「お姉さま! これはいったいどういうことですの?」
つい先ほどまで窓に張り付いていた少女はいつの間にか御坂の横に座っていた。
御坂はやれやれといった感じで頭を抱えている、その様子からしていつものことなのだろう。
(白井黒子さんですね~)
セシリアの原作知識によれば彼女は学校内での治安維持を目的とした『風紀委員(ジャッジメント)に所属し、空間移動(テレポート)の能力を持っているようだ。
ならばその能力で席に着いたのだろう。
「黒子! どうもこうも、ただ暑いから涼んでるだけじゃない。」
「そうではなくて、この外国人の女の子が誰なのかということですわ」
「あの馬鹿の友達らしいわよ。偶然知り合ったからこうやって一緒にいるんだけど?」
「ま~たあの殿方ですの……ウキィー!」
御坂に黒子と呼ばれた少女は奇声を上げる。
店内で大声を出せば迷惑なのだろうが、学生で賑わっているファミレスが騒がしくないはずはない。
なので彼女一人が大声を上げたところで迷惑のうちの一つでしかないようだ。
(どうして2人とも上条さんのことを名前で呼ばないんだろう? 少なくとも御坂さんは知ってたのに!)
上条を崇める信者セシリアはそんなことを考えていた。
人への憧れや信頼も度が過ぎれば、それは一種の宗教になってしまう実例がここにいるようだ。
「それはそうと、自己紹介がまだでしたわね。
はじめまして、私は白井黒子(しらいくろこ)といいますの、あなたは?」
「あ、はい! セシリア・アロウです。」
「じゃあセシリアと呼んでよろしいかしら?」
「はい!じゃ私はオセロさんって呼んでいいですか?」
「……」
「……」
「白と黒で……」
一瞬の沈黙が流れる。
「あなた!見かけによらず、おちょくってるんですの?」
「すいません! なんかノリで……」
頭を下げて謝っているセシリアを見ていた御坂がそっと呟く。
「あんた毎回そんなことやってんの?」
ごもっともな意見だが、本人も言うように、セシリアは結構ノリで会話する節があるのだ。
「で、黒子、今日は風紀委員の仕事は休みなの?」
「いいえ、今からですの。 まだ時間は少しあるのでそれまではお姉さまとご一緒しますわ!」
そう言って愛しのお姉さまに抱きつこうとする黒子はあと一歩のところで両の腕で食い止められていた。
御坂は嫌がっているが、はたから見るととても仲が良さそうだ。
「お2人とも仲いいですね~」
「それは、そうですわ! 私がどれだけお姉さまをお慕いしているかというと、もうそれは我が神であるかのように! 唯一神ですわ!」
(あれ? さっき同じようなことを聞いたような?)
「って! 私はあの馬鹿と同じレベルかー! 黒子撤回しなさい!」
なんでですの~!――と言いながら黒子は御坂に首を絞められている。
それはともかく実例がもう一人ここにいたようだ……
ようやく解放された黒子は先ほどセシリアが同じようなことを言っていたという話を聞きき驚愕をあらわにする。
「まさか……こんなところに、気高き思想を持つ者がいるだなんて、驚きですわ」
それに答えるように(半分はノリだが)
セシリアが立ち上がり片手を差し出す。
その手を黒子は強く握り返す。
なんだかその光景は異様に熱い雰囲気をだしていた。
内容を知っている人間からすればかなりシュールに映るのだが……
「はぁ~、なんなんだか……」
御坂はまたも呟く。
黒子は御坂やセシリアと同じくドリンクバーを注文した。
「じゃあ私が取ってきますよ~。黒子さんは何がいいですか? 御坂さんはまたコーラですか?」
「そんな気使わなくてもいいのに」
「気にしないでくださいよ」
「ありがと。 うん、コーラお願い。」
「では私もお姉さまと同じでお願いしますわ」
「はい!」
そう言ってセシリアは魔導書を右手に抱え席を立つ。
「セシリア。 その本置いていったら?片手じゃつらくない?」
「ダイジョブですよ、トレイありますし!」
先の襲撃事件で魔導書のおかげで生きながらえていた。
ということもあって今は前より、どこへ行くにも魔導書を手放さないようにしていた。
セシリアはコップにジュースを入れている。
(あ~! なんかさっきから不良さんたちの視線が嫌なんですけど~)
不良たちはトイレの近く、ドリンクバーから遠い位置に座っているのだが、その距離でも分かるくらいに視線をセシリアに向けていた。
外国人が珍しいのかな?――とセシリアは結論づけ、トレイにコップを乗せ片手で持つ。
多少不安定ではあるが何とか大丈夫なようだ。
席へ戻ろうとドリンクバーを離れようとすると前から、明らかに不良な大男が歩いてきた。
(このパターンは! きっとわざとぶつかってイチャもんつける気ですね……)
慎重にセシリアは歩く。
徐々に男が近づいてくる。案の定大男はあからさまにぶつかってくる。
そしてぶつかる瞬間――セシリアは素早く横にすべるように大男の右側を抜けた。
(やったです!)
と思った瞬間抜けた先にいた柄シャツを着たオールバックの男にぶつかり盛大にコップの中身をこぼしてしまった。
もちろんその男は盛大にこぼした中身を思いっきり浴びてしまった。
「すいません!」
セシリアはとっさに謝ると、後ろの大男が振りかえる。
「雨宮さんに、なにしてくれんだ、お嬢ちゃん。」
「……え?」
(この人がボス? ……2重のワナだったんですか~!)
「なにしてくれんだ……」
男が口を開く。
雨宮と呼ばれた男の体格はスマートで顔もハンサムの部類に入るだろう。柄シャツとオールバックの組み合わせが少し古い感じがするが、妙な威圧を出していた。
「おい! ちょっと一緒に来てもらおうか?」
大男が言う。
「いや…その、」
セシリアは迷った。
もうこの際、練習の成果を試してみようか? などと、結構前向きな考えがほとんどだったが。
「ちょっと、あんたたち何昔の不良みたいなことしてんのよ?」
「まったく、科学の最先端の学園都市でこれはないですわね」
「ビリビリさん! オセロさん!」
「「おい!」」
「すいません!」
もうここはお約束なのではずせない……それにはみんな納得のようだ。
ちなみに黒子の右腕には今風紀委員の腕章がつけられている。
男達を無視してふざけていると大男が怒った。
「おい、ジャッジメントだかなんだかしらねーが雨宮さんはな~「戻るぞ」」
雨宮は大男の声を遮る。
「雨宮さん、なんで?」
「ジャジメントはどうだっていいが、そこの女は超電磁砲(レールガン)だ」
「超能力者(レベル5)……」
そう言って二人は仲間のいる席へと戻っていく。
超能力者(レベル5)は学園都市での最高位の能力を持っていることを表す。
不良共が束になったところで手も足も出ないだろう。
「さすが学園都市第三位の実力者のお姉さまですわ。
名前だけで敵を退けるとわ」
「不良の癖に私のこと知ってるなんて珍しいやつね、とにかく大丈夫セシリア?」
「はい!お二人ともありがとうございます!」
新しく入れなおしたジュース片手に三人の少女は席へと戻っていく。
この夏の暑さを少しでも忘れるため。