「初春、なにか変わったことはなかったですの?」
白井黒子は風紀委員の支部として設けられた教室に入るなり、そう口にする。
「一つだけ事件性があるかどうかは不明ですけど、妙な噂がスキルアウト達の間で流れてるそうですよ。」
「妙な噂ですの?」
初春と呼ばれた少女は甘ったるい声をし、黒髪のショートカット、頭には遠くから見たら花瓶にでも見えるんじゃないかと思わせるほど花飾りを付けていた。
「はい。なんでも、とある少女を捕らえて、ある研究所に差し出せば超能力者(レベル5)にしてもらえるとか」
「幻想御手事件があったばかりなのに、またその類ですの? それにしてもレベル5とは、現実味がなさ過ぎですわね」
幻想御手事件、能力を格段に上がることに踊らされ、多くの人が昏睡状態に一時は陥った。
それの再来とでもいうのだろうか。
「スキルアウトの一部では少女の顔写真まで配布されているとか。 情報源は先日窃盗で捕まった方なんですけどね。
ちょっと言動がおかしいらしいんですよ」
「なんですの?」
「自分は捕まえる少女の顔も名前も知ってたはずなのに忘れたとか何とか、まぁ信憑性はないですよね」
「たしかにおかしな物言いですわね。前のこともありますし初春、一応調べといてくれます?」
セシリアは上条当麻の部屋へとインデックスに会いに来ていた。
最近は頻繁に魔術について細かいことを聞きに来ている。
とはいっても解釈の仕切れない単語などの説明をしてもらう程度だが(あんまり聞き過ぎるとインデックスが調子に乗って止まらなくなるらしい)
今日上条は補習らしく、部屋にはいない。
その変わりというのもなんだが姫神が来ていた。
今は三人そろってダラダラしている。
これについては今が夏だからとかではなく年中この調子なのだろう。
「セシリア、昨日とうまがパーフェクトクールビューティーを連れてきたんだよ。
女の人を連れるのが特技なんだねあれは」
「そうやって。上条君は私たちの知らないところでルートを開拓する」
「パーフェクトって、御坂妹さんですかね~? まぁ上条さんのあれはある意味男のロマンですし」
上条当麻は類まれなるフラグ体質なのだ。あえて多くを説明する必要はないと思う……
かく言うセシリアも上条のフラグ被害者なことは間違いないだろう。しかし元男ということを考えればそういって良いのかは微妙なところだ。
「たぶんそう。御坂妹と呼んでいたと思う」
「会って見たかったですよ~! 昨日来ればよかったです」
「それはダメ。あの場にセシリアがいたら私の存在が更に薄くなる」
「姫神さん……結構気にしてるんですね」
「新キャラが出るまでの間が勝負所」
「あ~! そんな裏事情暴露しないでください! 大丈夫ですよ姫神さんは役柄的に言っても可もなく不可もなくですから!」
「それは褒め言葉?」
褒め言葉ですよ~!――と言うセシリアの後ろから一言。
「それは私へのあてつけかな?」
インデックスの表情は笑っている。
笑っているのに怖いって本当にあるんだ~ と思いながら「すいません、すいません」とセシリアは盛大に謝った。
「む。もうそろそろ4時になるから私は帰るけどセシリアは?」
「あ、はい一緒に帰ります」
「え~! もう行っちゃうの?」
「というわけで。 じゃ!」
「じゃ!」
ガチャン! と玄関の扉が閉まる。
「二人とも早過ぎかも……」
みゃあ~、とインデックスに同意するかのように三毛猫がないた。
帰り道の方角は二人とも同じのようだ。
歩きながらセシリアは思う。
(御坂妹さんが来たってことは、上条さん一方通行と戦うんですよね……健闘を祈ります)
手を貸すなどといった考えはないようだ。
実際手を出したところで二人の戦いに割り込むことなどできないだろう。
一方通行とは学園都市の第一位の能力者、すなわち最強。
その能力は『ベクトル変換』あらゆる力の向きを操れるというものだ。
無敵の能力者と、あらゆる異能の力を打ち消す上条の対決だ、介入などできるはずもなかった。
「どうしたの?」
「いえ、きっと上条さんまた怪我するんだろうなと思っただけです」
「あの人なら、きっと大丈夫」
そう言って姫神は遠くを見る。
彼女も上条に助けられた一人だ、きっと何か思うところはあるのだろう。
しばらく歩きスーパーマーケットの前を通り過ぎる直前に声がかる。
「姫神ちゃん! 今帰りですか? そちらのかわいらしいお嬢さんはお友達ですか?」
(あ! あの方は!)
声のした方には、背格好、話し方すべて小学生にしか見えない大人、月詠小萌がスーパーの袋片手に立っていた。