「なんでこんなことになってるんですか~!」
「とりあえず。アンチスキルに電話を」
「そこ! 右行きましょう!」
セシリアと姫神の2人は逃げていた。
コンビニを出たところで、不良共によく分からないことを言われ捕まえられそうになって逃走したのだが、これが一筋縄ではいかなかったのだ。
というのも逃げても、逃げてもいく先々に不良共が待ち構えていたからだ。
2人は路地裏へと入り身を潜める。
「電話。電話と。」
姫神は携帯を取り出しアンチスキルへと通報しようとする。
警備員(アンチスキル)とは、学園都市内の教員で構成される治安維持機関、要するに学園都市内での警察のようなものだ。
コール音が鳴る。こういう状況になっては数秒のコール音がとても長く感じられた。
まだか、まだかと待っていると姫神の後ろにゆっくりと忍び寄る人影をセシリアが見つける。
「姫神さん! 後ろ!」
姫神はセシリアの声に反応してすぐさま後ろを振り向こうとし、後ろから近づいていた男に携帯を持っていた手を掴まれる。
「おっと、通報されちゃ困るんだよな」
男はそう言って携帯を取り上げ地面へ投げ捨て更にその上から踏みつける。
バリッという音と共に、折りたたみ式であった物が本来折りたたむべき方向ではない方へ折れ曲がる。
(気に入ってたのに)
それなりに古い型ではあったものの気に入っていた携帯を壊され姫神は心の中で盛大にため息をついた。
「姫神さん! 大丈夫ですか~」
――セシリア……この状況でそれはないだろう、と姫神は思いながらも、そこは律儀に答える。
「ん。だいじょうぶ」
「あ~! どこが…がぁ……」
彼女は喋り終え、男が話し出し始めたのと同時に魔法のステッキ(スタンガン付警棒)をとりだし男の足元へ一撃食らわせた。
まさかそんな物騒な攻撃がくるとは思ってもいなかったのかバリバリッという音と共に男は膝から崩れ落ち気絶する。
「お~! さすがです」
パチパチと妙に感心したようにセシリアは拍手を送っている。
「言っておくけど。この技はとても危険なのでよい子は真似しないように」
「だれに言ってるんですか?」
「神に」
「なるほどです……」
などというやり取りをしている最中に姫神は写真のような物が地面に落ちていることに気づく。
すぐそこで気絶している不良が落とした物だろう。
セシリアは気づいていないようだ。
(写真?)
『いたか?』
『まだ見つからない』
『早く探せ! ここらにいるのは分かってんだ』
不良たちは、ずいぶんと数を増やして探しているようだ。
「不良だらけでここから出られそうにないですよ~! 」
セシリアは通りの方を影から覗きながらそんなことを言う。
(この写真。……なんで今更…?)
「セシリア。ここは二手に分かれましょう。小萌の家で合流いい?」
二手の分かれる――そう言った時、姫神の顔に一瞬暗い影が過ぎったようにセシリアは感じた。
「二手? どうしてですか?」
「そちらの方が逃げやすい」
「そういうものなんですか?」
「そう」
(気のせいでしょうか?)
セシリアは何か胸に引っかかりを残しながらも特に反論もないため肯定の意を答えた。
「ん~。分かりました」
「それじゃあ1,2,3で」
「「いち、にぃ、さん!」」
2人は同時に飛び出して別々の方向へと走る。
「いたぞ! こっちだ!」
不良たちが次々と後を追う。
(もう見つかったんですか? やばいですよ~!)
セシリアは後ろも振り返らずに、ひたすら夜の道を駆けていた。
こういう時は魔導書は重くて邪魔だ、と思いながらも必死に走る。
しばらく走っていると妙なことに気づく。
声がしないのだ。
声というのはもちろん不良共の『まて!』だとか『まちやがれ!』だとかなのだが、とにかく声が聞こえなかった。
セシリアは立ち止まる。
「もう、撒いたんですかね~? それにしても早い気がするんですけど……というか、なんかやっぱり何か忘れてるような……あれ? そういえばあの大男なんて言ってましたっけ?」
セシリアは思い出す。
『ある少女を、とある研究所に……』
またなにか、胸の中で引っかかる感じがすると同時に、サァーと不安が心の中に押し寄せてきた。
なにかを見落としてるかのようなそんな不安が。
「ある少女? ……っていうことは狙いはもしかして1人?……というかレベルがどうこう言ってた気が……」
そう言ってセシリアはまた全速力で来た道を引き返す。さっきも結構走ったはずなのだがその疲れを感じさせない走りだった。
今までのセシリアからは想像できないが、案外彼女の体は運動に関しては結構な体力があるのかもしれない。
セシリアは姫神といた路地へと戻ってきていた。そこにはまだ不良が1人倒れたままだ。
まだ目が覚めないところを見るとあの魔法のステッキモドキがいかに凶悪かが窺い知れた。
「死んではなんですよね……」
そう言って不良へ目をやると近くに何か写真のような物が落ちていることにセシリアは気が付く。
「写真?」
不意にそれを拾い上げ見てみるとそこには一人の黒髪の少女が写っていた。
「姫神さん? の写真……じゃあやっぱり狙いは姫神さんだけ……もしかして姫神さん知ってた?」
ここに写真が落ちていた。自分は気づかなかったが、もしかしたら姫神は見たかもしれない。
そのうえでの「二手に分かれましょう?」
あの言葉の意味は?
セシリアだけを逃がすために、自分が標的だとセシリアにばれない様に気を使ってまで……
「そちらの方が逃げやすい」
だれが? もちろんセシリアだ。
自分が中心ならセシリアは巻き込まないようにと
「ハハッ……姫神さん……やさしすぎですよ。」
レベルを上げる、原作にない出来事だから自分が中心などと思って逃げることばかり考えていたが、違った。
レベルは科学側だ、セシリアは魔女であり魔術側の人間なのだ、少し考えれば分かったはずだった。
狙われてるのは姫神だけだと。
それが余計にセシリアの感情を揺さぶる。
「もっと考えろ自分ですね……。でも姫神さん……あんまり、俺を馬鹿にしないでくださいよ。これでも一応は男なんですから。……元ですけど。
そりゃあダメダメでしたけど、実際に上条さんに会って多少は学んだつもりなんですよ。」
黒髪碧眼の少女は、路地裏の片隅で棒立ちのまま、右手を強く握り締めそんなことを言う。
「きっと上条さんならこう言いますよ……」
その頃上条当麻は風のない鉄橋の上で倒れていた。
「なに、やってんのよ。アンタ」
と、そんな上条の頭上から、とても近くから、少女の声が聞こえた。
「……そんなボロボロになつて、汚い地面の上に転がって、短い間だけど、心臓だって止まってたかもしれないのに」
少女の声は、震えていた。