釈に慣れることが肝心らしい。
結果が分からない、だからこその出来てる感じなのだ。
今は気分転換に散歩に出ているところだ。
とはいえ、こう暑いと気分が転換されるかは微妙なところかもしれない。
悪い方向に転換されるのは勘弁願いたいところだろう。
「思ったより暑いですね……太陽に文句くらいつけたいところです……喉が乾いた……」
散歩に出たはいいがあまりの暑さにもう帰ろうとセシリアは決心し歩く。
その歩き方ははたから見てもフラフラだった。
(この体って暑さに弱い?)
今までに気づくところはいくらでもあったろう、問題点を発見したセシリアは右へ左へとおぼつかない足取りで前へ進む。
しばらくうなだれ下を向いて歩いていると――どん! と誰かにぶつかり、しりもちをついてしまった。
「ごめん! 大丈夫?」
「あ! はい! こちらこそしっかり前向いてなくて……」
「「あ!」」
そこには茶髪の短髪に制服、見るからに活発そうな少女がいた。
「ビリビリさんでしたか……」
「あんた、あの時の女の子……で……ビリビリって言うな!」
「はい! すいません! これはですねそ……」
弁解をしようとして立ち上がろうとしセシリアはおおいにふらついた。
やはり暑さに大分やられていたのだろうか
「ちょ、大丈夫なの? フラフラじゃない。」
「ちょっと暑いだけなんでダイジョブですよ~……」
「いや、そんなフラフラで言われても説得力ないわ。
まぁとりあえず、近くにファミレスあるんだけど奢るからちょとそこで涼んでいかない?」
少女のうれしい申し出に多少迷いながらも、このままだと倒れると思ったセシリアは頷く。
「はい」
2人は窓際の席に座りドリンクバーを注文する。
ドリンクバーはセルフサービスなので、少女は気を使ってセシリアの分も取ってきてくれる。
さすがにこの季節だとクーラーはガンガンに効いており、むしろ少し肌寒いくらいだ。
考えることはみな同じなのか、とっくに昼時は過ぎているというのに店内は人で賑わっている。
カップルに友達グループ、補習の帰りだろうか部活帰りだろうか、制服姿の学生も多い。
トイレの前の席でたむろっている不良集団が夏休みの治安の悪さをどこか暗示させるような気がした。
少女は自分の前にコーラ、セシリアにオレンジジュースを置く。
「ありがとうございます」
「とりあえず自己紹介ね、私は御坂美琴(みさか みこと)」
セシリアはオレンジジュースをひと口飲み自己紹介をする。
「セシリア・アロウです」
「じゃあセシリアでいい?」
「はい!じゃあ私はビリビリさんでいいですか?」
「はい! ……って! いいわけないだろ!あんた見かけによらず人をおちょくってんの?」
「いえ、すいません。御坂さんでいいですよね」
「うん、OKよ。ところでその呼び方誰に聞いたのよ?」
「え?……あ」
ビリビリ――上条が原作で御坂をそう呼んでいた、つじつまを合わせるなら上条さんに聞いたことにするしかないだろうと思いセシリアは口を開く。
「上条さんに聞いたんですよ~!」
「あ~やっぱり、あの馬鹿の知り合いなんだ、どういう知り合いなの?」
(というか、上条さんって、そんなうれしそうに言ってなんなのよ?)
人は誰しも憧れや羨望の対象の人物のことを語るときはどうしても、うれしくなってしまうものだ。
「命の恩人です」
「命の恩人ね~」
「いやもうヒーローですよ! むしろ神! 唯一神?」
もう一度言うが、人は誰しも憧れや羨望の対象の人物のことを語るときはどうしても、うれしくなってしまうものだ……
そこに付け加えて過剰な評価もプラスしてしまう。
「あの馬鹿はいつから教祖様になったの……」
御坂は結構セシリアの神発言に引いているようだ。
馬鹿の周りには馬鹿が集まるのかな? などと御坂は考えていた、もちろん自分は勘定に入れないでだ。
「あの……御坂さん」
「なに? どうかした?」
「まど……まど」
「窓?」
セシリアは窓の方を向いて固まっている。
御坂も言われて窓へと視線を移す。
「……ああ~……はぁ~」
窓を見て盛大に御坂はため息をつく。
そこには御坂と同じ制服を着たツインテールの少女が世にも恐ろしい形相で窓に張り付いていた。