「さぁ、それじゃ鉄板に火を入れますよー? 姫神ちゃんはじゃんけん負けたので菜ばし持って強制労働なのです、さあ小萌先生とセシリアちゃんのためにちゃっちゃとお肉やいちゃってください」
「うん。けどその前に。学園都市であった恐い話を1つ」
「……、小萌先生は七不思議程度で泣き出す真似はしないのです。というか小萌先生自体が七不思議の1つであるまいかという不名誉な意見まであるので平気へっちゃらなのですよ?」
と言っても、学園都市に伝わる七不思議はオバケの出てくる恐い話というよりは、UFOの存在を隠す政府陰謀説の毛色が強い。
実際にはUFOはないが、魔術師の存在は隠しているので、そういった観点から見るとあながち都市伝説も真実が隠されているのかもしれない。
(いわく、不老不死の研究が完成していて、そのサンプルが小萌先生だとか。ってあんまりなのです)
「早く食べましょうよ~?」
セシリアはちゃぶ台の上の鉄板と真剣ににらめっこをしながら言う、どうも待ちきれないようだ。
姫神は両手をパタパタと振って、
「それで、恐い話恐い話」
「あーもーちゃっちゃとやっちゃってくださいちゃっちゃとー」
「うん。それでは1つ。焼肉のお焦げに含まれる多核芳香族炭素。実は発がん性物質」
「あんまりですー、こっちの食欲を削ってお肉を独占する計画ですか姫神ちゃん!」
「私も1つ」
「セシリアちゃんまでなんなのですかー」
「む」
「焼肉の脂と、中年男性の脂は実は味が同じなんですよ~」
「やるな。セシリア」
「何の信憑性もない嘘をつくなのですー、2人そろって小萌先生に肉を食べさせないつもりですか」
と、心理戦に翻弄される小萌先生はピンポーンというインターホンの音を聞いた。
「回覧板かなにかなのです」
「それじゃ、私出てきますよ~!」
「お客さんにそんなことさせられないのですよ。 ここは姫神ちゃんが行くのです」
「気にしないでくださいよ」
そう言ってセシリアは立ち上がり玄関へと向かう。
「むむー、じゃあお願いなのです」
「ではその間にもう1つその缶ビールアルミ缶には……」
まだ心理戦はつづくようだ。
セシリアは勢いよく玄関のドアを開けた。
ゴンと大きな音を立てて止まる。
何かぶつかったのか? と思いふとセシリアは視線を落とす。
そこには純白のシスターが頭を抱えて倒れたいた。もともと倒れていたところにドア板がぶつかったのだろう。
彼女のすぐ近くで丸まった三毛猫が呑気に尻尾を振っている。
「……セシリア? ぉ……おなか、へった」
セシリアはとりあえずドアを閉めた。
あれー? 誰だったんですかー? と言う小萌先生の声。
すると最後の力を振り絞ってか、ドンドンとドアをたたく音がする。
セシリアはもう一度勢いよくドアを開けゴンと止まったところで閉じる。
静かになりましたね~と言っていると姫神が玄関までようすを見に来た。
「なんだったの?」
「ノリで静かにしちゃいましたけどインデックスさんですよ~」
そう言われなんとなしに姫神はドアを開けると頭を痛そうに抱えたインデックスがスフィンクスという名の三毛猫を指してどうかこの子だけでも何か食べ物をと、言ってきたので、何となく可哀想になってきた姫神はインデックスを部屋へ入れることにした。
「と、とうまがいつまで経っても帰ってこないから飢えて死ぬかと思ったんだよ」
ぐったりしながら白いシスターは言う。
早くもちゃぶ台の前に座り、勝手に入手した菜ばしをグーで握っている。
それを見た姫神は、そういえばセシリアは普通に箸を持ってるなと少し感心した。
これくらいで、量に不満が残る豪華絢爛焼肉セット12000円ではない。
インデックスを交え、なんだかんだで結局世話好きな小萌先生が鉄板の主導権を握る形で焼肉がスタートする。
そのころの上条はというと
インターホンを押していた
「あ、えっと……」
なんて言っていいかわからなかった。
「上条だけど御坂か?」
ほんの数秒、相手の声を待つだけの沈黙が、上条にはやけに重々しく感じられた。
『はぁ、カミジョーさんですの?』
やけに間延びした、絶対に美琴ではない人物の声が聞こえてきた。