(うぅ……魔術使えないと、正直勝てる気がしないですよ~!)
黒髪碧眼の少女、セシリアは随分と焦っていた。
それというのも、先の魔術行使でのミスのため、魔力を奪われ、術式を発動できないのが大きな原因だ。
肉体強化の術式効果は続いてるようだが、それも、この目の前で余裕を見せている能力者相手では、歯が立たないでいたのだ。
(不良だからてっきり無能力者だと思っていたら、とんだ誤算ですよ~!)
セシリアは、よろけるボロボロの体を何とか支えながら男と対峙する。
男は余裕の表情でセシリアを見ているが何を思ったのか口を開く。
「俺が能力者で驚いてるみたいだな? 一応教えといてやるが、これでも一応スキルアウトって呼ばれるような集団に居る人間なんだよ」
「スキルアウトは無能力者の集まりのはずじゃないですか!」
男は少し黙ってから
「まぁ、そうなんだけどな、あれだ……そういう意味では俺らはスキルアウトではないかもしれないが、ゆうなれば落ちこぼれの集まりだ。
能力者も無能力者も関係ない、今持てる自分の力で道を切り開く、そんな人に憧れた集団なんだよ! 俺たちは学園都市なんかにはもう頼らねぇ、いや、むしろ復讐したいって思ってる奴のほうが多いかもな」
男は話していくうちに感情が高ぶっていったのだろう、最後のほうは、随分と声を荒げていたようだ。
落ちこぼれの集団。
この学園都市で無能力者は言うまでもなく落ちこぼれのレッテルを貼られているわけだが、能力者であっても落ちこぼれはいる。
たいした能力ではないと、馬鹿にされたもの、能力の限界を感じ挫折したもの。
みな無能力者からしたら、何を贅沢な悩みを、と思うかもしれない、だが実際にはそんな理由で、もしくはもっとドロドロとした哀しい理由で、能力者であろうと落ちるものはいるのだ。
そういう奴も含めた、落ちこぼれの集団といったところなのだろう。
しかし、そうだとしても、学園都市に反発した無能力者が、能力者と一緒にいることはまず、ありえないことだ。
だが実際そうなっているのだから、それほど率いている人物の人望が厚いのだろう。
セシリアは一歩前へと戦闘の意思を示すべく踏み出す。
(やるだけやってやりますよ! あきらめてたまるかってんです! ここまで来て 姫神さん助けなかったら、明日から一生暗い気分ですよ~!)
この時点でセシリアは誰かのためではなく、自分のために助けるという考えになっていた。
こういう考えは、少なからず上条の影響を受けたものなのだろう。
主にセシリアの想像上の上条部分が多いのは否めないが、
セシリアはまたも、男へと駆ける。
(風を使っての防御で跳ね返すほどでしたら、相当な密度のはず。 それを全身に張れるほど能力が高いとは思えないです。
となると……こちらの攻撃を読んでから防御しているんですか? )
セシリアは正面から男へと飛び掛り右手を振りかぶる。
男は返り討ちにしようと、セシリアに向かって右の拳を突き出す。
その拳をセシリアは空中で右手をより大きく振りかぶることで体を捻り紙一重でかわす。
(なに! だが!)
男の能力は風を操ることだ。
とはいっても男の戦い方は純粋に風を飛ばすなどではなく、相手の攻撃を風の盾で跳ね返したところでのカウンターだ。
能力をばれないよう工夫した結果の路地裏での戦い方なのだろう。
男はセシリアの攻撃がくると思われる範囲に見えない風の盾を張る。
この盾は風の密度を必要とするためセシリアの考えた通り、体全体を覆うことや 自動防御などといった芸当は出来ない。
それが出来ればレベル5にでもなれるだろうか。
男が出来るのは数秒間1方向に半径30センチほどの盾を作る程度だ。
セシリアの右手が振り下ろされる。
(きた! ビンゴだ!)
男は予想道理の相手の拳の軌道を見て、カウンターの攻撃に移ろうとする。
だがセシリアの拳は男の目の前を横切る。
(なんだ? はずした?)
そう男が思った一瞬、相手の通り過ぎた手に赤い紐が握られていたことに気づ く。
(紐?……)
男は後頭部に大きな衝撃を受け気を失いかける。
(やったですよ~!)
セシリアのやったことは単純だった。
単に正面から殴りつけると思わせておいて、紐に括りつけた魔導書で相手の後頭部を狙ったのだ。
相手に紐を握っているのをギリギリまで気づかせないのがポイントだ。
「これで終わりです!」
セシリアは気を失いかけている男へ向かい大きく足を広げ蹴りを放つ。
セシリアは機転で相手の能力を看破したのだ。
だが、実際には相手の能力を破っただけであって男自身の強さをやぶっったわけではなかったのだ……
セシリアの足が男の首元に当たる瞬間掴まれる。
「え?」
何度も言っているがセシリアは肉体強化の術式で力は相当なものになっている。
その蹴りを至近距離を朦朧とした意識で受け止める男は、いったいどれだけの腕力があるのだろうか。
「楽しかったぜお嬢ちゃん!」
大男はニヤッと嬉しそうに笑うと、セシリアを引っ張り上げ、無防備になったセシリアの腹を殴りつける。
ミシミシと嫌な音が少女の体から聞こえた。
能力で威力を上げたのだろうか、今度は20メートルほどセシリアの体が地を滑り体中を打ちつけながら跳ね飛ばされ、セシリアはそこで意識を失う。
「あぶなかったぜ……」
大男はそう言って戦いの余韻に浸っていた。
実際セシリアの魔導書攻撃は結構効いたらしい。
まさかあのような戦法を取ってくるとは思わなかったのだろう。
「やりすぎだ」
大男の後ろから男の声がかかる。
「雨宮さん! 来てたんですか!」
「姫神が、そこの奴のことが心配だって言うから連れてきたんだよ。 お前が連絡聞いて出て行ったときはまさかと思ったが、これはやりすぎだ、さっさと救急車呼べ」
「いや……つい楽しくて……すいません」
大男はオールバック男、雨宮に頭を下げあやまる。
「セシリア! これはどういうこと?」
いつの間にか、倒れているセシリアの傍には巫女服の黒髪少女、姫神がいた。
「こいつが悪い」
そう言って、雨宮は大男を指差す。
「いや……すいません」
大男はもはや、営業マンのように頭を下げ続けていた。
そのころ、上条は二人の少女を助けるため、学園都市最強の男、一方通行と戦っていた。
「面白ェよ、オマエー」
一方通行は吼える。
「最っ高に面白ェぞ、オマエ!」
一方通行は、弾丸のような速度で真っ直ぐに上条の懐へと飛び込んできた。
触れただけで人を殺す一方通行の両の手が、上条の顔面へと襲い掛かる。
瞬間時間が止まった。
体に残る、絞りかすのような体力をすべて注ぎ込んで、上条は頭を振り回すように身を低く沈めた。
一方通行の右の手がむなしく頭上を通り過ぎ、追い討ちをかける左を上条は右手で払いのける。
「歯を食いしばれよ、最強(さいじゃく)」
一方通行の心臓が凍る。
「俺の最弱(さいきょう)はちっとばっか響くぞ」
瞬間。
上条当麻の右の拳が、一方通行の顔面へと突き刺さった。