人気のない海岸線に人影はあった。
刺す、刺す、抉る、砕く、埋める。
その行為全てを素手で行う。元は地元の高校生であろう男子を、ただの肉片へと変え、誰もいない砂浜の隅へ埋める。
呪文を紡ぐ。精霊への働きかけには呪文は必要としない。なぜならば、そんなことをしなくても対話は成り立つからだ。それに精霊は異界の常識ではない、魔術と名は付いているが根本が違う。呪文は黒魔術の術式、精霊魔術と黒魔術の混合。
砂の中から這いでてきたのは、ついさっき肉片へと堕ちたはずの少年だった。何も変わらない、目は生気に満ちているし、服も汚れてはいない。
そして、少年は家へと帰る。
準備は出来た。あとは様子を見るだけ。どう出る? 何が出る? 薮蛇になるならそれがいい。なぜならその蛇をつつきに来たのだから。
魔術を極めた奴は何を隠している? わざわざ魔女ともあろうものが、相手の陣地に踏み込んだのだ。なにかなくては困る。
そう思い人影は砂浜を去る。
東城歩は無表情ながらも呆れていた。顔には出さないがよくもまぁこんなにみな、能天気なものだと。
彼女がいるのは砂浜だ、今年はクラゲの大発生によって観光客が少なく、海にいるのも歩達4人だけだ。
インデックスは楽しそうに、水着を着て海ではしゃいでいるし、セシリアは、ぐったりとパラソルの中で倒れている。
倒れたのはついさっきのことで、水着を持って来てないながらにも、インデックスと海で遊んでいたかと思うと、フラフラとパラソルの中に入っていき倒れたのだ。
セシリアが横になりながら、太陽に弱いんですよ~と言っているのを聞いて、歩はじゃあなぜ遊んだ? と思ったが言ってはいない。
上条はというと、パラソルの中で初めは寝そべっていたが、セシリアが入ってきたことによって追い出されてしまい、今はインデックスの遊び相手になっている。
ここに来るまでもいろいろと騒がしかったなと歩は思う。
タクシーで学園都市のゲートを抜ける時のことだ。インデックスは隠れていたのを見つかり危うく逮捕か? と思ったらなぜかゲストIDが発行されていたり。セシリアはセシリアで、いつの間にかレベル3判定をされていたらしく。学園都市外では能力は使わないようにと厳重に注意されていた。
大変だったのは発信機(ナノデバイス)を注射されるのを嫌がった、この二人が大暴れしたということだ。
どちらか1人だったら上条1人で何とかなっただろうが2人だとこれが大変だった。逃げ惑う2人を必死の思いで1人ずつ捕まえて無理やり押さえつけて注射させるたのだ。
終わったころには上条の息はフルマラソンでもしたかのように弱っていた。
ゲートにいるアンチスキルは、その光景を微笑ましく見ているだけで助けてはくれなかったし、そのとき歩はというとタクシーの助手席で術式を発動させて人や機械に映らないようにしていた。この術式というのが動かないことが条件のため、もちろん上条の助けはできない。
まぁ動けたとしても、あんなことの手伝いはしない
それにしても、レベル判定まで受けているとなると、やはりセシリアは学園都市と繋がっているという事なのだろうか?
歩はパラソルから少し離れたところで、水しぶきを上げているインデックスと上条を見ながら思った。
それよりも日焼け止め持って来れば良かった。と、ここにいる理由上、場違いであって場違いでないことを考え始める。
上条が飲み物を取りにパラソルへとやってくる。
「おう、東城、何もしないなら部屋戻っててもいいんじゃないか? 襲撃ってもそんなすぐに来るもんじゃないだろ?」
「いえ、出来る限り皆さんのそばにいるのが安全かと。 目的忘れんなよ」
「そうか。ごめんな、インデックスが海は初めてらしくて、はしゃいじゃってんだよ。東城も水着でも買って泳いだらどうだ?」
「お気になさらず。遊びに来たわけではないので。日焼けしたらどうすんだよ」
「……日焼け止め買ってきます。」
「なぜ日焼け止めを? 早く買ってこいよ」
「俺が使いたいからです。」
建前と本音がどんどんと、離れていき、このまま会話が成立しなくなるんじゃないかと上条は思う。それにそんなに日焼け気にしてるんだったら悪いなと思ってか、 日焼け止めを買いに行くことを上条はここに宣言した。
歩は、上条が買いに行くなら丁度いいと思い自分も付いていくことにする。
どうせ、今襲撃されてもセシリアは役に立ちそうにない、上条といれば、別にいいだろうと。
「ならば私も欲しいので、ご一緒します。 役立たずのそばにいてもしょうがない」
「あ……うん、そうっすか」
上条は、なんとなくやりきれない気持ちになり肩を落とす。
2人は海岸から少しはなれた駅前の商店街へと向かう。歩いて20分といったところか。
「そういえば東城、海に行く前何処行ってたんだ? ずいぶん戻らなかったじゃないか?」
「女性にそれを聞くのはどうかと思いますが? デリカシーないのかよ」
「すいません」
この男は本当にセシリアが言うように強いのであろうか?
歩はセシリアに散々上条のすごさをレクチャーされていたのだが、海パン姿で歩いている横の男をいくら見ても、そのようなすごさなど感じない。
ただ気になるのはセシリアの言っていたイマジンブレイカーについてだ。
だが、自分の能力をそうそう明かしはしないだろう、そう思い歩は上条に聞きはしなかった。
ここまでのことを見ても、あのセシリアは分からない。
それが歩の見解だった。あれが本当に噂の魔女なのか? 確かに魔導書は持っていたが性格がどうも子供すぎる気がする。
しかし、彼女も魔女だ何を隠しているか分からない。今までの行動全てが演技の可能性も考えられる。
ここは頼りつつ、様子を見るのが妥当だ
「上条様はセシリア様とどういった関係で? 禁書目録様の話は魔術側では有名なのである程度分かりましたが。 このロリコン」
「ロリ……まぁ、あれだ、友達だろ」
「友達ですか? セシリア様とは友情があると? 魔女とか」
「あるだろそりゃ。友達なんだから、でも友情云々は普通気にはしないだろ? 友達なら」
「気にしない? 友達とは友情で結ばれた関係なのではないんですか? 意味が分からん」
「いや、なんていうか難しいな」
頭をかきながら、苦笑いを浮かべる上条。
歩に友達というものはいない。生まれてから今まで、ジラの元にいたのだ。かといってジラが実の親というわけではないし、育ての親というわけでもない。
育ての親は6歳の時に生贄として自分の手で殺した。
その後はジラの手足のようなものだ。言われた通りのことをしてきた。
かといって自由がなかったわけではないし常識だって分かっているつもりだ。
もちろん愛だの友情だのも、自分にはなかっただけで理解はしていると思っている。
だが上条のいう友達は少し違うような気がした。
歩は、足を進めながら考える。何が違うのか?
「そんな顔も出来るんだな。どうかしたのか?」
「いえ、なんでもありません。詮索すんな」
どうやら、考えるあまり顔にまででていたようだ。
今まで無表情だったため上条には新鮮に感じたのだろう。
「お、ここに売ってるぞ」
商店街の観光客向けの店で日焼け止めを見つけた上条が言う。
店の中は浮き輪や、水着、日焼け止めといった海に行くのに必要なものから、なんたら饅頭やら、せんべいなどのお土産が置いてあった。
そそくさと、日焼け止めのみを買った2人は、インデックスとセシリアの待つ海へと戻る。
帰り際、1人の高校生くらいの少年が妙に歩達を見ていたが2人は気にせずに戻る。
インデックス達の元に戻ってからは上条がクラゲに刺されるという不幸があったため、すぐに旅館に戻ることになってしまった。
せっかく買った日焼け止めが有効活用されなかったのは言うまでもないだろう。
その夜、歩は寝付けないでいた。何が理由というわけではない。横ではセシリアが魔導書を抱えて寝ていた。
旅館での部屋割りは、上条とインデックス。セシリアと歩いった感じだ。
上条とインデックスという男女の同室に、歩は少々疑問を持ったが、2人の関係上しかたないものなのかと思い、言及はしなかった。
寝る時になってセシリアが妙に緊張していたのが気になって歩は理由を聞いてみたのだが、今夜がどうとかブツブツと言って教えてはくれなかった。
さっさと寝てしまおうと歩は思っていると急に何らかの強力な術式の反応がして迫ってくるのを感じ、飛び起きる。
「なんだ?」
「歩さん、こっち来てください」
どうやらセシリアも起きていたようだ。
歩はセシリアのいわれた通りに布団の上、浴衣姿で魔導書を抱え、座っている彼女の傍へいく。
するとセシリアは指を噛んだ。血は布団へと落ち赤く染める。彼女は呪文を紡ぎ術式を発動する。
二人の周りに血液を薄めたような赤い膜が張られた。
(結界? 行動が早い。やはり何か知っているのか?)
そう思い歩はセシリアの顔を見る。
セシリアは視線に気づいたのか歩を見返して口を開く。
「危なかったですよ~。もう安心ですね~あとは上条さん任せでOKですよ。ゆっくり旅行を満喫しましょう!」
笑顔でセシリアは言う。
(わからない)
セシリアを見ていた歩は彼女について純粋にそう思った。
あとがき
今回から文章の構成を変えてみようと思い実践したのですが。もし前の方が読みやすいというのであれば、お手数ではありますが、気兼ねなくおっしゃってください。
エンゼルフォールに関しては私が個人的に、アニメ版のほうが好きなのでそちらの方でいきたいと思います。
目を通して下さる皆様が少しでも楽しんでいただけたら幸いです。