学園都市にのとある一角にある廃ビルにオールバックに柄シャツといった古めかしい格好の男が1人、廃材に腰掛たそがれている。
その姿は遠くから見たらいつの時代の映画のワンシーンだといわんばかりの哀愁を漂わせていた。
男がいる場所からは見渡す限り地面に砂利が敷き詰められている。
もともとアスファルトであったろう所になんの意図があるのか、人為的に撒いたのだろう。
ジャリという誰かが敷き詰められた小石達を踏む音が聞こえた。
「なんだか、面白いことに手を出しているらしいじゃないか雨宮」
侵入者は大男だった。
雨宮の傍にいつも付き添っている男も大男なのだが、その男はそれとは格が違っていた。厳つい筋肉を今にも張り裂けそうな安物のジャケットが覆っている。
ゴリラのような大男という表現が正確だろう。
「駒場さんか。なに……あいつらが勝手に躍起になってるだけだ俺はどうだっていい」
「相変わらずだな、初めて会ったときから何も変わっちゃいないようだ」
「初めて……いい思い出じゃない、あんたの様な化物とはまだやりあいたくないね」
「まだか、言ってくれるハハハ」
駒場はその体格に合うだけの豪快な笑い声を上げる。
犬や猫、いや、たいていの人間ならそれだけで怯みそうなものだ。
「で、なんのようです?」
「なに、顔を見に来ただけだ。俺も近じか、大きなことをやろうと思っててな、もし会えなくなった時のために今のうちにとな」
「縁起でもないことを……」
雨宮は顔をしかめた。
駒場は、そんな雨宮を見て、少し口元を緩ませる。
「スキルアウトに裏と表があるとしたらお前が表、俺が裏だ。
能力者の癖にスキルアウトを名乗り、実力で高みに上ろうとしているお前、手 を汚してまで目的を果たす俺、まさにそうだろう?」
「表と裏……勢力図で言えば駒場さんは9割5分の人員を囲ってんだ比較にもならないだろ?」
駒場利得、現在のスキルアウトを束ねるリーダーであり頭脳、あぶれもの集団であるスキルアウトの殆どをまとめているのだ、その実力は頭脳面、人柄、腕っ節どれをとっても認めざるおえないだろう。
だがそれでも駒場は無能力者(レベル0)である。
だからこそスキルアウト達をまとめ上げられるのだろうが……
雨宮は思う。
(この人で無能力なら、そこらにいるガキはマイナスだな……)
「なに、お前の仲間はみなお前を慕ってるじゃないか、数など関係ない」
「数で攻めるスキルアウトのリーダーが言ったら皮肉にしか聞こえないんだが」
「そうか? すまないな ハハハ」
そう言って駒場はまた豪快に笑う。
2人の黒髪少女は街灯沿いにコンビニへと向かい足を進めていた。
月の光で黒い髪が幻想的に輝いている姿は綺麗と一言では言えない美しさを漂わせていた。
「焼肉まだ途中なんですよ~! このままだとインデックスさんの、とんでも胃袋に肉がすべて~」
幻想は何処へやら、肩から赤い紐でくるんだ魔導書をさげたセシリアは両手をブンブンと振りながら何かを抗議していた。
「はぁ……セシリア。ジャンケンに負けたのだからしょうがない。」
姫神は軽くため息をつきながらそんなことを言う。
「うぅ……」
それもこれも、つい先ほどまで小萌先生の家で銀髪シスターを含め焼肉パーティーに勤しんでいたわけだが、進んでいくうちに飲み物がないという事態に陥ってしまった。
小萌先生はビールがあるのでいいのだがほかの三人はそうはいかない、今から麦茶を作ったところで、水か麦茶か分からない物が出来上がるだけだ。
せっかくの焼肉、水というのも味気ないので、誰かが買出しに行くことになった。
そこでジャンケンに負けたのがこの2人である。
2人なのは『1人は何か嫌』、という全員の意見を採用した結果だ。
ちなみに小萌先生もしっかりとジャンケンには参加してくれた。
「ふっ。セシリア。ここはこっそりとお釣りで2人だけアイスを食べるのが夏のおつかいの醍醐味。暑い夏に冷たいアイス。それぞ至福の時」
「おぉー! アイスですか! さすが、姫神さんです! やることが違うですね~!」
アイス1つで喜ぶようになった元大人の男セシリアというのは、まだ誰にも秘密だ。
そうこう話しているうちに2人はコンビニに着いたようだ。
コンビニの前には不良共がたむろっていたが、様子としては何か慌しい。
セシリアは姫神と共にコンビニへと入る。
その途中不良共がこちらの方を見て何か言っていたが気のせいだろうと思うことにした。
「セシリア、飲み物は何にしよう?」
「麦茶とかでいいんじゃないですか?」
「わざわざ買出しに来て。家で作れるものを買うのもどうかと」
「う~ん。じゃあ果汁系で! 変なのだとインデックスさん飲めるか分かんないですし」
「なら。オレンジで決まり。」
そう言って姫神は果汁100%と書かれた紙パックのオレンジジュースを3つほどカゴに入れる。
「では。メインイベントのアイスを」
「迷いますね~!」
とか何とか年頃の女の子らしく、わいわいと騒ぎながら買い物を済ませコンビニを出る。
生暖かい風が二人を襲う。
さぁ~ではアイスを~、と嬉しそうにセシリアが話していると2人の前に5,6 人の不良どもが立ちふさがる。
中央に立っている大男にセシリアは見覚えがあった。
「ファミレスの!」
「写真と確認したが……間違いないな、お前ら! 捕まえろ!」
「急に何?」
急な展開にさして驚きもせず姫神が大男に質問を投げかける。
「いやなに、ある少女をとある研究所に渡すとレベル5にしてくれるって言うんでね。」
(こんなの、原作にありませんよ? ということは自分関係? まぁあれですよね……)
そう思いながらセシリアは姫神にアイコンタクトを送る。
姫神もそれに気づいたようで視線を返す。
そして、
「逃げます!」
そう言ってセシリアと姫神は男たちの間をすり抜け、駆ける。
「な! お前ら! 追え! 後仲間にも連絡だ! 雨宮さん待っててくださいよ」
その頃の『上条さん』こと上条当麻はというと……
「……戦いなさいって、言ってるでしょ? 私を止めたければ、力づくで止めてみろって言ってんのよ! ばっかじゃないの、たとえアンタが無抵抗でも私はアンタを撃ち抜くに決まってんじゃない!」
美琴の口から砲弾のように放たれる、憎悪のこもった言葉。
それに対して、上条はポツリと一言だけ、答えた。
「……、ない」
「――? 何を言って」
美琴は、ほんのわずかに眉を顰め、
「戦わない」
上条の言葉に、彼女は愕然と凍りついた