「助けて下さい。 セシリア・アロウ 貴方様なら偉大な魔女からも私を守れるはずです。あのクソバァバァ」
先の無意味な争いでの傷も完治したセシリアのもとに、突然やってきた少女は淡々と頭を下げて懇願してきた。
やっと病院から退院し、前回のごとく青髪ピアスに怒られたセシリアが、ちょっと散歩でもと思った矢先にこの有様だ。
こうも襲撃フラグが相手側からやってくるのでは回避のしようもない。
相手に悪気はないのだろうがセシリアとしては「爆弾を持ってきました」
とでも言っているようにしか聞こえないのが現状だ。
「聞いていますか? ロリ年増」
人気の少ない住宅街、道の真ん中で爆弾、いや、爆弾の紐を引いてきた爆弾が何か電波を発している。
とりあえずセシリアは正面に立っている危険物少女の顔を見る。
「あぁ~、夢ではないんですね」
「現実を見てください。黒チビ」
セシリアは、爆弾が実は人間だったことを確認する。
現時点では相手の言葉使いの不快さには気づいてないようだ。
相当現実を見ていたくないのだろう。
その人間の顔を見据える。
夏の太陽が外の空間を朦朧としたものへと変え、現実味をなくしている。
もしくはアスファルトから昇る熱気が幻想(ファンタジー)を見せている、という考えをとりあえずは捨てることにした。
この世界そのものが幻想(ファンタジー)だということが頭の端を過ぎったが、なかったことにする。
「なぜ? だれが? どうしてですか~?」
手をパタパタと振り、なけなしの風を自分の顔目掛けて送りセシリアは問う。
「はい、説明します。聞けアホ」
そう言って説明を始める少女。
セシリアは話を聞きながらもう一度、少女を確認する。
歳は高校生くらいだろう。
まず一番目を引いたのは服装だだった。
特徴のないセーラー服と言えばいいのだろうか。
とにかく特徴がないのだ。 しいて言い方を変えれば『どこにでもありそうな』という感じだ。
『どこにでもありそうなセーラー服』は逆に目を引いた。
最近の制服なんてものは何処も学校ごとの個性を出そうと躍起になっているものだ。
学園都市ほど個性的な所だと、なおさらで、だからこそ、やけに目立っていた。
少女は見るからにサラサラの黒髪ショートカット、顔立ちは整っていて綺麗というよりは可愛いが、無表情なのが可愛さに妖艶さを含ませている。
体系はスマートなほうで黄色がかった肌、身長は160と少しといったところで日本人だということがわかる。
だが瞳が暗かった、性格には漆黒の瞳というのが正確だが、その瞳は暗いという表現がふさわしい色をしている。
「私は、東城歩(とうじょう・あゆむ)、歩とお呼下さい。私は魔女狩りを生き残った魔女(ロスト・ウィッチ)が1人、御伽の魔女ジラの元で魔術を習っていたのですがジラの生命の秘術を知ってしまったばかりに、命を狙われ逃げてきました。 知りたくもなかった」
どうやら、話の終わりに本音が出る喋り方のようだ、現実にはありえない話し方ではあるが、この世界が、禁書目録の世界であるならば、納得もできる。
(なんか、また複雑な感じですね~)
いろいろと、よくわからない単語が出てきているし、どうやって学園都市に入ったのか、なぜセーラー服なのかなど、聞いておくべきなのだろが、セシリアにあまりその気はないようだ。
関わる気がないのか、それともどうせ、紐を引いてくるなら、細かいところまで気にしててもしょうがないと思ったのだろうか。
「ジラに対抗できる魔女で、魔女狩りを生き残った魔女(ロスト・ウィッチ)の息がかかっていないのは、セシリア様くらいです。 どうかお助けください。 助けろチビ」
「私何にもできないんで、とりあえず上条さんに相談しましょう。 それにあんまり悪口言うと怒りますよ~!」
そう言ってセシリアは歩き出す。
上条の住む寮へと向かうようだ。
やる気がないあまり、襲撃フラグへの危機感も曖昧なまま、上条へと助けを求めるセシリア。
今までの事件で成長をしたはずだったのだが、どうやら前回の空回りもあって上条頼りに戻っているようだった。
「ついて来て下さ~い。 帰るまでが遠足ですよ~」
よくわからないことを言いつつセシリアは歩から離れていく
「はい。ありがとうございます。 やる気だせよ」
日差しが強い中、長い黒髪に黒のワンピース少女の後を、暗い漆黒の瞳にセーラー服姿の少女が少し離れて追う。
セーラー服の少女もまた魔女なのであろう。
暗い瞳の中には、魔女の理由が隠されているのか。
はたまた、純粋な暗い何かが潜んでいるのか。
セシリアの後を追う歩が小さく、その声はセシリアへは聞こえない、誰にも聞えない。
そんな声で
「神浄(かみじょう)……」
彼女は呟く。